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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第五話「俺的伝説の作り方」
163/246

【魔王フェーズ】とつぜん異世界に召還されたオンナノコたちのお話 その1

今回、主人公の太郎くん視点ではありません。とある耳年増なオンナノコの視点となります。※2015/05/19 大幅に(6000字ほど)加筆修正を行いました。


【魔王フェーズ】


 『――魔王は ユニットを 召喚した!


  →新ヶ瀬(あらがせ) 舞子(まいこ)が あらわれた!

  →神原(かみはら) 美知子(みちこ)が あらわれた!

  →高橋(たかはし) 貴志(たかし)が あらわれた!

  →(さかき) 俊夫(としお)が あらわれた!

  →十六女(いろつき) 悠里(ゆうり)が あらわれた!』


 『舞子は まごまごしている!


  美知子は おおきくいきをすいこんだ!


  貴志は 逃げ出そうとした!

  →しかし まわりこまれてしまった!


  俊夫は ようすをうかがっている!


  悠里は ぼーっとしている!』

 ――何が起こったのか、よくわからなかった。


「……え?」

 ふと気が付くと、あたしたちは白い空間にいた。全く何もない、ただ白いだけの空間だ。光源がどこにあるのかわからないが、ただぼんやりと空間自体が光を発しているかのように辺りは明るく見通せる。足元に影はなく、自らの身体を見回してみても白い光に溶けそうになっているように見えるほどだった。

 周りを見回すと、つい先ほどまで一緒にいた部活の仲間が、そのままの位置で突っ立っていた。

「……ここ、どこだあ?」

 向かいに座っていたタカシくんが、きょとんとした顔でつぶやいた。

「ほんの今さっきまで、みんな部室にいたはずよねぇ……?」

 あたしの隣の、親友のみっちーこと美知子が、いぶかしげに周りを見回した。

「みんな、まずは落ち着こう」

 その隣に座っていた、委員長くんこと(さかき)くんが、耳を澄ますようにして美知子と同じように周りを見回した。

「……」

 トントン、と小さく何かを叩く音がして、振り向くとゆーりがいつもの狐のお面を被ったまま、首から下げたホワイトボードを指さして見せた。

『いわゆる、テンプレ的展開ってやつ、かな?』

「……テンプレ的展開って、なに?」

 部活の仲間が五人全員この場にいることに安心しつつ、あたしは状況がさっぱりわからず、首を傾げた。






 ――その日は、朝から何やら胸騒ぎがしていた。


 なんだかよくわからないけれど、あたしが習得している”第六感シックス・センス”が、原因不明の警報を鳴らし続けていたのだ。

 ”第六感シックス・センス”っていうのは、自分の少し先の未来についてなんとなく感じられるというアビリティで、概ね「なんとなく良いことがありそう」だとか「なんか良くないことがありそう」といった程度のものであって、いわゆる予言とか予知のような超能力じみたものではない。

 科学的には周囲の状況のごくわずかな異変を読み取り、経験によってそこから将来に起こりうる状況を推測している、というようなものらしい。

 まぁ、いわゆる勘、というやつのことだ。

 この”第六感”を鍛えてゆくと「ピキーン!」という感じで、何かしらの明示的な閃きのようなものを得られることもあるらしいのだけれど、あたしの場合はまだそういうレベルにまでは至っておらず、ただ漠然とした不安というかなんだか落ち着かない感じのまま、「うーん」と腕を組んでうなることしかできなかった。

 ……なんなんだろう、これ。

 必ずしも悪いことが起きる、という感じではなさそうなのだれど。

 ……しばらく悩んでいたせいで、学校に遅刻しそうになった。



 学校についてからも、もしかしたら抜き打ちのテストでもあるんだろうか、急に先生に指されたりするんだろうかとか、いやいやその程度のことであたしの”第六感”が働いたりなんかしないよね、って悩んでいたら「あらがせー、授業に集中しろー」って先生に怒られた。

 結局、放課後になっても特に何かが起こることもなく。あたしはいつものようにいつもの場所である屋上にあるプレハブの部室に集まって、部員のみんなと駄弁っていたのだけれど。

「……ってわけで、なんか今日は落ち着かないんだよ」

「マイって妙に勘が鋭いところあるでしょう? 気を付けた方がいいんじゃないかしら?」

 朝から妙な胸騒ぎがするんだ、とみんなに話したら親友のみっちーこと美知子が、ちょっと形の良い眉をひそめてこちらを見つめてきた。

「……そうだね、新ヶ瀬あらがせさんは少しばかりそういった方面においては他者の追随を許さないところがあるから。僕も気を付けた方がいいと思うよ。まだ、その”第六感”は働いているのかい?」

 委員長くんこと榊くんも、腕を組んで何かを考えるようにしてあたしを見つめてきた。

「え、うん。ずーっと頭の中で警告音鳴りっぱなしなんで、ちょっと慣れてきちゃったけど」

 あたしは常に鳴りつづけているせいで、無意識的に意識から除いていた警告音に耳を傾けた。

 まだ、確かにあたしの”第六感”は警告音を発している。

「ししょー、俺もそのしっくすせんす?とかってアビリティ覚えられるか?」

 タカシくんが、少し興味深げに問いかけてきた。どうやら「なんとなく将来の危機を知らせてくれる」というところが彼の興味に触れたらしい。

 そういえば、彼の好きなアニメの主人公が似たようなアビリティを持っていたっけ。

「えーっと、確か、サイコロを十回ふって、出目を十回とも当てるのを三回達成したら取得できるんだったかなー?」

 ずいぶんと昔に取得したアビリティなので、習得方法はうろ覚えだった。たぶん、おおよそのところでは間違っていないはずだけれど。

『それって、あてずっぽうでやると、割と天文学的かくりつだったりする、かな?』

 ぼーっと座っているように見えた、ゆーりが、ホワイトボードの角を叩いて小さく肩をゆすった。狐のお面に隠れて顔は見えないけれど、どうやら笑っているらしい。

「よーし、がんばるぞー!」

 タカシくんがさっそくサイコロを振り始めた。アレを聞いて素直に試せるところが流石だと思う。愚直なまでに純粋だと思う。単純計算でだいたい6046万分の1の確率で達成できることを3セットとか、普通は試しもせずにあきらめるものだと思うけれど。

「……ちょっとマイ? 最初から超能力でも持っていないと取得できないようなアビリティとかあんまりじゃないかしら?」

 美知子が、うろんな眼差しをこちらに向けてきたが、別にアビリティの習得方法はあたしが決めたものではないのだからいかんともしずらい。

「……え、そうかな?」

 ちなみにあたしは、自作の全部の面が1のサイコロを使って、「1でろ1~」と念じながら三十回振ったら取得できた。その方法に気づくところまでが習得法の一部だと思うので、かわいそうだけれどタカシくんには教えてあげない。たぶん、これはその方法を教えた時点でその人が取得資格を失う類の取得方法だと思うから。

 あるいは、「未来なんて自分が決めるものだ」と知っていれば。サイコロさえ振らなくても取得できる類のアビリティだとも思うし。

「……ぽてちおいしー」

 ごまかすように、こっそり部室に持ち込んだおやつをかじった。

 そんな感じで、みんなでいつものようにアビリティ研究会の部室でのんびりしていた時のことだった。

「……?」

 ふとなにか、違和感を感じて。

 地震が起こる直前に、不意に感じられるあの、ぴんとした感覚のような。あの説明しがたい「あ、何か起きる」という強烈な予感がして。


 ――部室の床が光った。


 そう、認識した瞬間に。

 あたしたち、アビリティ研究会の五人は。

 どこか見知らぬ、白い空間に移動していたのだった。






「……さて、そろそろ落ち着いたか?」

 突然の意味不明な状況に混乱していたあたし達に、どこからともなくかけられたその声は、まだ変声期も迎えていない少年の声のように聞こえた。

「誰よ……?」

 美知子が周りを見回して誰何すいかの声を上げる。しかし、白い空間にはあたしたち五人の他に姿は見えず、また白い空間はどこまでも続いていて壁のようなものも見えない。

『そこ』

 トントン、とホワイトボードの角を叩いてゆーりが何もない場所を指さした。

 いや、何もなかったはずのその場所に目を向けた瞬間、いつの間にか、まるで最初からずっとそこにあり続けていたかのように、王様が座るような豪奢な椅子が現れていて、そこには白いブレザーを着たオトコノコ?が気取った感じに足を組んでふんぞり返っていた。

 うちの学校のブレザーではない。見たことがないデザインの制服だった。というかよく見たら肩にはマントまでついている。流石にマントの付いた学生服なんてそうそうありはしないだろう。

 ブレザーの下がズボンなのでオトコノコなのだろうとは思うのだけれど、その顔はとてもかわいくてオンナノコだと言われても普通に納得できそうだ。

「……ほう、僕を認識できるものがいるとはな? 思ったより期待できそうな駒だ」

「えっと……キミ、誰? でもって、ここどこなのかな? 教えてもらえると嬉しいんだけど」

 玉座に座るブレザーのオトコノコ?は、あたし達よりやや年下だろうか。小学校の高学年くらいかもしれない。しかし、ずいぶんと偉そうな態度だ。他人をコマ呼ばわりとか、どういうつもりなんだろう。

「――貴様らは僕が呼び出した駒だ。貴様らがやることはただひとつ。女神どもを倒せ。以上だ」

 かわいらしい声ではあるものの、非常に憎たらしい口調でオトコノコ?が言い放ち、口の端を吊り上げて笑みの形を作った。全然笑っているように見えないところがキモチワルイ。

「わけわかんねーよ、何言ってんのおまえ?」

 タカシくんがあきれたような声を上げて、オトコノコ?に詰め寄ろうとした。

 そのふたりの間に。

「――」

 不意に現れた、黒いタキシードを着た少年が無言で割って入ってきた。こちらもすごく整った顔立ちで、はっきりいうと美形。少女マンガに出てきそうなオトコノコだった。

 白いオトコノコ?と黒いオトコノコ。

 何かを象徴しているような、対照的な二人。二人そろっていると、とても絵になる。そういうことを考えている状況ではないのだけれど、ちょっとイイナーとか思ってしまう。

「な、なんだよお前」

 タカシくんが、気圧されたように後ずさって。

 その様子を見た白いオトコノコ?がつまらなそうに、鼻を鳴らした。

「……いちいち貴様らのような駒ごときに名乗る必要も必然性も感じはしないが、好き勝手に呼ばれるのもそれはそれで腹立たしいものだから名乗っておこう。僕はユラ。セカイを滅ぼす魔王だ。そこの黒いのは僕の配下のクロだ」

 魔王ユラと名乗った白いオトコノコ?は、座ったままで脚を組みなおした。それから玉座の肘掛に寄りかかり、片頬杖をついてこちらをじろりとねめつけてきた。

「……!」

 ぴぴぴ、とあたしが左耳に装着しているスカウターが警告音を発した。ゴーグル部分に”不正な侵入を感知して遮断しました”というメッセージが表示される。

「今のは……?」

 もしかして、強制的にあたしたちのステータスを参照しようとした?

「ふむ……? ステータスが見えないやつがいるな。よし、貴様ら名を名乗れ。こちらが先に名乗ったんだ。まさかイヤとはいうまいな?」

 魔王ユラはちょっとだけ眉をひそめて、あたしを見つめてきた。

「特にそこのチンチクリンと狐面の女。どうやったのか知らないが、召喚主にステータスを隠すな」

 ……チンチクリンってあたしのことですかっ!?

 確かにあたしは女子の中でも少しばかり背の低い方ですが、チンチクリンってなにさ!

 思わずぷぅと頬を膨らませてから、気が付いた。

 魔王ユラを名乗るこの少年は、スカウターらしき機械を持っていない。

 ……この子、スカウターを使わずにあたしたちのステータスを覗こうとした? いったい、どうやったっていうんだろう。



 全ての生きとし生けるものにレベルという概念があることが世に知られたのは、まだそれほど昔のことじゃない。

 もっともコンピューターゲームではないのだから、実際に生きている人間のレベルなんか直接目で見ることはできやしない。例えて言うなら血糖値や血圧の値などを見ただけで言い当てることができないのと似たようなものだ。なので、普通はスカウターと呼ばれる特殊な機械を使って自分や他人のレベルを調べるのだ。科学技術の進歩に従い、当初はレベル程度しか調べることのできなかったスカウターも、現代ではその人間の持つ技能までもスキルやアビリティという形で表示できるまでになっていた。

 あたしの持っているスカウターは亡くなったひいおばあちゃんから受け継いだ、だいぶ古い型のもので、左耳に装着するタイプのものだ。片メガネのように左目のあたりを覆うゴーグル部分がディスプレイになっている。

 あたしみたいな中学生のオンナノコが装着するにはかなりごつい形をしているのだけれど、戦時中に作られたというこのひいおばあちゃんの形見であるスカウターは、セキュリティに関してもかなり厳しく作られている。……というより通信関係の規格が古すぎて融通が利かず、容易に侵入できないだけなのかもしれなかったけれど。

 ――でもまぁ、伊達に軍用品ではないのだった。




「……ちょっとあんた。他人のスカウターに強制で割り込むなんて、犯罪よ?」

 どうやら美知子のスカウターには侵入されてしまったらしい。

 魔王ユラは美知子の抗議を聞き流して、もう一度こちらをぐるりと見回した。

「ここは僕の創ったセカイであり、また滅ぼしたセカイでもある。貴様らが元居たセカイの法律など知ったことではない」

 魔王ユラはつまらなそうに、ふんと鼻を鳴らした。

「――何度もは言わない。名乗れ」

 睨み付けられる。

 見た目は年下なのに。その瞳は驚くほどに冷たく、どこか老成したような不思議な光をたたえていた。もしかしたら、見かけによらず意外と年上だったりするのかもしれない。

「……僕はさかき俊夫としお。中学二年生だ。一応、このメンバーのまとめ役という立場でもある」

 最初に名乗ったのは委員長くんだった。あたしのクラスの委員長で、笑顔が素敵な頼りになるオトコノコだ。容姿は普通でそれほどカッコイーというわけでもないのだけれど、クラスの中ではとても人気がある方だ。クラスの委員長というだけでなく、あたしたちアビリティ研究会の会長でもあり、頼りになるクラスメートだった。

 その委員長くんが、後ろ手に何かこちらにサインを送っていた。

 前もって何か取り決めていたわけではないけれど、おそらく「まずは情報を得る必要があるから、おとなしく言うことに従っておこう」とでも言いたいのだろう。

 委員長くんは周りの情報を把握したり、得られたわずかな情報から超能力じみた正確さで物事を推測する能力に長けている。彼に任せておけば、この不可解な状況もなんとかなるかもしれない。

「今、あなたはここが、あなたの創った世界で同時に滅ぼした世界だと言ったけれど、そのことに対して詳しい話を聞かせてもらえないかな?」

 委員長くんがにこやかな笑顔で交渉を始めた。彼は交流系のスキルがとても高いので、こういった交渉係にはとても向いているはずなのだけれど。

「――貴様は、状況把握や情報整理に向いているようだな。身体能力も悪くない。斥候にするかあるいは参謀役か。クロがいるから参謀は不要か」

 魔王ユラは、委員長くんの言葉を全く無視して独り言のようにつぶやいた。どうやら本当に他人のステータスを機械もなしに読み取ってしまっているようだ。

「……」

 委員長くんは少し悔しそうにしていたけれど、黙って下がった。ちらりとこちらに視線を向けてくる。おそらく、直接交渉でなく、あたしたちの自己紹介を通じて情報を仕入れる方向に切り替えたのだろう。あたしもそれに応えるように小さくうなずいた。



「俺は高橋たかはし貴志たかしだぜ」

 次に名前を名乗ったのは、タカシくんだった。タカシくんは少しばかりおつむの中身が足りないところがあるというか、愚直なまでに純粋というか、「三十歳までドーテーを守り抜いて魔法使いに俺はなるッ!」とか大真面目に言い放つちょっと困った感じの魔法使いになりたいオトコノコだ。女子としてもあまり背の高くないあたしより背が低く、なんとなく小動物のようなところがあってみんなのマスコット的な存在として生暖かい目で見守られている。

 いくらスキルやアビリティという概念のある世の中であっても、あくまで普通の人間にできる程度のことであって、魔法だなんてスキルは存在しない以上、彼の望みは決してかなうことなどないのだと思うけれど。

 しかし。

「――特にこれといった特徴はないようだな。強いて言うなら、魔法の適正ありというところか」

「え! それほんとか? 俺、魔法使いに向いてるってことか? やったー」

 魔王のその言葉に、タカシくんが嬉しげな声をあげた。

 自称とはいえ、魔王とかいうくらいなのだから。もしかしたらこの魔王のセカイ?には魔法が存在するのだろうか。

 ……ところで異世界でもドーテーだと魔法使いの適正が高いんですかっ?

 ちょっとだけ興味があります。



「わたしは神原かみはら美知子みちこよ」

 親友のみっちーこと美知子が、ひどく不機嫌そうに名乗った。スカウターの情報を勝手に読み取られたことがひどく不愉快らしい。美知子は美容や健康といったスキルを伸ばしていて、見た目にとても気を使っている美人のオンナノコだ。自分の容姿を自覚していて、それでいてそのことを鼻にかけることはない。ただ性格は少しきつめで、誰に対してもずけずけとモノを言うところがある。

 見た目が美人で性格がきついと周りから浮いちゃうことが多いけれど、みっちーの場合はきちんと空気は読む方なので、むしろ周りから頼られるリーダータイプでもある。実は剣道部のエースで、わりと後輩に慕われているらしい。

 見た目に気を使っているくせに、どうにも恋愛に興味がなさげなところがちょっと変わっている。あるいは少しばかり恋愛に不器用なだけかもしれないけれど。

「――前衛も後衛もやれそうな駒だ。しかし、なかなかにひねくれているな? ステータスと技能がここまで正反対なのも珍しい」

 どうやら身体能力的には前衛向きにもかかわらず、習得しているアビリティが後衛向きということらしい。

「……っ!」

 魔王の言葉に、美知子は悔しそうに口の端を噛みしめていた。



『わたしは十六女いろつき悠里ゆうりだよ。よろしくね、魔王くん』

 ゆーりが、ひどく楽しげにホワイトボードを振ってみせた。ゆーりは、とある事情で全身を一部の隙もなく覆っている。絹の手袋、黒いストッキング、顔には狐のお面という重装備だ。耳すらも長い黒髪で隠しているので、わずかに首元が除くばかり。

 ナイショだけれど、いろんな意味で素敵に無敵なオンナノコだ。

 しゃべれないわけではないけれど、肉声を発することをしないので意思の疎通には通常、首から下げたホワイトボードを使っている。

 どうも、最初にこの白い空間に飛ばされてきたときから興奮気味で、今も楽しげに身体をゆすっている。

「――貴様は……」

 なぜか、魔王はゆーりに関しては何も口にしなかった。

 ただゆーりのホワイトボードを見つめて、小さく舌打ちしただけだった。



 最後は、あたしの番だった。

「……あたしは、新ヶ瀬あらがせ舞子まいこ。同じく中学二年生だよ」

 あたしが名乗ると、またぴぴぴとスカウターの警告音が鳴り、侵入を遮断した旨のメッセージが表示された。

「ふむ、やはりステータスが見えないな。通常、召喚主に隠すことなどできないはずだが、貴様もなんらかの特殊技能持ちか?」

 魔王がいぶかしげにあたしを見つめてくる。

「そもそも他人のステータスなんて、スカウターを使わなきゃ見られないものだから、それを隠したり欺いたりするようなアビリティとか存在しないと思うんだけど? 単純にあたしのスカウターのセキュリティを突破できなかっただけじゃないかな?」

 もしかしたら詐術スキルとか隠蔽スキルとかを伸ばせば、そういったアビリティが取得できるのかもしれなかったけれど、寡聞にしてあたしはそういうアビリティの存在は知らなかった。あるいはスカウターの機械そのものを欺くための、情報処理スキルやハッカースキルなどを利用すれば同様のことができるのかもしれないけれど。

「……妙にアビリティ持ちが多いと思っていたが、貴様らの元居たところは素でレベルやスキルの概念がある世界なのか。これは話が早いな」

 魔王が笑った。

「これで全員の名を聞いたし、改めて説明してやろう。ここは、僕の創ったゲームのセカイだ。このセカイではスキルやアビリティといった特殊な能力が使用できる。そして、僕は今とあるセカイを攻めている。貴様らの仕事は、僕の手先としてその世界の女神どもを倒してくることだ」

「……いきなり人を拉致してきて、誰か見知らぬ他人を殺して来いとかあんあまりじゃない?」

 思わず声を上げると、魔王は小さく鼻を鳴らした。

「これはセカイとセカイによる、対等なゲームだ。当然、女神どものセカイの勇者は僕を倒しに来る。それに、あまり深く考えることもあるまい? 貴様らは僕の言うことを聞くほかに、元のセカイに戻る手段がないのだからな」

「……あんたがその女神の勇者とやらに倒されたら、わたしたちはどうすればいいのよ?」

 美知子が不機嫌そうな声を上げた。

「帰る手段がなくなる、ということだな。つまり、無事に元のセカイに帰りたければ、僕に従って女神どもを倒すしかないということだ。帰りたければ、死力を尽くせ」

「……」

 あたし達は、なんとも理不尽な魔王の言葉にただ沈黙で答えることしかできなかった。

 聞くまでもなく、拒否権は認められていなさそうだ。

「貴様らに、そのための力を授けてやろう」

 魔王がそばに立つ、クロという名の黒タキシードの少年に目配せすると、小さくうなずいた彼は、「あなたたちに力をさずけます」とささやくようにつぶやいて、指を鳴らした。

「……ちから?」

 左手に感じる違和感。手を見ると、いつの間にか薬指に銀色の指輪がはまっていた。

 オンナノコの左手の薬指にっ! 勝手に指輪をはめるとはナニゴトだっ!

 ちょっと憤慨して外そうとしたのだけれど、引っ張っても外れない。

 ……もしかしてこれって「呪われた装備」だったりする?

「それは召喚の指輪です。”召喚(サモン)”が使用可能になります。部下を率いて、女神を倒しなさい」

 クロはささやくようにそう、つぶやいて。フッ、と白い闇に溶けるようにして姿を消してしまった。

「では、僕のために頑張れよ、駒ども」

 魔王も小さく口の端を吊り上げると、同様に白い闇に溶けるようにして消えてしまった。

「ちょっと、いくらなんでも説明不足すぎるでしょうっ!」

 美知子が怒鳴り声を上げたが、白い闇のなかをむなしく響いただけだった。

「……なにが、なんだか、わけワカメだよ」

 突然、部室から謎の白い空間に拉致られて、「力をやるから元の世界に帰りたければ女神を倒して来い」とかあまりにも唐突過ぎてさっぱりわけがわからない。

 ……”召喚(サモン)”、ねぇ? そんなアビリティとか聞いたことないし。第一、指輪とかしたからってアビリティが増えるなんていうのもふざけた話だ。

 いくらレベルやスキルなんていうゲームじみた要素が現実に存在する世界ではあっても、それこそゲームじゃないんだからアビリティを他人に与えたりとかできるはずもない。

 そう思ったものの、やっぱり気にはなるわけで。

 あたしは左耳に装着した、スカウターの電源を入れた。

 何度かボタンを押して、ゴーグル部分にあたしのステータスを表示させると。

「あ」

 驚いたことに、本当にあのクロという少年が言った通り、あたしのアビリティ欄に”召喚”が増えていた。説明欄には、使用者に応じた部下ユニットを召還できる、と書いてあった。

「えっと、みんな、アビリティ、増えてる?」

 周りを見回してみると、美知子とタカシくんがうなずいた。ゆーりはちょっと首を傾げていたが、トントンとホワイトボードを叩くと『クリエイト・サーバント』という文字が現れた。

 あたしが得た”召喚サモン”とは微妙に違うっぽい。まぁ、同じようなスキルとかアビリティでも人によって名前が違うことはよくあるし。

「……」

 なぜか、委員長くんこと榊くんだけが、ひどく落ち込んだ顔で首を横に振った。

「おそらく、習得にレベル制限があるんじゃないかな?」

 乾いた笑いを浮かべて、委員長くんがその場に座り込んだ。

 委員長くんはいろいろなスキルを伸ばしていて、どれも信じられないくらいに高水準なのだけれど。体質的な理由で非常にレベルがあがりにくい。

「……ごめん」

「そういうふうに気遣われる方が、ひどいかな? 気にしないで」

 うん、ごめん、委員長くん。

 今度は言葉にしないで心の中だけで謝った。



『しっかし、あれだよね、白い空間とかゆーから土下座神さまぱたーんかと思ったら、なんか王様出てきて、これは王様の勇者召喚キターとか思ったら魔王だとかいうし、魔王に呼ばれて女神退治とかなんなの、かな? かな?』

 ゆーりが、一人で、誰に向けたものかしらないけれどホワイトボードをバタバタ振りながらその場で楽しそうにくるくる回っていた。

遅れた上に短めで内容もアレという三重苦。大変申し訳ありません。これ以上遅くなるよりはととりあえず更新しましたが、あとで大幅にいじる可能性大です。

 暫定で補足しておくと、新キャラの彼女たちはレベルやスキルという概念のある世界からやってきました。それ以外は普通の現代社会っぽい感じです。ちなみに全員中学二年生。またスキルといっても「あくまでも普通の人間ができること」の範疇であって非常に地味です。朝指定した時間に必ず起きることのできるアビリティ"目覚まし時計(ウェイク・アップ)"とかそんな程度です。レベルやスキルはスカウターと呼ばれる機械で確認することができます。

 ……そんな感じの設定とかキャラの設定をどうにもうまく盛り込めませんでした……。※2015/05/19 6000字ほど加筆修正して無理やりねじ込みました!


 あと本来、本編で別視点を出すつもりはなかったのですが、魔王くんが掲示板に書き込むところがまったく想像できなったので【魔王フェーズ】として書くことになりました。第五話は太郎くん視点の1、2、3…と【魔王フェーズ】それに掲示板の三つで今後構成される予定です。話が飛びまくってわからんのじゃーとなったら申し訳ありません。

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