3、「はじめての……」
システム的に許されている行為を行ってマナー違反というのは筋違いではなかろうか、というようなことをロアに懇切丁寧に説明したのだが、笑顔で「ただのノゾキ魔でしょ」と返されてしまった。理論に感情論で返されては平行線だ。ステータスを見ることの出来る道具をくれたルラやレラまで敵に回る始末で、もうどうしようもない。
「わたしたちを見るのはいいのー」
「でもふつうは許可をもとめるものなのー」
「大変申し訳ありませんでした……」
その場でじゃぱにーずDOGEZAである。
「よろしい」
腕組みをしたロアがひとつうなずいてスカウターを返してくれた。
「そこらをうろついてる魔物の類とか、敵対してる相手ならいちいち許可なんかとらなくてもいいけどさ、一応仲間なんだからちゃんとひとこと確認しようね?」
「はい……」
いまいち納得いかなかったものの、「勝手に見られるのが嫌だ」というのはわからなくもない。親しき仲にも礼儀ありというし、俺がゲーム的なシステムに浮かれて相手の気持ちを考えもせずに、ステータスを覗きまくったのが悪かったのは確かなのだろう。
うむ、反省しよう。
「ちなみに、ぐんかんにアクティブなレーダー波をぶちあてるくらい失礼なこういなのー」
「せんそうになってもおかしくないのー」
「おいおいおい……!」
そういう例えをされると顔が青くなる。
「あいての戦力をいっぽうてきに知ろうとしてるわけだから、そういうことなの」
「ちょうはつしてるのとおなじことなの」
「大変申し訳ありませんでした……」
再びその場でじゃぱにーずDOGEZAをした。今度は心から。
地面に頭をついていると、不意にお尻のポケットがぶるぶると震えだした。スマホにメールの着信があったようだ。
……異世界だっていうのにどうやって電波飛ばしてるんだろう。というか基地局あるのか?
疑問に思いながら確認すると、「ねいこちゃん」からのメールだった。
あたしだけ仲間はずれはいやだよっ! とかなんとか書かれていて。
なまえ :ららちゃん
しょくぎょう :創世の女神の母親
れべる :-
せんとうりょく:∞
こうかんど :200%(限界突破っ!)
ちから :いがいとつよいよ!
かしこさ :のーべる賞れべる!
みのまもり :身持ちは固いよっ!
すばやさ :神出鬼没なのだっ!
きようさ :舌でさくらんぼ結べるよっ!
みりょく :あたしにめろめろでしょう(笑)?
ぎのう :創世魔法Lv30
掲示板荒しLv99
しょうごう :「通りすがりの三毛猫」
「ぱんつはいてない」
「最狂最悪の悪戯け」
ひみつ :ひみつなのでまだナイショ!
こめんと :あたしだけ仲間はずれなんていやだよっ!
というわけであたしのすてーたすも大公開っ!
見てもしょうがないとか思わないでね?
ちなみに好感度100越えるごとに表示項目がふえる仕様です!
がんばってみんなの秘密をのぞいちゃおう! うふふ。
『ぴーえす。セカイツクールに興味あるみたいなので評価版を添付しとくねっ! セーブとロードが出来ない以外はほぼ製品版と同じ仕様なので、詳しい使い方はうちの双子ちゃんに聞いてくださいっ! いじょー、でわでわ』
「……寧子さんはもう、ほんと俺のこと監視でもしとるんかっ!」
「たぶんしてるの」
「きっとしてるわ」
ちみっこどもがふんふんと頷いてるけれど、聞きたくないので聞かなかったことにする。
一応神さまらしいからなぁ、あの人。ちみっこ達のことが気になって見守ってるという風に多少前向きに考えておくことにしよう……。
せっかくもらったセカイツクール(評価版)だが、バッテリーのこともあるし今は冒険に来ているのだからとりあえず後回しにすることにした。部屋に帰ってからゆっくりさわってみることにしようと思う。
「よく見ておくです」
ロナの魔法はあまりにアレだったので、改めてみぃちゃんが魔法を見せてくれることになった。みぃちゃんは先頭に立つと、特に何の気負いも無く、ただアンダスローでボールを投げるようにそっと右手を振るった。
すると、何か見えないものがバサバサ草をなぎ払って数百メートル真っ直ぐに道を切り開いた。ロナの魔法に比べるとあっけないが、確かに魔法らしい。流石に手の風圧で草をなぎ払ったなんてふざけたことは言わないだろう。
「……なんか地味?」
「ロナさんのが派手すぎなだけなのです」
ちょっと憮然としたようにみぃちゃんが頬を膨らませた。
「ロナさんの時と違って呪文っていうか魔法の名前とかも言わないからさ」
ロナのときは確か、インディフォンスとかって唱えていたはずだ。みぃちゃんは何も言わずに手を振るっただけ。この違いはあるのだろうか。
「今のは真空波という魔法なのです。分類的には白魔法で、白魔法は詠唱の必要が無いのです。ちなみにロナさんの使った精霊核融合は神代魔法で逆に詠唱が必須なのです」
みぃちゃんが解説してくれる。真空波というのは空気の渦というか名前の通り真空波で対象を切り裂く魔法らしい。利点は空気の渦なので視認しにくく炎熱球の魔法などに比べると回避し難いこと。ただ生物に対しては十分な効果が見込めるが、岩などの固いもの、それに全身鎧など着込んでいる相手には効果が薄いらしい。
「おー。風属性の魔法なの?」
「強いて言うなら念動系なのです。空気の分子運動に干渉して動きをそろえることによりかまいたちをつくるです。風属性ってなんなのです? ほとんどの魔法は、基本的に分子や原子の動きに干渉することによって現象を発生させるです」
うは、魔法なのになんか原子とか分子キター。
みぃちゃんのお耳が機嫌よさげにぴこんぴこんとはねている。意外とこういう解説の類が好きらしい。
「いわゆる地水火風のよんだい精霊ぞくせいとか、そういうのも存在はするのー」
「でも、魔法自体にはそういう属性の類はないわ」
ちみっこどもも解説に参加して来た。
この世界の魔法の根源は「くっつく力」と「はなれる力」の二つなのだそうだ。いわゆる引力と斥力というやつだ。これに加えて召喚や精神系というちょっと特殊な系統があるらしい。
例えばある燃えやすい物質の分子の間にくっつく力とはなれる力を細かい間隔で働かせると、摩擦で熱が発生する。逆に分子の運動を抑える方向に働かせると冷える。空気の分子の流れをそろえると風がおきるといった具合だ。
つまり魔法の細かい技法はまたいろいろあるのだろうけれど、基本的にこの世界の魔法というのはだいたい念動系ということになってしまうらしい。
「うーん……なんか魔法っていうより超能力の世界みたいだな」
ちょっと不思議な感じだ。しかし、実際に見るとどうやっても俺に使えそうな感じはしない。俺が超能力者とかだったら魔法使えたのかな~。
「ちなみに、今の説明はだいたい白魔法限定になるです。黒魔法や神代魔法はまたちょっと違うですよ? たぶん……」
みぃちゃんがちょっと首を斜めにしながら言った。続けて何か言いかけて、それから不意に腕を組んでちょっとお耳をへにゃらせる。
「ん……なんか敵性の何かが近くに居るっぽいです。どうするです、ロアさん?」
「すらいむくらい、タローに任せればいいんじゃない?」
ロアが俺を見つめてきた。
「平原のスライムなんて雑魚中の雑魚だし、やられたらお仕置きだからね?」
ロアの指差した先に、どろりとした何かが流れ出してきていた。みぃちゃんの魔法で刈られた草でも食みにきたのだろうか。どこかでみたようなその姿は、まじゲロイムだった。
ゲロイムはゆっくりと草の間から染み出るように流れ出てきて、刈られた草の間に溜まってゆく。そのまま少しづつこちらの方に近寄ってきつつあるようだ。
「ソディア、頼むぞ!」
”仮の主よ、後でちゃんと綺麗にして欲しい……”
――はじめての、戦闘だっ! なんかようやく冒険っぽくなってきたぞ。