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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第五話「俺的伝説の作り方」
221/246

39、「その深刻な雰囲気をぶち壊す」

 ――少し、整理してみよう。


 あっちこっちのセカイをぶち抜いてお祭り騒ぎ状態になっているので、少しばかり混乱状態にあるみたいだし。どのセカイが何で、何がどうなっているのかまとめてみることにしよう。

 まず、現在の私が所属しているかどうかはかなり微妙ではあるけれどな、私と「俺」、鈴里太郎にとっての現実世界を次のように定義してみる。


 A.寧子さん:太郎の現実世界(所属:太郎、ルラ、レラ)


 前から順番に、アルファベットは世界を区別するために適当につけた値で、次が世界の作成者:世界の名前、そしてそこに所属する主要な人物、という感じ。

 今居るルラレラ世界はこれにぶら下がる形で、


 A.寧子さん:太郎の現実世界(所属:太郎、ルラ、レラ)

  └a1.ルラレラ(+私):ルラレラ世界(所属:リーア、りあちゃん等)


 こんな感じで表すことにする。

 これにあわせて、ユイたちの世界を表してみると次のようになる。


 B.創造者不明:結衣の病室(所属:結衣、少年由真(死亡))

  └b1.結衣:少女ユマの病室(所属:ユイ、ユマ)

   └β1.少女ユマ:わーるどおぶねこみみ(所属:シロ)

   └β2.ユイ:詳細不明(所属:クロ)


 病魔におかされたB世界の結衣は、事故で死んだ幼馴染の少年由真が死ななかった世界b1を想像した。そのb1世界には健康なユイと、都合により少女の姿に変えられたユマが居た。

 マイちゃんのちょっとアレな特殊能力によってb1世界に飛ばされた「俺」は、このb1所属のユイとユマを、a1のルラレラ世界に連れて来たわけだ。

 ユイの予想によると、B結衣が死亡したことによりb1世界が崩壊、これにより自身の属する世界と、それからユイを失ったb1ユマが正気を失い魔王ユラになったのではないか、ということだった。

 実際には「俺」がb1のユイとユマをルラレラ世界に連れてきてしまったので、現在の魔王ユラとこちらにいるユイ・ユマは直接的にはつながっておらず、その意味ではb1’(ダッシュ)というか並行世界的に枝分かれした世界でその意味ではニセモノなのは確かなのだけれど、魔王ユラがたどれなかったもうひとつの結末としては本物であると私は認識していた。

 しかし、シロの容姿が違う、と魔王ユラは言った。

 つまり魔王ユラは、こちらが考えていたような、b1少女ユマの成れの果てではない、ということなのだろうか。

 考えていると、こちらのユマがぽつりとつぶやいた。

「……僕が、僕のセカイで貴様に言ったことを覚えているか?」

「え……? うーんと、何の話?」

 見つめると、ユマは唇の端を悔しげに吊り上げて、私を見つめ返してきた。

「僕のセカイで、貴様は、太郎は、”ここはユイの記憶による世界だ”と言った。僕は自分が誰かの想像の産物だなどと認めたくは無かったから、ユイが知らないと思われるはずのことを口にした。例えば、僕の創ったセカイは完成するまで誰にも見せるつもりはなかったから、ユイは知らないだろうと思った。そしてシロも……」

 呼び出したシロの腕をそっととって、ユマは自らの胸に抱いた。

「貴様もセカイツクールを使っているなら知っているだろう? あれは初回起動時に三百からなる質問をあびせられ、自身の性癖や好みなどを赤裸々にされる。そして生み出されるナビゲーターはまさに趣味の塊だ。だから僕は、つい先ほど太郎がかかわるまではユイにシロを紹介したことがなかった。自分の趣味を晒すような露出趣味は僕にはないからな。僕がユイからセカイツクールをもらい起動したときに、ユイは目と耳をふさいでいたけれどにやにや笑っていたから、まったく知らないと言うことはないだろうけれど、それでも少なくともこのように立体化した姿は見たことが無いはずだ。タブレット端末上ではデフォルメされた姿だからな」

 一気に言い放ってユマはユイを見つめた。

 見つめられたユイはしばらくきょとん、とした顔をしていたものの。

「え、うん。さっき紹介されるまでは、シロって名前と、名前の通り白い服着てるってことくらいしか知らなかったかも。ユマってば秘密主義なんだもん。セカイツクールのテクニックとか裏技っぽいのは聞いてくるくせに、自分の世界についてはだんまりでさ。あたしは何度もあたしのセカイに招待したっていうのにねー」

「……ってことは、ユイの記憶から連れて来たユマは、魔王ユラがいうとおり全然別物ってことなのかな? それとも……」

 あるいは魔王ユラが?

『――いつまで待たせるつもり?』

 不機嫌そうな声に、思考を中断された。見上げると空中に浮かんだウィンドウに、ステージで待つ魔王ユラが映し出されていた。

「あ、ごめんねー。今行くから」

 そう返して、こちらのユイとユマを手招きして顔を寄せた。

「……とにかく、私は魔王ユラを止めなきゃいけない。無理やりつれてきてごめんだけど、それでもやっぱりユイとユマは切り札になると思ってる。だから、そのタイミングをはかっていてね?」

 ユイとユマは、私の言葉に小さくうなずいた。




 こちらの戦闘メンバーは、私、みぃちゃん、りあちゃん、リーアの四人だ。

 正確にはちびねこティア・ローとかも呼び出すかもしれないので、人数的にはこっちの方が有利ではある。

 みんなでステージに降り立つと、魔王ユラが「ようやく来たね、遅いよ」と腕を組んでふくれっつらをしていた。

「……」

 みぃちゃんが私の袖を引いた。

「なあに? みぃちゃん」

「このところ、たろーはよその子にかまいすぎで、私たちはないがしろにされてる気がするのです」

「ごめんねー」

 確かにそうかも。

 ぎゅうとみぃちゃんを抱きしめて、ついでにねこみみをはむはむ。

 女神化してからは、どうにも女の子を抱きしめたりキスをしたりするのに抵抗が薄くなってあれだよね。

「ん、タロウニウム補充できたのです」

「なにその謎物質」

「わ、私もお願いしますタロウ様」

 りあちゃんも身を寄せてきたので、はいはいと抱きしめてそっとツノをなでてあげた。

「――後で、全部話していただけると信じています」

 りあちゃんの言葉が、ちょっとだけ胸に刺さった。

 空中をふわふわしていたリーアは、いきなり私の顔の前にさかさまに顔を出して。

「――~~♪」

 私の唇をうばってきた。

「り、りーあ、ちょっと」

 こないだの逆だ。逃がさないようにリーアが私の頭を抱え込んで、顔中にキスの雨を降らせてきた。

「……これから決着をつけようというのに、いい態度だね」

 魔王ユラは、飽きれたような顔でこちらを見つめて来た。

「いちおう、ルールを確認しておくよ? これは最終決戦だ。この場に無いフラグを含めて、すべてこの場の決着にて勝者を決める。それに異存はないよね」

「決着を付けることに異論は無いかなー」

 言われてそれも魔王の策のひとつだったと気が付いた。現状フラグを多く抱えているのは私たちの方であって、その意味で有利なのは当然私たちだったわけだけれど。

 ――たった一戦。この戦いで全てが決してしまう。

 イモムシ津波でずいぶん有利な立場を捨ててまで、なんでこんな決着をと考えていたけれど勝ちをあきらめたわけではなかったようだ。

「……先の約束も追加していいかな? 今はあたしが魔王ユラだから、あたしが死んだらこの身体、ユイの身体を貴女に託すよ。好きにすればいい。代わりにあたしが勝ったら、あのちびねこちゃんはもらっていく」

「前のも了承した覚えはないんだけど……まあ負けるつもりはないしね」

 私が頷くと、ユイの姿をした魔王ユラは、人差し指を下唇に当てて妖然と微笑んだ。

「……後はさっきの通り。貴女はあたしのフラグである心臓を貫いたら勝ち。あたしは貴女を裸にひんむいて、フラグを破壊すれば勝ち。単純ね」

「いくつか聞いてもいい? 心臓にフラグがあるっていったけど、どっちが本当のフラグなの?」

「……」

 私の問いに、魔王ユラは一瞬、時間が止まったかのように動きを止めた。

 能面のように無表示になって、ぴくりとも動かない。

「……答えたくないならいいかな。こっちの方がフラグはたくさん持ってるわけだしそのくらいはハンデとして受け入れる。じゃあ、もうひとつ聞いてもいいかな? あなたはこっちのユマが呼んだシロを見てニセモノだと言った。じゃあ、あなたのナビゲーターはどんな姿をしていたのかな?」

「……シロは」

 魔王ユラは無表情な顔に、貼り付けたような笑みを浮かべた。

「ねこみみの生えた、かわいい女の子だった。全身白い毛並みに紅い瞳。あは、趣味の合いそうな貴女のことだから、貴女のナビゲーターもねこみみ生えてるんじゃないかな?」

「んー、私のナビはねこみみは生えてないよ?」

 ってゆーか、白いねこみみ少女で名前がシロってどこかで聞いたような……って、んー?

 にゃるきりーさんが前、魔王ちゃんの掲示板のスレッドでシロたんシロたんとか騒いでたような気がするのは関係あるんだろうか……。

「あは、まあ、もう消えてしまったし。あはは、馬鹿だよね。世界を削除した神の気持ちがわからないっていうあたしに、じゃあ消してみたらいいにゃ!って、いいこと思いついたって顔で馬鹿なことを言ってさ。世界を滅ぼしまくって抵抗が薄くなってたあたしは、何も考えずに言われるままに……」

 魔王ユラが、また時間が止まったかのように動きを止めた。その肩を、隣に立つクロがそっと抱くようにして、耳元で何か囁いた。

「……ふん、無駄話はもういいだろう。はッ! なんで今更貴様なんかにこんな話をする必要がある。僕と貴様とは、殺し殺される関係。ただそれだけの単純な関係のはずだろう」

 再起動したように、魔王ユラはユイの姿で、少年魔王の口調で吐き捨てた。


「――さあ、殺し合おう」



 わん子「みなさんこんにちわ! サークリングス・トリビューン紙のわん子ことネティ・レル・クォータルです! お気軽にわんことお呼びくださいっ! わんわん!」


 ★わんこちゃーん カワイイ   わん子ちゃん、キター! たれわんこ ワンワン!★

 ★ いぬみみっこキター! かわええ むっちむち  誰これ?  つか何?    ★

 ★  わんわーん!   え、これなに? なにがはじまったん? なんか変なのが ★


 わん子「えー、大草原とサークリングスの街、リグレットの街周辺の皆様は既にご承知の通りっ! ただいまこの世界はなななんとっ! 魔王の侵略をうけてるのです。そしてついにーっ! 魔王と女神様の最終決戦っ! と言うわけで、本日は闇神神殿より、光神ミラさまの全面協力をいただきまして、全世界・全人種にむかってこの放送は行われていますっ!」


光神ミラ「きゃは★ みんなのアイドルっ! ミラちゃんですっ! 今日は無制限に全能力開放っ! でいっくかっらねー!」


 ★ミラ様だー あれ、これオラクルネットワークか? ナニそれ 女神様だー    ★

 ★  電子女神ってリグレットの? ってこの宙に浮いた変なのなにー?  ミーラ ★

 ★ きゃー! ミラちゃーん! アイドル? わんこちゃん好きだー   キラッ  ★



 ……あれ? これ、何?

 いったい何が突然始まったわけ?

 いきなりステージに居る全員の目の前に現れた、小さな光るウィンドウ。そこには闇神神殿にいるわん子さんが映っていて。それに光神ミラさん。相変わらずうざいけど。

 それに時々バラバラに聞こえてくるこの声はなんだろ。

 って、これもしかして光神ミラさんの仕業?

「――おい、何のつもりだこれは」

 魔王ユラが、気をそがれたように光るウィンドウを指で弾きながら言った。

「いや、私にもよくわからないんだけど?」



 わん子「おーっと、もしかてもう始まっちゃってましたか? みなさん、ご紹介しますっ! この地に現れた新たな女神ティア・ロー様です!」



 え?

 小さなウィンドウにはいつの間にか私の姿が映っていて。



 ★ かわいいー! ちびねこじゃないの? 女神様?  ねこみみはえてる-    ★



 どこかから聞こえてくる謎の声。これ、もしかして。



 わん子「そしてさらにー! これが魔王さんでーすっ!」


 ★ あらカワイイ! 支配されたい… 今の誰よ 美少女? これが魔王なのー?  ★



 次にユイの姿をした魔王ユラが画面に映し出された。

 つまりこのウィンドウは双方向性の通信機能があって、全世界に放送されてるって、そういうことですかー?


 わん子「さーていよいよ始まる世紀の最終決戦っ!? 果たして勝利はどちらの手にっ!? って女神様に勝ってもらわないと困るんですがー、いち報道に関わるものとしてーっ! なるだけ公平におつたえすることにいたしますですよっ! わんわんっ!」


幼女領主「別に魔王のことなど気にすることはあるまい」


 わん子「おっと、ここでご紹介します。解説の、幼女領主様ことシルヴィスティア・サークリングスさまです。名前でお分かりでしょうが、サークリングスの街の御領主様です」


幼女領主「サークリングスの街の領主、シルヴィスティア・サークリングスだ」


 わん子「そしてゲストのその辺を飛んでた妖精さんお二人です!」


妖精1号「ディエでーっす! おいしーものたべたい」


妖精2号「アーティよ。ってゆーかあんたら世界の危機をお祭り騒ぎにするとか正気ィ?」


 わん子「でわでわさっそくー! いってみまっっしょーっ!!」



 なんだこれー……。

 その深刻な雰囲気シリアスをぶち壊すっ! シリアスブレイカーッ!

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