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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第五話「俺的伝説の作り方」
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【魔王フェーズ】とつぜん異世界に召喚されたオンナノコたちのお話 その3

 舞子さん視点です。


【魔王フェーズ】


 『舞子は こんらんしている!』

「――端的に言ってしまうとね、あたしは”すべて終わったあと”のあたしなんだ」

 召喚によって呼び出されたもうひとりのあたし。イコはいきなりそう言った。

「つまり、あなたたちにとっては、未来から来たってことになるのかな?」

 ぐるりとあたしたちを見回して、少し困ったような顔でイコは微笑んだ。

 ――それは、どこか含みのある笑顔だった。

 あたしは、自分で言うのもなんだけれど、あまり裏表のある方ではない。正直に言って隠し事が苦手だった。目の前の、もうひとりのあたしであるイコもそうなのだとしたら。この笑顔に隠れているものは、なんなのだろう。

 未来から来た、なんていう突拍子のない話に疑いを抱くよりも、まずそのことがあたしには気になってしょうがなかった。



「……じゃあ、君の言うとおりにしていれば、全てまるく収まるってことかい?」

 委員長くんが、イコを見つめて言った。

「それとも、君が迎えたこの騒動の顛末は、あまりよくないモノだったのかな?」

 流石の委員長くんだった。あたしがなんとなく気が付いた、イコの笑顔に隠されたものに既に見当がついている。

 ”全て終わったあとのあたし”だとイコは言ったが、その顛末がハッピーエンドだったとは限らない。元の世界に帰れたとも言っていない。ただ単純に、魔王と女神の争いが終わったあと、というのであれば。

 ……それがあたしたちにとって最善だったのかどうかはわからない。

「うん、流石だね、委員長くん……」

 イコは少し寂しげに笑って、斜め上を見上げた。

「正直に言って、あたしはやり直す機会を与えられたことに、感謝しているって言ったら、みんなをがっかりさせることになるのかな」

「……それってつまり、何か、よくないことがあった、ってことかしら?」

 みっちーが少し言葉を濁して、腕を組んで何か考えるようなそぶりを見せた。

「少なくともあたしは、納得していないよっ?」

 イコは深くため息を吐いた。そして、またぐるりとみんなの顔を見回して寂しげな笑みを浮かべる。

「あたしは、あたしたちは、女神には勝てなかった。最終的には女神の手で元の世界に戻ることができはしたけれど、戻れたのはこの場にいる全員じゃあなかった」

「……!」

 あたしは思わず、息を飲んだ。

 それは、あたしたちのうちの誰かが、もしかしたら複数が。

 ――これから死んでしまう、ということだろうか。

 女神を倒せ、なんて言われて、他人を害することを強制されたことに憤ってはいたけれど、あたしは自分たちの身に危険があるのだということにはまったく考えが至っていなかった。

 争いをしているといった。魔王自身は、自分が害されることも理解している口ぶりだった。

 ああ、けれど、だけれど、他人を害そうとするならば、あたしたちだって傷付く可能性があるのは当然のことだったのだ。なんで、あたしはそんな簡単な世の中の道理ってやつに気が付かなかったのだろう。

「……なぁ、それ、俺たちのうちの誰かが、死んだって、これから死ぬかもってことかぁ?」

 お馬鹿なタカシくんにしては、珍しく先のイコの発言を正しく理解したらしい。まだ指輪を撫でるようにしながら、きょとん、とした顔で首を傾げながらイコに問いかける。

「……」

 イコはただ黙って、タカシくんを見つめていた。

 それから、少し斜め上を見上げて、ひとつ息を吐いて言った。

「そうじゃないよ。でも、うん、最初に少し釘を刺しておいた方がいいかな? あのね、ここは現実だけれど、ゲームのセカイなんだ。あたしたちは、仮に命を落としたとしても、本当の意味で死ぬことはないんだよ」

「……それはまさか、テレビゲームのように呪文ひとつで死者が蘇生するってことかい?」

 委員長くんが信じられないような顔で、つぶやいた。

「んー、惜しいかな。”このセカイに死者蘇生の魔法は存在しない”よ。正確に言うなら、この場にいるあたしたちは、本当のあたし達とは、元の世界のあたしたちとは、少しだけ違うんだ。ほら、ゲームなんかで召喚士とか居るでしょう? あれで呼ばれた召喚獣みたいなものかな。だから、時間経過で復活するんだ。だから、ずっと拠点に残ってた委員長くんと、素敵に無敵なゆーり以外は何度か死んでる」

「……死ぬっていうのも、ものすごい経験になりそうね?」

 みっちーが、少し頬をひきつらせながら言った。

 そんなみっちーに、イコがあきれ顔で答えを返す。

「あくまで復活できるってだけで、当然死ぬほど痛いから、試すのはやめた方がいいよ? 実際、すごい経験値にはなるけど……」



 あたしたちの世界には、レベルやスキルと言った概念がある。

 レベルというものがどうやって上がるのかというと、それは経験による。もちもん、テレビゲームじゃないんだから、雑魚モンスターを倒してレベル上げなんて感じじゃあない。日々のなんてことのないちょっとした経験の積み重ねが、あたしたちのレベルを上げるのだ。

 ただ息を吸う、ご飯をたべる、寝る、あるいは学校で勉強する、部活で汗を流すなんていう日々の経験が、スキルに経験値として蓄積されていく。そうして累計の経験値がある一定の値を超えた際に、レベルというやつが上がってしまうのだ。

 この経験というやつは、なんてことはない日常の経験よりも、非日常的な物の方がえてして大きな経験になりがちだ。特に何事においても、初めての経験というというのは大量の経験値を得られるものだ。試行錯誤を繰り返した末に得られる経験値は、とても膨大な量になるものなのだ。

 だからここだけの話、初体験の経験値を得たいがためにタカシくんを襲った前科のある美智子が、”死”という本来得ることのできるはずのない経験を得ることに興味を抱くのもわからなくはなかった。

 ちなみに、出産・誕生といった経験は母子ともに3レベルは上がってしまうようなものすごい経験らしい。九死に一生を得た場合に得られる経験も相当なもののようだし、本当の死も相当にレベルがあがる結果になるんじゃないかなと思われる。



「……みっちー、試しに死んでみようとか思わないでね?」

「流石に試しで死んでみようとは、ちょっと思えない、わね……?」

「……それ、ダウト!」

 イコがみっちーを指さして大声で叫んだ。

 どうやら、イコの経験してきた未来においては、みっちーが何かやらかしたようだった。




「さて、まずはみんな、召喚をすませちゃおうよ。じゃないと何にもできないしっ」

 イコが言いながら、自身の指にはまった指輪を撫でた。その指輪が、わずかに輝き始める。

 あたしがイコを呼び出してしまった時とは違って、ピンク色ではなくもう少し濃い赤色の光だった。

「……え、イコも召喚できるのっ!?」

 ちょ、さらにあたしが出てくるんだろうか。無限あたし! カメを蹴りつづけて無限に1UPするようにあたしがいくらでもでてくるんだろうかっ?

 思わず叫んだら、「当然でしょっ?」と首を傾げられた。

「前回、というかあたしの時には、あたしはあたし自身なんて呼び出しはしなかったし。だから、正確に言うとマイはあたしの過去じゃあないのかもね」

 指輪をはめた手をくるりと返しながら、イコが言った。

「おいでっ! あたしのこねこ達っ!」

「にゃーですにゃー」

「にゃにゃにゃー」

 イコの言葉に呼応して、指輪から二つのの光が飛び出した。空中でくるくると回転して、ぽん、と花開くように手足をを伸ばした彼らのその姿は。

「……長靴をはいたねこ?」

 黒い毛並に翠の瞳、猫なのにぴんと伸ばされた背中には赤いマントを羽織っている。そして二足の足には革で出来た長靴。腰にはベルトに細身の短剣を指している。

 見た目はまんま二足歩行する猫だ。

「ケット・シーってやつ、だっけ?」

 そして遅れて、もう一つ、先の二つより大きめの光が飛び出して。

「にゃー、なのですっ!」

 ぽん、と空中で手足を伸ばしたのは。

「ねこみみの、女の子?」

 ちょこん、と頭から生えた三角のお耳、幼稚園児が着るような赤いスモックブラウスの端からはしっぽがぴんと伸びている。首から下げた大きな鈴が、ちりりん、と可愛い音を立てる。

 床に降り立つと、小さく伸びをして、「よばれてとびでて、にゃにゃにゃにゃーん♪」とキメポーズ。かわいい。

 この子もケット・シーなんだろうか。見た目が二足歩行する猫じゃなくて、ねこみみの生えた女の子なのは性別によるものなのかな?

「黒い猫が、ケットとシー、赤い猫ちゃんがスズちゃんだよっ! みんな仲良くしてあげてね」

「すっげー、妖精ねこだぁ!」

 タカシくんが、ねこちゃん達を見て目を丸くした。

 これまで白い妙な空間に連れてこられはしたものの、それ以外はこれと言っておかしなところはなかったのに。どう見ても元の世界ではありえない、ニ足歩行する猫に、ねこみみの生えた女の子がでてくるだなんて、とんだふぁんたじーだ。

「うふふー、かわいいでしょ? って、あ、こらゆーり! 勝手に連れてっちゃだめだってば!」

 イコの声に我に返ると、黒猫の一匹を抱きかかえたゆーりが、『二匹いるんだから、一匹くらいいいよね?』ってホワイトボードを振りながらそのモフモフを堪能しているところだった。

「にゃーですにゃー……」

 じたばた暴れている黒猫ちゃんがカワイイ。どっちがケットでどっちがシーかよくわからないけれど、名前を付けたのがイコなのだとしたら非常に安易だ。

「ねえ、マイ……じゃなくてイコ。わたしたちは、どうやって”召喚”ってアビリティを使えばいいのかわからなかったんだけど。どうやったらできるのかしら?」

 みっちーが、うらやましそうにゆーりを見つめている。黒猫を撫でに行きたいのだけれど、毛が制服に着きそうでためらっていると見たっ!

「ただ漠然と”召喚”を使おうとしたって、何も応えてはくれないよ? だから、何を呼びたいかを明確にイメージして、おいでっ!って呼びかけるんだ。そうしたら、無限に広がるセカイの連なりのどこかから、きっと応えてくれる何かが誰かがいるはずだよ」

 イコがねこみみの女の子をぎゅうと抱きしめながら言った。中吊りにされたねこみみ幼女が、ぶらーんとしっぽを垂れている。

 つまり、未来のあたしであるイコは、ああいうねこみみ幼女を望んだってことなのかな?

「そっかー! じゃあ、俺、契約すると魔法少女になれる、白い獣が呼び出したいぜー!」

 タカシくんが、むっふーと鼻から息を吐いて、まるでおみくじでも引くときのように指輪をした手を反対の手で握ってぶんぶんと振った。

「いや、いくらなんでもアニメのキャラが出てくるわけないでしょう……?」

 みっちーがあきれた声を上げた瞬間、タカシくんの指輪が、白い光を放った。

「おおー!」

 タカシくんの目の前に、ぽん、と光が飛び出して。

 そこに現れたのは、額に赤い宝石の付いた、白いリスのような姿の獣だった。

「カーバンクル?」

 前に遊んでいた某オススメのRPGに出てくる、召喚士が呼び出す獣の姿にそっくりだった。

「……ボクと契約して、魔法少女にならない?」

 きゅー、と鳴いたあとに白い獣がタカシくんに向かって言った。

 ……大丈夫、文言ちょっとだけ違うからたぶんセーフだっ!

「なるよ! やるよ! 俺、魔法使いたいんだーっ!」

 タカシくんは、速攻でOKをしてカーバンクルの額の紅い宝石に指を当てた。

 ってゆーか、タカシくん男でしょっ! 女子としても背が高い方じゃないあたしよりも背が低かったり、言動はお馬鹿っぽいけど見た目小動物な感じで女子の制服着せてみたいと思ったことが何度かあるけどっ! って、あれ、タカシくんってなんかすごく魔法少女が似合いそう?

 ……って妄想爆発しているうちに、タカシ君の姿が。

 一瞬、光が彼の全身を覆って、次の瞬間、白を基調としたふわふわのドレス姿になっていた。

「すっげー! 変身したー!」

 いつの間にか持っていた魔法のステッキらしきものを振り回して、タカシくんは大喜びだ。

 ……似合いすぎているところが、割とヤバイ。あたしが着たって、あれほど似合いはしないだろう。

「……」

 みっちーが、茫然とタカシくんを見つめている。

 現実の世界でなら、魔法使いだなんて、魔法少女だなんて、ありえないものだけれど。このセカイでなら、その嘘みたいな夢が実現になってしまう。

 日頃、「魔法使いになんてなれるわけがない」とタカシくんをからかっていたみっちーには、この光景が少しばかりショッキングだったようだった。

「……みっちーは、呼ばないの?」

「わたしは……」

 みっちーは何か言いかけて、すぐに口をつぐんだ。

 それから、タカシくんを見て、あたしを見て、一つうなずいた。

「そうね、わたしも、正直になろうかしら……」

 指輪に触れて、小さく一言。

「――おいで、わたしの魂のカケラ!」

 そのセリフは!

 あたしらが小さいころに見ていた、「魔法侍少女ともえ☆ストライク」の主人公ともえが、魔法のステッキ(という名の日本刀)を呼び出すときのセリフではないですかっ!

 みっちーの指輪から炎のように紅い光が零れ落ちて、炎が晴れた瞬間、その手には魔法のステッキ(という名の日本刀)が握られていた。同時に、みっちーの姿が学校の制服から、巫女さんが着るような白衣びゃくえ緋袴ひばかまといった格好に変わっている。

 まんま、アニメの主人公の装いだった。

「物を召還とかもありなんだ……?」

「……あら、マイならわたしがアニメ好きだなんておもわなかったーって、そっちに驚くと思っていたのに」

 小さく笑って、魔法のステッキ(という名の日本刀)を正眼に構えるみっちー。そのまま誰もいない方に向かって振り下ろす、と、アニメの一場面を再現したかのように刃の軌跡に炎が走った。

「ん、思ったより振り回しやすいわね」

 剣道部のエースでもあるみっちーは、日本刀の構え方も様になっていた。

 もしかして、日ごろからコスプレでもしてたんじゃないかって邪推したくなるほど、堂に入っていた。

「……」

 もしかして、イコが「戻れたのはこの場にいる全員じゃあなかった」って言ってたのって、夢が実現するセカイから戻りたくなくなっちゃったってやつだったりしたんじゃないだろうか。




『ちなみに私のクリエイト・サーバントは、自由に召喚獣をデザインできるあびりてぃ』

 まだ黒猫を一匹抱えたままのゆーりが、何もない空中で指を動かしていた。

 ゆーりは、いろいろあった間も、ずっと黙々と作業をしていたらしい。

『おいでー』

 何もない空中を、まるでパソコンのエンターキーのようにカターンとゆーりが叩くと。

「――え、なにっ?」

 途端に、真っ白な空間を闇が覆い尽くした。

 なにか、とてつもない、気配が。闇の中に、潜んで。

 仄暗い、深淵より来たりし、古の。

『まいこ、SANチェック失敗してる……』

 ぽこん、とホワイトボードではたかれて我に返った。


 ――SAN値直葬なデザインとかやめてよ、ゆーり……。

 平日書く暇がほとんどなくて、どんどん更新間隔のびてますね……。

 もともと本編の裏ルートって掲示板とかで簡易的に語ってたわけですが、きちんとお話として書きだすと、語り手が違うしなんだか別のお話をもう一本連載している気分になってきました……。

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