勇者たちのオフ会 その2
勇者候補生側が頼んだ飲み物も届き、最初にちみっこどもが注文したとりあえずつまめるものなどが届き始めた辺りで、再度、寧子さんが立ち上がった。
「んじゃ~、改めてっ! 勇者たちのオフ会、はっじめっるよ~っ!」
彼女が手にしたグラスは既に三杯目だったりするのだがツッコめる人物などいやしない。
「とりあえず、乾杯っ!」
何に乾杯なんだかよくわからないが、とりあえず近くのちみっこや向かいの男勇者候補生とグラスを合わせた。
おおまかな座席順を書いておくと、上座、一番奥のお誕生日席には誰も座っておらず、向かって左側が俺たち週末勇者側。奥からレラ、俺、ルラ、みぃちゃん、ロアの順だ。向かって右側が勇者候補生側で、奥から和服女神ちゃん、男勇者候補生、女勇者候補生、洋風女神ちゃん、ねこみみたんとなる。逆お誕生日席というか、下座というか通路に面した側にわざわざどこからか椅子を持ってきて、寧子さんがどっかと腰掛けている。
通路塞いで邪魔なんじゃないかと思うのだが、すっかり出来上がっている寧子さんは気にも留めていない様子。
とりあえず、みんなしてポテトをつまんだりしながらちょっと落ち着いたところで。
最初に口を開いたのは女勇者候補生だった。
「話を始める前に、まず、いくつか前提をすり合わせておきましょう」
「ああ、俺も聞いておきたいことがあります」
「……では、週末勇者さんからどうぞ」
譲られたので遠慮なく尋ねることにする。
「いくつかあるんだが、まず大前提としてあのスレッドに書きこまれたあれは本物だったということでいいんですよね? 最後の方で全部作り物だったという書き込みがありましたが、そちらの方がウソということで間違いないですよね?」
ここが覆ると、そもそもこんな話し合いに意味がなくなる。
俺の問いに女勇者候補生は「ええ」と小さくうなずいた上でさらに言った。
「こちらからの確認も同じかな。和服幼女さんと洋風幼女さん、それにねこみみさんの写真を貼られていたようですが、それは便乗したコスプレではない、本物ということでまちがいないんですよね?」
「ええ。こちらのちみっこどもはそちらのちみっこ女神と無関係らしいので、同じ世界に行ったわけではないと思いますが」
俺も頷き返す。これで最低限のすり合わせは出来たと考えていいのだろうか。
「……そうすると、もう一人の勇者は、女剣士さんですか?」
女勇者候補生が、ロアを手で指しながら尋ねてきた。
「それは、どういう意味ですか? 女剣士さんは、向うの世界で出会った人ですよ」
まあ先輩勇者らしいので、勇者といえば勇者なのかもしれないけれど。
もうひとりの、とはどういう意味だ?
首を傾げた俺に、女勇者候補生も首を傾げた。
「わたしはおにいちゃんをえらんだの」
「わたしもおにいちゃんをえらんだの」
俺の両隣のちみっこたちが、両側から俺の腕をぎゅっと抱きしめて女勇者候補生を見つめる。
「……そういうこともあるのね。こちらは和服女神ちゃんが弟を、洋風女神ちゃんが私を選んだのよ」
そういえば、一番最初にちみっこどもに会った時、二人ともが同じ人を選んだのはなんかすっごい珍しいとか言ってたよな? とすると、本来は女神一人につき勇者一人なのがデフォなのだろうか。
「えーっと、勇者一人だと、何か問題でもあるんですか?」
尋ねると、女勇者候補生はちょっと困ったように眉を寄せた。
「んー、ララ様……じゃなかった、通りすがりの三毛猫さん、説明していただけます?」
女勇者候補生が、寧子さんを見つめる。
「んふー。たろー君はかなりのレアケースなのでぃ~す!」
寧子さんは大分酔いが回ってきたらしく、ハンドルネームで呼ぶことを忘れている。
「通りすがりの三毛猫さん、週末勇者でオネガイシマス。というか、ちょと気になったんですけど女勇者候補生さんも、通りすがりの三毛猫さんとお知り合いなんですか?」
ララって確か、寧子さんの女神としての名前だったよな。そんな名前で呼びかけるだなんて以前あったことでもあるのだろうか。うちのちみっこどもが寧子さんを呼んだのかと思っていたが、勇者候補生側が寧子さんの同席を自然に受け入れていることといい、初めからこの場に来ることを承知していたように思える。
「……あら」
女勇者候補生がちょっと驚いたように口元に手を当てた。
「もともとこの場を用意されたのはララ様よ? メールは私から週末勇者さんに出しましたけど。それより、”も”ということは、週末勇者さんも以前からララ様とお知り合いなんですか?」
「ええ。寧子さんは俺のアルバイトの雇用主というか……」
なんと説明したら言いのだろう?
「はぁ……」
女勇者候補生がため息を吐いた。
「んー、週末勇者さん、もしかしてご存知でないのかな?」
「何をです?」
「通りすがりの三毛猫さんというか、女神ララ様って私達が住んでいるこの世界を創った神さまですよ。ふざけた事に」
「……は?」
なんですと?
寧子さんをと見ると、両手でダブルピースして笑いやがった。
つか、おまえが核戦争起してねこみみ世界にしようとしたダメダメ神様かいっ!?
「うむ、証明しちゃうよっ?」
グラス片手の寧子さんが、いきなりぱちんと指を鳴らした。
「……ん?」
とたんに俺の頭の上に何かが落ちてきた。なんだか微妙に暖かい……布?
手にとって広げてみると、薄いグリーンの三角形で筒状の……なんだこれ。
おお、びにょーんと良く伸びる。
「あ、ちょっと……それ、か、返しなさいっ!!」
それが何であるのかを認識する前に、向かいの女勇者候補生が立ち上がってそれを俺から奪い去った。真っ赤な顔でスカートを押さえて、「ら・ら・様~っ?」とすごい形相で一度寧子さんを睨んでから泣きそうな顔でトイレの方に駆け出していってしまった。
「……一体何が?」
「うふふ~、解説しちゃうよん? あたし神さまでぃ~す→証明するために、なんかお願い聞いてあげちゃうよ→神さまにお願いの定番っていったらアレだよね→ぎゃるのぱんちーおくれっ!→というわけで先読みして叶えてあげちゃいましたっ!! ね、ね、ね? どうよ、あたしのこの全知全能っぷりっ! ほめてほめてっ! ちなみにこの場でぎゃるに当てはまるのがましろちゃんだけだったから、自動で彼女のおぱんつがたろー君の上にっ!」
「黙ってろこの酔っ払いっ!」
俺は立ち上がって思いっきり寧子さんの頭にきつい拳骨を落とした。
「た、たろー君の愛が痛い……ひんひん」
寧子さんが泣きそうな顔をしたけれど許すわけには行かない。
「反省しなさい」
「……は~い」
床に正座させてお説教だ。
「女の子のぱんついきなり脱がすなんて、やっちゃだめです。自分がされたら嫌なことはやっちゃいけません!」
「え~、だって女神はぱんつはかないもんっ……」
「いや穿けよ」
ぶーたれる寧子さんにもうひとつ拳骨。
「……な、何事ですか?」
そこに女勇者候補生さんが戻ってきた。そうやらトイレで下着を直してきたようだ。
「女勇者候補生さん、すみませんでした」
俺も頭を下げ、寧子さんにも頭を下げさせる。
「ごめんねー、ましろん。あたしちょ~っと酔っ払いすぎちゃったかもねっ!!」
へらへら笑う寧子さんをもう一回小突いてから席に戻った。
「なんかもう、真面目な話する雰囲気じゃなくなっちゃいましたね……」
まだちょっと羞恥で頬を赤く染めた女勇者候補生さんが深くため息を吐いた。
「……いや、いろいろ聞きたいことは多いんだけどな」
とりあえず昼も近いので、各々で食べたいものを注文してまずは昼食ということになった。
……話が進まないのは全部あの酔っ払いのせいだ。