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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第五話「俺的伝説の作り方」
207/246

28、「絶望」

 魔王ユラは、背中から抱いている少女のことを武器だと言った。

 それは、ある意味で言葉通りの意味だった。

「……っ!?」

 目の前で、魔王が抱いていた少女の姿が掻き消えた、と思った瞬間、背中から衝撃を感じて地面に転がる。

 うそ。

 あのロアさんとだって、まともに打ち合いできたのに! 姿をとらえることすらできないなんて!?

「はっ! 自分が仕掛けられるのには慣れてないってか」

 不敵に嗤う魔王は相変わらずの手ぶらで。つまり、いまのはユイとかいう少女による攻撃?

 私がティア・ローを使って背後から仕掛けたのとおんなじことをやり返されたってこと?

 さらなる追撃の気配を感じて転がる。せっかくの女神っぽい衣装だったけど、早くも土まみれだ。転がりながら剣で一閃。うまくこちらの視界から隠れているのか、はっきりとした姿は視認できない。

「……?」

 何かに当った手ごたえはあったのに、まるで水の中で剣を振るったように途中でぐにゃりと剣筋が曲がった。

「はっ! そっちにばかり気を取られてると痛い目を見るぞ」

「くっ!」

 背中を蹴り飛ばされてまた転がる。さっきから転がってばっかりだ。

 最初に二人がかりで攻めた私が言うのもなんだけど、複数人で攻撃されると剣のシロウトの私にはまだきつい。

 ああもう!

 浮遊を使って、転がった姿勢のまま上昇する。

 置き土産の「イチゴ爆弾」も忘れてはいない。

「……ほうっ! 結衣下がれっ!」

 ひと目で爆発物だと見破ったらしい。魔王はマントをいちご爆弾に被せるようにして距離をとった。

 ぽぽぽん! とポップコーンが弾ける様な音がして連続でいちご爆弾が破裂する。自分が巻き込まれたりしないようにイモムシの時よりは威力を押さえたとはいえ、マントひとつで抑えられるほどチャチなものではないのに。

 どうやらあのマント、ただの布というわけではないらしい。私が下着のアーティファクトを身に着けているように、魔王も何らかのアーティファクトを所持しているということのようだ。

 ならば。

 空中で逆立ちしたまま。

「くりえいと・ふぁいあー・ぱんつ」

 あえて標的を指定せずに、手当たり次第に撃ちまくる。

 じゅうたん爆撃だー。

 浮遊で水平移動しながら、魔法を撃ちまくったせいで、土埃で視界が悪くなった。

 だけど、幸い魔王は女神と違ってぱんつを穿いているらしく。

「せんす・ぱんつ! ……そこっ」

 周囲に存在するぱんつを知覚するという謎魔法のおかげで位置もばっちりだ。

 土埃の中に剣を構えてツッコむ。

「……はっ! 小手先の技に頼るか」

「ってゆーか、キミは素手でめちゃくちゃだよ……」

 完全に視界外だったはずなのに、私の振るった剣はあっさり魔王の手のひらに止められていた。

 これ、”世界を切り裂く剣”なんだけど。生身で受け止めちゃうとか、やめてほしー。

 そういやロアさんも素手で止めてたっけ……。

 武器で受けると壊れるからとか言ってたような。なら、魔王の対応はある意味で正しいのかも?

「貴様は相も変わらずそのくだらない剣を振るうしか能がないのか。はっ! 前回効かなかった武器が通用するわけがないだろう? あの時にも言ったが、世界で最強の剣など、所詮はそのセカイでの最強に過ぎないんだよ。よそのセカイに通用すると思う方がおかしい」

「この世界で戦ってるんだから、むしろこっちのルールに沿ってないキミがおかしいと思うんだけど?」

 理論上、というか理屈上、この世界に存在する以上はこの剣で切れない物なんかないはずな

んだけどなー。

「バカかお前は。ゲームの仕様上、そんな都合のいいことが起きるかバカ」

「バカって言う方がバカなんですー」

 おっと。

 言い合いをしているうちに背後からユイが迫っていていたようだ。浮遊で空中に逃れる。

 ナビ、ちょっと仕込んどいてくれるー?

 後ろ手にスマホを操作する。返答はなかったが、ナビのことだからきっとわかってくれる。

 ティア・ローは……まだ無理っぽいかな。

「空中に逃れるのは一見便利なようでいて、そしてバカのやることだ」

「え?」

「これまで僕が滅ぼしてきた中には、ここと同じようにそれなりにちゃんとしたセカイもあった。そこで戦利品としてもらってきた武器があるんだ。ハッ! なんと驚いたことにどれもふざけた武器だぞ?」

 自慢げに嗤う魔王。

 そして、空中に浮いた私の周りには。

 無数の、そして様々な形を大きさをした武器が、その刃先を全てこちらに向けて浮かんでいた。上も、下も、どこもかしこも完全に包囲されていて逃げ場がない。

 これは、確かに、空中に逃げた私がバカだ!

 転移系のスキルは……だめだ、ここじゃ使えない。

「斬れないものは無い剣をはじめとして、投げれば必ず心臓を貫く槍だの、どこかで見たようなものばっかりだが、貴様はどれだけ耐えられるかな? ちなみに僕は傷ひとつ付かなかったがなっ!」

「……っ!!」

 一本の槍が、私の心臓目がけて飛んでくる。それを剣で切り払うと、別の武器がまた飛んでくる。後ろからも、下からも、上からも。全方位から順に飛んでくる。

 それを剣で切り払い、考える。

 一気に武器を飛ばしてこないのは、私をもてあそんでいるのだろうか。それとも、一度にひとつつしか扱えない制限でも?

「さて、いつまでかわせるかな。おっと、他人の武器ばかり使っても魔王の名折れか」

「え?」

 不意に、影が落ちて。見上げるとユイという少女が空中から滑るように私の背後にまわり、手を回してきた。その力は少女の姿とはいえ、なかなかに力強いもので、とっさに振りほどけずに捕まってしまう。

「離しなさいっ!」

 振りほどこうとして。

 その手がするりと着物の脇から差し込まれて、敏感なところに触れた。

「ひゃっ! ちょっと、どこ触って……」

 思わず声を上げてしまったところに。

「……あっ、う」


 一本の槍が、左の脇腹から私の肺を貫いて背中まで抜けた。




「……はっ、つまんねー。もう終わりかよ?」

 気が付くと、地面に倒れ伏していた。流石は女神の身体。胸を貫かれたくらいでは死ななかったらしい。いや、ぱんつとブラが妙に熱を持っている。もしかしたら何か癒しの力を使ってくれているのかもしれない。

 なんとか意識はもどったものの、しかし、身体はまったく動かせない。どうやら貫かれたままのようで、息が苦しい。片肺が無くなってるのだから当然かもだけど。

 ごふ、と口から血の塊があふれた。ちょっとまずい。肺がどうこう以前に自分の血で溺れ死ぬかも?

「は、ざまぁないな」

 ずるり、と槍を引き抜かれた。

 どぷ、と音を立てて傷口から血があふれ出て、一瞬また意識が飛びかけた。

 胸倉をつかまれて、持ち上げられたと気が付いたのは、目の前、すぐ眼前に、白い魔王の顔が合ったからだった。

「弱いな、貴様は」

「……まだ、負けて、ないよ」

 なんとか言葉を絞り出す。

 私はだめだけど、そろそろティア・ロー……いける?

 頭の中で問いかけてみるも、返答がなかった。

「はっ、どこにフラグを隠してるのかしらねーが、足の先からすりつぶしてやってもいいんだぞ? 素直に負けを認めた方が楽になれる。それともなにか、アイテム系じゃなくて条件系か、貴様? ちっ、あれは面倒なんだがな」

「……」

 どうやら、下着がフラグだとはばれてないらしい。

 こんな奴に脱がされてはたまらない。何をされるかわかったもんじゃないし。

 しかし、こまったな。私が負けてしまったら、ルラレラにはもう勝ち目がない。二つもアーティファクトを託されておきながら、無様に傷ひとつ付けられなかったなんて。

 ロアさんにも合わせる顔がないよ……。

 はふう、と息を吐いて気が付いた。

 どうやら槍を抜かれたことで肺が再生されたようだ。下着すごい。

「……ふん、まあ、とりあえず全部脱がして燃やしてやるか」

「それは、おこと、わりっ!」

「なのです!」

「……なっ?」

 魔王の身体に手を伸ばし、ぎゅうと胸に抱きしめる。そこをいつの間にか外に出ていたティア・ローが、ナビの配置していた反射板(リフレクター)をいくつも蹴り飛ばして、勢いをつけて魔王の背中からぶっすりと剣を突き立てた。

 魔王も小柄とはいえ、ティア・ローはさらに小さい。心臓には届かず、脇腹をかすめただけで、こまったことにその突き抜けた先が私にちょっぴり刺さっちゃったりもしたのだけれど。

 ……あれ、今の感触って。

 微妙な違和感。

「ち、まだそんな力が残っていたかっ!」

 魔王は私の拘束を振り払うようにして距離をとり、ユイと合流する。ユイはどうやら身体能力だけでなく癒し系のスキルか魔法も持っているらしい。魔王の脇腹に手を当てると、何かぴかぴかと光を放って魔王の傷を消した。

「ふん、まあいい。……そろそろいいだろう」

 少しだけ悔しげに口の端をゆがめて、魔王はマントの内側にユイを抱きしめた。

「……なにが、そろそろなの?」

「教えるかバーカ。と言いたいところだが知った方が悔しがる貴様の顔を見られそうなので教えてやる」

 魔王が再びばさりとマントを広げると、ユイの姿が消えていた。どうやら拠点に帰したっぽい。

 ……ってことはまさか、逃げる気?

「僕が貴様を倒せればそれでよし、そうでなくとも時間を稼げればそれでよかったんだ。はっ! 今、どうなっているのか貴様は状況を把握しているか?」

「……え?」

 言われて初めて、周りを見回して気が付いた。すぐ近くにまで、イモムシの波が押し寄せてきている!?

 イモムシの流れが変わっていない。みぃちゃんとりあちゃんだけでは、やはり少しばかり難しかったということか。

 ……ってゆーか、みぃちゃんとりあちゃんは無事?

 魔王との戦いでかなり危なかった時にも、みぃちゃんが飛び込んでこなかったのってもしかして、そうできる状態になかったから……?

 って、ルラやレラは何してるの! 司令室からちゃんと情報回してくれないと。

 ……まさか。

「お、今頃気が付いたって顔をしてるな。はっ! 気付くのがおせーよバーカ。この辺りは既に僕の領域だ。通信遮断くらいはお手の物ってな! まあ、家に帰って泣きわめけ」

 あざ笑うように、口をゆがめて。

 笑いながら魔王の姿が消えた。

「……みぃちゃん、りあちゃんっ!」

 浮遊を使って空中に浮かぶ。まだ身体は完全じゃないが、そんなことは言ってられない。

 壊れても元に戻せる、といっても、それは破片があればの話だ。

 何もない所から創ったとして、それがデータ的に全く同じものだったとしても。それを同じものとはちょっと思えない。

 第一、ひどい目に会わないのであればそれに越したことは無い。

「せんす・ぱんつ……いたっ!」

 みぃちゃんもりあちゃんもぱんつを穿いている。せんす・ぱんつは意外にお役立ち魔法だった。

 イモムシに囲まれている。流れを押しとどめることが出来ずに、流れの中で必死に抗っているようだ。

「ルラレラごめん! この場所はいったん放棄する! 次の計算をお願いっ!」

 言いながら、流れの中に突っ込んでイモムシを蹴散らし、みぃちゃんとりあちゃんを両手で抱き上げて空中に逃れる。

「タロウ様! すみません、力及ばず」

「ごめんなのです……」

「とりあえず、生きててよかったよ」

 ぎゅうと抱きしめる。

 傷だらけの二人は、身を寄せてきて力尽きたように気を失った。

『ようやくつながったの! おねえちゃん、大変なの!』

『すぐもどってきてなの!』

「あー! もう、忙しい。こんどは何があったの?」

 どうやら通信は復活したらしい。

『りーあが飛び出したの!』

『きけんがあぶないなの!』

「……わかった、すぐに戻るね」

 私はみぃちゃんとりあちゃんを抱きかかえたまま、すーっと浮遊で上昇して。

「置き土産っ!」

 全力でスキル解放して周囲数キロのイモムシを吹き飛ばした。

「……これでも流れが変わらないって、ちょっと、ねえ」

 ロアさん見たく、大陸吹っ飛ばすレベルでやらないと無理なんだろうか。


 ”絶望”という言葉が頭をよぎる。


 ――ひとつため息を吐いて、私は司令部である祭壇の間に転移した。

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