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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第五話「俺的伝説の作り方」
227/246

44、「とある絶望の終わり」

 間違えて別作品「ねこみみ勇者のだいぼうけん!」の「魔王襲来、なのです!」を投稿してしまっていたため、44、「とある絶望の終わり」に差し替えを行いました(2016/7/31 21:26)。これ以前に読まれた方は、お手数ですが再読していただければと思います。またしおりの位置にご注意ください。

 都合により短めです。

 ――突然現れたのは、猫のお面を被った黒い格好の女の子。


 それはイコの世界の女神、ゆーりだった。

「……なんで、ゆーりが? さっき帰ったはずじゃ」

 イコが戸惑ったような顔で、ゆーりを見つめる。

『それは今回のゆーりで、わたしとは違うゆーり、かな』

 ゆーりは小さく肩をすくめて、イコの前に立った。

『わたしは、いちばん最初のまいこから順番にずーっと追いかけてきた。あなたが一番最後、かな』

 そう言って、ゆーりは驚き戸惑っているイコをそっとその胸に抱いた。

『おかえり、まいこ』




 隠しステージが始まったかと思ったら、よくわからないうちに終わってしまった。

 いったい何が、どうなってどうなったのかさっぱりだ。

 首を傾げていると、誰かに背中をつつかれた。振り返ると、魔王ユラなユイが立っていた。

「ん、どしたの?」

「イコがああなったのは、たぶんあたしのせいだと思うんだよ……」

 そう言ってユラが話してくれたのは、イコが持っていたユイの記憶についてだった。

「……ややこしいね。つまり、大本のユイが、ユマのアバターを作ってユマに成り切っていた。成り切った結果、そのユマが、今度はユイに成り切ろうとして、生まれた記憶だってこと?」

「端的に言うと、ユマが知っているあたし、あるいはユマならあたしのことをこう考えているだろう、っていう想像上のあたしね。絶望に狂って、自分を失っていたあたしが生み出した狂気。たぶんあたしは、わめき散らすように感情を、想いを、セカイ中に撒き散らしていた。イコは、そういったものの影響を受けたんだと思う」

『ん、それが正解、かな』

 微妙に音響効果のかかった声で、猫ゆーりが割り込んできた。

 現在この場にいるのはほとんど女神が準女神なので、いつものホワイトボードではなく肉声を少し加工することで話すことにしたようだ。

『まいこは、その場に残された感情や想いに敏感。霊媒体質ともいう。だから、貴女の残した狂気の亡霊に憑り付かれた、かな』

「……イコはどうなの? 大丈夫なの?」

 イコは猫ゆーりが抱きしめたままだった。ぐったりと猫ゆーりにもたれかかっている。

『これまでに約一兆七千億のまいこを治して来たから、大丈夫、かな』

「……は?」

 一兆って、は?

『ん、順番に説明する』

 猫ゆーりは、座れ、とばかりに手招きした。かかとでで床をこつんと打つと、椅子とベッドが床からせりあがるようにして生み出された。

 猫ゆーりはベッドにイコを寝かせると、そのおでこをそっとなでて自らはベッドの端に腰掛けた。とりあえず、私とユラも椅子にすわる。

 ユイとユマもやってきたので、猫ゆーりが追加で椅子を創った。

 ついでに幼女な寧子さんが大量のポテチとペットボトルのジュースを持って来て、完全にお茶会モードになってしまった。




『いちばん最初のまいこは他の仲間立ちと一緒に、妖精大戦の途中でイモムシに殺された。本来のゲームなら、すぐに復活するはずだったし、実際にまいこ以外の仲間は復活したけれどまいこだけは復活しなかった。それはわたしが設定したフラグのせいで、わたしが好意を向けるものがフラグであって、その対象がまいこになっていたからだった。まいこが復活してしまうと、壊れたはずのフラグが復活したことになる。壊れても何度も復活するフラグというのがルール上認められなかったためだった』

「あ、それ今回も適用されてまっす」

 寧子さんがポテチを頬張りながら口を挟んできた。

『ん。だからわたしはゲームをリセットするために、いちばん邪魔だった魔王ユラを消した。彼女の望みどおりに』

「……」

 ユラとユイが、微妙な顔で頷いた。

『その後、まいこは帰ってきたけれど、なんだかとても興奮していた。何も出来ないまま、終わったのが嫌だったって言った。困ったことに、記憶を過去の似たような自分に飛ばしたらしかった。あなたたちの言うイコが狂気の亡霊に取り付かれたのは、ユラが原因かもしれないけれど、そもそもの原因はいちばんさいしょのまいこが負けず嫌いで余計なことしたのが悪い』

 つんつんと、ベッドの上のイコの頬をつついて猫ゆーりがむふーと息を吐いた。

『……しょうがないのでまいこの後始末をするために、わたしは長い長い旅に出ることになった。妖精大戦のゲーム中に余計な手出しは出来ないから、後手後手に回って、さらに別のまいこに記憶が受け継がれていたりした。余計な記憶を受け継いだまいこを見つけては治し、治しの繰り返し。その途中で、魔王ユラの記憶も受け継いでまいこがおかしくなった。セカイの秘密を知ったまいこは、自分もゲームに参加していることもあった。これがまた困ったことに、まいこは自分で創ったあーてぃふぁくとをフラグにしていた』

「アーティファクト?」

 イコは何か持っているようには見えなかったけれど。私の下着のアーティファクトのような何かを持っていたということなのだろうか。

 そうすると、あの魔法のような力は、わたしが下着のアーティファクトで「ぱんつ魔法」が使えるように、アーティファクトによるなんらかの特殊能力だったってことかな?

『ん、任意の並行世界の自分とつながるちからがある。並行世界はすこし違ったセカイ。外れていけば中にはちょっと特殊なちからをもつまいこもいる。そんなちからを集めるために、まいこはたくさんの並行世界とつながって、結果的に困った記憶をばらまいた。これのせいで、被害にあったまいこの人数がひやくてきに増えた……。繰り返し回数は3回でも、記憶を受け継いだまいこがもう、嫌になるくらいにふえた……』

 ぷにぷにぷにぷにっ、と連続でイコのほっぺをつつく猫ゆーり。

 秒間十六連打並みだ。

『……でもこれでさいご。これ以上まいこがセカイからはずれていたら、わたしの手におえないところだった。ここで止めてくれた貴女にかんしゃ、かな』

「……え、私?」

 なぜか猫ゆーりに見つめられて、感謝の言葉をもらってしまった。

『一兆七千億のうち、魔王ユラを殺さずにゲーム終了したのはここだけ。通常は魔王ユラが死んですぐに、まいこはやり直しを図る。わたしが介入できるようになる、つまりそのセカイのわたし、ゆーりが世界から離れたときには記憶を飛ばされたあとなことがほとんど。今回はようやく止められた。だからかんしゃ、かな』

「そっか」

 でもそれは、いくつもの偶然がかさなった上での結果だと思う。

 そもそもマイちゃんと、もうひとりの記憶を受け継いだマイちゃんであるイコが同時に存在した、というのが初めてらしいからなー。

『ふだんしゃべらないから、いっぱいしゃべったら疲れた。そろそろ帰る、かな』

「あ、待って」

 ユラが、椅子から立ち上がってベッドの脇に来た。

「あたしの記憶は、あたしが回収する、ね」

 そういって、ユラは寝ているイコにこつんとおでこをぶつけた。

 一瞬、ん、と苦しそうな顔をしたものの、飲み干すように胸をなでおろす。

「……あはは、きっついなぁ。元はあたしのものとはいえ、一兆をこえる絶望。あたし一人の孤独と絶望を癒すのに、一万二千年もかかったのに」

「ちょっと、大丈夫? またおかしくなったりしたら……」

 あわてて駆け寄ろうとしたけれど、ユラに手で制されて座りなおす。

「大丈夫」

 ユラの両側から、ユイとユマがその肩に手を乗せていた。

 もうひとりじゃない。なら、きっと、ユラがおかしくなることはないのだろう。

 絶望の連鎖は、ここで止まった。そう信じようと思う。




「……いろいろごめんなさい」

 憑き物が落ちたような顔で、イコが言った。そう言ったあと、「あれ、なんであたし何で謝ってるんだろっ? 意味不明だよっ!?」と首を傾げて、猫ゆーりと顔を見合わせた。

 ユラに記憶を持っていかれたせいで、少し混乱しているようだった。

 イコに関しては、なんだか思いつめたような顔しか見た覚えが無かったのだけれど、今のイコは、ああやっぱりマイちゃんなんだなと思える明るい雰囲気があった。

『ん、迷子のまいこを迎えに来た。これから連れて帰る。おっけー、かな?』

「よくわからないけど、わかったよっ! なんかあたしが迷惑かけたみたいで、ごめんなさい」

 イコはもう一度謝って。

 小さく手を振って、猫ゆーりと一緒に消えてしまった。

「……よっし。フラグの消滅を確認。うぃなー! 女神てぃあろーちゃんでっす!」

 幼女な寧子さんが、ささっと私に寄ってきて右手を上げさせた。

「いぇー」

 気の抜けた勝利宣言。


 ――いろいろあったけれど、ようやく平和な日々が戻ってきそうだ。

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