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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
閑話「それぞれのエンディング」
246/246

~螺旋の記憶~

 感想でいただいたネタから、ちょっと話が膨らんできましてもう一話だけ追加することに。

 時系列がいったりきたりするので目安として◆の後は本編終了後~5年後までの話、◇の後は5年後の現在の話となります。

 ――あれから、5年の月日が過ぎた。


 いろんなことがあった。本当に、いろいろあった。

 魔王とのゲームが終わって、ルラレラの「勇者の伝説を作ってほしい」という願いを果たしたあとは、正直、一度エンディングを迎えたゲームをそのまま続けているような気でいたけれど。

 生きている以上、何も終わりはしないのだと、思い知らされた激動の年月だった。

 キーボードを打つ手を止めて、ふうとひとつ息を吐く。肩を軽くもみほぐしながら、過去に思いをはせる。

 ――最初は、そう。

「にーちゃん、いつまで仕事してるのさ! 早くおいでよ、みんな待ってるよ?」

 仕事部屋のドアから、ひょっこりと顔をのぞかせたのは、妹の華香(はなか)だった。

 もう大学生になるというのに、相変わらずの幼女体型だ。実はりる姉の血筋とかだったりするんじゃないだろうかと思うくらい妹は小さいころから成長していない。

「ああ、うん。もう、行くから」

「もー、すぐに来てよね?」

 ぷうと頬を膨らませた後、ハナは小さく手を振って出て行った。


 ◆


 ああ、そうだった。最初はそう、いきなり妹のハナが訪ねてきたんだった。

 正月にも実家に帰らなかったせいだろうか。連絡もなしに妹が俺の部屋にやってきたのだ。

 出迎えたりあちゃんや、ルラレラを前にハナの第一声は。

「にーちゃん、託児所でもはじめたのっ!?」

 だったという。我が妹ながら、どこかずれている。

 ものおじしないというか、ルラレラが女神だという話や、俺が勇者をやっていたという話を「にーちゃんすっげー!」と疑いもせずに信じてくれた。

 昔から妹の華香は、ハナは、俺を無条件で信じるところがあるというか、お兄ちゃん子というか、たまにその信頼が重い。もしかしたら、小さいころに何度も「俺が必死で止めなかったらお前の名前、花子になってたんだぞ」と恩着せがましく言っていたせいかもしれない。

 都心の方の高校を受験するために来たという妹は、結局、一週間ほどを俺の部屋で過ごして帰っていった。

 ルラレラやりあちゃん、みぃちゃん、リーアとも仲良くやっていたようだ。

 ルラレラはハナと背比べをして、ちょっとだけ勝っていたのでお姉さんぶっていたけれど、ハナの妹歴を聞いて「ハナセンパイなの」「ハナおねーちゃんなの」と負けを認めていた。

 みぃちゃんとりあちゃんが特に自分から言ったわけではないようだけれど、意外に察しの良いハナは俺との関係に気が付いたらしく、「おねえちゃんがいっぱい出来た」と喜んでくれた。

 ハナはリーアの動画のファンだったらしく、リーアに対してはなぜか師匠呼びだった。

 ティアは、自分が太郎と認識してもらえないのが少し寂しかったみたいで、あろうことが親父の隠し子を名乗り「知愛(ちあ)です。お姉ちゃんってよんでね!」ってハナに抱きついて頬ずりしていた。

 そういえば、親には何にも話してないよなぁ、と今さらのように気が付いたものだった。


 ◇


 親、といえば。俺ももう二児の父親なのだった。

「たろー、まだおしごとなのー?」

 たたた、と軽い足音を差せて、四歳になる娘のみぅが駆け寄ってきた。そのままよいしょ、と俺の膝によじ登ってきて、ちょこんと足の間に腰かける。足をぶらぶらさせながら、顔を上げてじーっと俺の顔を見つめてくる。

 母親のみぃちゃんに似て、俺の膝の上が好きなんだよな。たまに母娘で俺の膝の上を取り合うのが微笑ましい。みぅにはねこみみは生えていないけれど、行動がよく似ているのが面白い所だ。

「ああ、すぐ行くから。みぅはママのところに行っておいで」

 頭をなでてやって、脇の下に手を入れて抱き上げて床に下す。

「あい」

 みぅは両手を上げて返事をすると、来た時と同じようにたたた、と軽い足音をさせて出て行った。

 入れ替わりに、もう一人の娘、りなが入ってくる。

「ちちー。ははがはやくーっていってるから、はやくきて?」

 こめかみから伸びた、小さなツノ。お尻から伸びた、細いしっぱをぱたぱたと振りながら、俺の手を引いてくる。母親であるりあちゃんによく似た、竜族の特徴がよく出ている。人間の俺との間の子供だから、竜人族ということになるのだろうか。

「りな、ごめん、もう少し待ってくれって伝えてくれるかな?」

「もー、おしごとばっかり、だめー!」

「ごめんごめん」

 謝ると、んー、と無言で頭を突き出してきたのでそっと頭とツノをやさしく撫でてあげる。

「ん」

 満足したのか、ぱたぱた尻尾を振りながらりなが出て行った。

 鈴里美羽(みぅ)と、鈴里理菜(りな)。かわいい俺の娘たち。


 ◆


 高校受験のためにハナが突然訪ねてきた後は……どうだったかな。

 そうそう。ハナが帰ったその少しあと、今度はいきなりロアさんが訪ねてきたんだった。

 そろそろみぃちゃんとの子供でもできた?ってやってきたロアさんは。

 俺がりあちゃんと結婚したと知ると「ふーん?」と薄く笑いながら全力で斬りかかってきた。

「あたし、みぃちゃんのことタローに任せたんだけど? 蔑ろにしてるってどーゆうことよっ!?」

 って、部屋の中でいきなり剣を振り回して来たのだった。

 相変わらず聞く耳を持ってない。おかげでティアが空間拡張して急きょ作った部屋で、ガチバトルするはめになった。女神なティアならともかく、俺の方はほとんど普通の人間のままだから、マジで何度か死にかけた。ティアが復元してくれなかったらマジ三十回は死んでた。

 最終的にはみぃちゃんが割って入って来て、ロアさんを説得してくれた。

 みぃちゃん側の都合で結局、子作りはできなかったのだと。

 そうしたら、その夜。ぐでんぐでんに酔っぱらったロアさんとみぃちゃんに襲われた。

 ちょっとこっちきなさい、とロアさんに言われて、なんですか、と寄って行ったらいきなり背中に回られて羽交い絞めされた。相変わらずブラとかつけてないらしく、背中の感触にドキドキしていたら、みぃちゃんがなぜか両手を合わせて「……いただきます、なのです」って、俺のズボンに手をかけて来て。ロアさんごとベッドに押し倒された。

 酒臭い息を吐きながら、「いけーそこだー! ずばっとやっちゃえー!」とか俺の背中で微妙な応援をするロアさん。お酒の力を借りて、ますます大胆な行動に出るみぃちゃん。

「……んぅー、やったの、です!」

 って泣きながら俺に抱きついて肩に噛みついて来て。

 保護者同伴で、とか、どんな羞恥プレイだっ!?とか思いながらも、痛みに耐えながら必死にがんばるみぃちゃんに愛おしさが押さえきれず――ついにみぃちゃんと一線を越えてしまったのだった。

 翌朝、寧子さんから「ゆうべはおたのしみでしたねっ!?」とかメールが来ていたので、見てたんかいと、ちょっとだけ殺意を覚えた。



 さらにその次の日の夜。

 これまでずっと、俺とりあちゃんが良い雰囲気になるとルラレラが割り込んで邪魔しに来てしていたのだけれど――その夜はなぜか三人がかりでやってきた。

 前に寧子さんのところで何か修行してからもずっと続けていたのだろうか。「へんしーん、なの!」と中学生くらいにまで成長したルラレラが、あわあわしているりあちゃんと一緒に俺のベッドに裸で飛び込んできたのだ。

「みぃに手を出した、ってことはこのくらいならイケるはずなのっ!」

「既成事実をつみかさねるの!」

「そのうち、年齢なんかきにならなくなるの!」

「ろり最高だぜーって言わせてみせるの!」

 なんて騒いでいたルラレラだけれど変身は三分しかもたなかったらしく、俺が何をするでもなくぐったりと力尽きたので、床の布団に放り出した。

 しかし、ルラレラのセリフじゃないけれど、確かに一度やってしまうと心理的抵抗ってやつは薄くなるっぽい。

 ――その夜、ようやく俺はりあちゃんと結ばれた。

「……ようやく、本当の夫婦になれました」

 って、りあちゃんが泣きながら俺の胸に頬をうずめたのを今でも覚えている。

 翌朝、なぜかルラレラが下腹をなでながら、うふふんとにやにやしていたのも覚えている……。

 俺ちみっこ共には何も手を出してないんだが。家族だとは思っているけれど、妹か娘みたいな感じだし。

 そんなこんなで、これを機会に寧子さんにお願いしてりあちゃんの戸籍を作り、現実世界でも正式に籍をいれた。

 先にみぃちゃんにも話はしたけれど、「私の耳はりあと違って隠せないのです。それに、私はりあと違ってこの世界に骨をうずめる気はないのです」と戸籍を作ることも籍をいれることも拒否された。

「世の中の決まりとか、そういうものに縛られなくても。そばに居てくれるだけでいいのです」

 って、そっとお腹をなでながら俺に頬をこすり付けてきたのを覚えている。




 ――いろいろ事態が一気に変わったのは、その少しあとだったと思う。

 最初は「わん子さんエスケープ事件」だった。

 ルラレラ世界には少しづつ訪れる現実世界の人も増えていたのだけれど、基本的には許可されてワールドパスを持っている人間と一緒でなければ行き来はできない。なので、俺やティア、勇者候補生チームや、掲示板組の面々の誰かが迎え送りをする必要がある。

 けれど、連れて行く人数が多くなると次第に目が届かなくなってゆく。

 ……やらかしたのは、掲示板組のクッコロだった。

 ルラレラ世界から戻ってくるときに、こっそりわん子さんが紛れ込んでいたのに気が付かなかったのだ。あるいはもしかしたら、わん子さんのむっちり太ももにでも迷わされたのかもしれないが。

 寧子さんは俺を除いて、ルラレラ世界の人間を現実世界に連れてくることを許可していない。

いろいろ面倒なことになるからだ。だから「わんこちゃん捕まえて来てー」って寧子さんから依頼されたのだけれど。あの寧子さんですら、時々見失うというステルス性能で、わん子さんは約二週間の間逃げ回りつづけ、こっちの世界に潜伏し続けた。

 最終的には、どういうわけか俺の部屋を探り当てたわん子さんが、「そろそろ満足したので戻りたいですっ! わんわんっ!」って何やら荷物をいっぱい抱えて転がり込んできた。

 ルラレラ世界に戻ったわん子さんは、「勇者と女神の世界」という本を出版して大儲けしたらしい。中身はとんだ東方見聞録みたいなシロモノだったらしいけど。

 その後、その本に影響を受けたのかこっそりこっちに来ようとするルラレラ世界の住人が増えた。さらにはルラレラ世界体験ツアーの参加者が、こっそり人魚さんやねこみみちゃんをトランクにいれて連れ帰ろうとした事件が発生。

 ついに寧子さんが決断を下して、ワールドパス所持者以外のルラレラ世界への直接渡航を禁止することになった。


 ――そして。

「たろーくん、ゲーム会社やる気ないかなっ!?」

 どこがどうしてどうなったのか。寧子さんはルラレラ世界をVRMMORPGとして間接的に公開する方向に変更。関係者として半ば無理矢理に、俺は元の会社を辞めて、そのゲームを管理運営する会社を立ち上げることになってしまった。

 代表は寧子さん。主プログラマーは俺とナビ。さらには、りる姉を巻き込んで有限会社をでっちあげた。

 この世界の神様な寧子さんが居るわけだから、かなりの無理はきいたけれど、基本りる姉と俺の二人だけで出来ることなど限界がある。かといって、誰でも人を入れるわけにもいかない。

 関係者に声をかけて、時間の都合がつけやすい大学生のにゃるきりーさん、フリーターをしていたマジゲロがアルバイトとして参加してくれた。

 さらには無事高校に入学した妹のハナも時々来るようになった。

 そんな会社立ち上げのドタバタのころ。

 両親から「親に内緒で結婚するとか何事か! 一度帰ってこい」と呼び出された。

 ハナには内緒にするようにお願いしていたけれど、素直なハナは両親に俺の様子を聞かれて「にーちゃんは、お嫁さん何人も囲って幸せそうだったよ!」とうっかり答えてしまったらしい。

 俺の両親に挨拶したいというりあちゃんの要望もあって、会社立ち上げの忙しい最中に、みんなそろって三日ほど帰省することになった。

 俺のすることを「にーちゃんすっげー!」と何でも肯定してくれる妹のハナと違って、流石に両親は一応常識人だった。みぃちゃんとりあちゃんの二人と関係を持ってることに難色を示したが、最終的には認めてくれた。

「まさか、お前が小さいころ書いたあのノート通りになるなんてねぇ……」

 と母が引っ張り出してきたのは、おぞましき黒歴史が刻まれた禁断の書だった。自分を主人公として書いた禁断の物語。思い出したくもない、恥ずかしい記憶。

 拙いながらもそこに綴られた物語は。確かに、現在の俺の状態とよく似ていた。

 まさか、予言の書っ!? とか思わず中二病が再発しそうなくらいだった。

 現在の状態を選択したのは俺だけれど、まさか寧子さんが仕組んだんじゃないだろうな、とちょっとだけ疑った。


 ◇


「るらちゃんたちのお父さん、まだですか? もう、始まっちゃってますよ」

 今度はルラレラの友達の灰羽(はいばね)朱里(あかり)ちゃんだった。初めてうちを訪ねてきたとき小学生四年生だった朱里ちゃんも、今では見事な中学二年生だ。変な意味ではなく、文字通りの。

「ああ、もう少しかかるんだ。お客さんに使いをさせちゃってごめんね」

 千客万来だな、と思う。さっきから次から次にやってくるよね。

「るらちゃんたちも待ってますから」

「うん」

 手を振って部屋を出ていく朱里ちゃんを見送る。

 そういや、いつまでたっても俺がルラレラの父親じゃないってわかってくれないよな。


 ◆


 ――朱里ちゃんが初めて俺の部屋を訪ねて来たのは、会社の立ちあげが少し落ち着いた頃だっただろうか。

 ティアが俺の部屋を拡張してオフィスにしていたので、俺は平日にも家にいる状態だったのだけれど。その日、夕方に突然俺の部屋を訪ねて来た少女は、両手にいっぱいプリントの類をかかえたまま、俺の顔をじっとみつめて。

「三池さんのお父さんですか?」

 と小さく首を傾げて言ったのだった。

 詳しい話を聞いてみると、彼女の通う小学校にはひとつの怪談があるのだという。

 「4年27組の三池さん」と呼ばれるその話は、いくつかの小さなウワサから成り立っていた。

 曰く、十年以上前からずっと四年生の同じクラスに在籍している双子の女の子がいる。

 曰く、その三池さんとよばれる双子の少女の姿を見たものはほとんどいない。

 曰く、こっそり夜中の学校に忍び込んだ子が、真夜中の真っ暗な教室でくすくす笑う双子の少女を見た。それが三池さんである。

 曰く、三池さんは銀髪赤目の信じられないくらいの美少女である。噂によると、十年以上前から姿が変わっていないらしい。

 などなど。怪談にしては微妙に胡散臭さがたりず、別に怖くないところが逆に不気味な気がする。

 ある日、担任の先生が急病で休んだ際に、代理の教師が出席を取る際に、自分のクラスに存在しないはずの三池瑠奈(るな)玲奈(れな)の名を呼んだのが事件のはじまりだった。

 朱里ちゃんは噂の4年27組というのが自分のクラスであったことを知り、調査に乗り出したのだという。もちろん、怪談なんて信じていたわけではなく、事情のあるクラスメイトのことを心配してのものだった。

 何か理由があって、長期欠席をしているのだと思った朱里ちゃんは、小学生とは思えないほどの行動力を見せて、どこをどうやってたどり着いたものやら、現在の住所であるところの俺の部屋までたどり着いたのだという。

 ……ってゆーか、ちみっこども、女神にゃ学校も試験もなんにもなーいとか言っときながら学校サボってただけなんじゃねーか。

 そう思った俺は、ティアの部屋でごろごろしていたルラレラをとっ捕まえて朱里ちゃん前に突き出した。

「ぬははー!よくぞこのわたしのところまでたどりついたのー!」

「ほめてつかわすのー!」

 勇者を迎える魔王のノリでルラレラが朱里ちゃんを迎えて。

 あっさり仲良くなった。というか、ちみっこどもがルラレラ世界に拉致して、新たな勇者認定してしまった。

 ルラレラ曰く、ここまでたどり着いた子にはその資格があるのー!だとさ。

 ちなみにあの怪談、どこが怖いかっていうと。「4年27組の三池さん」で「42731(死になさい)」の語呂合わせなんだとか。どうでもよかった。


 ◇


「太郎さん、主役が来ないと始まらないんですけどー」

 今度俺の部屋を訪ねて来たのは、城之崎(きのさき)あゆむさんだった。

 相変わらずぱっと見には男の子か女の子かよくわからない子だった。ボーイッシュな格好をした髪の短い女の子の様にも見えるのだけれど、むしろ女の子に興味を示すところが男の子の様でもある。名前も中性的な感じだし。

 城之崎さんは、妹のハナの友人かつ同じ大学の先輩になる。寧子さんに言われて会社として始めたルラレラ世界を冒険するという設定のVRMMORPG、LROを初期から楽しんでくれて、その関連でいろいろあってうちの会社で半分アルバイトのようなことをしてもらっている。

 完全に運営側に回っちゃったらゲームを楽しめませんからって、バイト代は受け取らず、一般ユーザー目線での意見を出してくれている。

「LROの大規模バージョンアップの打ち上げなんですから、太郎さん来ないとだめですよ?」

「さっき来た朱里ちゃんは、もう始まってるって言ってたよ」

「そういう問題じゃありません。ほら、バージョン2の見どころとか売りとか、語ってくださいよー!」

 よく会社に来てはいるけれどあくまで一般ユーザとしての形を破らない城之崎さんは、普通の人よりは多少詳しいものの開発中のゲームの情報などは持っていない。

 こうしてねだってくるのも、秘密の情報を欲しがってのものではなく、あくまでもちょっとだけ先に、公開される情報を知りたいというだけの話なのだった。

 ゲーマーだよなぁ、と苦笑しながらも俺たちの作ったゲームを楽しんでもらえているのはとても嬉しかった。

「あはは、そういうのはハナに聞いたらいいよ。今日ならもう、公開OKだから」

 妹のハナは、俺たちが立ち上げたゲームのテストプレイヤーとして開発初期から関わっている。そこらの廃人プレイヤーなど目ではないくらいに知識と技術を持ったベテランプレイヤーなのだ。

「もう。お仕事には口を挟みませんけど、早く来てくださいねー?」

 最新情報が気になるのだろう。そそくさと城之崎さんは出て行ってしまった。


 ◆


 ルラレラ世界をゲームとして公開するめどがついたのは、会社を立ち上げて四か月ほど経ったころのことだった。とにかく突貫工事で作り上げたのは、現実世界の方でユーザを管理する仕組みだった。

「月額課金でウハウハ計画なのよっ!」

 とのたまう寧子さんの方針というわけでもないけれど、MMOという規模のゲームは数万から数十万の人が同時にアクセスしてくる、とんでもないシステムなのだ。貧弱なシステムを組んでダウンばかりしていたら他に類を見ないVRのゲームとはいえお客は離れてしまう。

 似たような既存のシステムは他にいっぱいあるので、そのあたりは寧子さんに融通してもらってとにかく急いでシステムを組み上げた。

 そうして始めたβテスト。期間は三か月、5回にわたって行った。

 おもに通信関係でトラブルが続出し、何日も徹夜が続いた。

 そんな忙しい日々の中、みぃちゃんとりあちゃんが同時に産気づいた。


「下手な病院より、女神が付いてる方が安心よ?」

「まかせておくがいいの、おにーちゃん!」

 戸籍もあるし、角も隠せるりあちゃんは普通に入院してもよかったのだけれど、ちみっこどもが妙に張り切って、病室っぽいものを再現した部屋を用意してくれた。俺もすぐ近くにいた方が安心なので、その方がよかった。

 初産とはいえ、女神が二人も、いやティアまで後学のためにってりあちゃんについてくれてそれほど難なく、りあちゃんは娘を産んでくれた。

 みぃちゃんは獣族の習性なのか、妙に気が立って周りに人を寄せ付けなくなった。一人で部屋にこもって心配だったけれど。

 ――結局、みぃちゃんは一人だけで子供を産んだ。

 血だらけになった部屋で、生まれた子供の全身を舐めててきれいにしながら、みぃちゃんは満足そうに子供を抱いていた。

 驚いたことに、生まれた子は純粋な飛頭族だったらしい。

 基本的には人族が優先で、その次に獣族が優先されるので俺とみぃちゃんの場合、普通の人間か半分ほど獣族の血を引いた子供が生まれる可能性が高かったらしい。

「結果はいじってないけど、確率は少しいじったよん?」

 寧子さんがお祝いだよ、って笑いながらそう言った。

 みぃちゃんは、「ようやく夢がかなったのです」って泣いていた。


 子育てにも追われる中、お手伝いに来てくれる女性陣の手も借りて、なんとか最初のバージョンを世に送り出したのは、年末のことだった。

 βテストの時には二千人だったプレイヤーは、一万二千人に拡大し、プレイできるエリアも俺が冒険していたシルヴィの街サークリングスやリグレットの街から大幅に拡大したこともあり、トラブルも続出した。

 さっき訪ねて来た城之崎さんとか、こっちの手違いでゲーム内に閉じ込めちゃったことがあるんだよね……。


 ――そして。何度かの小さなバージョンアップと、一回のメジャーバージョンアップを経て、今日が2回目のメジャーバージョンアップになる。


 肩をもみほぐしながら、軽く伸びをする。

 ずっとキーボードに向かい続けていたので、だいぶ辛くなってきていた。

「もう、太郎様! いつまで待たせるんですか」

「ちちー!」

 りあちゃんが、りなを抱いて部屋にやってきた。

 続けて、

「たろー、いいかげんにするです」

「おじごとめー!」

 みぅを抱いたみぃちゃんもやってきた。

 成長の遅いりあちゃんも、子供を産み育てているせいか、すっかり落ち着いた感じになってしまっている。

 千年成長しなかったみぃちゃんは相変わらずだ。俺は三十手前でだいぶ貫禄が付いてきたっていうのに、いつまでも中学生みたいにかわいらしい。

「ん、ちょうどキリがいいところまで書けたから、行くよ」

 立ち上がって、もういちど伸びをする。

「何を書いていたです?」

 みぃちゃんが、ぽすんと身を寄せてきた。頬をすり寄せてくるところが猫っぽい。

「うん、ここ五年ばかしレポートをサボってたから、寧子さんが書いてくれって」

 今さらだけどね。

「こんな日にまでそんなことしなくてもいいでしょう?」

 りあちゃんが文字通りツノを生やして、頬を膨らませた。

「よし、行こうか」

 そっと二人を抱き寄せて、頬にキスをする。

「ままずるーい」

「あたしにもー」

 騒ぐ娘二人も抱き上げてキスをする。

「……そろそろ二人目が欲しいです」

「私も」

 みぃちゃんとりあちゃんが、妹か弟が欲しいよねー、とちみっこ達の頭をなでる。

 やれやれ。


 これからもきっと、俺が生きている限り。いろいろなことがあって、何も終わらない。

 ぐるぐるとまわる螺旋のように。繰り返し、年月はめぐり。

 俺の伝説は、まだまだこれからだよな!

 感想であっさりおわりましたね、と言われれて確かにあっさり過ぎるよなーと思ったのでよくあるエンディングっぽくその後の話を書いてみました。

 全部まともに書いたら、あと1年くらいかかっちゃうんだろうなーと思いながら、ざっくりあらすじ風にまとめてみた、漠然と構想だけあるその後のお話ですね。せっかっくなので新作の方につながるようにもしてみました。

 最終的な後書きとか登場人物紹介は間に合わず……。自分が書きたいだけで読みたい人も少ないでしょうから、これで締めさせてもらうことにします。

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