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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
閑話「それぞれのエンディング」
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竜の嫁入り その1

 短めデス。

 ――月曜日。

 いつものように上司のりる姉にこき使われてお仕事を頑張った後、部屋に帰り着くと、俺の部屋にティアが居た。どうやら、帰ってきたらしい。

「あ、おかえりー」

 俺のベッドの上で胡坐をかいて、スナック菓子を頬張りながらティアが手を振った。

 ベッドに菓子クズ散らかすなよ、オイ。

「おかえり、なのです」

 ゲームをしているのだろう、テレビの方を向いたままみぃちゃんが言った。今朝のこともあって、少しばかり気まずい。

「……あ、うん。ただいま」

 そう返してから、誰か足りないことに気が付いた。リーアはルラレラとまた動画製作をしてるんだとして、りあちゃんはどこだろう。買い物とかだろうか。電気がついてないので風呂やトイレではないだろうし。

「リーアとりあちゃんも一緒だったんじゃないの?」

「リーアは私の部屋の方~。りあちゃんは、用事が長引いて残るって。詳しいことは後でメールするって言ってた」

 そう言いながらティアがスナック菓子の袋をテーブルに放り出して、ずんずんと俺に詰め寄ってきた。

「でもって太郎は今すぐタロウ部屋に来ることっ!」

「え?」

 タロウ部屋っていうのは、俺、ティア、ティア・ロー、スズの、鈴里太郎をベースとした四人しか入れないプライベートな部屋のことだ。周りが女の子ばっかりだから、ひとりになれる場所も必要だよねって、ティアが創った小部屋のことだ。

「……なんで?」

「いいから、ほら!」

 ぐいっと腕を引かれる。

「ちょ、俺まだ着替えてもいねーのに」

「カバンだけ置いときなさい。着替えは持ったから」

「いつのまにっ!?」



 ティアに引きずられるようにして、タロウ部屋に連れ込まれた。抱きかかえられるようにされた右腕がちょっとばかり幸せな柔らかさに包まれたが、そんな感触を思う間もなく。

「――白状しなさいっ!」

 バタン、とドアを閉めた後、いきなりティアが詰め寄ってきた。

「みぃちゃんと何があったのっ!? ってゆーか、まさかヘタレの太郎のくせに、やっちゃったの? 二人っきりにすれば多少の進展はあるかもって思ってたけどさ」

「ちょっと、近い、近いよティア!」

 ティアの方が俺より少しばかり背が低いが、こうもすごい勢いで詰め寄られるとちょっと怖い。

 何より。

 少し前から、外見だけでなく明らかに俺と違い始めたティアに、こんな風に身体を寄せられると少しばかり意識してしまう。

「私が一応本体だから、強制的に太郎から記憶を抜くことだって出来るけど、そゆことはしたくないから、だから聞いてるの。何があったのか、白状しなさいっ!」

「ちょっと落ち着……うわっ」

 ティアのあまりの剣幕に、押し倒されるように俺は尻餅をついた。その俺の上にまたがって、ティアが俺の胸に両手を付く。

「いや、別に話すのはいいけど。……お前の方も何かあったのか?」

 さっきみぃちゃんに会ったときには、別にいつもと変わらない風だったんだが。

「……みぃちゃんのおみみをなでようとしたら、そそそって、避けられた」

「え?」

 俺は普通になでさせてもらったけどな?

「……いつもゲームするときには、特等席なのです!って言って足の間にすとんって潜り込んでくるのにっ! 1メートル近くも離れて座った! 太郎、あんたなんかみぃちゃんに嫌われるようなことしたんでしょっ!?」

「……」

「あ、ってことは、もしかして、かなり痛くしちゃったわけだ? それとも、後ろを無理やりとかっ!? あっちはちゃんと準備しないとかなり痛いらしいし」

「オイこらティア、でこ貸せ。こっちのが早い」

 バカな妄想をしているティアの後頭部に手を伸ばして、ぐいっと引き寄せる。

「あ、ちょっと」

 慌てるティアのおでこに、ごつんとヘッドバッドをかました。




「……なるほど」

 俺からの記憶を受け取ったティアは、ようやく落ち着いたようで、ひとつ頷いた後、そそくさと俺の上からどいた。

「最初っからこうすりゃ良かっただけなのに、なんであんな詰め寄って来るんだよ」

 ため息を吐いて俺も起き上がる。スーツ、しわになっちまうな。

 ティアが持ってきてくれていた、いつもの作務衣に着替えようと脱ぎ始めると。

「ば、バカ、目の前で脱ぐとかやめてくれる?」

 なぜか顔を赤らめたティアが、慌てて俺に背を向けた。

「は? なに言ってるんだ前」

 こないだは俺の下半身(の一部)を寄越せとか言ってたくせに。

「え、だって、太郎、私にヨクジョーしてたじゃない。変なの見せる気?」

「ちょ、いや、ちょっとドキドキしたのは確かだけどな? まあ、元が同じであっても物理的に別の身体なんだから少しばかり反応しちゃうのはしょうがないだろ」

 手早く着替えてハンガーにスーツをかける。

「……そうね。もう、ひとつにならないつもりなんだし。私もその認識で居た方がいいのかな」

 はぁ、と深いため息が聞こえた。

「んで、まあ、みぃちゃんのことだけどな。そういうわけで今朝方少し気まずい思いをしてだな」

「いや、でも太郎にはおみみさわさわもお膝ぎゅーも許したんでしょ? 私に距離置く理由がわかんないよ」

「それは確かに。あー、でもほら、ティアはどっちかってゆーとルラレラに近い存在になっちゃってるだろ? お前にログ読まれるのを嫌がったんじゃないかな。いや、あるいは、ティアの心を読みたくなかったか……」

 近くに居るのに触れたくないって、そういうことだよな。

「……なあ、ティア。もしかして、みぃちゃんによからぬ妄想したりしなかったか?」

「そういえば。みぃちゃんに、ティアもずっぷし刺すです?とか言われた。あれで太郎がやっちゃったんだと思ったんだけど」

「その妄想、みぃちゃんに読まれたんじゃないのか」

「……あー、そうかも。そうすると……」

 何か言いかけて、不意にティアが押し黙った。

「じゃ、俺戻るな」

 いいかげん、腹が減った。りあちゃんが戻ってきてないってことは自分で作るしかなさそうだ。それともルラの方でこっちの分まで作ってくれてるかな。




 晩御飯は、ルラが作ってくれていた。どうやら動画も完成したようで、少しばかり豪勢な夕食だった。みんな俺の部屋の方に集まったのだが。

「ティアのやつはまだこもってるのか」

 一人でなにやってんだか。

「おねーちゃんはほっとけばいーの」

「ごあんたべうのー」

 ルラレラがなんかテンション高めなので、ティアの分を残して先に食べることにした。

 最近はティアの部屋と俺の部屋で別々に食べることが多かったから、こうしてそろって食べるのは久しぶりだった。まあ、ティアとりあちゃんがいないから5人でなんとかテーブルに着ける人数だというのもあるけれど。

 晩御飯が終わると、ルラレラが俺の膝に乗ってきた。

「かんせいひんの視聴会なのー」

「おにいちゃん、みてほしいのー」

「~~♪」

 リーアは空中に浮かんで、俺の後ろから顔だけ出して画面を覗き込む。

「……です」

 珍しく、みぃちゃんも興味があったのか反対側から画面を覗き込んできた。

「じゃ、すたーとなの」

「ぽちっとなー、なのー」


 ――それは、リーアの物語だった。

 歌で愛する人を傷つけ、歌えなくなった人魚が、再び歌えるようになるまでの。


「……ん。ちょっと感動した」

 肩越しに画面を覗き込んでいたリーアの頭をなでる。リーアは俺に頬を寄せてきて、「~~♪」と小さく鳴いた。

「じしんさくなの」

「あかでみーしょうまちがいなしなの!」

「それは無理だろ。でも、すごくよく出来てると思う。がんばったなー」

 ルラとレラの頭もなでてやる。

「……いい、です」

 ぽつり、とみぃちゃんがつぶやくように言った。

「え」

 みぃちゃんは、隠れるように部屋の隅っこに行ってしまった。

 何かの心境の変化があったのか。みぃちゃんも少しはみんなと打ち解ける努力を始めたということだろうか。

 まあ、いいことだよな。

 ぶるる、とテーブルの上のスマホが震えてメールの着信を告げた。

 そういや、りあちゃんからメールが来るって言ってたっけ。昨日ルラレラ世界に行ったときも詳しいこと聞いてないんだよな。いつもの神殿騎士がらみのことかと思ってたし。

 何があったんだろう。

 スマホを手に取ると、やはりりあちゃんからのメールだった。何の気なしに、メールを開いて確認すると。

『もう二、三日用事でこちらに残ります。申し訳ありません』

 と、詳しい話をメールするという話だったのに、たいしたことは書かれていなかった。

「……んー」

 ちょっと考えてりあちゃんのスマホに電話してみるが、電源が入っていないか電波が届かない場所にいます、とのメッセージが聞こえただけだった。

 メールは届いたんだから、りあちゃんが意図的に出ないってことか?

 それかメール出した直後に電源を切ったということだろうか。

 ちゃんと受け取れるかわからなかったが、『何か困ったことがあるんだったら相談してね』

とメールを返信しておいた。


 ――しかし。それから二週間が過ぎても、りあちゃんは帰ってこなかったのだった。

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