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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第五話「俺的伝説の作り方」
197/246

20、「重なりゆく道」

【女神フェーズ】

 『女神ルラが あらわれた!』

 『新ヶ瀬舞子が あらわれた!』

 『勇者は おどろきとまどっている!』

 シルヴィのダンジョンを取り戻して、休憩したり食事をしたりして一息ついたあと。

 またみんなで集まってこれからのことを相談していた。

「……状況はとりあえずこちらに有利ではあるけれど、最終的にはフラグの奪い合いだからまだ確実にこちらが勝ったと言える状態じゃない。これからの方針について話し合いをしたいと思うんだけど」

 テーブルについているのは、サボリさん達、掲示板組。真白さんたち勇者候補生組。なんとか復活してきたシルヴィだ。みぃちゃんにりあちゃん、リーアとディエ、すらちゃんはまだ部屋で休んでいる。

 ゆーりはなぜか相変わらず俺の膝の上で、まだもふもふとパンを頬張っている。うちのちみっこ達ならともかく、小柄とはいえ中学生くらいだと顔の前に後頭部が来てちょっと邪魔くさい。今の俺もそんなに体格はよくないので、正直ちょっと重たい。

 両膝の上でなくて、片膝に乗るようにちょっとずれてもらったらようやく顔の前がすっきりした。またがる形になっておさまりが悪いのかゆーりが膝の上でもぞもぞ動く。

 中学生の女の子を膝の上に抱きかかえてって……男のままの俺だったら、事案発生ってやつだよな。

 そんなバカみたいなことをぼんやり考えていると。

「……そのまえにちょっとええかな?」

 ためらいがちにサボリさんが声をかけてきた。

「なんでしょう?」

「今の勇者ちゃん、何て呼んだらええのん? 女神になっとるのに勇者って呼ぶのもなんか変な感じするんやけど」

「んー、それって必要かなあ?」

 そういうことって気になるものなのかな?

 俺は別にどう呼ばれようとかまわないし、掲示板上では週末勇者で通ってたからそのまんまでいい気がするんだけど……。

「ねこみみ女神でいいとおもうにゃー」

 にゃるきりーさんがルラレラのように両手を上げて叫んだ。

「んー、そういう通り名もやけど、ちゃんとした名前名乗らないのん?」

 サボリさんが腕組みしてむー、とうなる。

「女神××みたいな、正式名称ってなんかないのん?」

 その言葉を聞いて、御坐でごろごろしていたレラがぴょこん、と顔を上げた。

「たしかに、おねえちゃんもそろそろかわいい名前をつけてもいいとおもうのー」

 寧子さんもララ、って女神ネーム持ってたしなー。

 俺もなんか決めといたほうがいいのかな?

 迷宮案内人のシェイラさんいわく、神様の名前は二音で末尾がラが多いとか。とすると俺の名前を元に考えると、タロウだから、女神タラ? なんかゴロ悪いってゆーか変な感じだな。

 苗字のスズサト、からだと女神スラで、すらちゃんとなんか被っちゃうし。

 いやでも寧子さんのララって、全然もとの名前と関係ないから、別に実名にこだわる必要もないのかな?

 うーん、どうしよう?

 悩んでいると、ぴこん、と頭の上のお耳が勝手にはねた。

「……暫定で、女神ティア・ローということにしておいてもらえます?」

 まあ、女神タロウよりはマシだよね?



「現状を簡単にまとめておくと、こちらにはレラと俺のもつフラグ、それからダンジョンを解放したときに得たフラグの3つがある。対して敵側は魔王が持つ1つだけ。ルラは身柄を敵に押さえられているけれど、まだフラグは奪われていないらしいし、ゆーりの身柄はこちらが押さえているので、ゆーりのフラグを奪うことは難しいけれど現状で敵側が動かすことはできない」

 掲示板組が魔王側の人間とやり取りして得た情報では、ルラのフラグはまだ奪われていないようだった。

「つまり、このゲームに勝つためには、こちらとしては残る魔王のフラグの破壊もしくは奪取が必要ってことだ」

 正確にはゆーりの持つフラグも破壊もしくは奪取しないといけないけれど、魔王さえなんとかすれば拠点にフラグがない状態で24時間経過することでこちらの勝ちにできるはず。この場合、敵に占領されたエリアがあるとそのまま敵のものになってしまうので、その前に全部の領域を奪い返しておく必要がある。

「当面は敵の力を減らすために敵の領域を奪い返しつつ、最終的には敵の拠点に攻め込もうと思う」

「ん、方針としてはそれでええんと違うかな。心配なんは、破れかぶれで敵がこっちの神殿とかに特攻かけてくることやな」

 サボリさんがしかめっ面をしてこつこつと自身のオデコを拳で叩く。

「拠点にフラグがない状態で24時間経過すると負けになるっちゅールールは、反対に考えると24時間以内なら好き勝手できるっちゅーことやし、下手にこっちの神殿とかを手薄にするとまたひっくり返されかねんで? 今いる神殿を乗っ取られたら大変やろ。フラグに余裕があるなら、西の方の神殿に配置しとくのもありやと思うんよ」

 言われて見ると、こちら側の拠点は今いる闇神神殿だけだ。シルヴィのダンジョンも奪い返したけれどフラグは持ってきたので敵が攻めてきたらあっさりまた占拠されてしまう。中のスタッフは助け出したから本当にただの建物としての拠点でしかないが、敵側が今の拠点を捨てて再度ダンジョンを占拠した場合、再び喉元に剣を突き付けられた状態になるわけだ。

 ダンジョン以外でも、闇神神殿を奪われるか、奪われないまでもメチャメチャにされると困ったことになる。いざという時のために光神神殿にフラグを配置しておくのも確かにひとつの策としてはありだろう。しかし、現状で戦力を分散させるのもあまり得策とは言えない。敵側に知られていない拠点があるならともかく、こちらの拠点は全て敵にばれているのだから。

『悩む必要はない、かな』

 膝の上のゆーりが、ホワイトボードの角をトントンと叩いた。

「それはどういうこと?」

 尋ねると、ゆーりはまだパンをもふもふ頬張りながらホワイトボードの角を叩いた。

『魔王は、向こう側の誰とも協力体制を築いていない、かな。これまでこちらを攻めていたのは、全部イコの手によるもの。イコが魔王のフラグを動かす手段を持たない限り、向こうは完全にお手上げ状態、かな』

「……え?」

 その情報は初耳だった。魔王に召喚されて手先になっているという話だったから、魔王の指示で動いていると思っていたのに。

『魔王はヒキコモリ。なんの指示も行動もせずに、どこかに隠れている、かな』

「ゲーム序盤はマナを貯めるために引きこもるのは定石なのー」

 レラが御坐の上で両手を上げた。

「もっとも、情報を得たり領域を広げるために偵察くらいは出してると思うのー」

『魔王には部下が一人いた。その人が、わたしたちの知らない何かをしていた可能性はある、かな?』

「ふむー。その部下のことはひとまず置いとくとして、魔王とこれまでの攻め手が別となるとそのイコって子が無理やりにでもルラのフラグを奪おうとするかも知れないのかな?」

 敵に自由に動かせるフラグが戻ることを覚悟してでも、ゆーりとルラの交換交渉をすべきだろうか。ゆーりの話ではゆーりの仲間たちは暴力的な手段を取ることはない、と言っていたけれど向こうも追いつめられている現状、何をしでかすかわからない。

『イコの目的が不明瞭なので、現状ではまだ向こうに戻りたくはない、かな』

「ふむー」

 魔王が何を考えているのか、裏で何をしているのかは不明。現状の敵の攻め手であるイコはループを繰り返していてこちらの情報をかなり持っているが、フラグがなく攻めあぐねている状態。

「……とりあえずは、さっき言った方針で行こうか。神殿の守りを固めながら、領域を奪い返して行こう。サボリーマンさんたちは掲示板で向こうと交渉可能だったら、もう少し敵側の目的とか聞いて欲しいかな」

「了解、どうも向こうも結構追いつめられた感じであわててるみたいやで」

「ん、引き続きお願いしますね」

 みぃちゃんとりあちゃんが起きたら、領域を奪い返しに行かないとな。

 なんでも妙な木の棒を地面に突き刺して、その棒で囲まれた範囲が敵側の領域になるらしい。見つけ次第どんどん引っこ抜けばその分敵の領域が狭くなり得られるマナが減り、と力をそぐことになるのだとか。

「……しかし、魔王はともかくとして、そのイコって子はなんでそんな積極的にこっちを攻めてくるんだろう」

 ゆーりが警戒していたイコという少女。ゲームを何度も繰り返して勝利を目指しているというけれど、彼女がそこまでこのゲームに入れ込む理由は、いったい何なんだろう。

 ぼんやり、考え込んでいると。

 不意に膝の上のゆーりが、ぴくん、と何かに反応した。

『くる、かな?』

「え、何が」

 思わず問いかけた瞬間、何か光の玉のようなものが部屋の中に現れた。

 ぐるぐると渦を巻きながらその光の玉は大きくなってゆく。

「レラ! 気をつけてっ!」

 まさか、敵の特攻かっ!?

 思わず身構えた俺たちの目の前で。光の玉が、ぽん、と軽い音を立ててはじけた。

「ただいまなのー!」

 中から現れたのは、ルラだった。それに、以前迷宮内で出会ったオンナノコ。転移酔いでもしたのか、気持ち悪そうに胸を押さえている。

 いったい、何があったんだろう。ルラが一緒ということは、敵ではない?

「ん、おかえりなのー!」

 レラがルラに両手を上げる。

「……えーっと」

 まだ気分が悪そうなオンナノコに声をかけると。

 俺の膝の上にいたゆーりが、『まいこキター! かな』と少し驚いた様子でホワイトボードを振った。どうやらゆーりにもこの展開は想定外であったらしい。

「えーっと君は、確か、迷宮で会った……? それに、ルラ! 無事だったんだ!」

 お膝の上にゆーりが乗っているので、すぐにルラのもとへは駆け寄れなかった。

「ただいまなのー! おにい……おねえちゃん!」

 レラにぎゅうと抱きついていたルラが、こんどは俺のところにやってきてぎゅうと抱きついてきた。見た目に変わったところはない。どうやらひどいことはされなかったようで少しほっとした。

「……ええっと、新ヶ瀬舞子です。諸事情により、こっちに来ました」

 オンナノコは不安そうにきょろきょろと周りを見回していたが、俺の方を向いてそう言うとぺこり、と頭を下げた。

『まいこ』

 ゆーりが俺の膝から飛び降りて、舞子ちゃんのところへとててと駆け寄った。そのまま、ぎゅうと抱きつく。

「……負けたって聞いて、心配してた。大丈夫だったの?」

『浮気はしてない、かな』

「意味不明だよっ!?」

『浮気はしてない』

 ……なんだか微妙にあやしいものが感じられるが、どうやら仲のいい友達のようだった。

 ゆーりのフラグは、好意を寄せているものという話だったけど。もしかしたらそれはこの舞子ちゃんのことなのかもしれないと思った。

「とりあえず、ルラを連れて来てくれてありがとう。……それで、どうして君はこっちに?」

 魔王と協力体制にないらしいイコとしては、おそらくルラのフラグは無理やりにでも奪いたいものだったに違いない。とすると、ひどい目に遭いそうになったルラを助けようとして、一緒にこちらへ来たのだろうか。

 あるいは、ゆーりがこちら側にいるから。ルラを返す代わりに、ゆーりを返せというそういう腹積もりでやってきたのだろうか。

 まだ完全に信用するわけにはいかない。

 やや警戒したままでいると、舞子ちゃんは意外なことを言った。

「……このゲームに、いちばんマシな終わり方をさせる道を探して」




 舞子ちゃん、本人がイコと区別するためにマイと呼んでほしいと言ったので以降はマイちゃんと呼ぶことにするが、彼女の話は少しばかり理解するのに骨が折れた。

 一緒に戻ってきたルラが居なかったら、その内容を信じることもできなかっただろう。

 要点をまとめると。


 敵側の三つ目のフラグ(俺がダンジョンで手に入れたお子様ランチの旗みたいなフラグのことらしい)は不安定で、マイちゃんを殺すことによりイコはフラグをリセットしようと考えている。

 魔王は自分の命をフラグにしている。破壊するために殺さなければならない。

 イコはその魔王の死を回避するために何度もこのゲームを繰り返している。


 だいたいこんな感じだった。マイちゃんが死ぬとフラグがリセットされるだとか、イコがそこまで魔王に肩入れする理由とかは謎だけれど、概ね敵側の状況が把握できた。

 そしてマイちゃんがルラを連れてこちらに来た以上、現状でイコが打てる手はなくなったはずだ。魔王と協力しない限りは。

「……だから、あたしは一番マシな終わり方をさせたいんです。こんなくだらない茶番劇に」

「茶番劇って」

 まあ、確かにはたから見たらバカみたいなゲームではあるけれど。

「だってそうでしょっ!? 魔王くんは死にたがっている。全てを巻き込んで誰かが自分を殺してくれるのを待っている。イコは魔王くんを死なせたくない。でも、今回のゲームに勝ったとしても、魔王くんはまた別の誰かをセカイを巻き込んで死のうとするだけ。イコのやってることはその場しのぎでしかないっ! そんなことのためにループを繰り返してるとかバカみたい。巻き込まれたあたしたちや、女神さんたちにはいい迷惑でしょう?」

 吐き捨てるようにマイちゃんは言って、どこか遠くを見るように斜め上を見上げた。

「……だから、あたしが終わりにするんです。こんなくだらない話。その方法は……まだわからないけど」

「そっか」

 俺はマイちゃんの頭をそっと撫でた。撫でられて喜ぶような歳でもないだろうけれど、マイちゃんがいろいろ考えた末にこちらに来てくれたのはよくわかった。

 正直に言って、あの魔王が死にたがりだとかいうのは少々信じがたかったし、マイちゃんがイコとは違う方法で魔王を救いたいと考えていることに共感はできなかったけれど。

 少しでもマシな終わり方を模索するのは、こちらとしても望むところだった。

 休日で時間があっても全然書けない不思議。

 そしてまったく話が進んでない……。

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