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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第五話「俺的伝説の作り方」
219/246

37、「最果てにてキミを待つモノ」

 ……なるほど、そういうわけだったのか。


 記憶の同期が行われ、状況を把握する。

 ほのかな恋心、せめて由真だけはと思う気持ち。そして……罪悪感。

 マイちゃんが、そしておそらく敵側についたままのイコがユマを大事に思う理由。それがユイの記憶によるものだとするなら、確かに理解できなくもなかった。

 マイちゃんにおでこをこつん、とやられて、私から「俺」が転がり落ちてどこかへ消えてしまったときには少しばかり混乱も心配もしたけれど。女神化して少しばかり人間味の薄くなっている私よりも、鈴里太郎としての「俺」の方が結果的によい結果を生んだようだった。




「ん、とりあえずようこそだねー。ユマちゃん、ユイちゃん」

 両手を広げて歓迎の意を表すと、ユイとユマはぽかんとした顔で私を見つめていた。

「……今のは、どういうことなのかな? 太郎さんが、あなたの中に消えたように見えたけど」

 ユイが私を指差してつぶやくように言った。

「あー、あんまり気にしないで。あれも私だってこと」

 ひらひらと手を振ってごまかすように笑う。

 ユイたちだけでなく、こっちの陣営でも訝しげにしてるメンバーいるんだよね。りあちゃんとか。たぶんみぃちゃんは私に触れることが多いから既に理解してると思うんだけど。

「それより、この世界の女神を紹介するからこっち来てー」

 手招きして、ユイとユマの手を取って御座の前まで連れて行く。

「このちみっこ二人がこのセカイを創った女神だよ」

「ルラなのー」

「レラよ」

 うちのちみっこ二人が両手を上げてご挨拶。

「あ、はい。ユイです。こっちはユマ」

「……由真だ」

 ユイとユマがルラレラにぺこりと頭を下げた。

「あ、私も改めて自己紹介しとこうかな。今は女神ティア・ローって名乗ってます」

 ついでに自己紹介しておく。鈴里太郎としては自己紹介済みだけれど、「私」は会うの初めてだからね。

 そして現状の簡単な説明を行う。空中に表示されたいくつものウィンドウには、未だに進軍を続けているイモムシの群れや、それに対抗する人魚ちゃんたち、それに念のために避難を始めた東西の街の人たちの姿などが映し出されている。

「……とまあ、こんな感じ。でもって魔王ユラに拠点にお誘いいただいていて、私たちはこれ

から決戦って感じかな」

「あたしは、その魔王になったユマのほっぺたを張り飛ばせばいいのかな?」

「目を覚まさせてあげてほしいかなー。ユイちゃんの事情を知った今では、魔王ユラを滅ぼして終わらせるなんて結末は少しばかり寂しい気もするし」

 いろいろひどい目にも会わされたけど。前回、一矢報いて少しばかり溜飲を下げたところでもあるし。

 ……みぃちゃんには謝らなきゃいけないかな。

 ちらりとみぃちゃんに目を向けると、なんだか口をへの字にしてこっちを見ていた。

 目配せすると、さらにお耳がへにゃった。どうやらご機嫌斜めらしい。むむむ。



 現状の説明が終わると、マイちゃんとゆーり、それに元魔王陣営の子たちがぞろぞろとやってきた。

「女神さん、話が落ち着いたみたいので教えてくださいっ! どうやったらユイとユマを連れて来るなんてムチャクチャなことが出来るんですかっ!?」

 マイちゃんは混乱しているようだった。

「うん、それは私も思った。けど、まあ、割とそうゆうもんなんだよ、きっと」

 自分のことながら、確かにムチャクチャではある。例えて言うなら、テレビに映るアニメキャラをテレビに手を突っ込んで現実世界に引っ張り出すようなムチャクチャさだ。でもまあ、割とセカイツクール関連ってそういうもんだと納得している。

 ルラレラも言ってたしね、「考えるなー」「感じろー」って。

「……あと、太郎さんにはごめんなさい。まさか、あんなことになるなんてあたし知らなくって」

「無事に帰ってきたから、大丈夫だよ」

 うなだれるマイちゃんの頭をなでてあげる。そこにゆーりが、むふふー、と少しばかりからかうように息を吐きながら割り込んできた。

『幼女げったー、その手腕に脱帽、かな、かな? あとマイはわたしのだから手をだしちゃダメ』

「いや誰が幼女ゲッターですか、人聞きの悪い」

 どこか行くたびに幼女というか幼い女の子増えてるのは確かだけれど。というか今回つれてきたのは私じゃなくて「俺」の方だし。いや「俺」だって私なんだけど。

「……彼女たちが、ユマが召喚したっていう人たちなんですか?」

 私の背中に隠れるようにしていたユイが、おずおずと出てきてマイちゃんたちに頭を下げた。

「ごめんなさい、こんなことに巻き込んでしまって。本当にごめんなさい」

「いや、謝ることないよ」

 マイちゃんが顔の前でばたばたと手を振って首を横に振る。

「魔法とか使えるのは、楽しいし。俺も気にしないぜー」

 魔法少年ことタカシくんも杖を振りながらニカっと笑う。

「……ありがとう」

 ユイちゃんがもう一度、ぺこりと頭を下げた。

 ユマの方は、ムスッとした顔をしたまま、ユイの背中に隠れたままだった。

 まあ気持ちはわからなくも無い。自分がやった覚えの無いことで、ユイが皆に頭を下げているのが気に食わないんだろうなーと思う。すねてる様子がちょっとかわいい。

 ユマの頭に手を乗せると、不愉快そうにかぶりを振って私を見上げてきた。

「何をする貴様ッ」

「んー。かわいいから、頭なでなでしたくなっただけー」

 適当に答えて、隙を見てぎゅっと抱きしめる。太郎のときならセクハラだけど、今の私なら問題ないよね? ってなんか私、状況を悪用してる気がするけどっ!?

「むー!」

 じたばた暴れるユマを、逃がさないように胸に抱きしめる。

 格好は魔王ユラと同じなのだけれど、魔王と違って髪が長くて普通に女の子に見えるユマには、あの魔王に感じる嫌悪感というものをまったく感じなかった。

「……勝手に連れて来てごめんね」

「ぶは、この変態がっ!? ぼ、僕に気安く触れるなっ!」

「あは、うりゃうりゃ」

 くすぐるように指を動かして、嫌がるユマを制圧してゆく。

 うふふ、ほりゃここか、ここがええのんかー。

「え、あ、ちょっと、ヤ」

「うふふふー。由真はもっと、素直になるといいよ」

 思わずキスをしそうになって、流石にそれはまずいか、と唇は外してほっぺに口付ける。

「……ッ!?」

「え、ちょっと、太郎さん何を」

 ようやく気がついたユイちゃんが、振り向いたときには。

 ユマはぐったりとして、私の腕の中であさっての方向を見つめて頬を染めていた。

 ……少し、やりすぎたかも?




 人魚ちゃんに続いてまただよ、きゃー幼女殺し、なんていうひそひそ声が聞こえてくる中。

 別に百合趣味があるわけじゃないんだけどなー、と思いながら私はすっかりおとなしくなったユマを前に、反省の正座をさせられていた。

「……おねえちゃんは見境がさなすぎるのー」

「抱きつき魔でキス魔、しかも相手は幼女限定とか変態さんすぎるわね」

 ルラレラの飽きれたような声を「きこえませーん」と耳をふさいでやり過ごす。

「……ッ」

 頬を染めたままの、真っ赤な顔のユラが、泣きそうな顔で私をにらんでいる。

 その隣でユイが深くため息を吐いた。

「……ユイも、ごめんね?」

「いえ、いいです。手段はともかく、確かにユマはもう少し素直になるべきかなってあたしも思うから」

「……」

 ユマが無言でユイのほっぺたをつねった。ユイがにっこりわらってユマのほっぺをつねり返す。

 ……仲がいいことで。

「あれ、そういえばシロとクロってどうしたの?」

 ふと気がついて、周りを見回してみたのだが、ユイやユマが一緒につれてきたはずの、彼女たちのナビゲーターの姿が見えなかった。いや、よく考えたら大きくなったナビの姿もないよね?

 ……どこに行ったんだろう。

 懐からスマホを取り出してみると、画面から小さなナビがひょこんと顔をのぞかせた。よかった。どうやらナビは戻ってきていたようだ。元の姿に戻ってはいるようだけれど。

「んー、どうやらここだと実体化できないみたいですね」

 ユイちゃんが自分のガラケーを振って見せた。画面にはデフォルメされたクロちゃんが映し出されている。ユマの方のタブレット端末にもシロちゃんが映し出されているようだ。

 どういうセカイ構造になっているのかはわからないけれど、このルラレラ世界は二人にとって現実世界に近い、ということなのかもしれない。

 んー? あれ、でも、会ったこと無いけどマイちゃんは敵方に黒い男の子がいるって言ってたような? それってたぶん、クロちゃんのことだよね?

 ……敵がユマの成れの果てなんだったら、なんでユマのナビゲータのシロじゃなくてクロが?

 まあ、よくわからないけど今は考えても仕方が無いことかな。




 さて、落ち着いたところで中断されてた出陣の用意を続けよう。

 こちらのメンバーは私、みぃちゃん、りあちゃん、リーア。シルヴィも連れて行きたいところだったけど拠点にもある程度の戦力を残す必要があるので残ってもらうことにした。他に残るメンバーはすらちゃんに、キィさんあーちゃんディエの妖精さんチーム。

 少しばかり拠点の守りが薄い気はするけれど、イモムシの対処をしている掲示板組みに勇者候補生チームもいざとなればすぐに戻って来られるからなんとかなるだろう。

 そして戦闘には参加しないけれど連れて行くのがユイ・ユマの二人と、魔王側からやってきたマイちゃんとゆーり、それに魔法少年と山伏少年、マイちゃんの親友のみっちーさんと、お供の羽子さん。結構な大人数だ。

 みっちーさんと羽子さんは最初同行を拒否していたけれど、マイちゃんがイコの話も聞いたら?って説得したら行く気になったらしい。

「ん、じゃあ、向こうも待ってるかもしれないし。そろそろ行こうか」

 移動手段を持つ猫妖精さんたちはイモムシバスターズの方に着いてもらってるので、こっちの移動手段はスズになる。魔法少年が連れている白いケモノと、それからみっちーさんが持っている日本刀も移動手段になるらしいのだが、一応敵同士なので遠慮してもらった。

「いくですよ?」

 スズちゃんが、いつもよりちょっと大きめのドアを呼び出す。積極的に敵には回りたくないと言っていたスズちゃんだけれど、向こうに招待されていること、それにこちらにユイ・ユマが居ることで協力する気になったようだ。

「よし、行こう」

 ドアノブに手をかけて回す。と。

「……」

 ドアのすぐ向こう側に。

 マイちゃんそっくりな女の子が仁王立ちしていた。腕を胸の前で組んで、頬を膨らませてじろり、とこちらをにらみつけてくる。

「……えーっと」

「……」

 思わず顔を見合わせて。失礼しました、とそのままドアを閉じる。

「……ちょっとびっくりした」

 何あれ怖い。マイちゃんと同じ顔なのに。

「イコ、待ち構えてる感じだったよっ!? なんか怖い顔してた! あたしと同じ顔だけどっ!?」

 マイちゃんが混乱したように声を上げた。わたわたとしたところをゆーりがぎゅうと、抱きついて止める。

『マイ、落ち着いたほうがいい、かな』

「でも、なんで?」

 まるでこちらを待ち構えていたような。

「んー、今のスズはまだ半分、イコの召喚ユニットなのです。なのでスズがドアをつなげようとするとイコにはわかるし、つなぎ先を変更することも出来るみたいなのです。きっと、魔王ユラちゃんのところに行く前に、あたしをたおしていけー!ってゆう意思表示なのです」

 スズがむむむ、と腕組みしてうなった。

「……まあ、イコとも話をするべきだよね」

 私はユイとユマを見て、小さくうなづいた。話によるとイコもユイの記憶を持っているらしいし、そうするとこっちのユイ・ユマと話をすれば折れてくれるかもしれない。

 しかし、なんでマイちゃんがこっち側についたのにイコの方は頑なに魔王側にいるんだろ。

 魔王ユラであるユマを救いたい、という気持ちは同じはずなのに。同じ人間でここまで行動が変わる理由ってなんだろー。

 取り合えず、何度か深呼吸をする。

 よし、落ち着いた。

「……気を取り直して、もっかい、いっくよー」

 スズちゃんが創ったドアを、もう一度開いた。

「……」

 仁王立ちしているイコは相変わらずだったけれど、気にせずに一歩を踏み出す。

 そこは、白い空間だった。いくつかの建物が並び、小さな生活空間が出来てはいるものの、先ほど「俺」が案内されたユマのセカイにあった白い空間にそっくりだった。

「おじゃましまーす」

 続いて、ユイとユマが入ってくる。

「……」

 イコはちらり、と見はしたものの、仁王立ちの体勢を崩すことなく私をにらみつけている。

 あれ、少しは何か反応すると思ったんだけどな?

 何か引っかかるところはあったものの、後がつかえているのでドアの前を空けると、ぞろぞろと続いてみんなが入ってきた。

「あ、みんな無事だったんだね」

 イコの背後から、制服を着た男の子が顔を出して手を振った。

「あ、委員長くんも」

 マイが手を振り返す。

 その流れをさえぎって。


「――殺しに来たの?」


 イコが仁王立ちしたまま、私を見つめて言った。

「勝負をつけにきたのは確かだけど……」

 私は傍らに居るユイとユマの手をそっと握った。

「命のやり取りをするつもりはないよ?」

「……あたしは」

 イコは組んでいた腕を解いて、両手で顔を覆った。

「あたしは、ユマが死ぬところを、これまで何度も見てきたんだよっ」

 その指の隙間から、底冷えするような冷たい眼差しが私を見据えていた。

「そんな、のほほんとした顔で、殺す気はないなんて言った癖にッ! あたしはユマの心臓に剣が突き立てられるところをっ、何度も何度も何度も見てきたんだよっ!?」

 吐き捨てるように、言い放ち。

「……だから、ここは通さない」


 両手を広げて、誰も通さないように。私たちの前に立ちふさがる。


「あたしのユマは、誰にも殺させないっ!」


 そう言い放って。

 広げたイコの手のひらが、一瞬、まばゆい光を放った。

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