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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第五話「俺的伝説の作り方」
214/246

32、「空の記憶」

 ……え? 何、この感じ。

 リーアを抱きかかえたままちびねこティア・ローと一緒に司令部に戻ったとたんに感じたのは、なんだか妙に居心地の悪さを感じる奇妙な雰囲気だった。

 具体的に言うと、周りのみんなの私を見る目が微妙に生暖かったり、頬を染めてたり、何か私に含むものがありそうな感じ。

「……えっと、何かあったの?」

 リーアのおかげで一部の敵は撃退できたものの、未だ状況は進行中で解決したとは言い難い。こんな妙な雰囲気になってるのはいったいどういうわけなんだろう?

「おねーちゃん、こっちくるのー」

「はりー、はりー、はりー、あっぷなのー!」

 私の問いかけには誰も答えず、御座に座っていたルラレラが両手を上げて呼んだので、首を傾げながらも御座に向かう。途中で闇神メラさんが「こちらへどうぞ」と眠っているリーアを預かってくれたので、ちびねこの手を引いてルラレラの前に立つと。

「ん、そこでしゃがむのー」

「お顔みせるのー」

 ちょっと頬を膨らませて、ルラレラがむふーと息を吐いた。なんかちょっと怒ってるっぽい?

「……どうしたの、二人とも?」

 わけもわからず膝を突いて目線を合わせると。


 ――いきなりルラに、むちゅう、と唇を奪われた。


「……んー!?」

 しっかりと私の後頭部に手を当てて、逃げられないように抱きつくような格好で、むさぼるように。私の唇を求めてくる。

 って、舌をいれてくるんじゃありませんっ!? そんなオトナのキスなんか誰に習ったのっ!?

 女体化してから何度かルラレラには気軽にキスされているが、流石にこんなディープなのは初めてだった。

 ……いや、レラにはかなりディープなのされたことあったかも!?

 わけもわからず、されるがままにしているうちに満足したのか、ルラが顔を離してぷはあ、と息を吸った。

「ん、満足したのー」

「次はわたしなのー」

「今度はレラっ!?」

 まあ、ルラのキスを受け入れてレラのキスを拒むわけにもいかない。ため息を吐いて受け入れると、思ったよりはおとなしい感じですぐにレラは顔を離した。

「……ルラの直後だと、ルラの味がするのー」

 ちょっと物足りなさそうにつぶやいて、レラは私の顔中にキスの雨を降らせてきた。

 おでこ、ほっぺ、鼻の頭、ちゅっちゅと次々にキスが飛んできて、そこでようやく思い当たった。

「……あー、まさか」

「リーアにだけいっぱいキスなんてずるいの!」

「わたしたちもいっぱいキスするの!」

 アレ、見られてたんだ? うわー恥ずかしい。

 どうやらリーアにおまじないってキスの雨降らせてたのを見られてたっぽい。そういや、イモムシ退治してポータル折って、通信通じてたっけあの時。こっちからは声しか聞こえず、銀色の珠みたいなのしか見えないからすっかり意識から抜け落ちていたよ……。

 はあ、とため息を吐くと。いつの間にか隣にみぃちゃんが来ていた。どうやら目が覚めていたらしい。

「あ、みぃちゃん、んー!?」

 目が覚めたんだね、と続けようとしたらいきなり唇を奪われた。ざらざらした舌が私の口腔を余すところなく舐めまわし、さらには力強い腕でがっちりと抱きしめてくる。

 ……息ができず、苦しくなってきたころにようやく開放された。

「ん、満足したのです」

 ぺろり、と唇の端をなめてみぃちゃんが離れると。

 その後ろにはりあちゃんが並んでいた。

「えっと、その、タロウ様……」

 なんだかためらいがちにりあちゃんが身を寄せてきたので、そっと肩を抱いてあげると。

「んんー!?」

 中身が全部吸い出されそうな勢いで、りあちゃんが私の唇に吸い付いてきた。


 ――酸欠から復活すると、なぜか私の前に行列が出来ていた。


 すらちゃん、真白さん、それにゆーりになぜかクッコロまで。

「……は?」

 首を傾げると。

「この行列にならぶと女神さまにキスできるって本当ですかっ!? わんわん!」

 ってわん子さんまで列に並ぼうとしていた。

「いや、しませんから……」

 追い払うように手をひらひらと振ったら、なぜか残念そうにすらちゃんがため息を吐いた。

『……く、やはり年齢がねっくだった、かな。わたしもあと二歳若ければ……』

 ゆーりがちょっと悲しそうに列から離れた。

「……いや別に年齢関係ないですからー」

 ってゆーか私はロリコンじゃありませんっ!

 大体、実年齢でいうならりあちゃんは二十歳超えてるし、みぃちゃんは……。いや考えるのはやめておこう。




「……まあ、状況はそんな感じ」

 どうやら魔王との会話までこちらでモニタしていたようで、話はわりとあっさりと済んだ。

 要点は二つ。リーアならあのイモムシに対抗できること、そして魔王が拠点で待ち構えているということ。

 イモムシ撃退の第二、第三のポイントに出かけていたシルヴィ班やヴァルナ班も戻ってきていて、やはりイモムシの群れには多勢に無勢で流れを止めることが出来なかったらしい。

 私がぱんつ魔法を駆使しても無理だった時点でほかの班も無理だっただろうとは思っていたけれど、全部のポイントで手も足も出なかったというのはあまりよい状況ではなかった。

 リーアは単独か私と一緒じゃないと出撃できないし、かなり負担がかかるみたいなのであんまり出したくない。かといってリーア以外に対抗出来る手段がないのも確かだった。

「で、今後の方針としてどうするかなんだけど……」

 ぐるりとみんなを見回すと、どうやらちみっこ人魚さんは無事に姉妹合流できたらしい。三人そろってなにやらこしょこしょとお話中のようだった。

「方針も何も、対応できる手段がその人魚ちゃんだけなんやったら、できることはきまっとるんと違う?」

 サボリさんが、腕組みして何やら顔をしかめて言った。

「なんか、ヤバイ手段っぽいところが気にならんでもないけど、また女神ちゃんにポイント算出してもらってそこに突撃しかないんとちゃうの?」

「……うん、それは仕方がない気もするけど。リーアにだいぶ負担が負担がかかるって言うのと、問題は魔王側の出方なんだよね」

 気が狂っているとしか思えない、魔王ユラ。

 自分を殺しに来い、だなんて。

「言ってることとやってることがめちゃくちゃで、どこまで向こうの言うことを鵜呑みにしていいかわからないんだよね。拠点で待つ、てほんとに言葉通りに受け取っていいのかなって」

 イモムシによりこちらの戦力を分散させ各個撃破に来たのはこちらの予想通りでもあったけれど、こちらが撃退に成功した現状を考えると、あのイモムシをほぼ無限に湧き出させることが可能なのであれば、人数の少ない魔王側は黙って引っ込んでいるのが一番の策だったはずだ。ましてや魔王が傷付いて、癒しているというのが本当であれば、時間を稼ぐのがなおさら当然の策だと思える。

 それなのに。

 有利な立場を手放し、イモムシの無限供給をストップし、わざわざ拠点に攻めて来いなどと言うとは。馬鹿正直に少数精鋭で攻め込んだら実はもぬけの殻で、帰ったら神殿落とされてましたー、なんてことになりそうで怖い。

「……聞いた感じだと、なんか妙に魔王側ってあせってるんと違うかな? なんかはやく決着つけんと向こうがまずいことあるのかもしれんね?」

 サボリさんがそう言って、人魚ちゃんや元魔王側の方を見るが、誰も心当たりは内容で首を横に振っていた。

「えっとー! それ以前に、敵の拠点ってやつは判明してるんですかっ! わんわん! それわかってないのであれば、実質、敵は単純に拠点にこもった、ってことじゃないでしょーかっ!?」

 わん子さんが、しっぽをふりふり声を上げた。わん子さんは一応記者だけあって、たまに鋭いツッコミを入れてくる。

 でも。

「拠点の位置なら、魔王側にいた人たちが知ってるんじゃないかな? あと、単に拠点にこもるだけならイモムシの増援を止める理由がないと思う」

 だから何らかの罠である可能性を疑っているんだけれど、敵の意図がよくわからない。

「……ゲームとしての期限以外に、何らかのタイムリミットがある可能性がある、ということかな?」

「可能性はありそうやな。それがなんなんかは検討もつかんけど」

『あとは、イコがこの状況でどうするか、も気になる、かな?』

 ゆーりが私のお膝の上でホワイトボードを振って見せた。

「あー、その子のこともあるんだっけ? でも、イコって子はマイちゃんと同じなんでしょう? この状況でまだ何かやろうと、いや、出来ることがあるのかな?」

『……イコは、まだなにかたくらんでると思う、かな。イコはマイでもある。マイは、わたしが思いもよらないことをやってくことがあるから、油断は出来ない』

「なんかひどいことゆーりにいわれた気がするよっ!?」

 マイちゃんが同じく膝の上でショックを受けたように頭を抱えた。

 うーん。何か特殊な能力があるわけでもない、中学生の女の子が何たくらんでても大丈夫な気はするけれど。そういやシルヴィのダンジョン攻めてきたりとかもイコの指揮だって話だったっけ?

 でもまあ。

「とりあえず、私としては……」

 私はみんなの意見を聞いて考えたことを口に出した。

「……今すぐ魔王を攻めるべきだと考えているんだけど」

 時間をかけるだけ、拠点にこもった魔王は迎撃の準備を整えてしまう。意図は不明ではあるものの、敵の誘いに乗ってみるのも手ではあると思うのだ。向こうもしばらくはこちらがイモムシの対応に追われると思っているだろうから、その隙に一気に決着をつけるというのは、それほど悪い手ではないと思う。

「何がヤバイのかしらんけど、人魚ちゃんと一緒に運用できるのは週末女神ちゃんだけなんやろ? 女神ちゃん抜きで魔王攻めるのん? それとも人魚ちゃん一人で出すんかいな」

「いや、リーアも出来れば拠点攻めのメンバーとして連れて行きたいかな」

「それでは街への被害が止められないんと違う?」

「……決着がつけば、ルラレラが無制限に女神の力を揮える。イモムシなんかきれいになかったことに出来る。だから、被害が出る前に決着をつける。それじゃだめかな?」

「女神がバクチ打ってどーすんのや……」

 あきれたような声をサボリさんがあげた。

「ん、問題ないのー!」

「おねーちゃんの判断にまかせるのー!」

 ルラレラはフラグである下着のアーティファクトを私に託した時点でもうすべてお任せなつもりらしい。

「勝てば何とかなる、って、それ賭けに出るとき一番ダメな思考パターンじゃないですかーっ!」

 わん子さんは反対っぽい?

「……なあ、ちぃっとばかしいいかぁ?」

 話しかけてきたのはちみっこ人魚さんだった。

「なあに? やっぱり君たちも反対?」

「いや、ねーちゃんたちとも話したんだけどよォ、イモムシ静めるのにあたしら出来ることがあるんじゃなーかって」

「え? 君たちもアレできるのっ!?」

「アレってのが何かよくわかんねーけど、あたしら姉妹三人そろってなら、イモムシ静めるくらいは出来るぜ? じゃなきゃあの草原なんかにゃ住んでらんねーって」

 詳しく話を聞くと、どうやら最初にリーアが歌った、イモムシを止める歌なら歌えるのだという。ただし、三人そろって合唱しないといけないらしい。

「じゃあ、護衛に何人かつけて、行ってもらおうかな」

 リーアと違って普通の人魚さんは空中を泳げないだろうし。護衛は必要だよね。

「おう、あたしらにまかせろだぜー! トリスの忌み子なんかにゃ負けてらんねーっての」

 そのトリスの何とかって、リーアのことなんだろうか。少しばかり気になったものの詳しく聞く時間が惜しかったので後回しにする。

 ルラレラは既にポイントの再計算を終えていたらしい。

 人魚さんたちの護衛にはサボリさんたちが手を上げた。にゃるきりさんたちを含めた掲示板組と、真白さんたち勇者候補生チームを含めて行ってもらうことにする。

「……拠点の守りは大丈夫ですか?」

 真白さんがちょっと心配そうに言ったけれど大丈夫、とうなずいておく。

 ばたばたと慌しくみんなが出て行った。

 残りのほとんどは、私の仲間たちと……魔王側の関係者。

「……なあ、俺たちには出来ることもーないのか?」

 魔法少年の、ええっとタカシくんだったか。シルヴィと一緒にイモムシを止めに行ったもののほとんど役に立てなくてへこんでいたらしい。

「えっとね、出来れば君たちには私と一緒に来てほしいかも? 別に魔王を倒すのに協力しろなんて言わないから」

「……イモムシ退治には協力するけどさぁ」

 魔法少年も魔法を使えるようにしてくれた魔王には少しばかり恩義を感じているようで、魔王の敵には積極的に回りたくはないようだった。

「んー」

 どうしようかな。神殿に残しておいて変なことされたくないからみんなで行こう、というつもりなんだけれど。

「……えっと、女神さんそのまえにちょっといいですか?」

「なあに、マイちゃん?」

 マイちゃんは向こうに残るイコに命を狙われたことがあるという話しだし、行きたくないってことだろうか。

「向こうが何考えているのか意図がわからないんですよね。あたしの持っている、魔王ユラの、ユマちゃんの幼馴染の、ユイの記憶。いりませんか? たぶん、あたしのアビリティを使えば出来ると思うんですけど」

「んー……どうだろう」

 でも、さっき交渉した人形のユイは、自分も魔王ユラだって言っていたし、もしかしたら参考になるのかもしれない。

「で、マイちゃんのアビリティってどゆこと?」

 なんかもともとスキルとかレベルとかある世界なんだっけ? マイちゃんのところって。でも確か、たいしたことのない地味~な感じでチートスキルみたいなのはないって聞いたような。

「あたしのアビリティはこっちに来てから変化しちゃって、他人に影響を及ぼせるようになっちゃってます。”桃色妄想爆弾(ピンク・ボム)”っていって、自分の妄想を他人に見せられるアビリティなんですけど、これを使えばあたしの見たユイの記憶を女神さんにも見せられるかなって」

「……なんかすごい名前だね」

「……ツッコミは不要ですっ!」

 そういや、すらちゃんが妄想見せられてまともな思考が出来なくなってやられたんだっけ? 精神耐性とか上がってる女神化した私に効くかどうかわからないけど。

「少しでも、魔王のことがわかるかもしれないから、お願いできる?」

「はい。じゃあ、失礼して……」

 マイちゃんが、ちょっと背伸びして私に顔を寄せてきた。

 何をするのかなって、目線を合わせたら、こつん、とおでこを当ててきた。


 すると。


 ――記憶が、空から、落ちてきた。

 お休みでもぜんぜん筆が進んでなかったり……。

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