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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第五話「俺的伝説の作り方」
172/246

 4、「迷宮に出会いを求めていたわけじゃないけれど」

【女神フェーズ】


 『――魔王の しもべが あらわれた!


  勇者たろうは ぼーっとしている』

 ――気を取り直して、冒険を続けよう。


 シルヴィの創ったダンジョンは、思った以上に本格的な作りだった。といっても、あくまで本物そっくり、なのであって本当のダンジョンというわけではないらしい。

 一見、きちんと石を積み上げて作ったように見える壁だが、一番外側はセメントで出来た壁に装飾的に薄い石の板を張り付けた物のようだったし、内側の壁は本物そっくりの質感ではあったが、どうやら本物の石でなく合成素材っぽかった。おそらく柱だけが本物で、定期的に壁を移動させて迷宮の構造を変えられるような作りになっているのだろう。

 新聞紙の剣じゃ無理だけど、ソディアとかで切り付けたら、壁をぶち抜くことが出来そうだ。もっとも、そんな邪道な手段で迷宮クリアを目指したりはしないが。

 ……しかし、日本人が設計したせいなのだろうか。真っ暗でかなり雰囲気のある迷宮でありながらところどころに「非常口」と書かれた緑色のランプが設置されているのはどうにも雰囲気が。いや、何かあった時の用意をするのは大事なことだろう。セラ世界のシェイラさんとこの迷宮もややテーマパークじみていたが、こちらはテーマパークそのものものなんだし。安全が考慮されているのは正しいのだろう。

 まぁ、何にしても。

 シェイラさんのところのダンジョンとは違って、こちらはこちらならではのワクワクがありそうなのは確かなのだった。




「――とりあえず、左手の法則で行ってみるか」

「ふむ」

 ダロウカちゃんが、鼻からむふーと息を吐いた。

 見かけが幼い割に、割といろいろな知識を持っているダロウカちゃんは知っていたようだ。

 まぁ、別に右手でも構わないんだけど、ダンジョンの壁に片手をついて歩くと、いつかはゴールにたどり着くという、あの法則のことだ。

 ……実際には入り口と出口が一番外側の外壁に面してないとだめだとか、立体構造だとだめだとか、もうちょっといくつか条件があって、シルヴィのダンジョンがそれに合致しているのかは定かではなかったのだが、まあ闇雲に歩き回るよりはましなはずだ。

「隊列はどうしましょうか?」

 真人くんが、こちらを向いて言った。

「まぁ、普通に前衛後衛で前後にわかれたらいいんじゃないかな?」

 迷宮案内人のシェイラさんいわく、隊列を組むのは迷宮の心得そのいち、だそうだが。

 ……ってそういや結局そのいちしか聞いてないような、ってそんなことはどうでもいいか。

「じゃあ、私と真人、鈴里さんが前衛で、あとは後列かな?」

 真白さんがぐるりと皆を見回しながら言った。

 俺と真白さんが戦士役で、俺は盾を持っていて盾役寄り、真白さんは少し大きめの新聞紙ソードを両手持ちにしてアタッカー寄りだ。セラ世界で双剣使いの真人くんは、ダガーを両手にそれぞれ持った盗賊役だ。

 当たり前と言えば当たり前の話なのだが、ゲームとかと違って特に制限なしに二刀流とかできるのが素晴らしい。よくあるゲームだと、一部の職業しか二刀流できなかったりするんだよな。

 まおちゃんとダロウカちゃんは魔法使いだ。まおちゃんは指輪を、ダロウカちゃんは新聞紙で出来た杖を装備している。

 りる姉は他のみんなが職業を決めた後に、「じゃお姉ちゃん、回復役やるわね」とちょっと残念そうに言って僧侶を選んだ。派手なスキルのある戦士とか武闘家をやりたかったのかもしれないが、流石に回復役不在はまずいと思ったのだろう。

 ……もし寧子さんだったら、ひゃっふー!脳筋パーティだよっ!とか言いながら武闘家とかやってたんだろうなーと思う。

 もちろん、俺もりる姉も裏仕様を熟知した上でプレイするわけだからいろいろと抜け道は考えてある。りる姉は、僧侶として聖印を持ちながら、両手に武道家用の小手を装備していた。

 いわゆる、修道僧モンクスタイルというやつだ。

 実は俺とりる姉の作った、シルヴィのダンジョンの戦闘システム。メインの職業と違う武器を持つことで、複数の役割を果たせたりするのだった。

 もっとも、基本的に呪文やスキルの習得はメインの職業に依存し武器によらないので、そのままではだた拳で殴るだけの僧侶に過ぎない。なので、こっそり一部の組み合わせのみ特別な効果を発揮するように仕込んでおいたのだ。

 代表的なのが右手に剣、左手に杖を持った魔法戦士。それにりる姉のような格闘戦をする僧侶である修道僧モンクだ。戦士が剣や鎧を装備したまま聖印を持てば、聖騎士なんて言うこともできる。

 ……元は一部のスキルが職業じゃなくて武器に依存してるってゆーバグだったんだけどなー。



 隊列を組んで、しばらく歩いて。

「……しかし、思ったより単純な作りなんだな?」

 左手を壁に付けて歩いていた俺は、どこまでもまっすぐに続く通路に首を傾げた。

 おそらく俺が手をついているのは一番外側の外壁だから、まっすぐでもおかしくはないのだが。

 カンテラで反対側の壁を照らしてみると、内側らしい右側の壁にはいくつも横道があった。

「あれですよね、外側の壁が、口みたいな形になってて、階段が壁際じゃなくて内側のどこかだったりしたら、使えないんじゃないですか、その左手の法則」

 真白さんがつぶやいた。

 なるほど確かに口みたいな形になってたら、一周してもとの入り口に戻るだけだよな。

「まぁ、まだ角の一つも曲がってないし、もう少しこのまま歩いてみよう」

「そうですね」

 特にみんな異論がないようだったので、俺たちはそのまま壁に手をついて歩き続けた。



「……敵役も出ないんだな?」

 ダンジョンに入ってすぐに、どこかで見たような青い子猫が一匹出たっきりだ。

 午前中はなんかメイドさんとか出たって、サボリーマンさんが言ってたんだけどな?

「そうですねぇ」

 真白さんが相槌を打って、ちょっと首を傾げた。

「……!!」

 まおちゃんが、何か口を開けてぱくぱくしているけれどよく聞こえなかった。

「まお殿の話ではまだスタッフが少ないらしいし、午前中と違ってたくさんの人が迷宮を歩いているから、エンカウントしにくいのではないだろうか?」

 隣にいたダロウカちゃんには、まおちゃんの声が聞こえていたらしい。

「……ああ、そういや結構ひとがいたよな」

 ダンジョンの入り口はいくつかあって、取り合いにならないように少し入る時間を遅らせたり、別の場所から入ったりして、俺たちを含めて五、六パーティは入っているはずだ。

 とすると、通路を徘徊するような敵役の人は向こうも動いているだろうし、戦闘して負けたらいったん控室に引っ込むらしいので、スタッフの数が少なければたまたま出会わなかった、ということもあるのだろう。

「これはシルヴィに伝えとかないといけないなー」

「そうですねー、まだプレオープンでスタッフが少ないとは聞いていましたが、これだけ歩いて出会わないというのは、ちょっと物足りないです」

 真白さんが言いながら、何かを指折り数えた。

「えーっと、これまでに3回角を曲がりましたし、入り口に戻ったら今度は内側の壁の方伝ってみませんか?」

「ああ、そうですね……」

 真白さんに答えて、その時、不意に何かを感じた。

「……」

 前方の、闇の中から。

 ふわり、白い影が浮かび上がった。

「む、噂をすれば、というやつだろうか」

 ダロウカちゃんが嬉しげな声をあげ、俺たちは武器を構えて待ち受ける。

「……ティ」

 闇の中から、染み出すように現れた白い影は、まるで粘土をこねて作った出来損ないの人形のようだった。

 目も鼻もなくのっぺらぼうな顔には、ただ横一文字に赤い亀裂がぱっくりと開いており、そこからは「ティ・リ・リ・リィ……?」と不気味なうめき声が漏れ出していた。

 人を模した造形でありながら、まるで人に似ていない。

 関節の向きも、手足の付いている位置も、長さも、とても人間ではない。

 ぬた、ぬた、と奇妙な足音を立てて、ふらふらと身体をゆらしながら、ゆっくりとこちらに這い寄ってくる。

 ……これ、子供が見たら泣くんじゃね? すっげー気持ち悪いんだけどっ!?

「……;;」

「キモチワルイ」

 案の定、まおちゃんと、ダロウカちゃんが泣きそうな顔をしている。

「これ、クレイゴーレムとか、そういうやつですかね?」

 真人くんが両手に新聞紙ダガーを構えたまま、緊張した様子もなくつぶやいた。

「……いやどっちかってゆーと、ゾンビ系っぽくないか?」

 あるいは死体を縫い合わせて作るフレッシュゴーレムとか。

 何にしても、あの動きと関節の向きからして、あれはスタッフが中に入ってるわけじゃなくて、魔法生物とかその類のものだろう。

「……動きが、気持ち悪いわね」

 りる姉が、ぼそりとつぶやいて。

 次の瞬間。

「おねえちゃんぱーんち!」

 全力でりる姉が白粘土を殴り飛ばしていた。

 ぐるぐると空中で横に三回転ぐらいして、白粘土はべちゃりと床に落ちた。そのままぴくりとも動かない。

「……りる姉?」

「……え、だって気持ち悪かったし?」

 クリティカルヒットでも発生したのだろうか。どうやら一撃で倒してしまったようだ。

 とすると、やはりあの白粘土はアンデッド系統の設定だったらしい。確か僧侶系の隠しスキルとしてアンデッドモンスターに特攻がついてたはずだった。 

 ……おねえちゃんぱんち、おそるべし。




「……経験値は入ったっぽいけど、何も落とさなかったな」

 身体ものっぺらぼうで、何一つ身に着けていなかったから当然と言えば当然な気もするけれど。せっかく戦闘に勝ったのに、何も得られなかったのは少し残念だった。

「それより少し気になったのだが……。先ほどの白いヤツは、HPのゲージがなかったような気がするのだが、私の気のせいだろうか?」

 ダロウカちゃんが、腕組みをして首を傾げている。

「え、そう?」

 転がっている白粘土は既に控室に飛ばされたのか、姿が見えなくなっていて、もう確かめることもできない。

「HPゲージが表示されない状態、つまりここのダンジョンのシステムに乗っていない場合、一定時間で入り口に飛ばされる仕様だったはずだけど……?」

 りる姉も首を斜めにした。

「……いや、そうであるならば、私の気のせいだったのだろう。騒がせてすまない」

 ダロウカちゃんは首を横に振って、息をひとつ吐いた。

「ところで、そろそろ元の入り口あたり?」

 真白さんが、きょろきょろとあたりを見回して不思議そうに首を傾げた。

「最初に降りてきた階段、見当たらないんだけど……」

「む、私はずっと歩数を数えていたから、この辺りで丁度、一周になるのは間違いないと思う」

 ダロウカちゃんが壁に触れた。

 突き当りは曲がり角になっている。

「実は口じゃなくて、渦巻き模様のらせんになってたんじゃないか?」

 歩数を数えていたといっても、流石に何歩かは誤差がでるだろうし。

 ……それともどっかでワープゾーン踏んだとかか?

「あるいはらせん階段みたいに地下に向かって渦巻き状になってる可能性も?」

 真白さんが天井を見上げて首を傾げた。

 それほど高い天井ではないし……歩いた距離から考えると気付かないうちに1階層分くらい地下に潜ってる可能性も確かになくはない。

「あ、真白さん、ちょっと待って。何か来る?」

 前方に、明かりが見えた。それにコツコツという、軽い足音。

 明かりを持っているところを見ると、先ほどのような魔法生物じゃないっぽい。敵役のスタッフだろうか。一人じゃない、複数の足音のようだ。

「……あー、誰かいたっ!」

 若い女の子の声がした。ぱたぱた、と軽い足音がして誰かが駆け寄ってくる。

「あ、ども、こにちわーですっ! お兄さんたちも冒険ですかっ?」

 声をかけてきたのは、中学生くらいの女の子だった。学校の制服らしきブレザーを着ている。

 どうやら、同じプレイヤーらしい。魔法使いなのだろうか、武器のようなものは持っておらず、カンテラしか持っていない。そして、奇妙なことに、顔に片眼鏡モノクルのようなものを付けている。若い女の子が好き好んでつけるようなものではない。

 ……午後は確か、俺たち以外はルラレラ世界のお客さんが入ってるんじゃなかったっけ?

 特殊な冒険用の衣装としてチャイナドレスとかナース服とかあったみたいだし、セーラー服とかブレザーなんかもあったってことだろうか。

「ああ、うん。君たちも楽しんでるかな?」

「えへへー、ゲームみたいでたのしいですっ!」

 ぴょこん、とジャンプして女の子は小さく笑った。

 そこへ、彼女のパーティメンバーが追い付いてきた。

「ああ、どうも」

 小さく会釈をする。彼女のパーティメンバーも、ほとんど全員学校の制服のようなものを着ていた。

 全員、女の子だろうか。二人だけブレザーでなく、セーラー服を着ている。

 それに、全員黒目・黒髪だ。ゲームがどうとかいう発言と言い、どうやら現実世界の方のお客さんらしい。

 ……パーティ会場じゃ見かけなかった気がするけど。

「マイ、他のお客さんに迷惑かけちゃだめでしょう?」

 背の高い、すらりとした美人さんが、ぴょこぴょこはねる女の子の袖を引きながら言った。

「……え、だって、ほら、同じスカウター持ってたから」

「スカウター?」

 ああ、そうか、あの片眼鏡みたいなのはスカウターか。

 そういや俺も、何かの役に立つかなって装備しておいたんだけど。

「お近づきのしるしにっ!」

 女の子が、自分のスカウターを操作すると、俺のスカウターにぴぴぴと反応があって何かのデータが表示された。


  名前  :新ヶ瀬あらがせ舞子まいこ

  レベル :16

  称号  :「耳年増」

       「桃色妄想爆弾魔(ピンク・ボマー)


 これは、女の子のステータス情報だろうか。いつも表示される情報に比べてだいぶ少ない。

 ぴぴぴ、と俺のスカウターにまた反応があった。

 ディスプレイ部分に、「情報開示要求がありました。許可しますか?」と文字が表示されている。どうやら、名刺交換でもするようにお互いに当たり障りのないステータス情報を交換し合う、ということらしい。

 俺のスカウターに、こんな機能があるとは知らなかった。とりあえず、否はないので許可を選択して返す。

「へえー、鈴里さん、ってゆーんですねっ!」

「……だから、マイ、やめなさいって」

「ああ、気にしないでいいよ」

 小さく手をふると、目付きの鋭い美人の女の子は、ちょっとだけ目を伏せて、片眼鏡の女の子の腕を引いて行ってしまった。



「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

 視線を感じて振り返ると、みんながじと目で俺をにらんでいた。

「鈴里さんから声をかけたわけじゃないですけど、なんでこう、鈴里さんってどこか行く度に小さな女の子に関わるんでしょうね?」

 真白さんが、ため息を吐きながら言った。


 ――俺、何も悪いことしてないよな……?

 迷走中……。

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