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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
閑話「終わりのはじまり」
156/246

いろいろ、あとしまつ 「ティア・ローのぼうけん そのよん?」

 いつもよりは長め。

「じゃあまた、な!」

「また俺の店に飯食いにこいよォ?」

「はいなのです!」

 お昼ご飯を食べて、いっぱいお話をしたあと。わたしたちは、ランダのおじちゃんとおおかみさんに手をふってお別れしました。



「ちびねこ勇者さまは、いろんな方々とお知り合いなのですね」

 おじちゃんたちの宿を出た後、きぃちゃんがぽつりといいました。

「きぃちゃん達だって、もうおともだちなのですよ?」

 両手を上げて、うにゃーと鳴いたら、「そうですか」と無表情に頭を撫でてくれました。

 その後はきぃちゃんたちに案内されて、街のあちこちを見て回りました。

 街の外から見たときにも目立っていた、おふぃす街のような高層ビルが目立ちますが、実は東の街で見かけた石造りの家も多く、それどころか日本風の木でできたおうちなんかもちょこちょこ建っていました。港町ということもあって、いろんなところの文化がごちゃまぜなのでしょうか。

 市場で見かけるものも、こちらの世界でもあちらの世界でも、あまり見かけたことのない珍しいものばかりで、りあちゃんと一緒に、「へぇー」「にゃー」と驚きの声を上げつつ冷やかして回りました。

 少し驚いたことに、市場では東の街では全く見かけなかった機械の類なども扱われていました。ほとんどはむき出しのパーツで構成された不格好なもので、どうやら発掘品といった感じの物のようでした。用途不明なものも結構ごろごろしています。お野菜やお肉なんかと一緒にジャンクパーツが売られているというのもまた、なかなか不思議な光景です。

 あじあんていすとなさいばーぱんくというのはこういう感じなのでしょうか。

 しかしよく考えてみたら、神殿には巨大なプロジェクタがあったりしたわけで、リグレットの街には五百年前に事故で失われたという科学文明の名残が今も残っているのかもしれません。というか画面の中に入れるてれびだなんて、てぃあろーのセカイにだってありはしません。

 ああいうゲーム機が早くはつばいされるといいのににゃー、と思います。

 でも、なんで東の街ではこういった機械の類を見かけないのでしょう?

 気になって聞いてみると、あーちゃんが「電気がないからにきまってるじゃん」と言いました。りあちゃんが補足してくれたところによると、正確には東のサークリングスの街には神殿など一部の場所にしか電気が通っておらず、西の街から機械を持ち込んでもほとんど使い物にならないのだそうです。

 神様ぱうわぁとかで、えいやーと電気を引いちゃえば便利になる気がするのですが。

 そんなこと考えながら、あちこちのお店を冷やかして回り、先ほどお昼ご飯を食べたばかりだというのに、おやつは別腹なのです!と屋台の買い食いをしてまわり、お土産としてつつんでもらって前ポケットにもしまいました。



 何時間か街をぶらぶらしたあと、きぃちゃんがエプロンのポケットから携帯電話のような端末を取り出して耳に当てました。かぱっと開くタイプのガラケーみたいな形をしています。

 見た目通り携帯電話だったようで、きぃちゃんは小声で何か話した後、こちらを向いて、「神殿の準備ができたようです。そろそろ戻りましょう」

 と言いました。

「きぃちゃんもケータイもってるです? 番号交換するです!」

 前ポケットからスマホを取り出して振ると、なぜかきぃちゃんは首を傾げました。

「ケータイ? これは、携帯型ミラさんですよ」

「ミラちゃんです?」

 こちらも首を傾げると、きぃちゃんが手に持った携帯電話っぽいものを見せてくれました。

『GrovalObjectDevelopmentDeliverer-and-EnablerServiceSystem-MIRAcle。通称女神ミラです。キラッ★』

 小さな画面には、アニメ調のミラちゃんが映っていて、無駄に星をまき散らしていました。

「……」

 無言でパチンと携帯型ミラちゃんを閉じてきぃちゃんにお返しします。

 ちっちゃな画面のくせに、非常にウザイです。

神託オラクル回線ネットワークとやらで、この街のあちこちに小さなミラさんが居て、この街全体のあれこれを管理しているそうですよ。今のは神殿からの知らせを届けてくれたところです」

「へー、なのです」

 とりあえず、うなづいておきましたがあんまり興味はありません。

 まぁ、準備ができたということなので神殿に戻ることにしましょう。



 神殿に戻ると、ちょっと驚いたことに玄関ホールが謎の異空間っぽくなっていました。

 受付カウンターっぽいところにしんでんちょうさんが腰かけて、空中に浮かんだピアノの鍵盤のようなものを両手で叩いています。そのたびに重厚なパイプオルガンのような音が玄関ホール中に響き渡り、同時にいくつもの幾何学模様が空中に浮かんで、正面の巨大モニタに吸い込まれていきます。

 ぴかぴか魔法陣が、玄関ホールのあちこちに浮かび上がっていて、さらにいくつかの魔法陣が立体的に組みあがってまた別の魔法陣を組み上げています。

「わぁ、すっごいのです!」

 思わず声を上げると、鍵盤をたたく手はそのままにしんでんちょうさんが顔を上げてこちらを向きました。

「ああ、お待たせしてすみませんでした」

 しんでんちょうさんはそう言いながら、最後に大きな和音をいくつか鳴らしてから手をとめて立ち上がりました。

「いつでも使えますよ」

「ありがとなのです!」

 両手を上げてお礼を言いましたが、何がどう転移装置なのかさっぱりです。

「……ところでどうやって使うです?」

 首を傾げると、しんでんちょうさんは小さく苦笑しながら正面のモニタを指さしました。モニタの中には先ほどまで空中を飛び交っていた幾何学模様が、きれいにならんでいます。

「この正面のモニタが転移装置になります。さっそくお使いになりますか?」

「はいなのです!」

 お土産も買いましたし、街の観光もしました。次からいつでも来られるのなら、それほどあわてる必要もありません。

「きぃちゃん、あーちゃん、街を案内してくれてありがとです」

 ぺこりと頭を下げてお礼をします。

 せっかくなので、写真もカシャリと撮ります。向こうに戻ったら、ディエちゃんにきぃちゃんのことを話してみましょう。

 さて、忘れ物はなかったでしょうか?

 東の街に帰りましょう。




 りあちゃんとみぃちゃんと手をつないで正面モニタをくぐると、見慣れた闇神神殿のホールにつながっていました。

「おかえりなさい、勇者様」

 闇神メラちゃんが、小さく微笑を浮かべて迎えてくれました。

「ただいまなのです!」

 両手を上げてご挨拶をすると、メラちゃんはわたしの頭を撫でてくれました。やっぱりミラちゃんとちがってメラちゃんはいい感じです、おかーさんみたいです。

「……む、タロウ、戻ってきたのか?」

 シルヴィスティアお姉ちゃんが、ホールに入ってきて驚いたように声をあげました。そういえば戻るという連絡をするのを忘れていました。ホウレンソウはおいしいのです。じゃなかった報告・連絡・相談は大切なのです。気を付けるようにしましょう。

「ただいまなのです!」

 親愛のはぐをしようとしたら、「待て」と止められました。最近は種族変更の魔法でヴァラ族の種族特性である精気吸収をごまかしていましたが、どうやら今日のシルヴィお姉ちゃんは普通にえなじーどれいんする体質のようです。

 ちょっと残念です。

「……だんじょんのほうはうまくいってるです?」

「ああ、だいぶ大詰めでな。今は余計な魔法を使っている暇がない」

 シルヴィお姉ちゃんは、魔法でダンジョンを創ると言っていました。だいぶお疲れのようです。

「そこで、先にも話したが、もうしばらくディエとトリストリーアを借りたい」

「本人がおっけーなら、おっけーなのです」

「すまぬ、助かる」

「みんなはどこです?」

「ああ、案内しよう」

 シルヴィお姉ちゃんに案内されて神殿を出ると、少し離れた場所に大きな建物が見えました。

 一階の平屋建てですが、スーパーとかデパートみたいな感じの、すごく現代的な建物です。

「すごいのが出来てるです!」

「ああ、なかなか良い建築士の協力を得られてな。後で紹介しよう」



 歩きながら話を聞いたところ、どうやらこの間冒険をしたダンジョンと違って、地上一階層、地下三階層の構造のダンジョンを創っているのだそうです。

「建築士が言うには、実際にダンジョンに潜らなくとも物販やアトラクションを利用できるような一階部分があったほうがよいというのでな」

 案内人のシェイラさんとはかなりやりあったらしいです。入場料をどこでとるか、が最大の焦点で、最終的にシェイラさんが折れて建築士さんの言うとおりになったそうです。

 あのシェイラさんと口論して勝てるというのは、なかなかすごい人です。

「……ところでタロウ、いつまでねこみみ幼女の姿をしているのだ? 昨日の電話では、元に戻ったという話だったと思うが」

「ティア・ローは、てぃあろーなのです」

「……先ほどから少し違和感があったが、タロウは幼児化が進んでおらぬか?」

 シルヴィお姉ちゃんがりあちゃんとみぃちゃんを見つめて怪訝そうな顔をしました。

「かわいいは正義です!」

 りあちゃんが、わたしを後ろからぎゅうと抱きしめて宣言しました。

「これはこれで、よいです」

 みぃちゃんもりあちゃんから奪いとるようにしてわたしのことをハグハグしてくれました。

 にゃーなのです。



「おや、鈴里さん。元に戻ったんじゃなかったんですか?」

 ダンジョンの地上部分に入ると、真人くんが図面のようなものを片手に立っていました。わたしが西の街に出かける前はかわいいねこみみ幼女だった真人くんは、すっかり元の男子高校生の姿に戻っていました。

「むー! まさとくんはねこみみ幼女を卒業しちゃったです?」

 ぷーと頬を膨らませます。ねこみみとしっぽは、すてーたすなのです。えろいひとにはそれがわからないのです。

 なんだか裏切られた気分なのです。

「あはは。いえ、なんでもララ様の話では僕はずいぶん危ない状態だったらしくてですね、バグの修正とかであっさり元に戻りました。もう少し動画とか撮っててもよかったかなって、ちょっとだけ残念ですね」

「うにゃうにゃだんすを動画にとるです!」

 うっ、うっ、うにゃうにゃーとその場で踊り始めると、真人くんは「それ忘れてましたっ! ラジオ体操第二とかじゃなくて、そっちやるべきでしたねぇ」と悔しそうに言って、それからデジカメを回してわたしを撮ってくれました。

 きれいに映すですよ?

 みぃちゃんとりあちゃんも加わってうにゃうにゃ踊りました。


 ……シルヴィお姉ちゃんがちょっとあきれた顔をしていたのは、見なかったことにしました。




「……あれ、ねこみみ幼女がおる。あたらしいねこみみ幼女キター?」

 ダンジョン地上一階部分を歩いていると、知らない男の人がタオルを鉢巻きにして脚立に座り天井のあたりを工事していました。電気の配線工事っぽい感じです。

「にゃーなのです。わたしはティア・ローなのです。おじちゃん誰です?」

「ああ、彼が先ほど話した建築士だ」

 シルヴィお姉ちゃんが男の人を指して、ちょっとだけ苦笑しました。

「性癖はアレだが、なかなか優秀な男だな」

「特級迷宮建築士だっ! 幼女は撫でるだけでおなか一杯になるぜっ!」

 どうやら性癖ろりこんを隠す気は無いようで、脚立から飛び降りるとわたしの前に膝をついて座りました。

「勇者候補生弟が男にもどったから、ねこみみ成分不足してたんだよっ! ぜひ、なでさせてはもらえないだろうかっ?」

「……すこしだけなら、なでてもいいですよ?」

 シルヴィお姉ちゃんがお世話になっているようですし。ちょっとくらいはよいのです。

 そう思っておみみをぺたん、ってして頭を差し出したら。

「なあ、なでていいかい?」

 わたしの横を通りぬけて、後ろにいたみぃちゃんの前に行ってしまいました……。

 とても失礼なのです。

 当然のようにみぃちゃんに爪で引っかかれ、とっきゅうめいきゅうけんちくしさんは悲鳴をあげました。ありがとうございます、我々の業界ではご褒美です!と恍惚とした顔をしていたのがちょっと気持ち悪かったです。




「……あ、太郎さん」

「あ、すらちゃんなのです。にゃー、なのです」

 両手を上げてご挨拶をしたら、すらちゃんはなぜか額に手を当てて深くため息を吐きました。

「……どうかしたのです? おなかでもいたいです?」

「ああ、いえ、本人がそれでいいのでしたら私からは何も言うことはないのですが」

 またすらちゃんが深くため息を吐きました。よくわかりません。

「すらちゃんもがんばってるです?」

「ええ、一応ラスボスですので、シェイラさんに演技指導などを受けているところです」

「がんばるです!」

「ええ、領主さんには正規に雇っていただけそうですし、こちらでの生活の基盤もなんとかなりそうです」

 すらちゃんはそう言って、少しだけ息を吐きました。

 お仕事見つかってよかったのです、と言おうとしたとたん、突然、後ろからぎゅうと抱きしめられて持ち上げられました。

「にゃ、にゃー!?」

「……!!!」

 くるんと、空中で回されました。

「あれ、まおちゃんも来てたです?」

 そういえば、今日は土曜日だったです。まおちゃんも来るとか言ってた気がします。

「……!!!」

 何やらすごく興奮した顔で、頬を紅く染めたまおちゃんが、ものすごい勢いでわたしに頬ずりしてきました。ちょっと痛いです。

「……まおちゃん様、それ、中身は太郎さんですよ?」

 すらちゃんがぼそりとつぶやきました。

「……か、か、か、かわいい!!」

 珍しくまおちゃんが大きな声をあげて、またぎゅうとわたしを抱きしめてきました。

 ……ちょっと苦しいですー。



 まおちゃんから解放されたあと、リーアお姉ちゃんとディエちゃんのところに行きました。

 やっぱりお仕事が忙しいのでもうしばらく残るそうです。

「ところでディエちゃん、きぃちゃんを知ってるです?」

「え、きぃちゃん? お友達だけど、どこかで会ったの?」

 スマホの写真を見せると、ディエちゃんがきょとん、とした顔で「きぃちゃんだぁ!」と驚きの声を上げました。やっぱり知り合いだったようです。

 今度時間のある時に、西の街に連れて行ってあげましょう。




 みんな忙しそうにしていましたし、あまり邪魔をするのもよくないのです。

 ぐるりとあちこち歩いて回って神殿に戻ってくると、シルヴィお姉ちゃんが少しためらいがちに、声をかけてきました。

「……ところでタロウ、少し頼みがあるのだが」

「できることなら、何でも協力するですよ?」

 両手を上げて、にゃーと鳴くと、シルヴィお姉ちゃんはちょっと考え込むようにしていました。

「……このところ、ダンジョンを創るのに大きな魔法を使い過ぎているのでな。可能ならば、またタロウに添い寝をお願いしたかったのだが。流石にそのねこみみ幼女の姿では、な。いや、愛らしいその姿を抱いて眠ることに心惹かれるものがないでもないが、そのような幼い姿ではわたしの精気吸収に耐え切れまい。元のタロウの姿に戻ることはできぬのか?」

「……にゃー」

 むむむ。しょうがないのです。今日はいっぱい冒険をしましたし、そろそろてあぃろーに代わって変わってあげるのもよいでしょう。

「わかったのです」

 わたしは、ねこみみをぴこんとたててお返事をしました。

 じゃあ、交代するですよ。


 ……は?

 気が付くと、目の前に小さなねこみみの女の子が居た。ルラやレラよりもねこみみ分くらい背が低い。くるくるとした目は紅く、口元には悪戯っぽい微笑を浮かべている。

 って、これ、ティア・ローか?

 俺が居るのに、なんでティア・ローが。

 ってゆーか、ティア・ローはてぃあろーなのです。

 くるんとした目で俺を見上げてくるねこみみ幼女を見つめて。

 驚いた顔で見下ろしてくる、あまりさえないおじちゃんを見上げて。

 俺は。

 わたしは。

「ばとんたーっちなのです!」

 ぱん、と小さな手が俺の手に触れた。

 ぱん、と小さくその手に触れました。

 にゃにゃ、と小さく笑いながら。

 俺の後ろに。

 おじちゃんの後ろに。

 ゲートの向こうに。

 わたしは。

 俺は。

 飛び込んだ。


 バイバイなのです!



「……今のは、なんだ?」

 わけがわからない。俺はティア・ローでありながら、同時に鈴里太郎だった。こんなことは初めてだった。これまでは、スイッチが切り替わるというか、我に返る、という感じで俺に戻っていたのに。「俺」でありながら、同時に「わたし」でもあったというこの不思議な感覚はなんとも言葉ではいい表しがたい。

「今のは、どういうことだ、タロウ?」

 シルヴィも目をぱちくりとして、俺を見上げてくる。

 ロアさんとロナさんが同時に存在できるのなら、俺とティア・ローだって同時に存在できるのだろうけれど。今の、自分が複数同時に存在するような、あの奇妙な感覚は。まったくもってよくわからない。

 ……微妙に暴走気味だとおもっていたが、本格的に別人格化してるんじゃなかろうな?




 その夜は、久しぶりにシルヴィの屋敷を訪れた。

 りあちゃんとみぃちゃんは微妙な顔をしていたが、俺はやましいことをするつもりはないので平気な顔で神殿を出てきた。

 ……実際、人助けだしな。

 後から聞いた話だが、俺とシルヴィが初めて出会った夜、シルヴィはかなり危ない状態だったらしい。ヴァラ族は他者の精気を得られなければ消滅する。あの時、ほとんど消滅寸前であったのだそうだ。

 そのせいで触れられた箇所が赤くなるほどの精気吸収を受けたわけだが。

「……今回はそこまではいかぬであろうよ」

 薄絹をまとったシルヴィが、すまぬ、と小さく頭を下げた。

「タロウを知ってしまった以上、今さら他の男に行きずりの関係を求める気も起きんのでな。ルラ様やレラ様には悪いが、そなたの精気を分けて欲しい」

「ああ、約束だしな」

 腕の中に、小さな身体を抱いて。その夜は眠りについた。




「……」

「……」

 翌朝、神殿に行くと、りあちゃんとみぃちゃんがやっぱり微妙な顔で出迎えてくれた。

 そそそ、とみぃちゃんが寄り添ってきて、すん、と鼻を鳴らしながら俺の手をそっと握る。

 ……やましいことはしていないので、まったくこれっぽっちも、恥じることはないのだけれど。

 そっとみぃちゃんの手を握り返して、お耳をなでなでする。

「ふむ? 別にわたしはタロウとは肉体だけの関係でも構わんからな」

 つやつやとした顔でシルヴィが余計なことを言った。

「誤解されるようなことを言わないで下さいよ……」

 俺は深くため息を吐いた。



 リーアとディエは今週もルラレラ世界に残るということだったので、帰りは俺とみぃちゃんだけだった。

 いつもはルラとレラが電車扉を召還してくれるのだが、単独で帰る場合には神殿から帰る必要があるらしい。闇神メラさんに案内された神殿の一室に、ルラレラが召還する電車扉のようなものがあり、俺とみぃちゃんはその扉をくぐって現実世界へ戻る電車に乗った。

 いつものように「俺の部屋」で降りると、ルラレラはまだ帰ってきてい無いようで、部屋はがらんとしていた。

 そういやいつも俺の部屋から帰ることが多いロアさんたちだったが、どこに住んでるんだろうな。

 ふとみぃちゃんに目を向けると、帰るそぶりも見せずに、俺の隣に寄り添っていた。

「えーっと、」

「……もしかして、わかってなかったです?」

 帰らないの、と聞こうとしたら、みぃちゃんが先に口を開いた。

「ロアさんは、旅に出たです。私は、今日からこちらでお世話になるです」

「……あー! お世話になりますって、そういう意味だったの?」

 出かける前でどたばたしていて適当に頷いていた。

 まだ近くのショッピングモールはやってるはずだから、布団とか買いにかなきゃならんな。

「……これは、生活費その他なのです」

 みぃちゃんが、小さな涙のような青い石を差し出してきた。

 これ、みぃちゃんに押し倒されたときに落ちてたやつだよな。寧子さんに預けてきたんだけど、やっぱりみぃちゃんのものだったらしい。

「ん、ありがとな」

 深く考えず、受け取って丁寧に仕舞い込む。

「……この世界でもそれなりに高値で売れるですから、扱いには気を付けてほしいです」

「んー?」

 そういうのをお金に変える方法に疎いからなぁ。




「……ただいまなのー」

「……ただいまなのー」

 夜、少し遅い時間にルラとレラが帰ってきた。

 相変わらず、どこか暗い表情だ。

 しかし、何か気になる。

「おかえりー」

 声をかけると、ぽすん、とふたりして俺の脇腹に頬を寄せてきて、はぁ、と深いため息を吐いた。その頭に手を伸ばして撫でてやる。

「……ん?」

 不意に気が付いた違和感。

「なんか、お前ら、ちょっとだけ背が伸びてないか?」

 ほんのわずか、おそらく一センチくらいだとは思うのだが。流石に昨日今日でそんなに背が伸びるわけもないし。

 首を傾げた俺の前で、急速にルラレラの表情が明るくなっていった。

「……おにいちゃん、すごいの。たった七ミリの違いをみわけるなんて、すごすぎるの!」

「愛のなせるわざなのっ!」

「いや、しょっちゅうお前らの頭なでてやってるからな」


 なんでも、俺が自分を書き換えて女神化したのがルラレラにはかなり衝撃だったらしい。

「だから、わたしとわたしも、大人な自分に書き換えようとおもったの!」

「そしたらおにいちゃんだって、ドキドキしてくれるはずなの!」

「……そっかー」

 よくわからないが、女神様であっても自分で自分の存在を書き換えるというのはかなりとんでもないことらしい。

「でも、それはちょっと寂しいな」

 息を吐いたら、ルラレラがきょとん、と俺を見上げた。

「どうしてなのー?」

「わたしとわたしがえろえろないすばでーになったら、うれしくないのー?」

「んー、いや、恥ずかしい話だけどさ、お前らがおっきくなったら三人一緒のベッドで寝られないだろう?」

 この年になって独り寝が寂しいというのはまた別の意味に勘ぐられそうだが。

 どちらかというと、子供が大きくなって一人で寝るようになって寂しい、という感情だろうか。

 とたんにルラとレラの表情がかわった。

「ちみっこのままでいいのー!」

「おにいちゃんと、いっしょに寝られないくらいなら、一生ちみっこのままでいいのー!」


 ――あっという間に元の背の高さにもどってしまった。



「……でも、おむねはニセンチ増えたままなの!」

「ちょっとだけふくらんだの!」


 そーですかー。

 思いついた小ネタをだらだら並べただけという……。

 「特級迷宮建築士の一日」はやめにして、次からはシルヴィの作ったダンジョンの話を2回か3回行きます。我ながらいきあたりばったりすぎですね……。

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