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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第五話「俺的伝説の作り方」
203/246

24、「遅れてきたテンプレ」

【女神フェーズ】

 『――ルラレラ女神オンラインにログインします……』


 『時間内にサーバーからの応答がありませんでした』


 『――現在、非常につながりにくくなっております』


 『しばらく時間をおいてから、再度ログインをお願いします』

「……」

 レラが空中に表示させた、魔物の群れの進路予想図。

 四方八方に広がっているとは思っていたが、どうやらある程度進行ルートが決まっているようだった。東西南北に3ルートづつというところだろうか。まだ動き始めたばかりだから正確な予想というわけではないのだろうけれど、いずれにせよこれはマズイ。

 あれだけの数のイモムシが、火を噴いて暴れまわったら……。いや、単にあれだけの数が街に押し寄せるというだけでも相当な被害が出そうだ。

「はやめにどこかで止めないと、たいへんな被害がでるのー……」

 腕組みしながらルラがつぶやいた。

「ほとんど人のいない大草原だけど、リーアのように住んでいる人がいないわけじゃないわ。

飛沫族なら川のそばだと思うから、気付きさえすれば非難はできると思うけれど」

 レラも腕組みしながら画面を見つめている。

「……私が片っ端からつぶしてくるよ」

 今の私ならば、ただのイモムシくらい敵ではない。世界を切り裂く剣を振るえば、一振りで数百、数千は薙ぎ払えるだろう。

 ゆーりとマイちゃんに膝から降りてもらって立ち上がる。長いこと乗せていたのでちょっと足がしびれている。

「ちょっと待つの、おねえちゃん!」

「数が多すぎるの。それに下手にかき回すと進路が変わって、余計に被害が拡大するおそれがあるの!」

 ルラとレラが画面を見つめたまま言った。手が動いているところを見ると、どこにどう手を出せばいいのかを調べているのだろう。

「……あんまり待てそうにないよ?」

 焦る気持ちを押さえて、そう吐き出す。

「まだ焦る必要はないの。幸いイモムシの足は速くないの」

「数日とまではいわないけど、最低でも明日くらいまではへいきなの。というか、ある程度進行しないと侵攻ルートが確定できないの」

「……わかった」

 とりあえずはできることをしよう。

 シルヴィと闇神メラさんにお願いして、東の街に避難勧告を出してもらう。西の街は光神ミラさんにお願いする。西の街はなんかネットワーク的な物があるらしいので、比較的周知は楽らしい。

 草原の北側には山脈があり、山の中には小さな集落がいくつもあるらしいがそちらに連絡する手段は現在なかった。まだ敵側の領域なので、ユニット配置でも近くにいけない。女神の力を利用すれば不可能ではないらしいが、力の使用に制限のあるゲーム中では少しばかり難しい。

 南の方はとりあえず人は住んでいないらしい。海につながっているらしく、南端に達した魔物はそのまま東西に分かれてきそうだという。こちらの方はしばらく静観してよさそうだ。

 やはりマズイのは東西に向かっているイモムシたちだ。特に東の方は川があるのでまとめて全部街に押し寄せかねない。そういった地形まで考えているのだとしたら。

 ……単純な物量押しというわけでもないのか?

「これが魔王の仕業だとしたら、ねらいはいくつか考えられるの」

「ひつとめは、単純に物量で拠点ごと破壊しつくすこと。フラグが残っていても拠点がなくなれば継戦能力を失うというのはこれまで何度も説明してきたわね?」

「ふたつめは、こちらの戦力を分散させるための囮。こちらとしては街や村を守るためにどうしても戦力を分ける必要がでてくるわ。そこを確固撃破しようという魂胆ね」

「付け加えて言うなら、あれだけの大量の魔物を処理するには、フラグ持ちが出る可能性が高くなる。今おねえちゃんが出ようとしているように」

 ルラレラが交互に声を上げ、画面にいくつものポイントを表示させる。

「……こうしてわたしたちが敵を止めるポイントを計算するところまで予想されていると見た方がいいわ。つまり、待ち伏せされているってこと」

「ご丁寧に、止める順番まで指定されているわ」

「……そっか」

「そして、最後にマナを消費させる目的ね」

「いくらおねえちゃんが強くなったとしても、その力を振るうにはゲーム上、マナの消費が必要になるわ」

「戦力の分散およびマナの消費、いっせきなんちょうにもなるなかなかいい作戦だと思うわ」

「敵ながらあっぱれなのー」

 言われて初めて気が付いた。私が使おうとしていた世界を切り裂く剣は、女神の力そのものだ。あれを膨大な数のイモムシに対して振るっていたらきりがない。基本的にあの剣は単体に対してを想定したもので、広域に対して振るうことを想定していない。

 ……そうなると、私が出て剣を振るうより、魔法を駆使した方がいいのかも。魔法であればマナは通常行動分しか消費されないはず。

 ナビに流星の魔法を改良してもらって、流星群とかにしてもらうか。扱いは難しいけれど創った魔法はサボリさん達にも使えるようになるはずだ。

 あとはシルヴィやヴァルナさんの魔法班に頼るしかない。ルラレラ世界やセラ世界には、戦士系の必殺技みたいなスキルはないみたいだし、りあちゃんや勇者候補生チームの二人では個々のイモムシは止められても、広域殲滅は難しいだろう。

 ……あのロアさんすら剣では広域殲滅が難しいからって魔法覚えたそうだしな。というかあの人ならこういった修羅場を何回もくぐっってそうだ。この場にいないのが残念でしょうがない。

 しかし、あの魔王もやってくれるものだ。

 ほぼこちらの勝ちは揺るがないと思っていたのに、こんな手を打ってくるなんて。

 一匹一匹は今の力なら何の問題もないが、あれだけの数を止められるだろうか。

 不安を抱えたままルラレラが画面を操作するのを見つめていると、真人くんたちの班が返って来た。スズちゃんと、人魚さんも一緒だ。

「にゃーなのです」

「にゃーなのですっ!」

「ただいまにゃー」

「お邪魔する」

「真人班戻りました。現状はどんなですか?」

 真人くんが、宙に浮かんだウィンドウを見上げて言った。

「ああ、ご苦労様。状況は良くないよ。敵がこちらの戦力を分散させようとしているのがわかっていながら、こちらとしては分散せざるをえないって感じ」

「そうですか……」

 真人くんも腕組みをして画面を見つめ始めた。

 ティア・ローはちょこちょこと私の前にやって来て、スズちゃんと二人並んで謎のポーズをとった。

「力のいちごう! なのです!」

 ティア・ローがしゃきーんと両手を斜め上に上げる。

「技のにごう! なのです!」

 スズちゃんが反対方向にしゃきーんと両手を斜めに上げる。

「……すっかり仲良しだね」

 ええっと、力と技のV3だっけ? やらないからね。

 わしゃわしゃとティア・ローの頭をなでると、するりと私の中に入り込んできた。

 作り物のねこみみを押しのけて、頭にねこみみが生えてくる。

「スズちゃんだっけ、キミはいったい何者なの?」

 まだポーズを取っている赤い服のねこみみ幼女に問いかけると、スズちゃんはにやりとした笑みを浮かべた。

「スズは、スズなのです!」

 笑いながら、するりと私の中に入りこんできた。

「あ」

 とたんにあふれる謎の記憶。

 私の記憶にあるものとは違う、ダロウカちゃん達との冒険の記憶。

 サボリーマンさんや、ダロウカちゃんが言っていた、ロアさんと一緒に戦ったラストバトルの記憶。

 つまり、スズちゃんっていうのは。

 ――もう一人のティア・ロー、だったんだ。

 ……なんで、このセカイに攻めてきた連中の仲間なんかになってたのさ?

 頭に中で問いかけると、にゃー、とだけ返って来た。

 どうやら、あまりに敵側に知識が無いからハンデとして敵にまわっていたっぽい。

 遊ぶ時にも全力をつくすのです!

 ってナニソレ。



 その後、続々とみんなが戻ってきた。

 みぃちゃんやりあちゃんと一緒に魔法少女と山伏もやってきた。

 マジゲロも人魚さんと猫を連れて帰ってきた。

「あははー、なんか魔王側も含めてほとんど全員いるんじゃないかなっ!?」

 マイちゃんがなんか乾いた笑いを浮かべていた。割と覚悟を決めて女神陣営に来たのに、みんなぞろぞろとこっち側に来たのでちょっと思うところがあったらしい。

 まあ、真白さん達と戦った猫と人魚さん以外はみんなこっちに来た感じだよね。あとはイコって子ともう一人お留守番がいるんだっけ?

 いったん部屋に軟禁していたみっちーさんと羽子さんも連れて来てもらった。

 休んでいたリーアやディエ、キィさんにあーちゃんもやって来て、かなり人が増えた。

「……初めて会う人もいるけど、自己紹介とかしてる暇ないから省略ね」

 ぐるりと集まった皆を見回して話す。

「おそらく敵の魔王によるものと思われる、魔物の暴走が発生しています。大変な被害が出かねないのでなんとか止めたいと思います。協力してもらえませんか?」

「敵側であるわたしたちが、協力することに何かメリットはあるのかしら?」

 即座に問いかけてきたのは、マイちゃんの親友だというみっちーさんだった。

「……特にないかな。何らかのお礼はするつもりだけど。むしろ、貴女にはこの状態でまだ魔王側に付く理由があるのかなって聞きたいかも?」

 さっきマイちゃんと話をした時にもこちら側に付く意思はないようだったし、りあちゃんと遭遇した時も向こうから積極的に襲ってきたんだよね、確か。

 確かマイちゃんたちは「元の世界に帰りたければ」と協力を強制されていたらしいけれど、たぶんゆーりか寧子さんなら普通に元の世界に帰らせることができるだろうし、そう言った話は先ほどマイちゃんにしてもらっている。

 それなのにここまで頑なにこちらを拒む理由ってなんだろう。

 じっと見つめると、みっちーさんは少しきつめの眼差しで私を見つめ返してきた。

「……魔王は気に入らないけれど、少なくとも夢のひとつをかなえてくれたことには恩を感じているわ」

 みっちーさんは、そう言って「だからわたしは協力しない」と言い放ち、羽子さんと一緒に自分から部屋に戻ってしまった。少なくとも邪魔をするつもりはないらしい。

 夢ってなんだろう。あの巫女さんみたいな恰好のことなんだろうか。

「……強制じゃないから、他にも協力できない人がいたら早めに言ってね」

 最悪、私一人でもやるつもりだし。変に邪魔されるよりは今のうちに消えてもらった方がいい。

「……なあ、お前らって悪い奴なんだろ?」

 魔法少女の格好をしたオトコノコが言った。見た目はかなり美少女なのだが、振る舞いと口調は少年らしくぶっきらぼうなもので、別に女装趣味というわけでもなさそうだった。

 なんでこの子は好き好んでフリフリひらひらな魔法少女の格好をしてるんだろう?

 タカシくん、という名前だったろうか。魔法少年と言った方が正しいのかもしれない。

「このゲームにおいて、女神と魔王の間に善悪の違いはないよ。ケンカを売ってきた魔王の方がワルモノな気はするけどね。あと現状はさっき言った通り。キミはどっちがいいのかな?」

「……」

 こちらの答えに、少しためらっていたようだが、マイちゃんやゆーりがこちら側に居るせいもあったのだろう、魔法少年は小さく頷いた。

「俺も協力するよ。少なくとも、関係ない人まで傷付けようとするのは悪いことだと思う……」

「ん、ありがとう」

 背も小さくてかわいらしかったので、思わず魔法少年の頭をなでなでしてしまった。

 ……なぜか、もきゅ、もきゅ、とかわいらしい音がした。




「それで、具体的な作戦はなにかあるんですか?」

 真白さんが進路予想図を見上げて言った。

「今のところ、根本的な解決方法はないかな。流れを変えて海に追い落とせれば一番いいんだろうけど……」

 未だに赤黒い亀裂からは次々とイモムシが零れ落ちていて草原を赤黒く染めている。

「魔物を殲滅するのは当然として、元を絶たねばいつまでも戦闘が続くのではないですか?」

 りあちゃんが、ちょっと魔法少年の方を気にしながら画面の赤い亀裂を指さした。どうやら魔法少年に不意を打たれて捕まってしまったことに思うところがあるようだ。

「大元を攻める部隊も必要と思います」

「でも、すでにあふれ出したイモムシを止めるだけでも大変そうなんだけど」

 魔王側の人たちが協力してくれたとしても、人数が足りなさすぎる。

 ロアさんがいたら草原ごと吹っ飛ばしてくれそうな気はするけれど、どこかに行っちゃったらしいし。気付いてたらこっちに来てくれると思うし。頼りにはできない。

「まずはイモムシをおさえなきゃ。だからある程度戦力分散してつぶしに行ってもらうことになると思う」

 流石に自分一人では同時に複数個所を回れない。

「魔王の手の者が待ち伏せてる可能性がたかいのー」

「みんな気を付けるのー」

 ルラとレラが補足して、進路予想図のあちこちにポイントを表示させる。

「まずはここなの」

「それからこっちとこっちはほぼ同時なの」

 順番に指さして説明していく。

「最初のポイントは私がいくね。たぶん、アイツが待ち構えてるから」

 あの白い少年は、きっとまどろっこしいことをせずに一番最初のポイントで待ち構えているだろう。

「私もいくです」

 みぃちゃんが手を上げた。

「タロウ様、私も行きます」

 りあちゃんが続いて手を上げる。

「……うーん、アイツの性格的に裏をかいて神殿を攻めてくるようなことは無いと思いたいけど、拠点の守りも必要だし」

 二人とも連れて行きたいけど、どうしよう?

「ん、おねえちゃん。こっちの守りは考えなくていいの」

「ぜんぶおねえちゃんに任せるの」

 ルラとレラが、そんなことを言っていそいそと俺のそばに寄ってきた。

「え、何か考えがあるの?」

 思わず尋ねると、二人そろってニヤリとした笑み浮かべた。

「ゆーりに占拠されないように、1個だけフラグもらうの」

 ルラがそう言って、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。

「?」

 ああ、あのお子様ランチの旗かな?

 ねこみみの間にちょこんと突き刺さっていたフラグを引っこ抜いてルラに渡す。ついでにねこみみヘアバンドも渡すと、ルラがフラグとねこみみヘアバンドを装着した。

「にゃーん、なのー」

「かわいい」

 なでなでしてあげる。にゃるきりーさんじゃないけど、ねこみみ洋風幼女はとってもにゃごむ。

「かわりなの」

「なにこれ?」

 差し出した手の上に乗せられたのは、なんだか暖かいまるまった布のようなもの。

「わたしのフラグなのー」

「わたしのもわたすのー」

 レラも自分の胸元に手をつっこんで、何かをするりと引っ張り出した。

「……え?」

 どうみても、ブラとぱんつです。というか、レラはまだいらないよね、ブラとか。

「維持条件は着用することだから、はやくつけるの」

「はりーはりーはりーあっぷ!」

「こんな、人がいっぱいいる中で?」

 どうしよう、と思っていたら、手にしていたぱんつがぴかぴかと何やら光を放った。

「さもん・さーぱんつ?」

 なんだか声が聞こえたような気がして、思わず口に出すと。

 ぱしゅん!と光を放って手にしていたぱんつとブラが消えた。同時に、下半身と胸に感じる違和感。

 ……え、勝手に装着されちゃうの?

 代わりに今まで穿いていた男物のパンツが手の上に現れて、恥ずかしいのですぐに隠した。

 っていうか、女物の下着を身に着けること自体には全然抵抗なかったな。

「下着のアーティファクトなのー」

「つけていると、ぱんつ魔法が使えるようになるのー」

「……ぱんつ魔法って何?」

 つぶやいた瞬間、視界の端に妙なウィンドウが現れた。

「スキルリスト……?」

「ん、本来わたしとわたしのセカイにはいわゆるチートスキル的な物は存在しないの」

「でも、アーティファクトを使うとちょっと特別なチカラがつかえたりするの」

 ああ、言われてみれば、破魔の剣ソディアとか、ひのきの棒にはクリティカルヒット能力とかついてたっけ。あれは剣のアーティファクトを持つと”首切り”というスキルが使えるようなものだ。

 つまり、いまルラレラから受け取った下着は、装備すると魔法やスキルが使えるようになるアイテム、と。

「……ってこれ、マナ使わないみたいだけど、ルール違反じゃないの?」

 スキルリストをざっと眺めて、そのメチャクチャさにちょっとドン引きした。

 思いっきり攻撃系に偏っている。それも、広域破壊を目的とした戦略級っぽいのもごろごろと。

 これ、やろうと思えばルラレラ世界を5、6回は滅ぼせそうな。

 これだけの特殊技能を、マナを使わずに使い放題って。

「フラグは本来、こういう使いかたをするのが主流なのー」

「前もって用意しておいたアイテムに設定して、戦闘でつかうのよ」

 ルラレラがにやにや笑いでVサイン。

 ……なるほど、フラグはルールに認められた「ルール対象外」の印でもあるわけか。


 布面積の少ないぱんつに、妙に落ち着かなさを感じながら。

 私は、今さらのように与えられたチートスキルを前に少しだけわくわくしてしまった。

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