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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第五話「俺的伝説の作り方」
165/246

 1、「再会」

【女神フェーズ】


 『――女神ララは 双子の女神を 召喚した!


  →女神ルラが あらわれた!

  →女神レラが あらわれた!』


 『女神ルラは まごまごしている


  女神レラは まごまごしている』

「ただいまー」

「おかえりです」

 二日ぶりにうちに帰り着いた俺を出迎えてくれたのは、みぃちゃんひとりだけだった。

「……あれ? ちみっこたちはどうしたんだ?」

 いつもなら、おかえりなのー!って二人そろって抱きついてくるんだが。

「ルラとレラはねいこに呼ばれて、少し前にお出かけしたです」

「こんな時間に?」

 俺が乗った電車もほとんど終電近くだったから、もうずいぶんと遅い時間だ。寧子さんに呼ばれて、ということは寧子さんの研究室の方だろうか。それともルラレラ世界の方だろうか。

いずれにせよ、流石に今日はもう帰って来られないだろう。謎電車の営業時間など知りはしないけれど。

 ……ここ何日か、妙にちみっこ達とすれ違いだな。

 疲れているから、双子の頭でもなでて癒されたいと思っていたのだが。

「ルラレラからの伝言なのです。”おにいちゃんは自分のお仕事を優先してほしいのー”だそうです」

 みぃちゃんが、手元のメモを無表情に読み上げた。

 どうやらちみっこたちは、ルラレラ世界関係の用事でそろって出かけてしまったらしかった。

「そっか。まぁこないだみたいなのはともかく、平日に仕事休んでルラレラ世界に行けと言われても困るしな。というか、向こうでなんかあったんだろうか。みぃちゃん何か聞いてる?」

「知らないです。でも、ずいぶん慌てた様子だったのです」

「ふーん」

 まぁ今日はもう夜遅いし、明日の朝にでもメールか電話で聞くことにしよう。

 ……さて風呂あびて寝ないとな。明日もまた仕事だし。

「あ、みぃちゃん、ご飯とかはだいじょうぶ?」

「今日はもう食べたのです。でも、明日以降、たろーもルラレラも戻ってこないようだとちょっと困るです」

「そっか。俺は明日も帰って来られないかもしれないし。少しお金置いておくから、そこのコンビニで買うか、何か宅配でも頼んでくれる?」

「はいなのです」

 二万くらい置いとけば、しばらくは大丈夫だろう。みぃちゃんもロアさんと一か月ちょっとこっちで過ごしてたわけだし、お金さえあれば一人でもなんとななるだろう。

「あ、あとケーキ買ってきたから、明日のおやつにでもしてね」

 なんとなく、仕事で家庭を顧みないおとーさんがその罪悪感をごまかすために買ってくるお土産のような気がしたが、実際その通りなのだからしょうがない。

「来たばっかりなのに、みぃちゃんほったらかしにしちゃってすまないな」

「お客さんのつもりはないので、そう気を使う必要はないのです」

 みぃちゃんがふるふると首を左右に振った。ねこみみもふるふると揺れて、なんだかとても心が癒された。

「……そっか」

 鞄を置いて、着替えををタンスから引っ張り出しで風呂場へ向かう。

「お背中、流すです?」

 みぃちゃんが背中から声をかけてきたが。

「いやうちの風呂狭いから」

 俺は振り返りもせずに断った。

 ユニットバスだし、洗い場とかないんだよなー。広かったら背中流してもらってたかというとそれはまた別の話で……げふん、げふん。




 さっぱりした気分で風呂から出てくると、みぃちゃんはテレビの前に座ってゲームの真っ最中だった。画面をみるとメールで言っていたように、某国民的RPGのようだった。

「たろー、ここに座るです」

 俺に気づくと、みぃちゃんは立ち上がって場所を開けた。

「ん」

 胡坐をかいて座ると、みぃちゃんがそそくさと足の間の間にちょこんと座った。背中を俺の胸にもたれかけて、おみみをぴこぴこと動かした。

「特等席なのです!」

 むふー、と鼻から息を吐いてみぃちゃんが再びゲームに没頭し始めた。かわいい。

「明日も早いから、悪いけどもう少ししたら寝るからね」

 電車の中でメールを確認しながら居眠りしてしまったため、まだ【はじめまして】のメールに返信していなかった。少し遅い時間だが、早いうちに返しておかないとまずいだろう。

 とりあえず、今週末にいつも勇者候補生たちと情報交換に使っているファミレスで会わないか、と返しておいた。今週末はシルヴィが創っているダンジョンで遊ばせてもらう予定だから、都合がよければそのまま一緒にダンジョンに潜ってもいいだろう。

 そうだ、どうせなら真白さんたちにも声かけてみるかな? あとまおちゃんにも。

 俺、みぃちゃん、真白さん、真人くん、まおちゃん。そしてメールの矢那坂りなさん。これで六人になるし、ダンジョン潜るのに丁度いいだろう。

 週末のお誘いをみんなにメールして、スマホを充電器に乗せる。

「みぃちゃん、あんまり夜更かししないようにね」

「もう寝るです? じゃ、わたしも寝るです」

 声をかけると、みぃちゃんがぴょこんと俺の膝から飛び降りて、ばたばたとゲームを片づけ始めた。

「音を落としてくれれば、まだゲームしててもいいよ?」

「んー、おやすみするです」

 テーブルを片づけて、みぃちゃんが床に布団を敷いた。俺もベッドに横になり、枕の甘い匂いに、ちみっこ達のことをちょっと思った。俺がいない間も、このベッドで寝ていたんだろう。

「電気消すです」

「ああ、おやすみー」

 疲れていたせいだろう。

 みぃちゃんと二人きりの夜だなんてことを、まったく意識することなく。俺はすぐに眠りに落ちた。



 ――夜中、何かごそごそと何か動く気配を感じて、ふと目が覚めた。

「……ん」

 おなかのあたりに、何かあったかいものが、丸くなっているような。

 ……ああ、ちみっこたちかな。

 深く考えもせずに、軽く腕の中に抱きしめた。子供の高い体温は、少し冷え始めたこの時節には心地よいものだった。

 にゃー、とどこかで猫の鳴き声が聞こえたような気がした。




 翌朝、目を覚ましたら、すでにみぃちゃんが起きていて朝食の用意をしてくれていた。

 夕食はルラが作ってくれるが、普段、朝食は俺がみんなの分を作っているので、いつもより少しだけのんびりとした朝を過ごすことができた。

 夜中、ちみっこ達が帰ってきたような気がしたのだが、どうやら俺の気のせいだったようで姿は見えなかった。いつもは賑やかな朝食の席なのだが、みぃちゃんと二人だけで静かなものだった。たまには落ち着いた感じの朝もいい。

 支度を整え終わると、みぃちゃんが鞄を持って玄関まで見送りに来てくれた。

「……じゃあ、今日もまた帰りが遅くなるか、それか帰って来られないかもしれないけれど」

「ん、いってらっしゃいです」

「いってきます」

 なんとなく、新妻に見送られる新婚さんみたいな感じがして、少し恥ずかしかった。




 会社に着くと、すでにりるねぇがスタンバっていて、出社してきた同僚を片っ端からとっ捕まえてテスト用の装置が設置された会議室に放り込んでいた。

「はい、これテスト仕様書ね! パーティ戦闘の105から217までお願い」

 俺も鞄を机に放り投げて、さっそくテストに入った。


「あれ、戦士の”紅い(スカーレット)薔薇(・ローズ)”の後に、武闘家のコンボ撃ったらなんか違うエフェクトでたぞ?」

「そんな仕様ありましたっけ?」

「いいや、これはこれで面白い」

「バグじゃないんですかー?」

「直してる暇がねぇ!」

「赤いから赤熱連携ってことで」

「味方の魔法でダメージ喰らうんだが」

「フレンドリーファイアありありということで!」

「それは流石にまずいだろう」

「同じ職業2つ以上いると、なんか行動バグってません? 俺がスキル発動したのに別のやつが撃ったことになってる」

「それパーティのメンバーIDで行動管理してなくね? 職業だけで行動決定したらあかんやろ」


 ……パーティ戦闘に関してもバグが出まくりだった。

 一部は面白いからこっそり仕様として残したりしながら、まともに動作していない部分を突貫作業で直し、直してはテスト、テストしては直しの繰り返し。

 結局、その日もうちに帰ることはできなかった。


「……そうそう、鈴里くん。先方からね、今週末のプレオ-プンにテスターとして遊びに来ないかっていう打診があったんだけどどうするー?」

 りる姉が、うふふあははと乾いた笑みを浮かべながら言った。

「うちの仕事にずいぶんと満足してくれてるみたいでね、実際にプレイしたうえでもう少し企画段階から参画しないかって話が」

 なんでも依頼元も結合テストの真っ最中らしい。こちらも二時間ごとに出来上がったプログラムを送っているのだが、バグというかこちらで勝手に仕様にしてしまったアレコレをどうもずいぶんと気に入ってくれたらしい。

「悪いですが、お断りします。週末には用事があるんですよ。それに、それ、遊びに来いとか言ってて実質お仕事でしょう?」

「……そっかー」

 ため息を吐いて、りる姉が肩をすくめた。

「久しぶりに、ふたりで遊びに行けるかなって、おもったんだけど、なー?」

 上目づかいに、見上げてくる。

 少しだけ罪悪感がわいてきたけれど、これがりる姉の「お姉ちゃんのお願いアタック」だ。

 何度も喰らい続けた俺には、少しだけ耐性があるのだった。

「……悪い、りる姉」

「会社では城ヶ崎じょうがさきさん、でしょ? まぁ、いいわ。頑張ってくれたから、週末はゆっくりしなさいね。さて、あともうひとふんばりよ!」

「はい!」


 ――そうして、翌日までに何とか形にすることができた。ドキュメント関係はまた後日で大丈夫ということだったので、最終的にバグやデグレがないことを確認して、納品用にソースを固めた。

 ソースはこれまでにも、先方に一定時間ごとに送っていたので、そのフィードバックまで終わっている。最終的に金曜日の昼に納品し、先方からのOKが出たのは夕方になってからだった。

「おわったー!」

 ちっくしょう、まともに作ってたら一か月以上かかりそうなのを、実質四日、りる姉が事前作業進めてた分を入れても二週間で仕上げるとか、久しぶりに無茶な仕事だった。

 この後もまだ、ドキュメントの整理が残っているし、実際に運用していて新たにバグが出たり、仕様変更の要望や仕様追加要望があるだろうから、まだまだ完全に終わったわけではないのだが。とりあえず、一息つける。

 すっかり忘れていたメールの確認をすると、勇者候補生の真白さん、ならびにまおちゃんからは、今週末のオフ会に参加する旨の返信が来ていた。真人くんの方はどうやら用事があるらしく、勇者候補生側からは真白さんだけの参加となるらしい。なんでも午前中はシルヴィのダンジョンにこちらから人を連れて行くらしく、オフ会には参加できないが、向こうでのダンジョンには参加できるということだった。

 件の矢那坂さんからは、午後からならなんとか大丈夫、あと集合場所についてできれば詳しく教えて欲しいと返事が来ていた。どうやら地名でわからなかったらしい。もしかしたら地方に住んでいるのかもしれない。

 検索した地図のURLを貼って、最寄の駅など交通手段を詳しく書いて送る。勇者候補生やまおちゃんにも確定した時間などを送り、集合場所のファミレスには予約の電話をいれた。




「――はじめまして、勇者の皆様方」

 土曜日。

 集合場所のファミレスに現れたのは、予想通りダロウカちゃんだった。羽の生えたリュックを背負って、学校の制服だろうか、白いセーラー服を着た格好で、少しはにかんだような笑みを浮かべながら、ぺこりと頭を下げてきた。

「ええと、矢那坂さんかな? 俺は、」

「……え、ティア殿?」

 なぜか俺を一目見るなり、ダロウカちゃんは目をぱちくりと瞬かせてそういった。

 待て待て待て。あれか、俺がねこみみ幼女になったとき、もともと俺のことを知っていた皆が俺のことを鈴里太郎だと認識してくれたように。ねこみみ幼女の姿で初めて出会った人は、俺のことをティア・ローだと認識するってことかっ!?

「……なんのことかな?」

 ごまかそうと、シラを切ってみたのだが。ダロウカちゃんはじーっと俺の顔を見つめて、あごに手を当てると「ふむ」とひとつうなづいて、それ以上何も言ってはこなかった。

「……失礼した。私は矢那坂りな。小学四年生だ。週末勇者殿にはメールで書いて送ったが、先日、通りすがりの三毛猫なる人物の手によってそちらの世界を少し歩くことになった。突然の申し出を了承していただけて、感謝している」

 ダロウカちゃんは、相変わらずの硬い口調で淡々と述べ、またぺこりと頭を下げた。しっかりしているから、まおちゃんのように見かけより年齢が上かとも思っていたのだが、小学四年生だと九歳か十歳か。ずいぶんと幼い。

「俺は鈴里太郎。掲示板とかでは週末勇者で通っている。よろしくな」

「私は雪風真白、勇者候補生よ。よろしくね」

「……!」

 まおちゃんがもしょもしょと自己紹介したようだが、俺にはよく聞こえなかった。

「……」

 みぃちゃんは、人見知りなのか黙って俺の腕に抱きついたまま、じっとダロウカちゃんの方を見つめるだけだった。しょうがないので俺が紹介することにする。

「この子はみぃちゃん。ねこみみさんって言えばわかるかな」

「掲示板では写真一枚上がっただけで、以降ほとんど話題に上がっていないねこみみ殿だろうか」

 少し警戒した様子で、ダロウカちゃんはリュックから何かを取り出して頭に装着した。

 ……ねこみみヘアバンドだった。

「にゃー?」

 両の拳を内側に丸めて猫の手のようにし、こめかみにくっつけて、かわゆく身体を斜めにする。

「ぶは、この子カワイイ!」

 真白さんが大うけして、抱きつかんばかりだ。

「……馬鹿にされているようで不愉快なのです」

 みぃちゃんが一言で切って捨てると、ダロウカちゃんは一瞬固まって。それからのろのろとねこみみをリュックにしまって「すまなかった、許していただけないだろうか」と頭を下げた。

「……!」

 ダロウカちゃんの隣に座っていたまおちゃんが、なにか興奮した様子でダロウカちゃんに手を伸ばした。まおちゃんは中学生のはずなのだが、ダロウカちゃんと二人並んでいるとまるで同級生のようだ。

「ああ、どうぞ」

 俺には何も聞こえなかったが、どうやらまおちゃんがダロウカちゃんにねこみみを貸してほしい、と言ったようだった。ねこみみを受け取ったまおちゃんがさっそく装備して、満足そうにむふーと息を吐いた。かわいい。

 そんなこんなで、ダロウカちゃんとの再会は、少しぎくしゃくしながらも無事に終わった。



 お互いの自己紹介が終わったら、情報交換だった。

 ダロウカちゃん達との冒険は、まだ皆にも話していなかったし、まずはダロウカちゃんの話を聞くところから始まった。

 微妙に俺の記憶にあるのと違うところがあったのだが、それはルラレラのいう体験版補正とやらにようるものだろうと思われた。

 ダロウカちゃんと一緒に冒険していたほかの三人は、今日の午前中、シルヴィの創ったダンジョンに招待されているらしい。ダロウカちゃんはシルヴィのダンジョンスレにはあまり書き込んでいなかったし、寧子さんから俺の連絡先を聞いていたのでこちらのルートから異世界に関わることにしたようだった。

 真白さんからは、中級ダンジョンを攻略するようになってだいぶ稼げるようになったという話を聞いた。勇者候補生たちは、セラ世界で順調に冒険を繰り広げているらしい。俺ももうちょっとがんばらなきゃいかんなーと思う。

 まおちゃんは、すらちゃんに付き添ってシルヴィのダンジョンに関わっていたらしく、手振り身振りでなにかすごかったらしいことを伝えてくれた。



 ちみっこ女神に会えなかったことを残念がっていたダロウカちゃんに、今日異世界に行くことを告げると、是非にと同行を申し出てきた。

 昼食が終わった後、みんなで電車に乗り込み、ルラレラ世界に向かう。

 万が一はぐれてしまってはいやだという、ダロウカちゃんの手をつないであげる。

「……しかし、相変わらず鈴里さんは幼女に縁があるんですね?」

 真白さんが苦笑していた。




 いつものように闇神神殿前で電車を降りると、闇神メラさんとそれからシルヴィが待っていた。それに、ダンジョンスレ関係で呼ばれた人達だろうか、何人か知らない人と、あとにゃるきりーさんっぽい人とかが居た。

 だんだんルラレラ世界も、いろんな人か訪れるようになって賑やかになってきたな。

「うむ、タロウよく来た」

 シルヴィがやってきた。その後ろに、もう一人誰かいる。

「こんにちは、今日はよろしくおねがいしま……す?」

 話しかけてきたその人物を見て。

「……あれ、りる姉?」

 俺はぽかんと口を開けることしかできなかった。


 ――なんで、ルラレラ世界に、りる姉がいるんだ?

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