4、「ゲロイムまじゲロイム」
「ゲロイムがあらわれた!」
「たたかう? にげる?」
ちみっこどもが少し離れた所からシステムメッセージよろしく、楽しげな声を上げる。
「――もちろん、たたかう、だ!」
俺は意気揚々とソディアを構えて声を張り上げた。
ゲロイムはでろりと地面に広がっているので正確な大きさは不明だが、だいたいタタミ一畳分くらいの大きさで、勇者候補生が出会ったヤツよりは体積的にだいぶ小さそうだ。
「えいやっと!」
地面にでろりと広がるゲロイムの、その真ん中あたりを地面ごと横なぎに切り裂く。見た目どおりに柔らかいゲロイムはすんなり両断され、俺は内心ガッツポーズとる。
「うはは、一撃じゃないか」
それにしてもゲロイムまじゲロイム。ってか正式名称がゲロイムってことでいいのか?
「ゆうしゃたろーのこうげき!」
「しかしゲロイムにだめーじをあたえられなかった!」
「……うん? ちゃんと切れてるのにダメージなしってどういうことだ?」
しかし実際切り裂いたゲロイムは、ゆっくりとではあるがまだ平気で動いている。
疑問に思いつつ、半分に分かれたままそれぞれ地面をのてのてと這うゲロイムに再度斬り付ける。再びゲロイムはあっさりと切り裂かれた。
「ゆうしゃたろーはゲロイムAにこうげきした!」
「しかしゲロイムAにだめーじをあたえられなかった!」
「……あれ、さっきはゲロイムにAとかついて無かったよな? もしかして斬った分だけ分裂してる?」
「粘菌だからね~。刃物で切ったってバラバラになるだけで、そのうちまた元にもどるよ?」
ロアがニヤニヤ笑いでぼそりとつぶやいた。
「そうか、こういうモンスターにありがちな、核みたいなのを切ればいいんだな!」
このゲロイムのどこかになにか核らしきものがあるはず!
ここか、そこかっ!
何度もゲロイムを切り裂くが、見た目がまんまゲロのゲロイムには特に見た目で何か違う部位があるわけでもなく、単純に体積が小さくなって数が増えていくばかり。
「ゲロイムLのこうげき!」
「うわ、いつのまに」
「ゆうしゃたろーに1のだめーじ!」
いつの間にか小さくなったゲロイムが一匹、背後から俺の右足に絡み付いていた。慌てて地面にこすり付けて引き剥がしたが、スニーカーのかかとがボロボロと崩れだしている。
「ちょ、マジ?」
慌てて靴下を脱ぐが、腐食性の何かがちょっぴり足についたらしく、ちょっと赤くなっていた。
「ちょっとロアさん、これほんとに雑魚中の雑魚なんですかっ?」
いったん離れると、ゲロイムはこちらを襲うよりひとまとまりに戻るほうを優先したらしく、切り裂かれて分裂したミニゲロイムがちゅぷちゅぷと寄り集まって行く。
「スカウターだっけ、調べてみたらいいじゃない。こういうときに使わないで何のためにもらったのよ?」
腕組みしたままロアが笑う。
言われてみればそうだった。スカウターを装着してゲロイムの強さを調べる。
名前 :ゲロイム
種族 :スライム
職業 :掃除屋
レベル :80
HP :12000/12000
MP :0/0
戦闘力 :25
力 :15
知恵 :2
信仰心 :2
生命力 :30
素早さ :2
運 :5
装備 :なし
スキル :捕食Lv10
物理耐性Lv10
称号 :「ゲロイムまじゲロイム」
「草原の掃除屋」
コメント:ただの粘菌なの。斬っても数が増えるだけなの。
森や洞窟で上からどさって落ちてくるのはとっても怖いけど
戦闘力高くないので平地を這うのはただのカモなの。
えいちぴーは多いけど、ただの雑魚なの。
がんばれおにいちゃん!
……俺たしかレベル24なんですけど。レベル80が雑魚ってどういうことだっ! それに物理耐性だって? 剣じゃダメージ与えられないってことなんじゃないか?
「無理げーじゃないか、これって……」
「ちなみに何度もいうけれど、すかうたーの数字はただのふんいきなのー」
「れべるやえいちぴーにはあんまり意味が無いのー」
「たとえばのはなし、えいちぴーが天文学的なすうじになってるロラさんにだって、ナイフを心臓にざっくりやればいちげきでころせるのー」
「だからがんばってね、おにいちゃん」
ちみっこどもが何気に怖いことを言うが、ロアは笑って答えた。
「あたしだって一応生物の範疇にあるので殺せないってことはないわよ? もっともおとなしく刺されたりはしないし、心臓が破壊された状態から復活する手段とかもあるから簡単じゃないけどね」
腕組みしつつロアがゲロイムを指差す。
「というわけだから、無い知恵を絞ってがんばりなさい。勝てない相手じゃないから」
「つまり、今の俺でもゲロイムに勝つ方法はあるってことですね?」
「……んー」
なぜかロアが明後日の方向を向いた。
「ロアさん、それはどういう意味ですか……?」
「ちなみにスライムを退治する方法はいくつかあるです」
ロアの代わりにみぃちゃんが指を立てながら俺をじっとみつめてきた。俺を上から下までさっと見た上で、ふぅとため息を吐く。
「スライムは多核体なのであのどろどろの身体にいくつもの核があるです。それを全部つぶすか、生物として成り立たないレベルまで切り刻めば太陽の光や乾燥で死滅するです」
「細胞レベルで切り刻めとか俺には無理だって」
ソディアの力を発揮できるなら俺にも可能かもしれないけれど今は無理だ。
「切り刻むのが無理なら、すりこ木とすり鉢でガリガリすりつぶすなんて手もあるです」
「いやそれも現実的じゃないし」
ぐねぐね動くゲロイムをちょっとずつすりつぶすって、無理だろう。すり鉢とかもないし。もしかしたら巨大なハンマーみたいなのでぐちゃぐちゃ何度もつぶせばいけるのかもしれないが、俺の手には切れ味の良い剣しかない。剣の腹で叩き潰すにしたってソディアは細身過ぎる。
「あと薬物の類も良く効くです」
「粘菌ってカビか? カビキラーとか除草剤の類なんて持ってないぞ」
「大量の塩とか乾いた砂なんかをぶっ掛けて、水分を飛ばすのも割と有効なのです」
「塩か、調理用に少しは持ってるけど……」
全体にぶっ掛けるほどの量はないし、草原の只中では土は硬く湿っていて使えそうにない。
てゆーかナメクジみたいだな、ゲロイム。
「一番簡単なのは油かけて燃やすことですが、こんな草原でやるとあたり一面火の海になる可能性が高いのでオススメしないです」
「ちくしょう、ゲロイムまじでどうしようもないっ! 誰だスライムが最弱モンスターだなんていったやつ!」
「手段がないと倒すのが面倒なだけで攻撃力は雑魚なのです。動きものろいので回避するのも余裕なのです。怖いのは森林や洞窟など上からいきなり降って来る場合です。いきなり全身にまとわり付かれると先の手段のほとんどが使えないですから、ソロだと死亡確定、仲間が居ても助けるのは非常に困難です」
「ゲロイム怖い!」
「あとこういう草原で、地面に穴を掘って落とし穴のように潜んでいる場合も同様に厄介なので気をつけるです。深さにもよるですが、スライム落とし穴に落ちたらまず助ける手段が無いです」
「……で、どうする?」
ロアが腕組みしたまま俺を見た。
「ぎぶあっぷするなら、私が魔法で粉々にするです」
みぃちゃんが、ふんふん、と右腕をくるくる回す。
「すんません、今の俺にはゲロイムすら倒せません……」
「ん、お仕置き決定ね。じゃみぃちゃんよろしくー」
「任されたのです」
みぃちゃんが右腕をアンダースローで振るうと、集まってぶるぶる震えていたゲロイムが上からさらさらと塵のように細切れになって、風に飛ばされて消えた。
魔法で細胞レベルまで粉々にされたのだろう。なんともあっけなさすぎる。
「みぃはメルサイラをとなえた!」
「げろいむはくびをはねられた!」
ちみっこどもがシステムメッセージを楽しげに告げる。
ゲロイムのどこに首があるんだか知らないが、要するに一撃死ということなのだろう。それともメルサイラという魔法には致死判定のようなものでもあるのだろうか。
「ゆうしゃたちはげろいむをやっつけた!」
「ゆうしゃたちは1のけいけんち 0ごーるどを手に入れた!」
「うん、システムメッセージごくろうさん……」
ゲロイムでちょっとべたべたになった手をシャツの裾でぬぐって、ちみっこどもの頭をなでてやる。ちみっこどもはきゃーきゃーさわぎながら俺の周りを走り回った。
それにしても、初めての異世界バトルだっ!って意気込んでいたのに。結局ダメージ1すら与えられなかったとか超へこむ。それどころか靴だめにされちまったしこっちはダメージくらってるし。
「うがー、強くなりてぇ~!!」
”仮の主殿、想いはいつか形になるもの。共に精進いたそう”
俺が戦闘力五万のソディアを使いこなせていたならきっと、HP1万ちょっとのゲロイムなんて一撃だったにちがいないのだ。
「うん、ありがとなソディア」
……いつかきっと、ゲロイムにはリベンジしてやるっ!!




