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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第五話「俺的伝説の作り方」
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34、「わーるど おぶ ねこみみ」

 ――気がつくと、何もない、真っ白な空間にいた。


 うん? ここが由真の創った世界なんだろうか。それにしては殺風景で何もないような。

 先ほどの病室、ではない。あそこも白一色の部屋ではあったが、ベッドも壁もあったしここまで何もなかったわけではない。

 ぐるりと周りを見回して。

 そして、二本の足で立っている、由真の姿に気がついた。一瞬驚いたが、ここは由真の世界だ。自由に動ける健常な身体のアバターを用意するくらいは簡単なのだろう。

「はッ、さて覚悟はいいか?」

 得意げに胸をそらして、腰に手を当てて仁王立ちしている由真。まるで、どこかの学校の制服のような白いブレザーを身にまとい、肩にはマントを着けている。髪の色と長さを除けば、俺の知る魔王ユラの格好そのものだった。

「ここは僕のセカイだ。ここでなら貴様がどんなウソをついてもすぐにわかる。先ほどはうやむやにしたが、洗いざらいしゃべってもらおうか」

 そう言い放って、由真が俺を見下ろすように睨み付けてきた。

 ……見下ろす?

「……は?」

 睨み付けてきたはずの由真が、間抜けな声を上げ目を丸くして何度も瞬きした。

「……にゃ?」

 思わずこちらも見上げるように見つめ返して、首を傾げてしまった。

 自分が床に座り込んで目線が低くなってしまっているのかと思っていたら、自分はしっかり二本の足で立っていた。それなのに、十歳そこそこの少女に見下ろされる身長って。

 自分の姿を見下ろして、前ポケットのついた青いスモックブラウス見て、まさか、と思う。

 ぱたぱたと身体の各部を触って確かめる。ぴこん、と頭の上で何かが跳ねる懐かしい感触に、お尻の方でぶらぶらと揺れる何かの感覚。

「って、ちびねこになってるー!?」

 って、まさかティア・ローいるのか?

 ……頭の中で話しかけるも、返答はない。どうやら、一番最初に俺がちびねこの姿になったときのような、鈴里太郎の意識でちびねこ幼女の身体、という状態のようだった。

「……」

 無言で、じりじりと由真が近寄ってきた。

「……にゃ、にゃー?」

 なんだか不穏なものを感じて思わず後ずさると。

「――ッ!」

 普段半身不随でベッドに横たわったままだというのが信じられないくらいの敏捷さで、一気に詰め寄ってきて俺の両脇に手を差し込むと、たかいたかいをするように一気に持ち上げた。

「にゃ、にゃー!」

「……素晴らしい」

 抱き寄せられて、頬ずりされた。にゃるきりさんほど強引じゃないし変なところを触ってこようとはしないけれど、中身が男な今の俺としては、ルラレラと同じか少し上くらいの少女に抱きしめられて頬ずりされるというのは恥ずかしいというか正直遠慮してほしかった。

「本当の中身がさえないツラをした変質者の男というのは少しばかり残念ではあるが、それを差し引いてもこの素晴らしい造詣を生み出した貴様の才能には嫉妬すら覚えるよ。ああ、見た目だけでなく、この愛らしいしぐさ! 計算されたあざとさではなく、ごく自然に幼いねこみみの少女としての振る舞いができるというのは、掛け値なしに賞賛に値する」

 むふー、と息を吐いて、由真が俺を抱いたままその場に座り込んだ。くるり、と小さな俺の身体を回転させるようにして背中から抱きつくようにして俺を膝の上に乗せる。

「あ、あのー」

 じたばた暴れて逃げ出そうとしたが、ちびねこ幼女のか細い腕では由真の手から逃れることがかなわなかった。

 魔王ユラもみぃちゃんとか、ちびねこティア・ローに異常に興味を示してたっけ……。

 確かに、敵として出会わなければ。

 仲良く戯れる、こういった未来もありえたのかもしれなかった。




 ひとしきり由真になでられたり抱きしめられたり、頬を摺り寄せられたりした後。

 ようやく思い出したように由真がつぶやいた。

「……本題を忘れていた。結衣もシロに任せたままだし、早く合流しなければ心配するな」

 由真は俺を抱きしめたまま、空中にいくつものウィンドウを表示させた。

「ぜひ貴様の、いや貴女のアバターのデータをコピーさせて欲しいのだがッ!」

「……それが本題だったです?」

 なんか違うこと言ってなかったっけ。本当のことを洗いざらい吐けーみたいな。

「む? そうだった。ぺって、しなさい」

 俺のねこみみをナデナデしながら、由真がどうでもよさそうに言った。みぃちゃにお耳はむはむされたときほどではないけれど、やっぱりなでられるのは気持ちいいし背中の温かな感触はわるくなく、なんだか眠くなってきた。

 ぴこぴこ、とおみみを動かして気合を入れなおす。

 ここでは由真にウソをつけない、というのがどの程度本当のことなのかはわからなかったが、ルラレラだってよく俺の心を読むようなことを言うし、表面に出していない思考は無理にしても、今この場で心に思い浮かべたことくらいは見通せるのかもしれない。

 そう考えていると、由真が無言で空中に表示させたウィンドウのひとつを俺の顔の前に持ってきた。

「貴女は、こんな素敵なアバターを創れるほどセカイツクールに習熟しているようなのに、こんな基本的なこともしらないのか」

「え?」

 セカイツクールに、何か特別な機能でもあるんだろうか?

 そう思った瞬間、俺の目の前に表示されたウィンドウに。

【ちびねこ:(セカイツクールに、何か特別な機能でもあるんだろうか……?)】

 と会話ログのようなものが表示された。

 って、このセカイにいると、考えてることまでがログに残るのっ!?

 寧子さんとか、その場にいなくても遡って心を見透かしたようなことを言うことがあると思っていたけれど、こういう機能があったのか。

「……うん、だからね。ここでは僕にウソをつくことは出来ない」

 やさしく俺のねこみみを頬ずりしながら、俺のお腹に回した手でやさしくなでてくる由真。

 ……俺は少し考えて、かいつまんだ状況説明ではなく、本当に最初の最初から話すことにした。




 話している最中に、黒いゴシックロリータ風のドレスに身を包んだユイと、由真そっくりな白ブレザーを着た少年がやってきた。

「わ、ユマ、なにその子カワイイ!」

 ユイはやってくるなり俺を由真から奪うように抱き上げた。

「にゃー……」

 ユイに抱きしめられたままぐるぐると振り回されて目が回る。

 なんか、みんなねこみみスキーだよね。いや、俺の、というかティア・ローの姿が愛くるしすぎるのがいけないのかも。

 開放されてふらふらしながら立ち上がると、由真そっくりな白ブレザーの少年が目に入った。

 魔王ユラに似てる、どころか、髪の色からその長さまで、まんま記憶にある魔王ユラの姿だった。

「はは、ユマが好きそうな格好をしてるな」

「にゃーっ!?」

 近寄ってきた白い少年を思わず警戒する。ユマのように、少し見た目を変えれば似ている、どころではなく、あの少年魔王そのものの姿だ。

 ……まさか、こいつが本物の魔王ユラ?

「ふむ? なんだ、僕のことを魔王と呼んだくせに、シロの方がその魔王に似てるって言うのか」

 由真が、ふん、と鼻を鳴らして少年魔王の腕を引いた。

「シロ?」

「一応紹介しとこう、こいつは僕のナビゲーター。シロだ」

「よろしくー、ちびねこちゃん?」

 ナビゲーターだという割には、かなり砕けた口調だった。

「……にゃ」

 とりあえず、しっぽとお耳で挨拶を返しておいた。

「あ、ここならあたしのクロちゃんも呼べるかな? ユマ、いい?」

「ああ」

 ユイが手にしたガラケーを操作すると、空中に小さなウィンドウが開いた。それがぐいーっと広がってドアのようになると、中から黒いタキシードを着た少年が現れた。

 黒い少年は「クロです」と一礼すると、ユイのそばに寄り添うように立った。

「にゃ」

 こちらにもお耳としっぽで挨拶をしておく。

「……ナビはどこに行ったのです?」

「わははー! およびとあらば、即、参上っ! なのですよーっ!」

 ユイの服のポケットにでも潜んでいたのだろうか。ぴょん、とどこからともなく現れたナビが、メイド服のポケットから何かペンライトのようなものを取り出して頭上に高く掲げた。

「ええーっと、ナビ、なにやってるです……?」

「へんしーん、なのですよーっ!」

 ぎゅおん、ぎゅおん、という謎の効果音とともに、ナビの姿が巨大化していく。

 って、え? ナニソレ。

 くるくると回転しながら、徐々に大きくなっていくナビが、まるで魔法少女の変身シーンのように光に包まれてゆく。

 そして。

 謎の発光現象が収まると、そこには十代後半ほどに見える、巫女装束のオンナノコに成長したナビが得意げな顔で立っていた。普段三頭身ほどだからわからなかったが、どうやら見た目よりは年齢設定は上のようだった。

 まあ、俺はロリコンじゃないから、俺の趣味でナビが設定されてるんだとしたらやっぱこのくらいになるよね。相変わらずお胸が平坦なようなので、微妙に男か女かわかりずらいのはそのままだったが、この状態のナビのスカートをめくる、なんてことは流石にちょっと気が引けた。

「えへへーっ! どうです太郎さまっ!?」

 くるんとその場で一回転してみせたナビが、俺を抱き上げた。

「えっと、ナビ、その姿はどうなってるです?」

「なんとなくノリでやってみたらうまくいきましたっ!」

「……ノリなのです?」

「ええ! マスコット役もいいですが、せっかく回りにライバルもいないのですからヒロイン役に名乗りを上げるのも悪くはないかとおもいましてっ!」

「……ヒロイン、なのです?」

「おっきくならないと、タロウさま抱っこできないじゃないですかっ!」

「もういいのです……」

 ってゆーか、わけわかめ。



 ユイとシロ、さらにはナビの登場で話が中断されてしまったので、もう一度最初の方から話をしようとしたのだが。

「話を聞いてから、と思っていたのだがな。先ほど少し聞いたが、長い話になりそうなので先に僕の世界に行こう。茶くらいだしてやる」

 ユマがそう言って、謎のドアを開いた。

「ここがユマちゃんの世界じゃなかったのです?」

 思わず問いかけると。

「ここは神域の一部だ。通常はここで僕のセカイに降り立つためのアバターを作成したり、チュートリアルの類を行う」

 という答えが返ってきた。

 なるほど、よくある転生神とか土下座神様が出てくるような謎空間ということですね。



 由真の作ったドアを開けた先は、何かの宗教施設のような、祭壇のある部屋だった。教会というよりは神殿、という雰囲気。

 ユマが、パチン、と指を鳴らすと部屋に十人は座れそうな大きな丸テーブルと人数分の椅子が現れた。

「まあ、座るといい。すぐに巫女も来るから、そうしたらお茶を用意してもらおう」

 言われるままに席につこうとしたが、ちびねこ幼女の身体には椅子が高すぎた。えへへーとナビが笑いながら俺をひょいと抱え上げ、膝の上に乗せて席についた。

 ユイやクロ、シロにユマもみな席について、そして俺を見つめてきた

「じゃあ、話してもらおうか」




 一番最初に、魔王ユラに襲われたときのこと。

 妖精大戦ルールでの勝負を申し込まれたこと。

 召喚されたマイちゃんたちのこと。

 魔王ユラとの戦い。現れたユイの姿をした魔王のこと。

 断片的に語られた、魔王側の事情。

 そして。

 マイちゃんによる、ユイの記憶の再現。

「……じゃあ、何か? ここは貴女の頭の中にある妄想のセカイだというのか? はッ、ふざけている」

 つまらなそうにユマが吐き捨てた。

「貴女がウソをついていない、少なくとも貴女自身がそれを本当のことだと思っているのは確かなようだが、とうてい僕には信じることは出来ない」

「……正直に言って、今現在わたしがいるここが、どういった扱いになるのかさっぱりわからないのです」

 マイちゃんは、魔王ユラの幼馴染であるユイの記憶を見せる、といっていたから、記憶の追体験というか、実際に起こったこと、を見せられるのかと思っていたら、なんだか過去の魔王ユラの居た世界に入り込んでしまったような不思議な状況になってしまっている。

「僕は自分が誰かの妄想だなんて、そんな馬鹿な妄想など認めない。それに、セカイが滅ぼされて僕がおかしくなっただなんて、そんなふざけたことはあるはずがない」

 由真はふん、と鼻で笑って人差し指を立てた。

「だから、試してみよう。これは結衣の記憶だと貴女は言った。では、ユイが知らないはずのことを僕が知っていたら。それはこれが結衣の記憶などではないという証明になるだろう?」

「……わたしは由真ちゃんも結衣ちゃんのことも、どっちのこともよく知らないので判断がつかないのです」

「それは確かにそうか……。だが、ひとつの可能性は提示できる。ここだけの話、僕は完成するまで誰にもセカイを公開する気はなかった。たまさか貴女が僕の病室に迷い込み、そこに結衣が居合わせたから結衣もここへ招待することになったが、本当はまだ結衣を連れてくる気はなかったんだ」

 由真はそう言って、傍らのシロの肩に手を置いた。

「……だから、これが結衣の記憶であるなら、結衣はシロのことを知らないし、僕のセカイについての知識も無いと想像できる」

「結衣ちゃんのナビゲーターがクロちゃんだし、連想でシロって名前のナビゲーターを想像した可能性があるです。セカイについても、由真ちゃんならこういう世界を創りそうだ、という想像に従ったセカイになっている可能性があるです」

「……はッ。堂々巡りだな。どこまで行っても証明など不可能ってことか」

 由真が腕組みして息を吐いた。

 そこに。

「あー! 神様きてるにゃーっ!」

 部屋の入り口からかわいらしい声がして。

 振り返ると、今の自分と同じような、ねこみみの生えた小さな女の子がドアの隙間から顔を覗かせていた。

「ん。悪いが今日は客が来ている。お茶の用意を頼めるか」

 由真が小さく手を上げると、「わかったにゃー!」と答えてちびねこがドアの向こうに消えた。

「……この由真ちゃんのセカイの住人です?」

「ああ。このセカイには貴女のような、ねこみみの生えた小さな子供のような姿をした種族が住んでいる。システム的には世界を遊ぶタイプのMMORPGだ。レベル制で魔法やスキルが存在する。メインシナリオのようなものは無く、ねこみみに癒されつつ、生活する感じだな」

「由真ちゃんは、ねこみみ好きすぎなのです……」

 あるいはそういった世界だから、俺の姿がそれにふさわしいようにティア・ローの姿になってしまったのだろうか。

 にゃるきりーさんとか大喜びしそうな世界だにゃー。



 ――お茶やお菓子を運んできた、小さなねこみみ少女たちを眺めながら。

 俺は、にゃー、と小さく鳴いた。

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