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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第五話「俺的伝説の作り方」
187/246

15、「ラストバトル?」

【女神フェーズ】

 『勇者は こんらん している!』

 ――見てはいけない。あれは、直視してはいけない。


 そう感じるのに、おもわず見てしまった。

 何を模したのかも不明な、醜悪なデフォルメをされた白い四足の。

「きゅーん?」

 気の抜ける、かわいらしい声で鳴きながら、それはただその場に坐していた。

 その場にいるだけで、尋常でない圧力を感じる。

 知らなければ、俺はそれを、ただ巨大なだけのバケモノとしか思わなかっただろう。

 だかしかし、少しばかり女神たちとかかわりを持ちすぎ、自身が半ば女神の仲間入りをしている今の俺にとって、ソレはただのバケモノとは思えなかった。

 ソレは無数の微小な点で構成されていた。

 赤、緑、青、色とりどりの、何千、何億、何兆、あるいはけいがいを超えて、那由多なゆたにも達するであろう無数の光の点。

 その一つ一つが、恐るべき力を秘めた恒星であり星系であり銀河であり、その点の一つをとってすら俺とは比べることのできないほど強大で偉大な存在だった。

 塵芥どころか、俺など素粒子よりもちっぽけな。

 ああ、こんな、まるで宇宙そのものを。いや世界そのものを前に対峙した様なこの恐怖はなんと表したものだろうか。

 ……まさに筆舌に尽くしがたい。



「何を呆けている、勇者よ? ラスボスのお出ましだ、相手をしてやるのが礼儀というものだろう」

 何事もなかったかのように、レイルさんがソレの前に立っている。

 俺以外の皆は、すでに戦闘態勢を整え終えて、相手の出方を見守っている。魔王を名乗る、ゆーりとのあの異常な会話などなかったかのように。

 目の前のソレをただのケモノとしか見ていない。

「……たろー」

 袖を引かれて、見るとみぃちゃんがぎゅっと俺の服の袖を握ったまま、強い瞳で俺を見上げていた。

「にげるなら、それでもいいのです」

 俺に触れているみぃちゃんは、俺の感じているものを知った上で、それでもソレと対峙していた。

「ただ、後悔はしないでほしいのです」

「みぃちゃん……」

 みぃちゃんが魔王を名乗る少年の前に立って、俺を守ろうとしたその姿を俺は忘れていない。

 敵が強そうで怖いからって、そんなことでいちいち逃げてたら勇者だなんて名乗っていられない。

「タロウ様」

 反対側の袖を、りあちゃんが握った。

 俺が背後にいるだけで、なんでもできそうだと笑った、りあちゃんのあの笑顔を裏切りたくはない。

 ぴこん、と我知らず頭上のねこみみがはねた。どうやらティア・ローも俺に何か言いたげなようだ。

 ……ああ、わかってるよ。

 なにより、この戦い。ルラレラ世界がかかっている。

 本命の魔王はまだ姿すら見せていない。

 あのクソ生意気な白い少年の横っ面をひっぱたいてやらなければ、ケツのひとつも蹴り飛ばしてやらなければ、気が済まない。

「……うん、ごめん二人とも」

 自分の頬を張って気合いを入れなおす。

「じゃ、やろうか! ラストバトル」




 前衛は、真白さん、ニャアちゃんが憑依した真人くん、ランさん、シェイラさん、ミルトティアさん、りあちゃん。

 中衛が俺とみぃちゃん。

 後衛がヴァルナさんとレイルさん。

 ひどく前衛に偏ってはいるが、まあデカブツとやり合うには足止めする前衛がいなくちゃ話にならない。

 ちなみにわん子さんは、少し離れたところで鼻からぴすぴすと荒い息を吐きながら一心不乱に手帳に何やら書き込んでいるので戦闘には不参加だ。

 こちらが体勢を整えたと見たのか、白い獣は「きゅーん」と一声鳴いて口を開けた。

 耳までどころか、上あごが外れるくらいにめくりあがり、闇の底のような口腔がこちらに向けられた。

「いかん、ブレスの類かっ!? 前衛下がれっ!」

 レイルさんとヴァルナさんが防御系の魔法を構築し。

 俺も。

「ナビ!」

「はいですよー」

 ナビに命じて光の盾を前衛の前に発生させる。

「きゅあーん」

 紫色の、毒々しい煙が吐き出された。

「まずいっ!」

 俺の光の盾は、単純な物理攻撃と魔法を想定したものだ。息が出来なくなると困るので、空気の遮断まではしていない。

「毒かっ!?」

 レイルさんが新たな魔法を構築する。空中に魔法陣のようなものが浮かび、新たな光の幕がオーロラのように俺たちを包む。

 しかし、じりじりと毒の煙は火花を散らして侵入してくる。

 たまらずに前衛組が下がってくる。

「ちょ、これなにさー!?」

 ミルトティアさんが、羽を広げてばっさばっさとやるが、まるで意思でも持つかのように紫色の煙はこちらに忍び寄ってくる。

「ですっ!」

 みぃちゃんの風の魔法が吹き荒れるが、わずかに揺れるばかりで煙は散らない。

「いきなりこれですか」

「毒持ちとか、前衛にはきついですね」

 真白さんと真人くんが、ため息を吐いた。

 何か手は無いだろうか。しかし、毒を持つ獣? なんとなくしっぽのように見えなくもないものが何本もあるようだし、まさか九尾の狐、というやつなのかアレは。

 どうみても狐には見えないんだが。

「……ぶっつけ本番はまずいかと思ってたけど、贅沢言ってらんねーよな。ナビ、いけるか?」

「はいですよー」

 スマホから飛び出して以来、ナビは俺の肩や胸ポケットに入り込んでいるので、いちいち的にスマホを向けなくて済むので楽になった。

「”奈落の星グラヴィティ”」

 ソディアの助けを借りて、有効と思われる数か所にビー玉ほどの黒い点を浮かばせる。

 いちどティア・ローの時にしくじった重力魔法。それをナビの力を借りて創世魔法で作り直したものだ。効果は、全然重力じゃなかったりするんだけどなっ!

「対象:紫の煙」

 創世魔法は物理現象でなくて概念に近いので、こんな無茶ができる。

 指定したものだけを引き寄せる、とかな。

 みるみるうちに、俺の放った奈落の星に煙が吸い寄せられていく。

「ふむ、相変わらず興味深い魔法を使うのだな」

 ちびっこヴァルナさんが、ほう、と感嘆した様な息を吐いた。概ねナビの力によるものなのでそんなに感心されても面はゆい。

「なるだけ遠距離攻撃でいこう!」

 俺はレーザー主体でいくか。

 ティア・ローと違ってこっちの魔法は使えないのでホーミングレーザーにできないのが少し残念だ。




 煙を吐き出したままの体勢でじっとしていた九尾の狐(仮)は、毒が効かないとみるや長い触手のようなしっぽを振り回してきた。巨体にも関わらず、スピードがとんでもない。

「物理攻撃でくるならー、こっちもお返ししましょうかねー」

 謎のお面を被ったシェイラさんが、どこから取り出したのか異常な長さの大剣を振り回した。

 身長の倍はあるだろうか、重そうな剣を振り回し、その反動で空中に飛び上がる。そのままぶん、くるり、ぶん、くるり、と回転しながら天井近くまで登って行く。

 きっと脳天から一発ぶちかます気なのだろう。

「きゅーん」

 それに対応して、触手のようなしっぽが、空中のシェイラさんを襲おうとする。

「……(斬る・キル・KILLだよー! らんちゃんに斬れぬものなしぃ~)」

 腰だめに構えた刀にランさんが一瞬手をかけた、と思った瞬間、その触手がコマ切れになって塵と消えた。どう考えても距離的にも無理だろうと思うのだが、ランさんも結構とんでもない。斬撃とか飛ばしてるんだろうか。

「きゅーん?」

 かまわず別な触手を伸ばしてくる。

「させるか」

 大技の準備をしていたらしいレイルさんが、二人に分裂して片方が新たな呪文を唱え始める。

 デュアルキャルトってやつかな、かっこいー。

 俺も援護をしなくちゃな。前衛に迷惑かけないやつだと……。ネタっぽいけど。

「”餅は餅屋バードライム”」

 要するにトリモチだ。ねばねばしたやつで敵の足を止めようという、それだけのネタだったのだが。

「きゅ、きゅーん?」

 むしろ、瞬間接着剤的な感じになっちゃったんだよなー。

 振り回そうとした触手が、床に貼りついて離れなくなったようだ。

「いっきまっすよー」

 空中でぶんぐるぶんぐる大剣を振り回していたシェイラさんが、ぴたりと止まる。

「どっかーん」

 縦に回転しながら。

 九尾の狐(仮)の脳天に一発ぶちかます。

 しかし。

「あひゃあ」

 がこーん、と硬いものにあたる音がして弾き飛ばされるシェイラさん。

「りあと」

「みるとてぃあのー」

 そこへ突進する二人のどらごん。

「「だぶるどらごんきーっくっ!」」

 仮面をかぶったバイク乗りのごとく、両足をそろえて錐もみ回転しながらりあちゃんとミルトティアさんがドロップキックを放つ。

 って、なんでドロップキック?

「きゅー、きゅ?」

 触手で振り払おうとして、またトリモチに捕まる。

「あははー! くっらえー!」

 嬉々とした表情でミルトティアさんが。

「きゅー」

 ぺちん、と前足ではたき落された。

「……いったーい」

 痛いで済むのかー。頑丈だなさすがどらごん。

 って、りあちゃんはっ!?

「ううー」

 足を押さえて床に転がっていた。当てるのには成功したものの、自分の方がダメージを受けてしまったらしい。

「……流石にちょっと、勝てる方法が見えないですね」

 遠距離攻撃手段のないらしい真白さんが、剣を片手にうなっていた。

「いや、たぶん、勝つ方法はあると思う……?」

 思わず口にしてから、自分でも一瞬疑問に思い、それからひとつうなずいた。

「うん、勝つ方法はあるはずだ」

「その根拠はなんですか、鈴里さん?」

「あの魔王は、ゲーム好きっぽかったから。きっと、勝負として成り立たないようなバランスにはしていないはず」

 自分で言っておきながら、ずいぶんとあやふやな理由だった。

 彼女の作った”ゆーりの迷宮”を解析した俺は、突貫作業でありながらも丁寧に謎解きやテキストが設定されていることに賞賛に近いものを感じていた。

 ゲームブックっぽい、理不尽なエンドはほとんどなかった。注意すれば気が付くことが出来るようなヒントが随所にちりばめられ、決して誰にもクリアされないことを目指した罠のようなものではなく、誰かにクリアしてほしいという、楽しんでほしいという製作者の意思を感じた。

 だから、きっと。

「なにか、勝つ方法はあるはず。それは必ずしも目の前のバケモノを倒すということではないと思う」

 ミルトティアさんのモビルスーツみたいなドラゴンとがそうだったよな。

 寧子さんが物理的にやっちゃったからアレだけど、本体あれは「勝てない敵に遭遇した時の心構え」をするためのイベントだった。

 正直、アレが何かを部分的にでも知ってしまっている俺は、アレを倒すなんて不可能であることを知ってしまっている。セカイを滅ぼす剣を、那由多の回数振り下ろしても滅ぼせるか疑問なくらいだし。

 そうなると、何か別の勝利条件、あるいはフラグがあるんじゃないかと思われる。

 それは……なんだろう。これまでに何かヒントはあっただろうか。

 しかし、こうなると、一番最初の即死トラップがなんだか異色だな。あれは、別の誰かがしかけたものなのかもしれない。

「なにをなやんでるんですかーっ!? 読者は勇者のかっこいい戦いをのぞんでいるってゆーのに、もう少し頑張ってくださいよぅ!」

 ぱたぱたしっぽを振るわん子さんの声に、我に返った。

 戦況はこう着状態。

 俺の考えは半分ほどあたっていたらしく、九尾の狐(仮)はあまり積極的にこちらに仕掛けてくることは無いようだ。

 皆が散発的に魔法や遠距離攻撃を放っているが、まるで効いていない。コマ切れにしたはずの触手もいつの間にか元に戻っている。

「こう、すぱーっと! 決めちゃってくださいよ勇者さまっ!」

「そう言われてもな……」

「ほら、首のとこよく見てくださいよっ!」

「……首?」

 もともと直視するのがはばかられるほどに気色の悪い九尾の狐(仮)ではあったが。

 よく見ると喉元に首輪のように模様が描かれていた。

「←ココガジャクテンヨクネラウトイイヨ←ココガジャクテンヨクネラウトイイヨ……」


 模様じゃなくて、カタカナで弱点が書いてあった……。

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