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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第五話「俺的伝説の作り方」
189/246

【魔王フェーズ】ちょっと特別なオンナノコのお話 その3

 舞子さん視点です。


【魔王フェーズ】

 『魔王は逃げ出した!』

 『真の魔王が現れた!?』


 ルラちゃんの衝撃の告白の後。

 魔王くんとクロくんは、顔を見合わせてどこかに消えてしまった。きっとイコがやらかしたいろいろを含めて、今後の対応を練り直すつもりなのだろう。

 現状はこちらが有利な状況ではあるけれど、最終的にはフラグの数が勝敗を決めるわけだから、フラグの増減がない今の状態ではまだ安心することはできないしね。

 ……魔王くんたちが、あたしたちときちんと協力してくれるといいんだけど。

 何も言わずに姿を消した二人に、少しばかり不満を覚える。

 今のところあたしたちはイコの指示に従って動いているけれど、最終的にはこのゲームの主体である大元の魔王くんが動かなければどうしようもない。

 あたしらだけが頑張ってもしょうがないと思うんだよね。

 腕の中のルラちゃんを抱きしめる。

 踊り疲れたのか、ルラちゃんは少しぐったりとあたしにもたれかかっている。

 その小さな頭をそっとなでなでして、ひとつ息を吐いた。

 はやく、こんな茶番劇は終わりにするべきだと思うんだ。




「――え? どゆこと」

 イコが携帯電話を片手に、声を上げた。

「どしたの、イコ?」

 声をかけると、慌てた様子のイコがこちらを向いた。

「……っ」

 何か言いかけて、それからケットちゃんとシーちゃんを呼んで何か指示を出し始めた。

「なにかあったのかしら?」

 みっちーの問いかけにも答えず、イコは何やら難しい顔で考え込んでいる。

 携帯って、掲示板でなにかあったんだろうか。

 イコが持っている携帯電話は当然あたしの持つものと全く同じもので、なので当然イコの携帯電話からもネットにつなげたり掲示板に書き込みはできるのだ。

 IDとか一緒になっちゃうのであたしが書いたのかイコが書いたのかわかりにくいけどね。

 たまに委員長くんとかも書き込んだりしてるみたいで割とカオスな状態だ。

「……んー」

 掲示板を表示させて、少し前から流れを追って見る。

 へー、向こう側にどこかから助っ人とか来たんだね。

 って、もうゆーりの迷宮攻略され始めてるのっ? 向こうだって後がないからしばらくは動けないと思ってたのに!

 大変だ。ゆーり一人だと心配だ。いくら素敵に無敵な彼女だって、創りかけの迷宮でどれだけ持ちこたえられるだろう。

 イコの書き込みによると、イコはどうやら向こうの助っ人について知らなかった様子。

 おそらく迷宮を占拠したのだって今回が初めてなのだろうから、イコが知らない展開になりつつある、ということなのだろう。

「……イコ、大丈夫?」

 声をかけると。

「……最悪、もうゆーりは敵の手に落ちたかもしれない」

 意外なことに、イコの口からはずいぶんと悲観的な言葉がこぼれた。

「え? だって、ゆーりだよ?」

 九尾のキューちゃんだって一緒だし、心配はしたものの流石に敵の手に落ちるだなんて、そんな風には思っていなかったのに。

 多勢に無勢だった、かな、とか言いながら逃げてくると思っていたのに。

 敵の手に落ちるって、そんな。

「……ゆーり、だからだよ」

 イコは下唇を噛みしめるようにして、じっとあたしを見つめた。

「ゆーりはあたしと違って、魔王くんを勝たせることを至上の命題としていないから。さらに最悪の場合はこちらの敵に回る可能性すらあるよ」

「そんな、まさか」

 ……あたしたちの敵に回るなんて、あるわけがないよ。

 言いかけて口をつぐんだ。

 イコは、初めて会った時からなぜかゆーりを警戒していたことを思い出したからだ。

 わざと離れた方向に向かって、さらには頭をくっつけて念話で話すなんていう念の入れようだった。

「……」

 イコはしばらく黙っていたけれど、不意にあたしのおでこにこつん、と自分のおでこをくっつけた。

『マイにだけは伝えとくね。ゆーりは、あたしたちの世界の女神なの。つまりは、ユマちゃんと、魔王ユラと同じってこと。面白そうだからゲームに参加したみたいだけれど、必ずしも魔王くんのことを快く思っているわけじゃない』

 え、ゆーりが、女神? それってどういうこと?

 ぴこ、とあたしの腕の中で、ルラちゃんが顔を上げた。

「ふむふむ、なのー」

 え、ルラちゃんもしかして聞こえてる?

「だてに女神はなのってないのー」

「ちょっと、そこ、三人で内緒話はやめてくれないかしら?」

 ルラちゃんの声で気が付いたのだろう、みっちーが訝しげにこちらを見つめていた。

「……」

 イコがあたしから離れて。そこにケットちゃんとシーちゃんが戻ってきて「にゃーですにゃー!」と鳴いた。

「……そうなんだ」

 ケットちゃんとシーちゃんの報告を聞いたイコは深くため息を吐いた。

「ゆーりが敵の手に落ちたみたい」

「え」

 どうやらケットちゃんとシーちゃんにはゆーりの様子を見に行ってもらっていたらしい。

「……ちょっと、大丈夫なの?」

 慌てた様子でみっちーが詰め寄ってくるが、イコはそれを片手で制した。

「大丈夫。このゲームは殺し合いじゃない。傷つけ合うこともあるけれど、それが目的じゃあないよ。向こうだって、ひどいことはしないはず」

 言いながら、ルラちゃんを見つめる。

「……そうね、わたしとわたしのおにいちゃんは、必要もなく他人を傷つけるにんげんじゃないわよ?」

 ルラちゃんが小さく頷いた。

「……そのおにいちゃん、って、たぶんあの時迷宮で会った人だよね?」

 あたしと同じ形のスカウターを持っていたひと。

 思わず興奮して話しかけてしまったが、本当は接触するべきではなかった。二十代半ばくらいだったろうか。どこにでもいそうな、特に特徴のない男の人だったと思う。

 ただ、子供好きそうな、やさしい微笑が印象的だった。

 あの人が勇者なのだっら、きっと、ゆーりにひどいことをしたりはしないだろうと思えた。

 ……ただ、ゆーりの方が少々男性が苦手なところがあるから、逆に少しばかり心配なんだよね。

 ゆーりの姿には、声には、少しばかり強烈な力がある。

 ゆーりに、好き、って言われたあたしが、百合っけもないのに恋に落ちかけたように。

 あの声で、あの顔で、キライと言われただけで、たぶん普通の人は自殺しかねない。

 イコがゆーりのことを女神とかいってたけど、そうであるならあの力にも納得できなくもない。

「おにいちゃんは、へたれだからきっとだいじょうぶなのー!」

 ルラちゃんが元気に両手を上げた。

 そうだねー、とその頭をなでなでしてあげると、ルラちゃんは気持ちよさ気に目を細めた。かわいい。




「……それで、どうするんだい?」

 委員長くんが腕組みしてイコに問いかけた。

「つまり、悠里さんを助けに行くのか、それとも他に何か考えがあるのか、どうするのかってことなんだけど」

「敵側の構成から考えて、あの迷宮を支配するために置いたスズちゃんのフラグは奪われたとみていいかな」

 イコは委員長くんの問いをはぐらかすようにそう言って、一人でくるくる踊るスズちゃんを見つめた。

「これで向こうのフラグは元通り三つ。たぶん、向こうもゆーりの持つフラグは奪えないと思うけど、身柄を押さえられたらどうしようもないよね。こっちもルラちゃんを押さえてるし。そうなると、こっちに残るフラグは魔王くんの持つものだけ。魔王くんを動かすわけにはいかないから、一気に逆転されちゃったみたい。このままだと、現状を維持するだけでタイムアップで向こうの勝ちになるね……」

 ため息を吐いて、イコがルラちゃんを見つめる。

「……ねえ、ルラちゃん、ぱんつを脱ぐ気は無い?」

「ほしかったら、力づくでぬがすがいいのー」

「……いや、仮にルラちゃんが脱いだところで、それ、魔王くんに穿かせる気?」

 思わずツッコミを入れると、イコはまた深くため息を吐いた。

「フラグを手に入れるだけなら、別にプレイヤーじゃなくても大丈夫。でも、最終的には魔王くんに穿かせなきゃだめかな。スズちゃんはプレイヤーであると同時にユニットの一人だから条件を満たすには微妙だし。他人のぱんつなんてイヤかもしれないけど、我慢してもらわなきゃね」

「……イコさん、さっきから微妙に僕の質問を無視しているのは意図的な物なのかな?」

 委員長くんが、珍しく少し苛立たしげな様子で口を挟んできた。

「方針を決めるにしろ、現状の把握は大切だと思わない? つまり、さっきまでとは逆に、こちらがほとんど詰んじゃってるわけなんだけど」

 肩をすくめるイコ。それに委員長くんが反論する。

「現状の把握が必要だということには同意するけれど、詰んでいるというのはおかしくないかな? いや、悠里さんがフラグを持っているというのも初耳なんだけど、それが敵に奪われないというのであれば、まずは悠里さんを助けに行くのが一番なんじゃないかな?」

 事情を知らなければ、委員長くんの考えが正しいのだと思う。

 イコは、ゆーりが敵に回る可能性をかなり高く見積もっているようだ。それに、こちらの最大戦力でもあったゆーりがあっさり落ちるだなんて、それを取り戻すにはこちらも総力を挙げる必要があると思う。

 そうなるとやっぱり。

 詰んでる、よね……。

 あるいは、イコがやろうとしたように、無理やりルラちゃんのぱんつを奪うか。

 魔王くんが非協力的な上に、自由に動かせるフラグが無い状態ではどうしようもない。

「……ねえ、ルラちゃん」

「……」

 腕の中のルラちゃんを見つめると、あたしの顔を見上げてニヤリとした笑みを浮かべた。

 脱がせるのならどうぞ、とでも言いたげな顔だった。



 トントン、と何かの角を叩く軽い音がして。

 見上げると、ゆーりの連れてきた女戦士さんがホワイトボードを片手に立っていた。

『ゆーりを取り返して来ればいいのよね? 行ってくる』

「ロラさん、なんでそっち側についてるのかしら……?」

 ルラちゃんが女戦士さんを見つめてつぶやいた。

 やっぱり、知り合いみたいだ。

『敵意も悪意もないけれど、少しばかり思うところがあるわけよ』

 女戦士さんはホワイトボードを振って、ケットちゃんを抱きかかえた。

『いってくるわね』

「待って」

 イコが止めようとしたけれど、女戦士さんは振り返りもせずにケットちゃんが開いたドアの向こう側に消えてしまった。

 ルラちゃんをさらってきた手際と言い、期待してもいいのだろうか。

 ぎゅうとルラちゃんを抱きしめる。


 ……どうなっちゃうんだろう。

 どっちが勝っても、たぶんきっと誰かが不幸になるのは変わらない。

 でも、だからこそ。誰もが微笑むことができる結末が欲しいと思った。

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