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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第五話「俺的伝説の作り方」
202/246

23、「世界が終わる前に」

【女神フェーズ】

 『――ルラレラ女神オンラインにログインします……』


 『LROのセカイヘようこそ!』


 『現在レイドイベント開催中! みんなで協力して、セカイを救いましょう!』


 『イベントモンスターを倒して、賞品をゲットしよう!!』

 さて、りあちゃんが勝って、真白さんたちが敗退と。

 ヴァルナさんとこはまだ敵側がポータル移動する前だったようで順調にポータルを排除していっているようだ。

 で、真人くんの班は……。

『――こちら真人班です。えっと、このちびねこちゃんって、鈴里さんじゃないんですよね……?』

「ちがうよー。って、ティア・ローそっくりだね」

 画面に映る、赤いスモックブラウスを着たねこみみ幼女。それに人魚さんの二人組がなぜか画面の向こう側で楽しげに踊っていた。


  スズ『にゃっはー! れっつ、だんしん! なのです!』

トリシア『らーらーらー♪』

 にゃる『むはっ! てぃあちんかわいいにゃー! お持ち帰りしたい。モフリたい』

  真人『ちょっとにゃるきりーさん、しっかりしてください』


 スズっていうのか、あのちびねこ。そういえば、マイちゃんがティア・ローを見てスズちゃんそっくりとかいってたよね。

「マイちゃん、あのちびねこさんはどういう知り合い?」

 お膝の上に戻ったマイちゃんに問いかけると、マイちゃんはちょっと首を傾げた。

「えっとですね、少しややこしい話なんですが、スズちゃんはあたしが召喚したイコの召喚ユニットなんですっ」

 召喚? 掲示板の最初の方でなんか話があったよね。配下のユニットを呼び出せるチートスキルだったかな。

「でもって、イコの話では、スズちゃんは2回目にプレイヤーだったティア・ローって子を3回目でフラグ増えるかもって、呼び出したんだそうですっ」

「……ティア・ローが、敵側に居たことがあるってこと?」

 どゆこと? ティア・ロー?

 頭の中で問いかけるも、にゃー?という疑問の声しか返って来ない。それはそうだろう。私がねこみみ幼女をやっていた時にも、そんな記憶はありはしないし、今回のゲームでは最初から女神側だし。

 並行世界のティア・ローなんだろうか。

「……んー、向こうもティア・ローなら話が通じたりしないかな?」

 もっぺんいくー?

 頭の中で話しかけると、ティア・ローがまたするりと俺から抜け出して、ぽん、と空中に現れた。

「にゃっはー! だんすなら負けないのですっ!」

「気を付けてねー」

 画面に、にゃんと飛び込むティア・ローを見送って。意識をヴァルナさんの方の画面に向ける。相変わらずマジゲロさんが女性二人に挟まれて所在無げにしていた。

「ヴァルナ班は順調?」

『――うむ、どうやらまだこちらには手が回っていないらしい。すでに五本ほどポータルを排除した。もう二か所ほどまわったらいったん戻るとしよう』

「りょうかーい」

 ええっと、確かゆーりの話だと敵側で外にでてそうなのはあと四人くらいいるんだよね。これまでの感じからして二人組で2チームかな。

 出会わないに越したことは無いけど。

 意識をりあちゃんの画面に向ける。捕虜を部屋に閉じ込めた後、りあちゃんは飛行ユニットじゃないとまわりにくい所の回収に戻っていて、すでにかなりの数のポータルを回収していた。

「りあちゃん、順調?」

『――タロウ様、奇妙な人影を見かけました。敵の可能性が高いです』

「かち合わない限りはなるだけ戦闘しない方向でねー」

 さて、真人くんのところはどうなったかな?

 意識を向けると。

「……?」

 なぜかティア・ローとスズちゃんが二人で踊っていた。

 だんす勝負でもしてるのかな。

 あ、スズちゃんの方が、なんかツノ付きの鉢巻きみたいなのをした。

 とたんに動きがキレキレになる。


  スズ『ツノつきは指揮官機なのです! スズの方が偉いのです!』

ちびねこ『にゃにゃにゃっ!? ひきょうなのですーっ!?』


 ……楽しそうだなー。

 まあ、平和的でいいよね。殴り合いをするよりは健全だし。

 まだ完全な勝ちとは言えないけれど、概ねこちら側が優勢な状態だ。向こう側もそれを自覚してるだろうから、最終的には折れてくれると思いたい。

 だいたい、なんで向こう側についてるんだろうな?

 召喚されて、元の世界に戻りたければ~と脅されたらしいマイちゃんたちはわからないでもないけれど、人魚さんたちとか、さっきの羽の生えた子とか、ルラレラ世界の住人だよね?

 なんで魔王側についてるんだかさっぱりわからない。

 ぼんやり考えているうちに、ちびねこ達のだんす勝負はにゃるきりーさんの乱入で終了していた。


 にゃる『両手に、にゃんこにゃーっ!』

  スズ『にゃー……』

ちびねこ『にゃー……』

  真人『両手に花じゃないんですから……』

 にゃる『まだ前があいてるにゃ? かもん』

  真人『いやですよ……』


 両脇にそれぞれ抱きあげて、頬をすり寄せるようにしてモフりまくっている。

「……ほどほどにねー、にゃるきりーさん」

 とりあえず合掌しておいた。




「……ん? あれ、りあちゃんは」

 先ほど人影を見かけた、と連絡があった後、少し意識をよそに移している間にりあちゃんとつながっていた画面が閉じてしまっていた。

 何かあったのかな?

 慌ててつなぎ直すと。


 タカシ『なんか悪魔っぽいのやっつけたぜー!』

 マモル『さすがだな!』

  りあ『もがもが』


 りあちゃんが何か植物のつるのようなものでぐるぐる巻きにされて転がっていた。

 魔法少女風のピンク色のフリフリドレスを着た子と、山伏みたいな恰好をしたツノの生えた男の子がそばに立っている。

 ……?

 ログに出てる名前って両方ともオトコノコみたいな名前だけど。

 あの魔法少女って、オトコ?

「……えっと、タカシくんとマモルくんだね、あれ」

 ちょっと苦笑気味にマイちゃんが言った。

「……人の趣味にとやかく言える状態じゃないからそのことにはツッコまないよ」

 私も今は女神だしなー。って、なんか一人称がいつの間にか「俺」から「私」になって来てる気がする……。気を付けないとティア・ローをやってた時みたいに人格ごっちゃになりそうだよ。

 もしかしたら、すでに私は中身まで含めて自分で名乗ったように「女神ティア・ロー」であって、もう鈴里太郎ではなくなってしまっているのかもしれないけれど……ね。

 画面を操作してりあちゃんを回収できないかと試みたが、やはり拘束された状態では勝手に回収することはできなさそうだ

「ごめんりあちゃん、ちょっと目を離してて手助けできなかった」

『――申し訳ありません、タロウ様。私の油断が招いた事態です。敵に有角族リーンがいると知りながらうかつに突っ込んだ私のせいです』

 草のつるで口までふさがれているが、どうやらこちらとの通信は可能なようだ。

 リーン族って、あれだよね。他人の心を読めるっていう種族。額に角があるところを見ると、きっと純粋な有角族で、みぃちゃんと違って触れなくても周囲の心を読むことができるのだろう。

 手早くログを巻き戻して確認すると、やはりりあちゃんは接近を気づかれて罠にかけられた様子だった。

「……ごめん、みぃちゃん。助けに行ってもらえる? りあちゃんを取り戻してくるだけでいいから」

 まだ背中に貼りついていたみぃちゃんに声をかけると、了承がわりにねこみみじゃない、私自身のお耳をはむっ、と甘噛みされた。

「にゃーっ、ちょっと、もう、みぃちゃんっ!」

「まかせるのです」

 リーンの血を引いているみぃちゃんなら、相手が純粋な有角族であってもそう簡単に心を読ませはしない。裏をかかれたりすることなく、りあちゃんを取り戻してきてくれるだろう。

「お願いね」

「すぐ戻るのです」

 そう言ってみぃちゃんは、りあちゃんにつながったウィンドウの中に飛び込んだ。

 さて真人くんのところは回収できそうかな? にゃるきりさんが押さえていたら捕虜扱いでこっちに連れてこられるかも。

 スズちゃんって、あの赤いちびねこと話しもしてみたいしなー。

『――緊急連絡! ヴァルナだっ! 異常事態発生、至急確認願うっ!』

 え、どうしたんだろう。

 不意にヴァルナ班のウィンドウが点滅して大きく広がった。

 いつの間にかヴァルナ班も敵側と接敵していたのか、二本足で歩く猫と、人魚さんがそばにいる。マジゲロが人魚さんを抱きしめるように抱えていて、どこか遠くをにらんでいる。

「――何があったの? 戦闘してるわけじゃないみたいだけど?」


マジゲロ『あん? カメラの向きが悪いのか? 向こう見ろ向こうっ!』

ヴァルナ『少年、空間が避けて、何か大量に魔物のようなものが降ってきている』

  クマ『これ、魔王側の何か作戦なんですか?』

  シー『しらないにゃー!』

レイリア『……世界、終わる?』


 マジゲロが指差す方にカメラが方向を変え、そして。

「……何、これ?」

 私は言葉を失った。

 草原の上空に、いくつもの亀裂のようなものが出来ていて、その向こう側に赤黒い、異空間が広がっていた。そこから、ぼたぼたと、血のように何かが零れ落ちてきている。


マジゲロ『あれなんだよ、おい』

ヴァルナ『遠視で見たところ、クロウラータイプの魔物のように見える。複眼が赤く光っているところをみると、ひどく興奮状態のようだ』

  クマ『大海嘯ってやつですか……』


 地面に零れ落ちた魔物は、四方八方に広がっていく。緑の草原が、赤黒い魔物の色に染まっていく。いつまでも、いつまでも、零れ落ちる魔物は留まるところを知らない。

 咄嗟に座標を確認する。草原の中心からやや外れたところではあるが、概ね中央付近だった。

 広がる速度はそれほど速くはなさそうだが、街に到達するまでにはまだ何時間かかかるだろう。

「ヴァルナ班、回収します! 他の班にも通達! いったん戻ってきてくださいっ!」

『――真人班です。もしかして遠くの空に見える赤いヤツが何か?』

「うん、いったん戻ってきて」

『――みぃです、りあは回収したので戻るです。こっちの空には異常はないです。何が起こってるです?』

「みぃちゃん、いちおうそっちの魔法少女と山伏にも声かけて。何が起こってるのかよくわからない。その子たちも巻き込まれるかもしれないから、伝えて! 魔物の大軍が、草原の中心からあふれだしてるって。こっちに避難するなら、連れてきてもいいから!」

『――了解なのです』

「ゆーり、マイちゃん、アレに心当たりはある?」

『ん、わたしは知らないかな』

「イコはもう手がなさそうだったし……もしかして、ずっと引きこもってた魔王くんの仕業、かもっ?」

「……いくら魔王でも、あれだけの数の魔物を使うだなんて、ありえない」

 もともと戦域の八割近くを保持していたルラレラにだって、そんな大量のマナはない。

 ゲームにおいては必ずマナを使用する必要がある。

 だとするなら。

「ルラ、レラ、あんな大量の魔物だなんて、可能なの?」

 ……これ、ルール違反じゃないの?

「……」

「……」

 魔物が空から降ってくる画面を見ながら、ルラとレラは黙って考え込んでいた。

「ままが監視してるはずなの」

「やり方はまだわからないけど、るーる違反ではないとおもうのー」

「……ルラレラがこの世界に仕込んでおいた、シナリオとかイベントを流用された可能性は?」

 敵側にルラレラ世界の住人が付いているのは、仲間イベントを利用された可能性がある。

 同様に、魔物の暴走イベントだとか、そういうものが仕組んであったりはしないだろうか。

 それを敵に利用された?

「セカイを滅ぼしかねないイベントなんてつくったりしないのー」

「さすがにそこまでごーまんじゃないのー!」

「じゃあ……あの草原って、なんでいつまでも草原なの? りあちゃんに、昔、大きな事故があってそれ以来ずっとだって聞いたけど」

 何度か疑問に思って、でも聞かなかった疑問。

 ロアさんがちょっと大規模な破壊魔法を使ったくらいでデータ巻き戻してまで修正をしてたのに。かつて起こった大規模な事故を防ごうとも、元に戻そうともしなかった理由は。

「……その話はいまはかんけいないのー」

「今は、あの魔物の群れを何とかすることを考えるべきでしょう?」

 レラがカタカタ、と画面を操作して、進路予想図を大きく部屋の中央に表示させた。


 ――なんだかごまかされたような気がした。

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