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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第五話「俺的伝説の作り方」
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25、「嵐の前の静けさ」

 メンバーが増えたので、新たな班分けや今後の相談などをしているうちに、だいぶ日も落ちて暗くなってきたので、今日のところは交代で休むことにした。

 焦る気持ちはあったが、流石に夜戦は厳しい。それに大まかなルート確定はしたものの、もう少しイモムシの侵攻がすすまないと確実にならない、ということで、出発は明日の朝早くということになった。




「……いろいろあったけど、まだ今日は終わってないんだよねー」

 ゆったりとした闇神神殿のお風呂につかりながら、はふう、と息を吐く。

 シルヴィの迷宮でちょっと遊ぶつもりでやってきたのに。いろいろバトルはあるわセカイが終わりそうになるわで大変な一日だった。いや、まだ現在進行形でセカイの危機なんだけれども。

 お湯で顔を洗って、またはふう、と息を吐く。

 光神神殿のお風呂もよかったけれど、あっちはちょっと広すぎて落ち着かなかった。やっぱり闇神神殿の四、五人が入れるくらいのサイズがちょうどいい。泳げるほど広いよりも、身体ごとぷかりと浮かべる程度のサイズの方がやっぱり落ち着く。

 元が男なだけに、今の私は男湯を貸切状態にして一人で入っていた。ルラレラも一緒に入りたがったのだが、どちらかが御坐に座っていないといけないため、二人一緒でないならとあきらめた。みぃちゃんやりあちゃんも、女同士なら問題ないよねとばかりに一緒に入ろうとしたのだけれど、丁重にお断りした。

 ……理由はいくつかあるのだけれど、単純に一緒に入るのが恥ずかしいというだけでもなかった。

 ゆらゆらとお湯に揺られながら、水面にゆがむ自分の身体を見つめる。

 膨らみかけのお胸、まだ陰りのない足の付け根。そんな少女の身体になった自分に、まったく違和感を感じなくなってしまっているのが、少しばかり恐ろしかった。初めての時には、ものすごくショックを受けて茫然自失したくらいなのに。今の自分が、そのまま自分である、と認識してしまっているのが、受け入れてしまっているのが、怖かった。

 ねこみみ幼女ティア・ローをやっていた時と違って、自分が自分であるという認識のまま、変わってしまっていることを自覚してしまって。そういった微妙な変化をみぃちゃんやりあちゃんに知られたくはなかったのだ。

「……んー。まあ、でも自分でやっちゃったことだしねぇ」

 はふう、とまた息を吐いた。後悔をしているわけではないが、やはり少しばかり早まった気がしないでもない。

 ふと、寧子さんのことが頭に浮かんだ。

 今の私は駆け出しの女神で、寧子さんとは比ぶるべくもないけれど。自分が創り出した存在とあれだけ感情豊かにやりとりできるあの精神は見習わなくちゃいけないと思う。

「んー……ごぼごぼ」

 息を吐きながら、身体を湯船に沈み込ませる。

 ゆらゆらと揺られながら、お湯の中で丸まっていると。

 気が付いたら、いつのまにかティア・ローとスズちゃんが両脇でぱしゃぱしゃ水しぶきをあげていた。

「にゃーん、なのです♪」

「にゃっはー!」

「こらー、お風呂でさわがないの!」

 ぎゅうと首に腕をからめて二人を引き寄せる。ぴこぴこ動くねこみみがくすぐったい。

「難しいことを考えてないで、踊るといいのです!」

「にゃっはー! れっつだんしん?」

「お風呂で踊るのはやめなさい。滑って転んだら危ないでしょう?」

 ぎゅう、と抱きしめて頬ずりすると、二人そろってにゃーんと鳴いた。

 ……少しだけ、和んだ。



 下着のアーティファクトは、湯船に浮かべた木桶に上下そろって入れてあった。誰かが持っていったりするとは思えなかったけれど、保持条件が着用すること、というかなり緩いものなので取り扱いには十分に注意しないといけないのだった。

 戦略級兵器だしね、これ……。しかも誰にでも使えるってゆー。

 そういや、ルラレラがぱんつのパンタローに、ぶらのブラジローー、二つ合わせて”ぱんつ・ぶらじゃーず”なのーとか言ってたけど。

 この下着って男なのかな? シスターズじゃなくてブラザーズだし。

 破魔の剣ソディアとかは女性的な人格を持っているけれど、ひのきの棒とかには人格とかないみたいだし、必ずしもアーティファクトだからって人格があるわけじゃないのだろうけれど、ちょっとだけ気になる……。

 ……まあ、ルラレラが普通に着用していたわけだから、気にすることもないのかな?

 ついでなのでぱんつとぶらも洗っておくことにする。

 じゃぶじゃぶと手でもみ洗いをしてぎゅうと絞ると、ぴかぴか光って水気が飛んだ。

「おお、自動乾燥機能付き?」

 さすが魔法のぱんつ。

「にゃーん♪」

「あ」

 ティア・ローがふざけて、ぱんつを頭に被った。足の穴部分からねこみみが飛び出ていてあつらえたようにぴったりだった。

「もう、遊ばないの!」

 ちょっと頭をこつんとして、ティア・ローを中に引っ込める。

「にゃっはー!」

 スズちゃんは、ブラをお耳に被ってあごで止めていた。

「もう」

 スズちゃんもこつんとやって、中に引っ込める。

 ああ、でも、そうだよね。ティア・ローもスズちゃんも、私の一部なんだから。実はこうやってふざけたい欲求とかあるのかも?

 ちょっとだけ、悩んで、それからおもむろに自分の頭にぱんつを被ってみた。

 自前のねこみみがじゃすとふぃっと。意外と悪くない。

 ついでにブラも被ってみる。カップのサイズがむにゃむにゃなのでねこみみがこぼれてしまった。

「にゃははー! ぱんつ女神なのだー!」

 なんとなくポーズを取ってみてから我に返った。

 何やってるんだろ、私……。

 少し情緒不安定かもしれない。



 お風呂から上がって、下着のアーティファクトを着用すると、ぴかぴか光って身体の水気が飛んだ。髪まですっきりサラサラだ。ドライヤーいらず。素晴らしい。

「おおー、便利」

 相変わらず布面積の少なさにはちょっと落ち着かないものの、穿き心地は悪くないというかむしろいい感じ。湯上りだというのに下着の中が蒸れることもなく、通気性も抜群のようだ。

 めがみはぱんつかはかないのー、とか言ってたルラレラが着用していたのも納得の便利さだ。

 いやもしかしたら、アーティファクトだからぱんつじゃないもん、って理屈なんだろうか。

 ブラの方は着け慣れない物なのでちょっと戸惑ったのだが、マンガか何かで見た、いったん前後を逆向きに付けてホックをとめてからくるりと回すというやり方でなんとかなった。

 ブラなんか必要ないくらいのサイズだからできるかんじかねー。

 下着をつけ終わったあとは、いつもの冒険用ジャージはボロボロだったので、神殿の人に用意してもらった服を着る。闇神メラさんが着ている巫女服+貫頭衣の色違いのようだった。

「これ着ると、私も女神っぽい、のかな?」

 メラさんのは黒の貫頭衣だったが、用意されたものは青色だった。微妙に金糸で刺繍とかされてて、メラさんのより装飾過多にみえる。

 こんなのいつ用意したんだろ? 丈も割とぴったりだし。

 少し不思議に思ったが、まあ、ルラレラが前もって用意しといたんだろうなーと深く考えないことにする。服の構造は概ね知っているものと大差ないようだった。学生時代、体育の選択授業で剣道を取っていたのでこういった袴のつけ方もなんとなく覚えていた。

 薄い襦袢の上に白衣を着て紐を結ぶ。袴を穿いて、その上から貫頭衣を被って腰のところを細い帯で縛る。ちゃんとした着付けの仕方はしらないが、まあ、見苦しくない程度にはちゃんとしていると思う。

 櫛や髪留めまで用意されていたので、いつの間にか伸びていた髪に櫛を通して、緩く紙の紐でまとめて肩から前に垂らす。

 何かの植物を模したらしい髪飾りをちょこんとねこみみの間に乗せたら完成だ。

 あれ、意外に私、イケてる?

 まるで日本神話にでも出てきそうな女神の姿だった。軽く化粧でもしたら完璧になりそう。後でメラさんとかに聞いてみようかな。

 馬子にも衣装というけれど、思った以上に女神っぽくなってしまった。

 うふん、ふふんと大きな鏡の前でポーズを取っていると。

「……あん? なにやっとるのん、週末女神ちゃん」

 次にお風呂に入る予定のサボリさんたちがやって来ていた。どうやら大幅に時間超過していたらしい。

「……ごめんなさいっ! すぐ退きますっ!」

 慌てて脱衣所を飛び出した。

 うう、ハズカシイ……。




 ルラレラの代わりに御坐に座ると、うーんと背伸びをしたルラレラは、お風呂行ってくるのー!と両手を上げて駆け出して行った。

 そういや、ルラレラって一週間ほどずっとこっちにいたんだよね? もしかしてお風呂も一週間ぶり?

 ……ああ、だからあの下着だったのかな?

 汚物消去とか消臭とかいうスキルついてたし。

 流石にトイレくらいは席を外しただろうけど。ってこっちでルラレラがトイレに行ったの見たことないかも。

 ん? そういや私もいろいろ飲み食いしたけれど全然催してない気がする。もしかして女神はおトイレ必要ないのかな?

「たろー」

「タロウ様」

 お風呂上りらしい、みぃちゃんとりあちゃんがやって来て、私の両隣に座った。

「明日はよろしくね」

 そっと頭をなでると、こてん、と身を寄せてきた。

 魔王が待ち構えている可能性が高い。きっと、総力戦になるだろう。さらにイモムシの群れもなんとかしなくちゃいけない。

 そっと二人の肩を抱くと、みぃちゃんは既に寝息を立て始めていた。

 今度は、今度こそは、危険な目に会わせはしない。

 現在の状況を映し出すウィンドウを見上げて、固く誓った。




 ――そして翌朝。


 一番最初のポイントに向かうのは、私とみぃちゃんとりあちゃん。次のポイントに向かうのは、シルヴィ班とヴァルナ班に決まった。シルヴィ班の内訳は、シルヴィ・魔法少年・山伏・にゃるきりーさん。ヴァルナ班の内訳は、ヴァルナさん、真白さん、真人くん(+ニャアちゃん)、猫妖精のシーちゃん。

 基本的には広域破壊の魔法を使える人と、護衛の前衛の組み合わせだ。魔法少年と猫妖精がそれぞれの班に入っているのは、この二人がポータルを使った転移が出来るからだ。

 残りは神殿とルラレラの守りについてもらうことにする。

 簡単な朝食を終え、いざ出陣!というところで。

「ちょっとまってくださいよぅ! わんわんっ!」

 わん子さんが祭壇の間に飛びこんできた。

「……どうしたの、わん子さん?」

 声をかけると、メモを片手にキラキラした目で見上げてきた。

「おはようございますっ! 素敵です! きちんと正装したんですねっ!」

「ああ、おはよう、でもってありがと」

 いきなりメモ帳にスケッチを始めたわん子さんに戸惑いながらも、礼を返す。

 あの後、闇神メラさんが着付けの仕方を教えてくれて少し直したあと、戦化粧ですよって軽く紅をひいてくれた。悪くないと思っていたので褒められるのは嬉しい。けれど。

「でも、ごめんね、これからやらなきゃいけないことあるから、わん子さんの用事は後にしてくれないかな?」

「ペンはッ! 剣より強しッ! ですよっ!」

「取材なら後にしてほしいんだけど……。シルヴィやメラさんから連絡行ってると思うけれど、今大変な状況なんだから」

「わかってますよぅ、わんわんっ! だ・か・ら、記者には記者にしかできないことがあるんですっ!」

「……何をする気?」

 なんだか少しイヤな予感がしてきた。

 わん子さんが余計なことをしでかす前に、追い返しちゃうべきだろうか。

 考えていると、スマホがぶるぶる震えだした。

「あ、ちょっと待ってね」

 見覚えのない番号だった。というか、数字だけじゃなくてアルファベット混ざってるってどこの番号だろう?

「……もしもし?」

『おう、ちびねこさんか? ん、声が違う気もするが』

 男の人の声。この声は……。

「ランダのおじちゃん、です?」

 ティア・ローの声が、勝手に口をついて出た。

 西の町に行くときに一緒だった、行商人のランダさん。そういえば、この世界のスマホっぽいタブレットを直したときにランダさんとも番号交換しておいたっけ。

『おう、しばらくぶりだな、ちびねこさんよう。今なんか大変なことが起こってるって聞いてな、商人連中でも何かできないかっていろいろ動いてるとこだ』

「危険なことに首をつっこんだら、めーなのです! おじちゃんは大人しく非難するといいのです」

『ばっかおめぇ、世界の危機にのんびりしてられるかよ! ってわけでだ、勇者のちびねこさんよ、お前さんももちろん世界の危機に立ち向かってるんだろうが、俺たちにも何か手伝わせてくれ!』

「……」

 少し考える。戦闘に参加させるわけにはいかないけれど、ランダさんたちにできることも確かにあるだろうと思う。

 ……よし、ここは光神ミラさんにぶん投げてしまおう。

「おじちゃんはまだ西のリグレットの街です?」

『おう』

「じゃあ、光神神殿のミラちゃんとこにいくです」

『わかったぜ』

 通話を切り上げて顔をあげると、わん子さんが小さな胸を大きく突き出してドヤ顔をしていた。

「さっそく効果があったようですねっ! ペンは剣よりつよいのですよーっ!」

「んー、まさか、わん子さん新聞かなにかばらまいた?」

「そのとーりっ! ですよっ! 魔王が攻めて来てるだなんてこんなイベント記事にしなきゃ記者の名がすたるってもんですヨ?」

 にやりとわらって。

「……というわけで続報のためにさらなる情報(ネタ)をくださいっ! わんわんっ!」


 んー、記事のネタ欲しかっただけじゃないのかなー?

 少しばかり疑問に思いながらも、情報の提供を約束して出発することにした。

 ……わん子さんがどういう記事を書いているのか、確認もせずに。

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