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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第五話「俺的伝説の作り方」
168/246

【魔王フェーズ】とつぜん異世界に召還されたオンナノコたちのお話 その2

 舞子さん視点です。※2015/06/15 少々加筆修正。


【魔王フェーズ】


 『――舞子は ユニットを 召喚した!


  →新ヶ瀬(あらがせ) 舞子(まいこ)が あらわれた!?』

 突然、わけのわからない白い空間に拉致されて。魔王を名乗る白いオトコノコとその配下だという黒いオトコノコ。二人が碌に説明もせずにあたしたちの前から姿を消してから、一時間ほど経っただろうか。

 何かこの状況を改善できる方法はないものか、とアビリティ研究会全員でいろいろなことを試した結果、なぜか電話は通じないのに携帯端末でネットにつながることが判明した。

 ……それもなぜかあたしの持っているガラケーだけが。

 親友のみっちーこと美知子やタカシくん、委員長くんの持っている、スカウターと一体型のカード型の端末ではネットにはつながらなかったのに、なぜかあたしの非常に型遅れのガラケーだけがネットにつながってしまったのだ。

 ちなみにゆーりは携帯電話をそもそも持っていない。とある事情で肉声で話すことを避けてホワイトボードなんかを使ってる関係上、そもそも通話できないので不要なのだそうだ。せめてメールとかやり取りできるといいんだけど、それすらも何か問題が発生するらしい。

 ……まぁ、ゆーりのことは置いておこう。

 問題は、これからどうしたらいいのか、何をしたらいいのかってことなのだった。




「……ねぇ、ネットがつながるってことは、もしかしてここって一見変な場所だけど、異世界とかウソだってことなんじゃないのかしら?」

 みっちーがそう言って、あたしの手元の携帯端末を覗き込んだ。

「いや、それなら新ヶ瀬(あらがせ)さんのケータイだけじゃなくて僕らのスマホだってネットにつながるはずじゃないかな?」

 床に耳を付けるようにして、拳でコツコツと床を叩きながら委員長くんが言った。彼はどうやら音の反響でこの不思議な白い空間を探っているらしい。

「電波の中継器が古いガラケー用のやつしかないってことじゃないの? 田舎みたいに。ガラケーだけって、つまりスマホみたいな大容量の通信ができないってことでしょう?」

 みっちーはふん、と鼻で笑って、ぐるりとまわりを見回した。

「……一見、どこまでも続いているように見えるこの白い空間だって、ずっと歩けばきっと壁にぶつかるにちがいないわ。そうよ、きっと性質の悪い悪戯に決まっているわ」

 言いながら、大股で歩きだすみっちー。

「ちょ、ちょっと一人で行くなんて危ないよっ!? 戻って来られなくなったらどうするのさっ?」

 慌ててあたしが袖を引くと、みっちーは唇をとがらせた。

「……だって、こんな白いだけの場所なんて、もううんざりよ。あの変な二人だって言いたいことだけ言って、ろくな説明もせずに消えちゃったじゃない」

「まあ、少し落ち着いて欲しいな、神原さん。とりあえず僕が知覚できる範囲には壁は無いみたいだし」

 委員長くんが床から顔を上げてその場に胡坐をかいて座った。

 さっきから床を叩いて調べていたようだけれど、結論が出たようだった。委員長くんの知覚範囲がどれくらいかはわからないけれど、普段、学校の校舎一階分くらいは把握している彼のことだから、多分見た目通り少なくとも半径数百メートルくらいはこの白い空間のままなのだろうと思う。

「それにさっきの魔王を名乗る彼らのことだけどね。たぶん、彼らは僕らに詳細な説明をする時間も惜しいくらい、急いでいたんじゃないかな?」

「そうかー? あいつらずいぶんえらそーに、ふんぞり返ってたけど、慌ててるようにはみえなかったぞ?」

 強制的にはめられた左手の指輪をこすりながら、タカシくんが言った。彼はさっきから召喚のスキルを発動させようとしていたけれど、どうやらまだうまくいっていないようだった。

「短い時間だったけど、いくつかの情報は手に入っただろう? 魔王を名乗った白いあの男の子は、女神と争っていると言っていた。そして、僕たちに女神を倒して来いと言ったよね?」

「うん、そんなこと言ってたよね」

 あたしは委員長くんの言葉に相槌を打ち、思い出す。

 ……そういえば、なんで、あたしらなんだろう?

 魔王を名乗るくらいだから、それなりに力を持っているんだと思う。あたしらをこんな変な場所にいきなり連れてきたりとか、”召喚”の指輪なんてものをくれたり。

 あたしらは、ただの中学生なのだ。特に何か特殊な力があるわけでもない、ただの子供なのだ。

 ――それなのに、なんで自分たちの手で女神を倒しに行かないんだろう?

「……それだよ、新ヶ瀬さん。これはあくまでも推測になるんだけど、彼は対等なゲームだと言っていただろう? 女神と魔王が互いにコマを用意して攻め合うのだとしたら、相手がどこにいるのかわからない、あるいは常に移動し逃げ隠れするようだとそもそも勝負が始まらない。つまり、ゲームの間は所定の場所あるいは範囲内に居る必要があるんじゃないかと思ってね」

 なるほど、つまり女神側が攻めてきたときに所定の場所にいないと負けになるってとかな?

 そうすると、あの魔王くんたちは既にあたしたちに十分な説明をしたつもりでいるのかもしれない。ということは、彼らが渡した召喚の指輪を使って、"召喚(サモン)"をしてみると何かがわかるのかもしれない。

「うん、僕もそう思うよ」

「ちょっと、委員長! それにマイ! 二人だけの会話はやめてちょうだい。委員長の洞察力がすごいのはわかるけれど、わたしたちにも分かるように話して欲しいわ」

 ……みっちーからクレームがついた。

 委員長くんは、こちらの心が読めるんじゃないかってくらい洞察力に優れている。彼が常に発動しているアビリティ、”虫の知らせイヤナヨカン”や”その場の雰囲気クウキヨメ”、それに”事情通ジゴクミミ”がそれを可能にしているのだ。

 「一を聞いて十を知る」どころか、「一を聞かずして百を察すると」でもいうのか。とにかく委員長くんはすごいのだ。

 それにどうやらあたしの表情というのはすごくわかりやすいらしくて、あたしが一言も言葉にしていないのに目と目で会話が通じてしまうことがある。

 そういう阿吽の呼吸をあたしはわりと快く思っているのだけれど、確かに傍から見たら意味不明なのだろうと思う。

「ああ、ごめんね、みっちー。つまり、結論から言ってしまうと、”召喚(サモン)”ってゆーのを使ってみたらいいんじゃないかなってことなんだけど……」

 左手の薬指にはまっている、銀色の指輪をそっと撫でてみる。

 タカシくんがいじっていたように、すでにあたしたちは何度か召喚なるスキルを発動しようとはしていたのだ。しかし、自分で習得したわけでもないスキルは、どうやって発動させたらよいものかさっぱりわからなかったのだ。




 あたし達の世界にはレベルとスキルという概念がある。さらにはそれを自分で調べるためのスカウターなんていう機械だって存在する。しかし、コンピュータゲームなどとは違い、スカウターのステータスウィンドウからコマンドを選択してアビリティを使う、なんていうようなことは当然ながらできはしない。

 スカウターに表示されているのは、あくまであたしたちの身体の情報を数値化したものにすぎず、決してそれを制御するための仕組みではないのだから。

 アビリティを使えるかどうか、というのは、例えて言うなら自転車に乗れるかどうか、に似ていると思う。あるいは、泳げるかどうか、に近いものがあると思う。

 自転車に乗れるようになるまでは、泳げるようになるまでは、さっぱりどうやったらいいのかわからずただ反復練習するしかないのに、ある時、突然、不意に何かがすべてつながったかのように「できるのが当たり前になる」。そして、一度できるようになってしまうと、いつでもできるようになり、忘れることがない。

 ……逆に言うと。自力で習得していないアビリティは、どうやって使用したものかさっぱりわからないのだった。




「……ネットつながるんでしょう? 調べてみたらどうかしら」

 みっちーが深くため息を吐いて座り込んだ。

「うん、そだね。ちょっと調べてみるよ」

 あたしは携帯端末を握って、ネットで検索を始めた。


 ――小一時間をほどネットで調べて……。


「うーっ! いったいどういうことなんだろう?」

 あたしは思わずうなり声を上げながら携帯端末から顔を上げた。

 ネットで引っかかるのは、何かのテレビゲームの情報らしきものばかりで、あたしの知りたい情報はさっぱり出てこなかった。それならば、とあたしがよく利用する巨大掲示板、”兄ちゃんねる”の”姉ちゃん実況板”通称”姉実ねえじつ”にカキコして聞いてみたら、だれもスキルやアビリティなんて知らないって言うのだ。

「……つまり、ネットのつながってる先って、あたしたちの世界じゃなくって、レベルやスキルの概念とかない、異世界のネットってことなのかなっ?」

 思わずため息を吐いた。

「それはまた興味深いね。少し僕にも君の端末を貸してもらえないかな?」

 委員長くんが手を伸ばしてきたので、あたしの携帯端末をその手の上に乗せてあげる。

「……でも、変なとこみたら嫌だよ?」

 別にみられて困るようなものが登録されていたりはしないし、スカウターと一体型の携帯端末ではないのであたしのステータスが記録されているわけでもない。

 だけれど、やっぱり年頃の乙女としては恥ずかしいのだった。

 委員長くんは紳士だからそういうことしないとは思うけれど、一応念押ししておく。

「うん、ネットだけ使わせて欲しい」

 そのさわやかな微笑を、信じておくことにする。




 しかし。

 召喚というアビリティを発動するための手がかりが全くないのだとしたら、自力で何とかしなくてはいけないのだろうか。


 ……召喚、ねえ?

 スカウターの表示をいじくって、もう一度アビリティの説明文を表示させる。

 さっきはいろいろ混乱していて気が付かなかったけれど、本来、スカウターのライブラリに入っていないアビリティであれば、説明文など出るはずがないのだ。

 とするならば、表示されている説明文は指輪によって登録されたものなのだろうか。

 「使用者に応じた部下ユニットを召還できる」って書いてあるけれど、あの魔王くんがあたしたちをこの変な白い空間に呼び出したみたいに、あたしがまた誰か、何かを呼び出せるっていうことなのだろうか。


 召喚、召喚ねえ?

 ……召喚っていったら、悪魔召喚とか。

 ううー、悪魔とか出てきたらいやだよね……。

 もしかして召喚ってアビリティ使ったら、何か契約とかさせられるんだろうか。

 裸の上にマントだけ羽織って、左足を右手で持って、左手は頭に乗せて、「この手の間のものすべてをささげます」って言って、悪魔にえっちいことされたら魔女契約成立だったっけ?

 まだ十四歳の乙女としては、そういうのは早すぎると思いますっ! ちょっと興味あるけどっ!


 召喚、召喚、召喚ねえ?

 変なモンスターとかでてきたらどうしよう。にゅるにゅるの触手とかいーっぱい出てきて、あんとことか、イケナイことろににゅるにゅる入り込んで来たらどうしよう。ああでも、意外に気持ち良かったりするんだろうか。

 ……にゅるにゅる。ああ、おうどん食べたい。放課後だったし、おなかへったなぁ。


 ――妄想の赴くままに、ぼんやりと考えていた時のことだった。


「ちょっと、マイ! あなたの指輪光ってる!」

「ほへ?」

 みっちーに声をかけられて、思わず手を見ると銀色の指輪がピカピカと点滅するようにピンク色の光を放っていた。

 え、ちょっとまさか、今あたしが考えてた、触手とかでてきちゃったらどうしようっ!?

 ピンク色っていうのがまた、なんかイヤな感じだ。あたしの桃色妄想が現実化しちゃうそうで怖い。

 あたしは慌てて指輪を押さえたものの、点滅は収まらずむしろ激しくなっていく。

 まずい! 頭の中を切り替えなきゃ!

「――!」

 その瞬間、あたしは何を考えていたんだろう。

 一際激しく指輪が明滅して、一瞬、視界がピンク色の光でふさがった。

「……え?」

 そして、おそるおそる目を開けると。

 そこには。

「あたし?」


 ……なぜか、あたしが立っていた。




「……ほへ?」

 目の前のあたしが、呆けた声を上げた。

 見た感じ、今のあたしと全く同じ姿だった。きょろきょろとあたりを見回して、それからあたしを見つめて口をぽかんと開ける。

「「なんで、あたしが?」」

 思わず同時に、二人してつぶやく。

「……マイが、二人?」

 みっちーもあたしと、もうひとりのあたしを交互に見つめて困惑気だ。

「新ヶ瀬さん?」

 委員長くんもこの場の状況を把握しきれていないのか、珍しく落ち着きを失っている。

「すっげー! ししょー、分身の術とかつかえるのか? 忍者か? くのいちなのか?」

 タカシくんのお馬鹿な声に、だれが忍者かっ!って思わず心の中でツッコミを入れてしまって、おかげで我に返った。

 じっと目の前のあたしを、もう一度見つめてみる。

 あたしには双子の姉妹なんていない。そして、何度見ても、目の前のあたしは他人の空似でなく、実感として「あたしである」としか思えなかった。

 ドッペルゲンガー? 二重存在ダブル

 与太話としか思えないが、確かそんな名前のアビリティがあると聞いたことはあるけれど、あたしはそんなものは習得していない。

 いったい、この目の前のあたしは、何者なんだろう?

「……えっと、」

 とりあえず声をかけてみようとしたのだけれど、何を聞いていいものやらさっぱり思い浮かびはしなかった。

 少しの間、茫然としていたけれど、周りを見回したもう一人のあたしはどうやら何かを察したようだ。

「……ちょっと待って。うん、わかったからちょっとまって?」

 もう一人のあたしは突然そう言って、それからあたしに詰め寄って来てあたしの頬を両手で押さえると。

 おでこをこつん、とぶつけてきた。

「……?」

 特に何も起こらない。特に何か起こった感じはしない。

 でも、目の前のあたしにとってはそれだけで十分だったらしい。

「うん、じゃ、説明するね」

 もうひとりのあたしは、そう言ってひとつ頷いた。

「あたしは、新ヶ瀬舞子。たぶん、全ての事情を知っている、ね? 何も知らない新ヶ瀬舞子、あたしのことはそうね、みっちーにはマイって呼ばれてるし、だからあたしのことは便宜上イコって呼んでねっ」

 イコと名乗ったもう一人のあたしは、そう言ってちょっと苦笑気味に微笑んだ。



『ふたりいるなら、ひとりは私がもらってもいいんじゃない、かな? かな?』

 なぜかゆーりが、そう言って突然うしろから抱きついてきた。


 ……いやあげないから。

 思わずツッコミを入れながら、こんな状況でとことんマイペーズなゆーりに少しだけ心がなごんだ。

 なんか全然話が進まない……。次も魔王フェイズ、もしくは掲示板デス。


おまけ

兄ちゃんねる:

 通称「にいちゃん」あるいは「にちゃん」とも。

 巨大掲示板。幅広いジャンルやカテゴリがある。元は「兄ちゃんがなんでも教えてやるお!」というQA形式のサイトだったが、現在は掲示板になっている。


姉ちゃん実況板:

 通称「(あね)実況」あるいは「姉実(ねえじつ)」。兄ちゃんねるのゲームカテゴリの板の一つ。

 元は家庭用ゲーム板の「うちの姉ちゃんにオススメのMMORPGをやらせてみた」スレッドを発祥とする。当時はオンラインゲーム専用の板がなかったために、家庭用ゲーム板に投稿されたもの。オススメのMMORPGについて語りたいユーザが「姉ちゃんに暗黒騎士やらせてみた」「うちの姉ちゃんがLSで姫ちゃんやってた」など姉ちゃん系のスレッドを乱立させたために家庭用ゲーム板から追い出された。

 その結果、掲示板の運営に「そんなに姉ちゃんについて語りたければここを好きに使え」と用意された板であり、「オンラインゲーム実況板」でなく「姉ちゃん実況板」となったのは運営のユーモアによるもの。あるいは本当に運営は姉に関して語る板のつもりで作成したのかもしれない。

 最近はリリースから十年以上経ち、元になったMMORPGが衰退してきたのに伴い、実況板でありながらジャンル問わずの雑談掲示板に近い形になっている。

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