ぐーたら女神生活 その2
女神な「私」、ティアと話した結果。明日の土曜日は、ティアの服とかを買いに行くことになった。俺の部屋をまるごとコピペしてたから生活用品とか特に気にしてなかったんだが、体格の差による着るもの違いは考えてなかったのだ。
あと当然ながら俺の持つ服は全て男物であるし。かなりな美少女である女神なティアに着せるには、ちょっと微妙だった。
……どうせなら、いろいろかわいい格好させたいよな?
男の俺は変におしゃれな格好をする趣味はないのだけれど、やっぱりかわいい女の子の「私」なのだからその容姿に似合う格好をさせたい。
あれだ、装備でグラフィックが変わるゲームで、女性キャラにいろいろ似合うコーディネートを試したくなる感覚?
決して、俺自身が女装して着飾りたいという欲望があるわけでなないのだ。
……ほんとだぞ?
「じゃ、ユイたちにも明日一緒に出かけないか声かけてみる。あの子たちもいろいろ入用なものあると思うし」
俺がそう声をかけて部屋を出ようとしたら。
「えー、二人っきりのデートじゃなかったのー? ってあいたっ」
ティアがにやにやとした顔でふざけたことを言ったので、拳骨を落としてやった。
「……なんか性格変わりすぎじゃないか、お前?」
「んー」
ティアは、きょろきょろと周りを見回して、俺に手招きをした。
なんだろう、としゃがんでティアに顔を寄せると。
こつん、とおでこをぶつけられた。
「私でもある太郎だから、正直に言うんだけどさ」
「どしたんだよ? わざわざおでこなんかくっつけて……」
こんなナイショ話風にしなくたってこの部屋には俺とティアしかいなんだが。
さらに言えば、その気になれば俺の意思に関わらず上位で本体なティアは俺を回収することができる。そうすれば文字通り一体化するので、知られたくない話ならばこうして会話すること自体が無駄な気がする。
見た目だけは美少女なティアの吐息に頬をくすぐられて、ちょっと妙な気分になってきた。
「……ぶっちゃけた話、少々欲求不満なのかな? ルラレラが居るときはいいんだけど、二人っきりのときリーアのアタックが結構激しくってさぁ」
「……妙な熱い吐息はいとらんで、てめえで何とかしろよ」
「いやね、ほら。私、付いてないから、ってあいたっ!」
右手を筒状にして上下にゆするティアに、思わず拳骨してしまった。
「んな下品なことすんなっ!」
見た目かわいい女の子なんだから、そんなおっさんくさい仕草するんじゃありませんっ!
「いや、太郎だからぶっちゃけてるんじゃない。ほら、女の子として気持ちよくなっちゃたら、なんか決定的に変わっちゃいそうでさー」
「ああ、うん。それは確かに俺もそう思うな……」
初めて女体化して、トイレに行ったときのあの衝撃を思い出した。女としての快楽とか知ってしまったら、真面目に何かが根本的に壊れそうな気がする。
俺は太郎に戻ったけれど、ティアの方は現在進行形で女のままなんだよな。
ただぐーたらしてたわけじゃなくて、こいつもいろいろ悩んでたのか……。
「だからさ、リーアとか裸で私のベッドにもぐりこんできてさ、流石に変なことはしないんだけど、抱きしめて眠るとこう、ほら、もやもやってするんだけど、発散できないのよ、いろいろと」
「それ俺に言われても困るんだが……。いや、俺が太郎のままちびねこになったみたいに、お前がお前の意識のまま俺になれば解決するんじゃないか?」
女神の意識で俺の身体ってのも変な気はするが。
「……んー、たぶんだけど。私は”女神化した太郎”で、太郎は”女神化しなかった太郎”で本質的には同時に存在しえないものなんだよね。こうして別の存在としては同時に存在できてるけど、残念ながら、私の意識で太郎の身体ってそのものが矛盾してるから無理っぽい」
「……ああ、ためそうとはしたんだな」
言われてみれば確かに。今のティアは俺を、”太郎”を根底から作り変えて女神にしたものだ。存在を太郎に戻せはそりゃ当然俺になるわけで、意識だけ女神なんてのは確かに矛盾してる。
例えるなら少し違う気はするけれど、オセロの黒と白のようなものだ。ひっくり返すことは出来たって、混ざって灰色になんてなったりはしない。
「うん。あと、ちびねこティア・ローちゃんの方ははもともと寧子さんが用意してくれたアバターで、誰かが中に入って操るのが前提で、あれは太郎がちびねこに”なりきってる”ようなものだから私でも太郎でもどっちでも成れるんだけど、ちびねこちゃんも女の子だし、ちびねこボディじゃ今の女神ボディよりさらにやばいしっ」
確かにいろんな意味でヤバイ。見た目ルラレラより歳下だからな、ちびねこは。
「……そういや、ちびねこってどうなってるんだ? 俺の方にはいないっぽいけど」
前の時には、ずっとルラレラ世界にいたのかな? シルヴィの迷宮のNMやってたっぽいけど。今回も向こうに居るんだろうか。
「んー? ちびねこちゃんなら基本的には私の中にいるけど、たまにお出かけしてるみたいだよ。ルラレラと買い物とかしてるみたいだし」
「そっか。あの子もいつもいつもおんなじ格好だし、明日一緒に買い物連れてこう」
「ん、そだね」
「んじゃ、ユイたちのとこ行くから」
と立ち上がろうとしたら。
「あ、まってー」
ぐいとティアに袖を引っ張られてつんのめる。
「なんだよ。って、んむ」
いきなりティアにキスされた。
「~~~っ!?」
息が出来ない。
口の中にするりと入り込んできた舌が、ぬるぬると俺の口腔をなめ回す。
同時に。
この数日あったことが。互いの記憶として流れ込んできた。
「ぷはぁ。ごちそうさまでした」
ぺろりと唇を舐めなわして。ティアが、んふう、と寧子さんみたいなどこかこちらをからかうような笑みを浮かべた。
「……いきなり何すんだよっ! 記憶の共有ならそれこそ俺を回収すれば済む話だろ?」
「ん、ちょっと太郎の記憶もらってすっきりした」
ティアがもう一度、唇を舐めまわして、はふぅ、と息を吐いた。
「いいじゃない、役得でしょ? 私、客観的に見て太郎のもろ好みじゃなあい?」
「いや、確かにそうだけど。自分にキスされるってのは、なんか背中ぞぞぞってする」
俺は鏡に向かってキスするような趣味はないからなっ!?
「しつれーな。さっきも言ったけど、本質的に私と太郎って矛盾してるの。だから、太郎が太郎らしくあるためには今後はなるだけ一体化しないでこうして記憶の共有だけした方が良いと思うんだ。じゃないと、私が”太郎”とかけ離れていけばいくほど、太郎にも影響でそうだから」
「あー」
そういや、みぃちゃんとかりあちゃんに、普段なら絶対しそうにないことやっちゃったっけ。
「おや、心当たりありそう……って。ああ、そんなことしたわけか。いや、それはみぃちゃんとかりあちゃんのアタックに負けそうになってるだけじゃない? あはは」
俺の記憶を「思い出した」のか、ティアは肩をゆすって小さく笑った。
「……ぶっちゃけた話、みぃちゃんもりあちゃんも二十歳超えてるわけだから、太郎は変に我慢とかしないで、相手が了承するならイケイケごーごーしちゃって良いと思うんだけど? ってゆーか、りーあもいいけどみぃちゃん抱き枕にしたいっ! もふもふしたいっ!」
「お前のそういう考えに毒されつつあるんだろ……。俺は、そんなうかつなことはしないぞ?」
「いや、ちゃんと籍をいれてからとか無理でしょ? この世界の人間じゃないわけだし。だいたいどっちにするつもり? 日本の法律じゃ重婚は不可だよ?」
「あーあーきこえないー」
というかそろそろユイたちのとこ行かないとね。だからしょうがないのだ。
俺が優柔不断なのはわかってるけれど。今のままをもうしばらくは維持したいと思う。
ティアの手を振りほどくようにして、逃げ出そうとしたら。
「~~♪」
ガチャりとドアが開いて。
素っ裸のリーアが、空中をするりと泳いで俺の首に抱きついてきた。
「わ、ちょっと、りーあ」
「こっちの、たろ、もスキ」
耳元で小さく、囁くように言って。リーアが俺にキスの雨を。
「りーあの嫁はあっちのおねーちゃんなのー」
「おにーちゃんはだめなのー」
バスタオル一枚巻いただけのルラレラが、リーアを俺から引っぺがしてくれた。
不満げにじたばたと暴れている、いろいろ隠すそぶりもないリーアの肌から目をそらす。
「助かった。ティアには話したけど、明日はティアの服とか買いに行くから」
ついでにルラレラに予定を告げておく。
「らじゃーなの」
「あ、でも日曜日は向こうに行って欲しいの。メラから連絡来てるの」
「ん? 向こうでなんかあったのか?」
向こうから連絡が来るなんて、初めてだよな?
「リーアのご両親からといあわせがあったらしーの」
「リーアをつれてくのー」
「わかった。じゃあ、そのつもりでいるな」
手を振って押入れの戸を開ける。
「~~♪」
りーあは空中で逆立ちしてぱっかり足ひらくんじゃありませんっ。
これはティアもいろいろたまるわけだな……。
いったん俺の部屋に戻り、もう一度今度はユイたちの部屋につなげる。
流石に女神なティアと違っていきなり部屋に入るわけにも行かないので、軽く戸を叩いて声をかけた。
「太郎です、今、いいですか?」
少し待つと、向こうから押入れの戸が開かれてナビのクロが顔をのぞかせた。
ユイの方のクロなのか、ユラの方のクロなのかはぱっと見ではわからない。
「……太郎様、どうぞ」
囁くようにクロがそう言って、後に続いて中に入ると。
「……」
「……」
「……」
「……」
なぜか、ユイとユラ、ユマと少年魔王なユラが鏡に映したように並んでいた。
左のユイが、さっと手を上げると、同時に右のユラも手を上げる。
左のユマがくるりと回ると、右の少年魔王なユラもくるりとまわる。
「……えーっと、なにやってるの?」
声をかけると。
四人がいっせいにくるりと俺に顔を向けた。ぴたりとそろっていてちょっとこわい。
って、ほんとに何やってたんだろユイたちは。