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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第五話「俺的伝説の作り方」
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【魔王フェーズ】ちょっと特別なオンナノコのお話 その4

 舞子さん視点です。


【魔王フェーズ】

 『魔王ロラは にげだした!』

「……だだいまー」

 少し疲れたような顔をして、ゆーりを助けに行っていた女戦士さんが帰ってきた。

 一人、だけで。

 狐面とホワイトボードをぽいっと投げ捨て、つかれたわーとばかりに肩を回している。

 いつも着ていた白い鎧は壊れてしまったのだろうか。肩当てだけを身に着けていた。

「……」

 掲示板を見ていたイコは事情を把握しているらしく、女戦士さんを責める様な眼差しで見つめている。

「ねえ、ゆーりは?」

 あたしが問いかけると、女戦士さんはこちらを向いて小さく笑った。

「しばらく向こうに残るって」

「……そう。やっぱり、敵に回ったってことなのかなっ?」

 イコがため息を吐いた。

「あ、伝言があるわよ? えっとイコ宛には”積極的に敵対することはないけど、拠点の場所を聞かれたら答えるからそのつもりでいてほしい、かな”だって」

 言いながら、女戦士さんはワープポータル用の木の棒を何本か床に投げ出した。

「だから、いきなり拠点に攻め込まれないようにあの周辺のポータル引っこ抜いてきたよ」

「……そう」

 イコはまだ責める様な眼差しで女戦士さんを見つめている。

 それはこちらが攻められることがないのと同時に、こちらから急襲する手段を失ったということでもあるのだから。

「それとマイコ宛には”浮気はしてないから!”だって」

「……意味不明なんだけどっ?」

 浮気って、なんだっ!?

 え、向こうにゆーりが気に入るような誰かが居たってことなのかな? 戻ってこないのはそのせいだったり?

「でもって伝言も伝え終わったし、あたしの目的も果たしたし、そろそろ消えるね?」

 女戦士さんはそう言って小さく手を振った。

「え?」

 出て行っちゃうの!?

 ああ、でも、女戦士さんはゆーりが連れてきたわけだし。拘束する理由もないし。出ていくというのなら止めることはできないんだろうか。

「……ああ、今すぐこんなくだらないゲームを終わらせたいってゆーなら、魔王ユラ叩き斬ってあげてもいいけど、どうするー?」

「――やめて! 出ていくなら、今すぐ消えてっ!」

 本当かどうかもわからない、女戦士さんの冗談めかした言葉に、イコが過剰に反応した。

 その様子に。胸の奥で静かにぐるぐる回り続けていた何かが、ぴたりと静止した。

 ああ、つまり。

 イコは魔王くんを勝たせたがっていた。それはあたしたちの誰かを何かを救うためだと思っていたけれど。


 ――なんのことはない。要するに、イコが助けたかったのは魔王くんそのものだったんだ。


 そのことを理解してすぐにいろいろなことが腑に落ちた。

 魔王くんが初めてゆーりを見たときの微妙な視線。

 一番最初のとき。あたしたちにとっての最善はゲームに参加することじゃなくて、すぐさま元の世界に戻ることだった。イコが言うようにゆーりがあたしたちの世界の女神だというなら、もしかしたらゆーりならすぐさま全員を元の世界にもどせたのかもしれない。

 それをゲームに参加する方向に持って行ったのがイコ。

 不意に空から落ちてきた記憶。

 あれが、イコが魔王くんに協力したいと思うその原因なのだとしたら。イコはたぶん、あたしじゃない。あたしとは違う。だから、ユーリが敵に回るかもしれないって恐れている。

「ロラさん、いっちゃうのー?」

 お膝の上のルラちゃんが、女戦士さんに向かって首を傾げながら言った。

「目的は果たしたからね。ついでにタローも鍛えといたから、少しはまともな勝負になるんじゃないかな?」

 何かを確かめるように、手を握ったり開いたりしながら女戦士さんがルラちゃんを見つめた。

「タローってばさ、無意識なんだろうけど敵って認識してても武器を向けるのを忌避するところがあったのよね。でも、あたし相手に世界を切り裂く剣で本気の一撃放てるくらいになったから、だからたぶん大丈夫。女神ルラ、勇者タローへの剣術指南の依頼は完了ってことでいいわよね?」

「ん、了解したの」

「……んじゃ、あたしはいくわね。マイコ、女神ルラのことよろしくね?」

 女戦士さんは、小さく手を振って。

「ユーリに許可をもらったし、次はそっちのセカイにでも行ってみようかな……」

 小さくつぶやいて。ケットちゃんやシーちゃんの力を借りることなく、その場から消えてしまった。

 つまり、あの人も。只者じゃあないと思ってたけれど、女神なのかもしれなかった。




「……えーっというわけで、作戦会議するよっ!?」

 イコの呼びかけで、魔王くん陣営のほぼすべてが集まって今後のことについて話し合いをすることになった。

「悠里さんを連れ戻せなかった時点で、もうこちらの負けみたいな気がするけど」

 やや悲観的に委員長くんがため息を吐いた。

「最終的に元の世界に戻れるというのなら、僕たちはできることをしたし、ここで終わりにしてもいいんじゃないかな?」

 いつも前向きに考える委員長くんとしては珍しく、あきらめの言葉だった。

 しかしイコは委員くんをちらりと見ただけで、取り合おうとしなかった。あたしと違って、イコは微妙に委員長くんの扱いが軽い気がする。

「……使いたくない手段だったけど、まだ勝ち目がないわけじゃないんだよ」

 イコはそう言って、なぜかあたしをじっと見つめた。

「え、なに?」

 思わず尋ねると、イコは気まずそうについ、と目をそらした。

「改めて、現状の把握をしよっか……」

 そうして、イコの口から現状のまとめが語られた。

 まずこの妖精大戦というゲームの勝敗のカギとなるフラグ。

 現状でこちらの手にあるのは、魔王くんが持つ一つだけ。そして、身柄を押さえているルラちゃんの分。こちらはフラグを奪ったわけじゃないから、実質魔王くん陣営として現在保持しているフラグはひとつだけだ。

 対して敵側は。女神二人分のフラグに加え、ダンジョン占拠につかったスズちゃんのフラグを奪い、三つを所持。さらにはゆーりの身柄を押さえている。

 単純な勝ち負けなら、このまま時間経過を待つだけで女神側陣営の勝利が確定する。

 イコはこの時間切れになるのを恐れているらしく、何らかの強硬手段を取りたいと考えているようだった。

 ここからひっくり返すには、ルラちゃんからフラグを奪い、それを使ってまた敵の拠点を奪うことくらいしか考えられないけれど……。

 そんな風に考えて、お膝の上のルラちゃんを見つめると。

「……少し、口を出してもいいかしら?」

 ルラちゃんが、ぐるりと皆を見回すようにして言った。

「ぱんつ、脱ぐ気になったのかなっ!?」

 イコの問いに、ルラちゃんはニヤリとした笑みを浮かべて首を横に振った。

「欲しいなら、自分で脱がせてごらんなさい。それより、ひとつ言わせてもらうなら。わたしたちにとって時間切れを狙うことはありえないわ」

「それはどうして?」

「引き分けでは、すでに奪われた領域が魔王のものになるからよ? わたしたちにとって、勝ちというのは完全勝利しかありえないわ。つまり、拠点を攻めに来るより、ポータルを破壊して領域を奪い返すのが先になると思うわ。そちらの力をそぐことにもなるし」

「……しまった、その手があったんだ。完全に領域を失ったら、拠点だけあっても何もできなくなるっ!?」

 イコがあごに手を当てて何か考え込んだ。

 そうは言うものの、こちらに動かせるフラグが無い以上、ルラちゃんの神殿を押さえに行くこともできないし、敵の本拠地を攻めるのも自殺行為。

 こちらとしては為す術もないような……。

「まずはそっちの手を打っておかなきゃね……悪いけどみんな、手伝ってもらえる? ポータルの位置をずらしに行かないと、たぶんゆーりは全部のポータル覚えてると思うから」

 イコが矢継ぎ早に指示を飛ばした。

 こちらの人員は、アビリティ同好会の面々が、あたし、イコ、みっちー、タカシくん、委員長くんの五人。ほんとうはゆーりが入って五人なんだけどイコを入れておく。

 あたしとイコが連れてきた、人魚さんたち三人。

 みっちーが連れてきた羽の生えたオンナノコと、タカシくんが連れてきた角の生えたオトコノコ。

 イコの召喚ユニットである、ケットちゃん、シーちゃん、スズちゃんの三人。

 人じゃないけど、タカシくんの召喚ユニットである白い獣も人員に含めよう。

 総勢で十四人だ。

 このうち移動手段を持っているのが、ケットちゃん、シーちゃん、スズちゃん、白い獣と一緒のタカシくん、召喚アイテムを持ったみっちーの五人だ。

 純粋な戦闘力でいうなら、あたしとイコ、委員長くん以外は草原の魔物くらいは楽に相手できる。なのでうちの猫三匹と人魚さんたちがそれぞれペア、タカシくんと角のオトコノコのペア、みっちーと羽のオンナノコの五つのペアで、それぞれポータルの位置を変更しに出かけた。

 戦闘能力のないあたしとイコ、それに委員長くんはお留守番だ。

「委員長くんは悪いんだけど、ポータルで直接ここに乗りこまれないように、もう一段階階層作ってもらえるかなっ?」

「わかったよ」

 イコのお願いに、委員長くんが動き始める。

「うーん、でもそろそろマナってやつが足りなくなりそうだね。二面作戦のために相当無理をしたし……」

 委員長くんが空中に光るウィンドウを表示させて、拠点のレイアウトをいじり始めた。

「でもさ……今拠点を攻められたら、どうしようもないんじゃないっ?」

 あたしがなんとなく思いついたことを口にしたら、イコが慌てた様子でルラちゃんをにらんだ。

「……まさか、あたしたちを誘導したのかなっ!?」

「そんなつもりはないのよ? でも、結果的にそうなってもわたしのせいじゃないと思うわ?」

 ルラちゃんはニヤニヤとした笑みを浮かべて、あたしにもたれかかって頬を摺り寄せた。かわいい。……けど、なにかごまかしてくるくさい。

「それに、みんなを遠ざけたのは、別の理由もあるんでしょう?」

 ルラちゃんが、どこか見透かしたようにイコを見つめた。

「……それは、どういうことだい?」

 拠点のレイアウトをいじっていた委員長くんが、手を止めないままで顔だけこちらを向いた。

「それは、先ほど言っていた、使いたくない手段とやらの話かい?」

「うん……そうだね。いきなりだとあれだし、話しておこうかな」

 イコがそう言って、あたしの隣に座った。

「ルラちゃんは、黙っててねっ? これはこっちの話だから」

 つん、とあたしの膝の上のルラちゃんの頬をつついて、視線をあさっての方向に向ける。

「ええ、いいわよ」

 ルラちゃんが口と一緒に目を閉じた。ついでに両手で耳までふさぐ。

「……本当は知ってるくせに、聞かないふりなんて」

 イコが小さくつぶやく。ルラちゃんは聞こえないふりをしたままだ。

「イコ、さっきもあたしの方見てたし、使いたくない手段ってあたしが関係してるのかなっ?」

 そっとルラちゃんの頭をなでながら言うと。

「……そうだよ。端的に言うと、マイ、あなた自身がフラグなんだ」

 イコがうなずいて、わけのわからないことを言った。

「どゆこと?」

 首を傾げるあたしの問いに答えずに、さらにイコが言った。

「そして、プレイヤーにもなりうる、ちょっと特別なオンナノコ。事実あたしは、前の周回ではプレイヤーの一人だったこともある。今回のあたしは召喚ユニット扱いだからプレイヤーにはなれないけれど、マイならたぶん、プレイヤーになる資格がある」

 イコが伸ばした手が、あたしの肩に触れた。

「マイ……」

 肩に触れた手が、そのままあたしの首に。

「だから、ねえ、あたしの願いのために、死んでくれないかな?」

「……え?」

 茫然とイコを見つめ返すあたしの喉に回された手に――力が込められた。

 女神側も魔王側もキャラ多すぎ……。

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