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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第五話「俺的伝説の作り方」
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【魔王フェーズ】ちょっと特別なオンナノコのお話 その5

 遅れました……すみません。

 舞子さん視点です。


【魔王フェーズ】

 『もうひとりのマイコは しずかに語りはじめた……』


 ――あたし自身に首を絞められて殺された場合って、自殺になるのかなっ? それともやっぱり殺人事件?


 まだ、苦しいと感じるほどではなかったが、あたしの喉をつかんでいるイコの手には徐々に力が込められていて、混乱しているあたしはその手を振り払うこともできず、ただ茫然とイコを見つめることしかできなかった。

「……イコ? どういうこと?」

「……」

 まだ、友人同士が少しふざけた程度。でも、イコはただ黙って手に力を入れてくる。

「……っ!」

 さらに問いただそうとしたあたしとイコの間に。

「委員長くん……?」

 床から板のようなものが飛び出した。イコは手を離さざるを得なくなって、それを成したであろう委員長くんを睨み付けた。

「たとえ冗談であったとしても、他人の首を絞めるだなんてことはやらない方がいいと思うよ?」

 光るウィンドウを操作しながら、委員長くんが言った。この白い空間に建物なんかを作るときの要領で、あたしとイコの間に衝立のようなものを作ってくれたらしい。

「だいたい僕やルラちゃんが居る前で、本気で殺人を犯そうだなんて思ったわけでもないんだろう? 君が何を知っていて、何のために何をしたいのか。明確に説明してくれるのなら、出来ることがあるのかもしれないけれど」

 委員長くんはいつもの笑顔で、新しい階層を増やすという作業を片手間でこなしながら顔だけこちらに向けて言った。

「……そうだね」

 イコはうなづいて、あたしを見て小さく、ごめん、とつぶやいた。




「――前に、少し話したよねっ? この妖精大戦ってゲームが終わった後に、帰れなかった人がいたって話」

 イコがあたしと委員長くんを交互に見ながら言った。確かに言われた覚えがある。それが具体的に誰だったのかは明言しなかったけれど、イコはその結果に納得していないからやり直している、というような口ぶりだったと思う。

「……あれ、実はあたし自身のことなんだ」

「……え?」

 一瞬、混乱するが、言われてみればイコはゲームを繰り返してまだこのセカイに居る。それはつまり、確かに元のあたしたちの世界には帰れていない、ということだ。ということは、あたしが、あたし自身がなんらかの原因で元の世界に戻れなくなる可能性があるってことなんだろうか?

「それともうひとり、魔王ユラ、ユマちゃんも。だからあたしは、魔王を勝たせるために、何度もこのゲームを繰り返している」

「つまり、イコさんの言う願いというのは、イコさん自身と魔王が無事に元の世界に戻るということなのかな?」

 委員長くんの問いに、イコは少しだけ首を斜めにしてから横に振った。

「魔王ユラの、ユマちゃんのセカイは、すでに滅びている、無くなっているから、元の世界に帰るということはありえないんだ。だから……一番の願いは、ユマちゃんが幸せになること、かな。それが何かはまだよくわからないけれど、このゲームに負けるとそれ以前の話でユマちゃんには後がない」

「……それはまさか、魔王はこのゲームに負けると死ぬ、あるいは消滅するということなのかな?」

「そゆことだよ。あたしはその結果に納得していない」

 イコはちらりとあたしの膝の上のルラちゃんを見た。ルラちゃんは耳をふさいで目を閉じているが、口元はどこかニヤニヤといった感じに微笑んでいる。聞いていないふりを装っているけれど女神だというし、時々あたしたちの心を読んだようなことを言うし、今のこの会話もイコの背景の事情も全てわかっているのかもしれなかった。

「……敵側の女神が居る前で言うのもアレなんだけどさ、ユマちゃんは自分の命をフラグにしているの。ルラちゃんがさっき言っていたみたいに女神側が完全勝利を目指すのだとしたら、つまり敵がフラグの破壊を目指すと、必然的にユマちゃんは死ぬことに、殺されることになる。そして、破壊されたフラグはゲームが終わったからといって元に戻ることはない」

 イコの言葉に、ああやっぱりとあたしは納得した。

 やっぱりイコは、魔王くんのことを大切に思っている。それはきっと、あたしも見たあの空から落ちてきた記憶が原因で、だからイコは魔王くんを勝たせたがっている。


 ――イコの中の人は、魔王くんの親友、あるいは恋人、だったみたいだから。


「……なるほど。ところでさっきから魔王のことをユマちゃんって呼んでいるのはなんでだい? 彼は自分のことを魔王ユラと名乗っていた記憶しているんだけれど」

 委員長くんが訝しげに眉を寄せた。

 空から落ちてきた記憶を持っているあたしには全然不思議でもなんでもなかったけれど、委員長くんにとっては確かに疑問だったろうと思う。

「それはね、委員長くん……」

 イコの代わりに口をはさむ。

「魔王くんの本名が、巫女神みこがみ由真ゆまって言うからだよ。二音で末尾をラにするのが、女神の命名規則なんだって。ほら、ルラちゃんだって、ル・ラの二音で末尾がラでしょう? まあ、単なる流行りみたいなものらしいけど」

 あたしの説明に、イコと委員長くんがそろってあたしを見つめてきた。

「マイ、なんでそんなことを知っているのっ?」

 イコが驚いた顔で尋ねてきた。

「え、だって、イコも見たんでしょう? アレを」

 アレ、で通じたらしく、イコの顔がさっと青ざめた。

「あの記憶があって、なんでマイはいつもと同じなの……?」

「ルラちゃんが、何かしてくれて、楽になったんだよ」

「……そういえば、少し前に新ヶ瀬さんの様子がおかしかったね」

 ああそういえば、あの時は委員長くんが心配そうに何度か声をかけてくれたっけ。

「……全部、最初から話すね。もう、隠してもしょうがないし」

 イコが深くため息を吐いた。




 そうしてイコは語りはじめた。

「一番最初の妖精大戦は、ゲームにならなかった。始まる前に終わってしまった」

 今のあたしたちと同じように、魔王くんに召喚されたアビリティ同好会の五人。しかし、あたしたちの時と同じように魔王くんとクロくんは引きこもってしまい、白い空間に取り残されたままのみんなは。飢えと乾きで衰弱していた。

「一週間後に現れた魔王は、いちいち説明しなきゃ何もできない無能か、ってつぶやきながら召喚のやり方を教えてくれた」

 イコが召喚したのは二足歩行する黒猫、ケットちゃん。みっちーは樹妖精のドライアド、タカシくんは小妖精のフェアリー。ゆーりは今回と同じ狐のようなものだったらしい。

 妖精大戦の名の通り、本来は妖精が召喚ユニットとして仲間になるのがデフォらしかった。

「女神のセカイに降り立ったあたしたちは、手探りで冒険を始めて……そしておそらくゆーりを残して全滅した。たぶん、イモムシにでもやられたんだと思う。ここからはやや想像が混じるけど、そこで本来時間をおいて生き返るはずのあたしが、生き返らなかった。あたし以外は復活したのに、あたしだけが生き返らなかった。だから、ゆーりは、魔王ユラを倒してゲームを強制終了したんだと思う」

 イコがあたしをじっと見つめる。

 それは、あたしを殺そうとした理由につながっているんだろうか。

「……あたしが生き返らなかった理由は、ゲーム終了後に女神から聞かされた。あたしはゆーりのフラグになっていた。そのあたしが生き返ると、壊しても何度でも復活するフラグということになるからゲームバランス上禁止したと言っていた」

 例えば、の話になる。

 ルラちゃんのフラグは、彼女が穿いているぱんつだ。

 ルラちゃんから奪い取って穿けばフラグを奪ったことになるし、あるいはぱんつを破るなりして破壊してしまえばフラグは失われてしまう。

 しかし、「ルラちゃんが穿いているもの」がフラグだった場合。ルラちゃんがぱんつを穿いているときにはそのぱんつがフラグだが、脱いでしまえはフラグとして機能しなくなる。

 新しいぱんつを穿けば、それがフラグになるのだ。

 このフラグを奪う方法は、ルラちゃんになるしかない。つまり、実質奪うことができない。

 そして、破壊する方法もない。「ルラちゃんが穿いたもの」がフラグになるので破壊することができない。

 なのでこの場合、ルラちゃん以外のフラグを奪うか壊すかした上で、ルラちゃんをノーパンにして誰もフラグを持っていない状態で24時間経過させるという手段か、あるいはルラちゃんが下半身に何も穿けないように下半身そのものを破壊するしかない。

 ゆーりの場合、「ゆーりが好意を抱いているもの」がフラグになるらしい。維持条件は好意を抱き続けること。この対象があたしになっているらしい。

 生物にフラグが設定された場合、死ぬことでフラグは破壊されたとみなされる。つまりあたしが死ねば、ゆーりのフラグは破壊されることになる。

 しかし、少しややこしい話、あたし自身にフラグが設定されているわけではなく、あくまでゆーりが好きなものがフラグになるのだ。だから実際にはあたしが死んでもフラグが失われた状態になるだけでフラグは破壊されない。しかもあたしはゲームの仕様上何度でも復活する。

 これをゲームの審判をしていた女神が問題視したらしい。

「明文化されていないルールで、本来は破壊不能なフラグは設定してはいけないというこになっているんだって。だからマイだけはフラグが破壊された、という状態を作り出すために死ぬと生き返れない。このことをゆーりが知ると、ゆーりはゲームを強制終了しようとする。全てを終わらせてすぐに元の世界に戻ろうとする」

 イコがあたしをじっと見つめる。

「今、ゆーりは敵側の女神のそばにいる。だから、いまマイが死ねば、ゆーりはきっと敵側の女神を全て排除してゲームを終わらせようとする。女神側のフラグが失われれば、ルラちゃんがここにいても24時間経過でこちらの勝ちになる。その前にゆーりがこっちにもどってくると思うけど……」

 白い手が、再びあたしの喉元に伸ばされた。

「だから、ねえ、マイ。あたしの願いのために死んでくれない?」

「え? いやだよっ? そんな不確実な方法のために苦しい思いをする気は無いよっ!?」

 あたしが首を横に振ると、イコは伸ばした手を止めた。

「もう一つ、理由があるんだ」

「もうひとつ?」

「あたしが生き返れなかった理由を聞いた後、あたしは女神に妖精大戦のルールを詳しく聞いた。そうして、プレイヤーとしての資格を手に入れた」

「資格?」

「今、委員長くんが使っているあの光るウィンドウ。セカイツクールって呼ばれるアプリ。あれを扱う者が、扱えるものがプレイヤーとしての資格を持つんだ。一番最初のゲームにすらならなかった結末に納得していなかったあたしは、やり直しを要求した。時間を巻き戻すことはできるけどやらないという女神と交渉して、「まだゲームが始まっていない時間」にあたしの記憶を飛ばした」

「記憶を、飛ばす?」

 あたしに空から落ちてきたみたいな、ああいう記憶?

 つまり、イコ自身が時間を遡ってやり直しているわけじゃなくて、意識だけを飛ばしてるみたいな感じなんだろうか。

「端的に言うと、マイが死ねば、同列の存在であるあたしがプレイヤーとみなされる可能性が高い。そうするとすでに奪われたスズちゃんのフラグが無効化される。こちら側に自由に動かせるフラグが一つ戻る」


 ――だから死んでよ、とイコが無表情に笑った。

 なんかうまく整理できてないデス……。もう一回、魔王側の説明回続くかも。

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