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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第四話「勇者と書いてょぅι゛ょと読む」
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22、「彼方より訪れし」

 ……非常に遅くなりました。

 また本文中にかなりショッキングな表現がありますのでご注意ください。

「さーて、次はあなたたちの番だよーっ!」

 女神ミラがみんなをぐるりと見回して、にやりとした笑みを浮かべる。

「……いや、風呂はいってさっぱりして、飯まで食うて、あとは酒でも飲んで寝ようか、ちゅー感じやと思うんやけど、ほんまに今からラストバトるん?」

 並べられた食事を全て平らげたらしいサボリーマンが、おなかをなでながらぼやいた。

 そう言いたくなる気持ちは俺もよくわかる。俺なんか飯喰ってる最中にいきなり拉致られて強制バトルだったしな。

「むぅー?」

 女神ミラの眉が微妙に吊りあがった。

「せっかく異世界の街にきたんやし、ちっとばかし観光とかもしてみたいなーとも思うし、明日やとあかんのん?」

「せーっかく、ちびねこちゃんが盛り上げてくれたのにぃ~っ! そーんなこというかぁ!」

 女神ミラは素早くサボリーマンの隣に駆け寄ると、自身の頬を膨らませながらサボリーマンのほっぺたをつねりあげた。サボリーマンのほっぺたが、みにょーんと伸びる。

「いひゃいいひゃい、ほっぺたひひっぱらんといてーな」

「そんなこと言う悪い子はぁ、こうだぁー★」

 ふわり、とサボリーマンの体が宙に浮いた。

 女神ミラはサボリーマンのほっぺをつねりあげたままだ。どうやら、女神ミラさんの宙に浮かべる能力というやつは自分自身だけでなく他人にも及ぼせるものらしい。

「な、な、なにするのん!?」

「こうするの、だぁー!」

 言うなりミラさんは、宙に浮かべたサボリーマンの身体を正面モニタに向かってぶん投げた。

「わひゃー!?」

 叫ぶサボリーマンの体が、溶ける様にして正面モニタに吸い込まれる。そしてすぐに、モニタの中の石舞台の上に現れた。

 ……ご愁傷様です。つまり、強制バトルってことだなー。

「これでよし★」

 これでよし、じゃねーよ。ついでに言うと星飛ばすな。

 内心でツッコむが、俺のターンは既に終わっているので実はまぁどうでもよかった。下手に口出ししてもう一回バトれと言われたら最悪だしな!

「つか強制かよ。女神ちゃんちょっと強引すぎじゃね?」

 マジゲロがぼやくと、ミラさんは「あなたも逝っとくぅー? きゃは★」と、両手をわきわきとうごめかせた。

「いや、普通にお願いするぜ……」

「あははー! それならー。でろぉー! かぁいだぁーんっ!」

 ミラさんがまるでどこぞの格闘ガンダムを呼び出すかのようにパチンと指を鳴らすと、正面モニタの前の床の一部が段差をつけてせりあがり、階段の形になった。どうやらこの階段が本来正面モニタに突入するためのものらしかった。

「……というか、いつの間にか強制的に戦う流れになっているようですが、まだ私は了承した覚えがないのですが、強制ですかそうですか、はぁ」

 皆が階段をのぼって正面モニタに入った後、ため息を吐きながらメイドさんがつぶやいた。

「片付けはあとでいーから、きぃちゃんもはやくごーごー★」

 ミラさんが急かすようにしてメイドさんの背中を押し、正面モニタに押し込んだ。




「……はぁ。では、不本意ながら始めましょうか。私の名前はキィといいます。自動人形(オートマタ)です」

 石舞台の上でダロウカちゃんたちと対峙したメイドさんは、ため息を吐きながら言った。どこからとも無く取り出したモップのようなものを両手で構えて、またため息を吐いた。

「あんたも災難やなぁ、あの女神はん、いっつもあんな感じなん?」

 サボリーマンが苦笑しながらおなべのふたを構えた。

「女神ミラさんは、普段はセーフモードで起動されていますので、もっと機能限定されたシステマチックな感じなんですけどね。どうやらあなた達が訪れたことでイベント発生というか、全機能が開放されている状態のようです」

 キィ、と名乗ったメイドさんはまたため息を吐いて、それから懐からなにやら紙片を取り出して広げた。

 それからおもむろに読み上げる。

「よくぞここまできたゆうしゃどもよー。われはきさまらをこのせかいによび、とじこめたまおうのしもべなり。ぶじもとのせかいにかえりたくば、われをたおすことだ」

 見事な棒読みだ。

「メイドさん、なんやそれ?」

「ミラさんから渡された、ラストバトルの設定、らしいです。なんか私、魔王の僕らしいですよ?」

 魔王に知り合いなんていないんですが、とキィさんがまたため息を吐く。

「……そういえば何も聞いていなかったが、このラストバトルに私達の冒険を盛り上げるということの他に、何らかの意味合いはあるのだろうか」

 ダロウカちゃんが、こちらを見上げた。

「いまメイドのキィ殿が言われたことをそのままとると、キィ殿に勝てなかった場合は元の世界に戻れない、というふうに聞こえるのだがどういうことだろうか……?」

「あっれー、まだ説明してなかったかなぁー?」

 女神ミラはにやにやとした笑みを浮かべた。

「じゃぁ、説明しちゃおうかな。まず安心して欲しいのは、べつに負けても帰れなくなるなんてことはないよ。さっきのきぃちゃんのセリフで重要なのは、”無事に”の部分だねぇ」

「どういう、ことだろうか?」

「端的に答える、負けるとこっちの世界での記憶が失われますぅー」

 ミラさんが、わりととんでもないことを言った。

「まぁ、勝てば言いだけの話だから、大した問題じゃないよねー。ちなみに勝った場合は、ララ様に聞いてるかもしれないけど、ちゃんと無事に帰れる上にクリア報酬までもらえちゃうってわけ★」

「……こちらでの冒険の記憶が失われるのは、寂しいな」

 ダロウカちゃんがつぶやいた。

「まぁチーム戦だから、一人でも生き残ってきぃちゃんを倒せば、全員勝ちになるから安心してラストバトルを楽しんでね★」

「四対一、なら、シロウトの集りとはいえずいぶんとこちらに分がありそうやね」

「なぁ、メイドさんの方にはペナルティとかないんだろ? 負けてくんねぇか?」

「申し訳ありませんが、私は痛いのはキライです」

 キィさんがモップを構えて、マジゲロを無表情に見つめた。

「じゃ、ラストバトル開始~★」

 ミラさんが、杯を持ち上げてラストバトルの開始を告げた。






 ――そして、石舞台に最後まで立っていたのは、ダロウカちゃんだけだった。


「……みんな、すまない。私のために」

 涙を手で拭って、一人正面モニタから抜け出てくる。

 四人がかりで一人を相手にするのだから、割と楽勝なのではないかと思われた戦いだったが、意外なことにメイドのキィさんは尋常でなく強かった。

 サボリーマンがおなべのふたと反射板を持って盾役として攻撃を防ぎ、その両側からサボリーマンの木の棒を受け取り二刀流になったにゃるきりーさんと、ダロウカちゃんの木の棒を受け取り二刀流になったマジゲロが攻撃、後方に控えたダロウカちゃんが魔法で援護しつつ、隙があれば新聞紙ソード・キレルン・デスで止めを刺す、といった方針だったらしいのだが。

 ――まず最初につぶされたのはマジゲロだった。

 ラストバトル開始直後に、文字通り、頭から、ぺしゃんと、モップにつぶされて。

 それにひるんだにゃるきりーさんが、直後に横に振り回されたモップに飛ばされて場外に消えた。

 ……ここまでで、開始から三秒も経ってなかった。

 見た目どおりの重さじゃないのか、あるいは何らかの魔法で加重したのか。キィさんの持っていたモップは、とんでもない武器のようだった。

 そのモップを止めたのは、サボリーマンの持つ反射板だった。

 反射板の魔法を作った俺ですら気がついていなかったのだが、あの魔法は加えられた物の向きを反対にして返す、という仕様なので、振り下ろされたモップをその勢いのままに跳ね返したのだった。

 ダロウカちゃんがレーザー魔法で追撃しようとしたが、俺のようにナビやソディアの補助がなければそうそう狙って当てられるようなものじゃないので、避けられた。

 最終的には反射板を複数起動してキィさんを押さえ込んだサボリーマンが、「わいごと斬れぇ!」といい放ち、無駄に熱い展開で決着がついた。

 ……メイドさんの胸に顔をうずめてサボリーマンがにやけていたのと、ダロウカちゃんがまったく躊躇無くキレルン・デスを振るってサボリーマンごと真っ二つにしてむっふーと満足そうな息を吐いていたのは余談だ。



「……あれ、皆はどこだろうか?」

 モニタから抜け出てきたダロウカちゃんは、ホールを見回してそう言った。

 そういや、誰も出てこなかったような?

 俺もダロウカちゃんに首を横に振り、ぐるりとまわりを見回すと、にやにや笑う女神ミラと目が合った。

「言ってなかったっけ? ラストバトルだし、HP全損すると強制送還だよ。ああ、大丈夫、あなたが勝ったからちゃんと全員記憶はのこってるはずだし、クリア報酬ももらえるはずだよ」

「……お別れも、言えなかった」

 ダロウカちゃんが、力なくうなだれた。

「ダロウカちゃんたち、よくがんばったです」

 俺はちょこちょことダロウカちゃんに駆け寄って、うんと背伸びをしてその頭をなでてあげた。

「うん、ああ。そうか、もうティア殿ともお別れなのだな……」

 ダロウカちゃんが、俺の頭を抱くようにして俺のお耳に頬ずりしてきた。

「くすぐったいです」

 ぴこんとお耳をはねさせて、優しくその頬をなでる。

「こんな小さいのに、こちらの勝手につき合わせてしまってすまなかった。いろいろ理不尽な目にもあわせてしまって申し訳ない」

「そんなことないですよ」

 ……というか巻き込んだのはむしろこちらの方だろうと思う。寧子さんがここまで大掛かりに他人を巻き込むようなことをするとは思わなかった。俺だけならまぁ、望んでこういうことをしているわけだけれど、ダロウカちゃん達は半分強制的に拉致られてきたっぽかったしな。

「……じゃあ、お元気で」

「……ああ。ティア殿も、お元気で……」

 ダロウカちゃんは、続けて何か言おうとして、それから小さく首を横に振って口をつぐんだ。

「可能性は薄いが、また会う機会がないとも限らない。験担ぎというわけでもないが、さようならは言わないで置く」

「なら、またね、なのです。ダロウカちゃん」

「ああ。また会いたいものだ」

 最後にひとつ俺のお耳をなでて、ダロウカちゃんが離れた。

「お別れはすんだかなー?」

 女神ミラが、パチンと指を鳴らす。

 すると、うちのルラやレラがいつも世界間の移動に使っているような、黒いゲートが現れた。

 うちのちみっこの場合は電車のドアだったりするのだが、少し違うのか向こう側が見通せない、黒いモヤのようになっている。

「このゲートをくぐると、帰れるよ」

「……そうか」

 ダロウカちゃんは、一度だけこちらを振り向いた。それから羽のついたリュックを一度背負い直して、俺に向かって小さく手を振った。

「にゃ!」

 俺も手を振り返す。

 ダロウカちゃんは少しだけ目をつぶって、それからもうこちらを振り返ることなしに黒いゲートに向かって飛び込んでいった。




「……終わったなー」

 他人の冒険に巻き込まれるというのもまぁ貴重な体験ではあったが、できればこんなねこみみ幼女の姿でなく、元の姿のときだったらよかったのになーと思う。

 ここから先はまた俺の冒険だ。明日、ロアさん達と合流して、それからこの西の街でもぶらつくことにしようか。

 あれ、そういや今日はいったい何日なんだろう。いろいろ日付がおかしくなってたりしたから、感覚がおかしくなっている。仕事休めるのは一週間だけだから、寧子さんと連絡つくようになったらはやいこと元の姿に戻らないといけないんだが。

 ねこみみ幼女の姿になるというのもまぁいろんな意味で貴重な体験だったとは思うものの、俺はやっぱり男だしそれほどイケてる顔というわけでもないが元の姿に愛着もあるからな。

 寧子さんがダロウカちゃんたちの様子をずっと見ていたんだとしたら、今の俺のことも認識しているだろうか。電話かメールしてみるかな、ってスマホのバッテリ切れてたっけ。

 とりとめもなくぼんやり考えていたら、まだ先ほどのゲートが消えていないのに気がついた。

「あれ、ミラさんあのゲートって……」

 声をかけようと、座っていた椅子から飛び降りた時。

 黒い、ゲートの向こうから、白い、子供のような細い手が突き出てきた。

「……まさかダロウカちゃんが忘れ物でも?」

 ちょこちょことゲートに近寄る。

 ダロウカちゃんはちゃんとリュックを背負っていったはずだし、それ以前に仮に忘れ物があったとしても一人で戻ってくることなど出来ないだろう。

「……?」

 近くで見ると、伸ばされたその手は何かをつかもうとしているかのような形で突き出されたまま、微動だにしていなかった。

「ミラさーん?」

 さっきから呼んでいるのに、答えが無い。ぐるりと見回すと、ミラさんの姿が見えなかった。大人しくご馳走を食べていたはずのルラレラの姿も見えない。

 ……そういや、ゲームで負けたメイドさんも戻ってきてないよな? ってあれ、いつの間にか俺一人だけになってる?

 俺以外、誰も居ない玄関ホール。黒いゲートから突き出た謎の手。

 なんだか、ずいぶんとホラーな感じだ。

「近付かないほうが、いいかな」

 恐る恐る、謎の手から離れようとした瞬間。

「――ぐッ!」

 何かに、喉元を圧迫されて息が詰まった。

 これは。

 黒いゲートから、もう一方の腕が突き出ていた。その手が、俺の喉をつかんでいる。

 必死でその手を押さえるが、幼女の力では非力すぎて振りほどけない。

 じりじりと俺の体が吊り上げられてゆく。足の先が、床から離れた。

 息が、つまる。

 これは、なんだ。どういう状況なんだ。訳がわからない。

「……ふん、つまらんな」

 子供のような、高い声とともに、急に俺の喉が解放された。

 げほげほとせき込みながら、床を転がってゲートから距離をとって起き上がろうとしたが。

「――にゃぁっ!」

 その背中を何かに踏みつけられて、情けない声を上げてしまった。

「わめくな、うるさいぞ」

「……だったら、そこから、どきやがれっ!」

 俺は、全身に力を込めて、乗せられた足を振りほどくようにして転がった。

 幸い声の通り相手は子供のような体格であったらしく、今の俺のような幼女の姿でもなんとか転がって逃げ出すことはできた。

 起き上がって、声の主をにらみつける。

 そこには、白銀の髪と紅い瞳の少年が立っていた。年のころはルラレラと同じくらいだろうか。どこかの学校の制服のような、変形のブレザーを身にまとっている。そしてその肩には大仰なマントを羽織っていた。まだ幼いが、その顔はかなり整っていて、まるで女の子のようでもある。ブレザーの下がズボンでなかったら、女の子だと思っていたかもしれない。

「……お前は誰だ?」

 髪の色、そして目の色。あれは、ルラやレラなど女神に通じる特性のはずだった。

「すぐに滅びるモノどもに、いちいち告げる必要を感じないな」

 ふん、と鼻を鳴らして謎の少年は口の端を吊り上げた。

「特に、拠点にゲートを設置するような、愚か者になど何も語る必要などない。セカイを滅ぼしてくれと言っているに等しいわけだから、遠慮なくやらせてもらう」

 ……こいつは、何を言っているんだろう。

 まったく理解できなかった。ただ、こいつがよくないモノであることだけはひしひしと感じられていた。世界を滅ぼすなどと簡単に口にしているが、おそらくその言葉にウソはない。

 見た目はただの少年であるというのに。

 なぜ、俺は。

「ああ、本当につまらない。最近は特につまらないことだらけだ。実に久しぶりにまともに遊べそうなセカイを見つけたと思ったのに、ただの自殺志願者とは」

 じろり、とにらみつけられた。

 理由が全く分からない。

 こいつは、いったい、何を言っているんだ。

「望み通り、滅ぼしてやろう」

 何か、見えない力が少年の手に集まっていくのを感じた。

 なぜか、その力が、この世界に存在しないものであることに気が付いてしまった。

 つまり。

 こいつは、この世界の、ルラレラ世界のものじゃない?

「次はもっとましなセカイを創ることだな」

 ゆっくりと、その手が振り上げられ。

 俺は、何が起こっているのかもよくわからず、その場を動くこともできず、ただその場に突っ立っていることしかできなかった。

「たろーっ!」

 そこへ、何かが、誰かが、割って入ってきた。


 俺の体は突き飛ばされて床に転がり。


 そして止まらぬ少年の手刀が、横なぎに払われ。


 俺の目の前で、まるでなにかの冗談のように。


 俺の代わりに。


 ――首を、はねられた。


「え。みぃ、ちゃん?」


 俺の言葉に応えることなく。


 ――その小さな体が、力なく、崩れ落ちた。

 今週は連日帰りが0時ちょっと前くらいで全然各時間がとれず……。金曜までに10行しか書けなかったのデス。

 ラストバトルもあっさり省略なかんじ。おかげで出てくるはずの妖精さん書けなかった。後で出てくるかもしれませんが、メイドさんの頭に妖精さん(本物)が乗ってて、重力魔法とか使ってる設定でした。


 ……あ、ちなみにこのあと鬱展開はありませんのでご安心ください。

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