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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第五話「俺的伝説の作り方」
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【魔王フェーズ】ちょっと特別なオンナノコのお話 その6

 舞子さん視点です。


【魔王フェーズ】

 『もうひとりのマイコは さらに語りはじめた……』

「ねぇ……。イコの話に、根拠ってあるのかなっ?」

 あたしは無表情に笑うイコに、疑いの眼差しを向けた。

 イコはいろいろと知識を持っていて、そしていろいろな経験をこれまでにしてきて、その上で「あたしが死ねば勝ち目が出る」みたいなことを言っているのだろうけれど、確実に苦しい目に会うあたしとしては、魔王くんが死ねばいいなんてことは思わないものの、正直そこまでして魔王くんを勝たせることに価値を見いだせはしなかったし、本当にイコの言うように都合よくいくものかという疑問があった。

「ゆーりが向こうで暴れて女神陣営つぶすってゆーのも、かなり希望的観測でしょう? 実際、ちゃんと勝負した上でゆーりは負けちゃったみたいだし。それにあたしが死ぬとイコがプレイヤーになるってどういう理屈なのかなっ? それって今現在、あたしがプレイヤーであるって言ってるように聞こえるんだけどっ!?」

 あたしはフラグなんて持ってもいなければ、このゲームに関する知識だってイコに教えられたことしかしらない。だいたいフラグはイコの召喚ユニットであるスズちゃんが持っていたんだし、そうするとスズちゃんがプレイヤーということなんじゃないのだろうか。

「……ゆーりが向こうで暴れて、ってゆーのは確かにあたしの希望的観測かもしれないね」

 イコが深くため息を吐いた。

「まさか、今回の向こうの勇者が、ゆーりと勝負になるくらい強いだなんて思いもしなかったし」

「え? 今回の、ってどういうこと?」

「マイが死ねば、あたしがプレイヤーになる、って言った話の根拠でもあるんだけどさ、このゲーム、三つ目のフラグは非常に不確定なんだよ」

 イコが良くわからないことを言った。

「不確定って、それは誰が持っているか毎回変わっているってこと?」

「うん、少なくともこちらの、魔王側の三つ目のフラグは毎回変わっているよっ? さっき、一回目の時の話をしたよね? このときは、魔王側にはユマちゃんと、ゆーりの二つしかフラグがなかった。つまり、逆説的に言うと、女神側も二つしかフラグを持っていなかったとあたしは考えている。もっとも、あたしが死ななければあたしがプレイヤーになっていた可能性はあったかもしれないけれど」

 イコはそう言って、あたしの膝の上のルラちゃんをじっと見つめた。

 相変わらずの見ないふり、聞かないふりをしていたルラちゃんだったけれど、片目だけちらりと開けてイコを見つめした。

「……わたしに意見を求めているの? そうね、もともとこの世界はわたしとわたしの二人が創ったセカイだから、フラグが二つだけであっても不思議じゃないと思うわ?」

 ルラちゃんは、よいしょと身を起こしてイコにニヤリとした笑みを向けた。

「そして、三つ目のフラグが不確定という理由も想像がつくわね」

 ぽふん、とあたしの胸にルラちゃんが寄りかかった。

「プレイヤーは、ゲーム開始時にその場に居る必要があるわ。途中参加はできないルール。逆に言うとプレイヤーがそろっていない状態ではゲームが始まらないとも言えるけれど」

「え? それっておかしくなぁい?」

 あたしは思わず口をはさんだ。

「だって、今回のゲームのでフラグを持っていたのは三人。魔王くんとゆーりと、スズちゃんだ。つまりプレイヤーが魔王くんとゆーり、それにスズちゃんなんだとしたら。スズちゃんが一番最初の時にはいなかったのがおかしいよ。それはつまり、スズちゃんはフラグを持っていながらプレイヤーではないっていうこと?」

 それともあたしがイコを召喚し、イコがスズちゃんを召還した時点がゲーム開始ということなのだろうか。

「まいこ、教えてあげる。今のまいこは、間接的にプレイヤーになっている。フラグを持つ召喚ユニットを呼んだことで、間接的にプレイヤーとしてみなされているのよ?」

 ルラちゃんが、お膝の上から見上げるようにして言った。

「だから、イコの言うことはある意味で正しいわね。まいこが死ぬと、イコがプレイヤーになる可能性は高い。それはたぶん、わたしたちの側の都合によるものね。ゲーム開始時に、おにいちゃんはわたしとわたしのセカイにいなかったから。かわりに、おにいちゃんの分身が居たから。だからきっと、三番目のフラグは不安定で不確定」

 ルラちゃんのいう分身、というのが良くわからないけれど、女神側の三人目のプレイヤー、勇者さんのことかな、その人がゲーム開始時にいなくって代理人が参加していた。

 だから三番目のフラグが不安定になっているってこと? 代理人から勇者さんにフラグ譲渡するように、あたしからイコにフラグを譲渡できるってこと?

「ただし、ゲーム開始時に決めたフラグは変更不可能。だから、イコがプレイヤーになったとしてもすでに奪われたフラグが無効になることはないわね」

 ニヤニヤ笑いながら、ルラちゃんがイコを見つめた。それから言うべきことは終わったとばかりに、また目を閉じて耳をふさいだ状態に戻る。

「……ルラちゃんはこう言ってるけど?」

「……」

 イコはしばらく黙っていたけれど。一度ちらりと委員長くんの方を見てから口を開いた。

「その説明をするために、二度目と三度目の話をするね」




「二度目のゲームを開始した時、そこには委員長くんの姿が無くて、代わりに青い服を着たスズちゃんが居たの。そのときはティア・ローって名乗っていたけれど。二度目のゲームは魔王とゆーりと、そのティア・ローちゃんがプレイヤーだった。あたしは、以前失敗したあたしの記憶を持っていたからプレーヤーとして参加することも可能だったはずだけれど、すでにゲームに三人参加していたから、あたしはプレイヤーになれなかった」

「……プレイヤーが四人で、フラグが三つだったってこと?」

「そうだね。ティア・ローがなぜこっちの陣営に参加していたのかはよくわからないけれど、彼女はこの世界について詳しかった。ゲームのルールを熟知していて、様々なアドバイスをくれた。……ルラちゃんがスズちゃんを見て驚いていたように、本当はたぶん、かなり女神側に近い立ち位置だったはずなのに、全面的にあたしたちに協力してくれた」

 あるいは、今思えばそれも彼女の作戦だったのかも?とイコは小さくつぶやいて遠くを見るように視線を逸らした。

「……この世界の知識を持っていたティア・ローと、ゲームの知識を得たあたしは頑張った。けど、やっぱり多勢に無勢、最終的には戦力不足で負けてしまった。ちなみに、アレがあたしに落ちてきたのはこの二度目の時。だからあたしはもう一度やり直すことを決意して、記憶を飛ばした。三度目は、一回目と同じだった。ティア・ローが居なくって、いつもと同じアビリティ同好会の五人が召喚された。だから、今度はあたしがプレイヤーになることができた。この三回目の時に、あたしは二回目のティア・ローを召喚ユニットとして呼び出した。あわよくば使えるフラグが増えることを期待して。でも、すでにあたしのフラグが有効になっていたから、スズちゃんとして呼び出したティア・ローのフラグは無効だった」

 イコはあたしの目の前で、小さく手をひらひらと振って見せた。

「――この時の、三回目のフラグを、あたしは今でも所持している。一回目や二回目と違って、三回目のあたしは記憶だけでなくて、身体ごとこの四回目に呼ばれているから。だけど、今はスズちゃんのフラグが有効になっているので、あたしのフラグはフラグとして機能していない。あたしのフラグが今回有効にならなかった理由は想像がつくけど、今は言わない。でも、あたしがプレイヤーになれば、スズちゃんのフラグが無効になって、あたしのフラグが有効になる可能性は高いと思う」

 ヒラヒラと振るイコの手には何も見えなかったけれど、イコはそこに何かがあるのを確信しているようだった。

「……だから、納得して、死んでくれないかな?」

「嫌だよ」

 あたしは、懇願するようなイコに即答した。

「あたしもアレを見たから、知っているから、イコが魔王くんに入れ込む理由はよくわかるし気持ちもよくわかる。でもさ、たぶん、イコはわかってない。影響を受けすぎていて、あたしなら自分でわかるはずのことがわかってない」

 ぎゅっと、膝の上のルラちゃんを抱きしめる。

 心を読むようなところのあるルラちゃんなら、たぶんわかってくれると思う。

「……イコの望みは、魔王くんが勝つことじゃないでしょう? さっき自分でも言っていたはず。望みは、魔王くんが、ユマちゃんが幸せになることだって、だからあたしは……」

 ルラちゃんを抱きかかえたまま立ち上がる。

 女剣士さんが突き立てた結界用の木の棒を蹴り飛ばして、ルラちゃんをぎゅっと抱きしめる。

「マイ、まさかっ!?」

「うん、そのまさか。委員長くんごめんね、みんなにはよろしく言っといて欲しいなっ!」

「うんわかったよ。頑張ってきて」

「うん、あたしは、誰も泣かない結末を目指すよっ!」

「マイっ!」

 伸ばされたイコの手をかわして。

「ルラちゃんお願い」

「わかったのー」

 ルラちゃんが、にやりと笑って。空中に光るウィンドウを表示させて何か操作した。

「マイ、待ってっ!」

「イコも、どうするのが一番いいのか、もう一度よく考えてみて?」

 泣きそうな顔のイコを置き去りにして。


 ――あたしとルラちゃんは、魔王くんの拠点を後にした。






「ただいまなのー!」

 ルラちゃんが、両手と一緒に声を上げた。

 ぐらんぐらん、と脳が揺れてる気がする。ケットちゃんやスズちゃんのドア方式と違って、直接テレポートする方式ってやつは身体に負担がかかるのかもしれない。

「ううー、なんかキモチワルイ……」

 吐き気を覚えて、口元を押さえながら顔をあげたら。

「……」

「……」

 いくつもの、無言の視線があたしに突き刺さった。

 ここは神殿なのだろうか。何百人かは入れそうな広いホールだった。壁にはたくさんのロウソクが据え付けられていて、どこか外国の教会のように見える。

 そんなホールの奥の方に一段高くなった場所があり、分厚いクッションの上にはルラちゃんそっくりな女の子がちょこんと正座していた。

「ん、おかえりなのー!」

 その女の子が両手を上げてルラちゃんに答える。どうやらこの子がもう一人の女神らしい。

「……えーっと」

 遠慮がちにかけられた声に振り返ると。食事をしていたのだろうか、近くのテーブルに座っていた女の子が目を丸くしてこちらを見ていた。頭にネコミミが生えている。そして、そのお膝の上にはなぜか。

『まいこキター! かな』

 ゆーりが腰かけていて、もふもふとパンをかじっていた。

「あー、ども……?」

 思わずぐるりとまわりを見回して頭を下げる。

 集まって食事をしながら作戦会議でもしていたのだろうか、かなりの人数が集まっていてその視線があたしに集まっている。

「えーっと君は、確か、迷宮で会った……?」

 ゆーりを膝に乗せた、ねこみみの女の子が、驚いた顔であたしを指さしてきた。

 言われてみると、確かにどこかで会ったような気がしないでもない。顔には見覚えないんだけれど。

「それに、ルラ! 無事だったんだ!」

「ただいまなのー! おにい……おねえちゃん!」

 ルラちゃんがとてとてとねこみみの女の子に走り寄って、ぎゅうと抱きついた。

「……ええっと、新ヶ瀬舞子です。諸事情により、こっちに来ました」

 ぺこり、と頭を下げると。

 お膝から降りたゆーりが、とことことやって来て、ぎゅうとあたしのことを抱きしめた。

『まいこ』

「……負けたって聞いて、心配してた。大丈夫だったの?」

『浮気はしてない、かな』

「意味不明だよっ!?」

 ああでも、お膝の上に乗るくらいに親しいって、ゆーりにしては珍しい。

『浮気はしてない』

 ふんすー、と狐面の奥で鼻息が荒ぶるのが聞こえた。




「とりあえず、ルラを連れて来てくれてありがとう」

 ルラちゃんをお膝の上に乗せたねこみみの女の子は、ティア・ローと名乗った。何でも暫定の名前らしいのだけど、つい先ほどイコから同じ名前を聞いたような気がするのは気のせいだろうか。

「いえ、むしろあたしがルラちゃんの力を借りて逃げ出してきたようなものでして……」

 実際、召喚ユニットが居ない状態のあたしは基本的に何にもできないわけで。

「……それで、どうして君はこっちに?」

「このゲームに、いちばんマシな終わり方をさせる道を探して」


 ――そんな方法が、本当にあるのかはまだわからないけれど。

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