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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
閑話「終わりのはじまり」
152/246

いろいろ、あとしまつ

 えぴろーぐ直後のお話です。

「……で?」

 テーブルの上に両肘をついて、組んだ手で口元を隠したままロアさんが言った。

 突っ立ったままの俺を、座ったままの姿勢でじろりと見上げてくる。

「……いや、なにが、で? なのかさっぱりわからないんですが」

 幼女化して、ねこみみ化して、女神化するなんていうとてもカオスな出来事があった後。

 その後始末というか、りあちゃんやシルヴィに連絡をしたりと細かい用事を済ませ、何か寧子さんと相談することがあるというとルラレラと、疲れて寝てしまったみぃちゃんを残して、ひとり自分の部屋に帰り着いたら……なぜかロアさんが俺を待ち構えていたのだった。

 さっぱり状況がわからない。これは、いったいどういう状況だ?

「……で?」

 ロアさんは、俺の問いに答えることなく、もう一度繰り返した。責めるような視線が、ぐさりと俺の胸に突き刺さる。

「いや、だから、何だかわからないけど、はっきり言ってくださいよ!」

 思わず声を上げると、ロアさんは深くため息を吐いた。

「……つまり、あたしに言うことは何もない、と?」

「だから、何の話なんですか?」

 回りくどい言い方をするところがどうにもロアさんらしくない。いつもなら言いたいことははっきり言って、そのうえで手なり足なりを出してきたりもするのだが。どうにも不可解だ。

 どうも何かに怒っているようではあるが、俺、ロアさんを怒らせるようなこと何かしただろうか?

 首を傾げて最近のことを思い起こしてみるが、少なくともロアさんに関して心当たりはない。

 ……いや、みぃちゃんのことだろうか。結果的には無事だったが、俺のせいでとても危険な目にあわせてしまったのは、一言、謝罪しておくべきだろう。

 りあちゃんに連絡は入れておいたから、一緒にいたはずのロアさんには事情が伝わっているつもりだったけれど。俺の口からちゃんと話しておくべきだろう。

 謝ろう、と口を開こうとした瞬間。

「……はぁ」

 ロアさんはもう一度深くため息を吐いて、片手で頬杖をついた。

 それから少し不機嫌そうに、じろりとねめつけてくる。

「だからさぁ……みぃちゃんを傷物にしといて、あたしに何か申し開きはないか、つってんのよ?」

「ぶはっ! いや、ちょっとまって、俺そんなことしてませんからっ!」

 寧子さんの実験室で、みぃちゃんに押し倒されて抑え込まれたのは確かだけれど、誓ってやましいことをした覚えはない。

 なめるです、とみぃちゃんに顔中なめまわされたけれど、ルラレラも乱入してきたし、そもそも寧子さんもそばにいるのにその場でさすがにそういうことをしたりはしなかった。

 みぃちゃんも、秘密を俺に打ち明けたりとだいぶ感情が高ぶっていたせいなのだろう、普段はしない過剰なスキンシップを求めてきたけれど、俺は優しく抱きしめる以上のことをした覚えはないのだった。

 ……なぜか微妙にところどころ記憶があいまいなとこもあるんだけどな?




 ――時間は少し前に戻る。


「……にゃぁ」

 結局のところ、俺を押し倒したみぃちゃんは、俺の顔中をよだれだらけにしたことで満足したらしかった。いろいろあって疲れていたということもあるのだろう。小さく鳴くようにつぶやいて、俺に抱きついた格好のまま寝息を立て始めてしまったのだった。

 みぃちゃんに対抗するように、俺に頬をすり寄せていたルラレラも「勝利なの!」「おにいちゃんを守りきったの!」となぜか満足げな表情だ。

 ……俺が、というかティア・ローが寝ぼけて顔中をなめ回しちゃったときのダロウカちゃんも、こういう気持ちだったのだろうか。

 そっと背中をなでて、ようやく力の抜けたみぃちゃんと身体の位置を入れ替えるようにしてベッドの上に横たえる。

 そのとき、服の上から、何か小さなものがいくつか転がり落ちた。

 小さな、透き通った青い石のようなものだった。丸みを帯びた涙滴型で、イヤリングの飾りにでもなりそうな感じだ。

 ……みぃちゃん、イヤリングとかつけてたっけ?

 みぃちゃんの素敵なねこのお耳には、そんなものがついていた記憶はないし、じゃあルラレラかというとうちのちみっこどももまだそういった宝飾品は身に着けたりしていない。

 とりあえず集めて寧子さんに預けておいた。



「はい、これ使ってちょうだいねっ!」

 スマホのバッテリが切れていたので、寧子さんのところの電話を借りようと思ったら、黒塗りのダイヤル式の電話を渡された。

 寧子さんからの電話はよくガチャンと音を立てて切れるので、固定電話なんだろうなとは思っていたが、まさか今時ダイヤル式の電話だとは思わなかった。

 ……まあ異世界で普通に電話とかメールとかネットとかできるくらいなんだから、細かいことを気にしてもしょうがないのだろう。だいたい渡された黒電話、線がどこにもつながってないし。

 指を入れてダイヤルを回すたびに、じーころころ、じーころころ、となる音が、どこか昔の映画のシーンを思い起こされて郷愁を誘う。俺が生まれたころにはすでにプッシュホンしかなかったから、ダイヤル式の電話なんて実物を見るのは初めてなんだよな。

「あー、りあちゃん? 俺だけど」

 まずはりあちゃんに電話だ。数回のコールののち電話に出てくれたのだが。

「……俺、とは誰だ? スマホを購入した時に聞いた、オレオレ詐欺というのは貴様のことか?」

 非常に不機嫌そうな声だった。

「えっと太郎です。今、寧子さんのところの電話を借りてます」

「タロウ様……!」

 ころり、と態度が丸くなった。

 それからりあちゃんは、宵のうちにみぃちゃんが突然いなくなったこと。ロアさんは護衛の仕事を優先して残ったので、自分が代わりに探していたことなどを話してくれた。

「みぃ殿も、タロウ様もご無事なのですね?」

「ああ、詳しい話はまた後でね」

「……ところで、お声がいつものタロウ様のようですが、元に戻られたのですか?」

 微妙に残念そうな声色のように聞こえたのは気のせいだろうか。

「……うん、その辺もまた後でね」

 今日は向こうに帰ること、りあちゃんは西の街に神殿についたらそこで待っていて欲しいということを告げて電話を切った。

 りあちゃんはなるだけ早く迎えに行って、連れて帰ってこよう。いや神殿の転移装置?みたいなので東の街にもどれるんだっけ。時間がかかるようならまた連絡をいれて先に戻ってもらうとしよう。

 でもどうせなら一緒に西の街の観光とかもしたいなぁ。

 ロアさんとみぃちゃんの用事がどうなっちゃうのかもまだ謎だけれど、まだ調べ物を続けるのであればそのお手伝いもしないといけない。

 さて、次はシルヴィの方だ。



「……え、そうなの?」

「タロウが何を言っているのかよくわからぬな」

 シルヴィに電話したところ、俺の体感では一週間近くルラレラ世界で過ごしたつもりだったのに、まだ四日ほどしか経っておらず、迷宮構築を手伝っているリーアやディエはもう少し向こうに残るということだった。

「まあ今は作業が佳境に入っているのでな。少し延長するかもしれぬが、それでもよいか?」

「ああ、うん。完成を楽しみにシテイマス」

 そろそろリーアたちも迎えにいかなきゃーと思っていたけれど、どうやら微妙にずれていたようだ。

「じゃあ、もうしばらくお願いしますね」

「うむ、任されよう」

 ぷつんと電話が切れた。

 なんでもいつもの掲示板を使ってなにかいろいろやってるらしいから、後で目を通しておいた方がいいかもしれない。

 ……さて、そうなると。ずいぶんと久しぶりにルラレラ達だけか。

「よし、じゃあ帰るか」

 ちみっこたちに声をかけたら、なぜかそろって首を横にふった。

「ちょっとままに相談することがあるのー」

「おにいちゃんは、一人で帰ってほしいのー」

「……そうなのか?」

 珍しいこともあるもんだ。

「ああ、ほら、単独ログイン・ログアウトの確認もかねて、悪いけど一人で帰ってくれるかな、たろーくん? みぃちゃんはあとでちゃんとロラちゃんとこに届けるからさ。あ、それともみぃちゃんおもちかえりしちゃう? 今ならおうちでふたりっきりだよっ!?」

 寧子さんがにやにや笑いながら、そんなことを言った。

「……お持ち帰りしません」

 ちょっと心惹かれるのはたしかだけどなー。

 正直、ルラレラも寧子さんもいない場所で二人っきりだったら、自制できそうにない。

 俺、ロリコンじゃあないけれど、ねこみみとかすっごく好きだし。





 ――そうして、一人さびしく電車に揺られて俺の部屋まで帰り着き、冒頭のシーンにつながったわけであるのだが。


「……まぁ、みぃちゃん本人の選択なわけだから、あたしが何か横から言うのも筋違いなのかもしれないけれど」

 深くため息を吐いて、ロアさんが座れとばかりに手を振った。

 思わずロアさんの対面に正座して座ると、俺の前に缶ビールがでん、と乗せられた。ロアさん自身の前にも傍らのビニール袋から取り出して、いろんな種類のお酒を並べ始める。

「俺、お酒はあんまり」

「じゃ、お茶でもいいから付き合いなさい」

 俺のいない間に、すでに何本か開けていたのだろうか。目がすでに半眼だった。

 ロアさんはお酒しか買ってきていなかったので、近くのコンビニでいろいろツマミやら食材を買い込んできて、簡単なものを作ってテーブルに並べた。そうしている間にも空き缶の数はどんどん増えてゆき、俺が再び席に着いた時にはロアさんはすっかり出来上がってしまっていた。

「……そういえば、どうしてロアさんがここに? りあちゃんからは護衛の仕事の方を優先してランダさんのとこにいるって聞いてましたけれど」

 いきなりみぃちゃんのこと言われて俺も狼狽したけれど、あのあとみぃちゃんが起きてロアさんに連絡したのだとしても、俺より先に俺の部屋に着いているというのはおかしい。

「……んー? あたしならまだランダさんと一緒にいるけどぉ?」

 酔って真っ赤になった顔で、ロアさんがんふーと笑みを浮かべた。

「……それじゃここにいるロアさんは何者ですか?」

「もちろんあたしにきまってんでしょーが」

 いや意味不明だ。

「んー? ララちゃんからは、タローが道を踏み外したって聞いてるけど、わかんない?」

「道を踏み外したってなんですかそれ!」

 ララちゃん、っていうのは寧子さんの神様ネームだっけか。あの人はほんといろいろ誤解をまねきそうなことをあちこちに言いふらしてもう。

「自分を書き換えて、ララちゃんの元から飛び出たってきいたけど?」

「ああ、女神化のことですか」

 そういや寧子さんが、俺はセカイを持っていないからロアさんと近い立場、みたいなこと言ってたっけ。

「言い方はなんでもいいけどさ……いいや。見せた方が早い」

 ロアさんは何かを言いかけて、不意に押し黙った。

「……酒盛りしてるって?」

 気が付いたら、ロアさんの隣にいつの間にかもう一人ロアさんがいた。

 いや、よく似ているが少し若い方、ロナさんの方だろうか。

「どっちかってゆーと、ロナの方が当事者でしょ?」

「ああ、そっか。あたしもみぃちゃんのことに関してはひとことタローにモノ申したいところではあるわね」

 ロアさんとロナさんは、顔を見合わせて、それからじろしりと二人して俺をにらみつけてきた。

「あたしはロアでもあるからあんまり久しぶりって気はしないけれど、久しぶりね、タロー? あたしはロナよ」

 ロナさんはそう言って口元に笑みを浮かべた。

 ロナさんに会ったのって、確かロアさんに魔法を見せてもらおうとしたときだったよな。

 ロアさん自身の魔法だと大陸が吹っ飛ぶクラスだからって、物理攻撃に特化したタイプのロナさんの姿になって「精霊核融合」とかいう魔法を見せてくれたんだった。

「……あれ、ロアさんとロナさんって、別人なんですか?」

 俺は酒を飲んでいない。酔っているわけではない。

 目をこすってみるが、幻覚の類ではないらしい。

「タローとティア・ローと同じくらいには別人よ? 見て分かるように、肉体的には別に存在してるしね。まぁ、それと同じくらいに同一の存在でもあるわけだけれど」

 ロアさんが、ぐいっと缶の中身を飲み干して、傍らのビニール袋から新たな缶を取り出してロナさんに一本渡し、自分でもまた新しい缶を開ける。

「まぁ細かいことは気にしない! あたしの、あたしらのみぃちゃんを奪っていったタローには、言いたいことがいっぱいあるのよっ!」

 ロナさんもさっそく缶を開けてぐいぐいと飲み始める。見た目は高校生くらいだからちょっと気にならないでもない。

「じゃあ、飲み明かすわよっ!」

 ロアさんがかんぱーいとばかりに缶を高く掲げ、俺は内心ため息を吐きながらウーロン茶の缶を軽くぶつけた。




 ロナさんの話は、とても長かった。

 初めてみぃちゃんに出会った時の話。

 偶然からみぃちゃんの正体を知ってしまったロナさんは、その同胞を探す旅に協力することになり、長い長い旅を続けてきたらしい。

 みぃちゃんたちが居たセラ世界はかつて三つの世界に分かたれていて、最初はそのうちの一つを探していたらしいのだが、最終的には「みぃちゃんの望みをかなえるために」探しにくいからという理由で世界を一つに統合したとか、かなり無茶苦茶やってきたようだ。

「……だからさぁ、みぃちゃんのこと、頼んだわよ? 世界をまたいでいるから、法的に結婚することなんて出来はしないでしょうけれど。幸せにしないと許さないから」

 もう何本目かわからない缶を飲み干して、ロナさんが真っ赤な目で言った。

「まぁ、みぃちゃん自身は子種だけでいいとか言うかもしれないけど、あたしらがそういうの許さないから」

 ロアさんも、かなり酔いがまわっているらしく、言葉ははっきりしているものの目が虚ろだ。

 シラフでウーロン茶をちびちび飲んでいる身としては、わりといたたまれない。

 なんていうか、俺自身としてはみぃちゃんのことは嫌いじゃないし、むしろ好きな方だけれど流石に結婚というか身を固めるという観点ではまた別の話だ。言葉通りの意味ではないのだろうけれど、みぃちゃんからはデュラ族の子孫を残すのに協力してくれという意味合いのことしか言われていないのに、ロアさんとロナさんは俺がみぃちゃんと結婚することが前提みたいな。娘が嫁に行く父親か母親の愚痴みたいな語りを延々と聞かされている。

 いやまあ、そういう行為をする前提であれば、法的には無理でも結婚に近い形になるのが同然なのだろうとも思うけれど。

 俺まだ了承した覚えないんだが。……なんか外堀から埋められているような?

 俺だっていろいろあってだいぶ疲れているのに、ロアさんズは飲み続けてこっちにいつまでもねちねちと絡んでくる。

「……ほんとみぃちゃんも、なんでこんなのがいいんだろうね? ちょっとタローこっちきて」

「なんですかー」

 ロアさんが手招きするので、眠気でややぼんやりしている頭を左右に振りながら移動してロアさんの隣に座ると。

「んー」

「……っ!?」

 いきなり、唇をふさがれた。アルコールの匂いと、苦みが口中に広がる。

「な、何をするんですかいきなりっ!」

「んー、ちょっとだけ、試してみただけ。うん、やっぱちーっともドキドキしないや」

 あははーと笑って、ロアさんが酒臭い息を吐いた。

「じゃあ、ね」




 いつ眠ってしまったのかも覚えていなかった。

 ロアさんズと一晩中酒盛りをした翌日。昼過ぎに目を覚ました時にはすでにロアさんたちの姿は見えなかった。

 後に残されたのは大量の空き缶と、食い散らかされたツマミだけである。

 ちみっこたちが戻ってくる前に片づけなきゃなー。

 ふわあ、と大きくあくびをして起き上がったら、テーブルの上に折りたたんだ紙片があるのに気が付いた。

 ……なんだろう。手紙、か?

 開いてみると、ただの一言。

「……またね、って。なんだろう」

 わざわざ紙に書いて残すような言葉じゃないだろうに。

 その時は深く考えもせず、部屋の片づけを始めたのだが。


 ――それ日以降、ロアさんは俺の前から姿を消した。

ネタはぽこぽこでてくるのにそれがいっこうにまとまらない。詰め込みたいこととお話が転がる方向が全然一致しない。

 久しぶりに3日くらいでいけるかなとおもってたのに五、六回書き直したせいで結局いつもどおりに。

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