表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第四話「勇者と書いてょぅι゛ょと読む」
145/246

20、「ラストバトル開始?」

 ――かぽーん、と木桶を床に置いた音が響く。


 ルラとレラがお互いに背中の流しっこをしていて、空の木桶が転がったらしい。

 プラスチック製の洗面器じゃなくても、銭湯に付き物のあの音が鳴るんだなー、と半分のぼせた頭で考える。

 光神神殿のお風呂の湯船は割と広かった。ニ、三十人は同時に入れる大きさだろうか。神殿という割りにあまり人が生活している様子は感じられなかったのだが、もしかしたら昔は大勢の人がここで生活していたのかもしれない。

 お湯の温度はやや高め。あまり長く浸かっているとすぐにのぼせてしまいそうだった。

 湯船の四隅には、趣味が悪いことに女神ミラの姿をした裸の像が立っていて、その肩に抱えている水がめのようなものから湯船に熱いお湯が注ぎ込まれていて、あふれた分はそのまま排水されているようだ。オフィスビルのような外観からボイラーで湯を沸かす普通の施設のように思っていたが、もしかしたら天然の温泉なのかもしれない。

「なかなか、いいお湯だ」

 ほう、と息を吐いてダロウカちゃんが俺の隣に来た。お湯が熱いせいか、すでに顔が真っ赤になっている。

「こちらでは、このような風呂が一般的なのだろうか?」

「……そうですね、東の神殿にはこういうお風呂が普通にありますよ」

 このルラレラ世界に来て、普通の宿屋に泊まったことなどないので、一般的かどうかは知らない。いや、以前、領主であるシルヴィのお屋敷に行った時には、確か大きな桶に湯を張っただけのものが用意されていた。領主の屋敷でお風呂が無いのだとすれば、もしかしたらこういった湯船にお湯を溜める施設はあまり一般的ではないのかもしれない。

「ねんりょうとかしせつの関係があるからー」

「あんまりいっぱんてきじゃないのー」

 ざばん、水しぶきをあげて、いきなり俺の左右からルラレラが顔を出した。つい先ほどまで二人して背中の流しっこをしていたと思ったのに、いつの間にやらもぐっりっこになっていたらしい。

 お湯に潜って何してたんだか知らないが……。

「まぁ、神殿くらいはね★ ちょっとくらい贅沢してもいいとおもうなー、あたしはっ! にゃは★」

「そんなもんですかね」

 謎のきゃぴるん、という音と共に聞こえてきたアニメ声に応えてから気がついた。

「……今の声は、女神ミラさん?」

 見回すと、湯船の四隅にたっていた女神像のうちの一体が、にぱっ、と笑みを浮かべていた。

 肩に担いでいた水がめをその場に下ろすと、くるんとその場で一回転して、謎の決めポーズ。

「おふこーす! 女神ミラちゃん、さんじょうでっす! とぉーう」

 女神像は掛け声とともに、湯船に飛び込んできた。じゃばじゃとお湯をかき分けてこちらにやってくると、近くでまたくるりと一回転して謎の決めポーズ。やっぱりこの人ウザイ。

「お久しぶりですねーっ! ルラ様レラ様っ!」

 女神ミラは、ルラレラの首に手を回してがっしりとホールドすると、全力で頬ずりしはじめた。

「やめるのー!」

「あいかわらずウザイのー!」

 ちみっこたちはじたばた暴れるが、素材不明の女神像の抱擁を押しのけるほどの膂力があるはずもない。

「それは、女神ミラ殿の対人インターフェース端末的なものなのだろうか?」

 いきなり動いた女神像に、ダロウカちゃんも驚いたのだろう。ぽかんとした顔で、女神ミラさんを見つめている。

「そりゃあ、ほら、ぎゅーっとしてぺろぺして、なめなめするにはやーっぱり身体がないとだめじゃなぁい? そうでしょぉー?」

 きゃは★と星を飛ばしながら、女神ミラさんがダロウカちゃんにも手を伸ばして捕まえるとその頬にすりすりと自身の頬を寄せる。

「む、こら、やめたまえ!」

 ダロウカちゃんが嫌がって押しのけようとするが、材質不明の女神像はかなりしっかりした素材のようでびくともしない。

「……にゃー」

 ダロウカちゃんには悪いが、俺は自分が巻き込まれないうちにそろそろと距離をとることにした。さっきにゃるきりーさんに捕まってもみくちゃにされたばかりだしなー。

 しかし、女神ミラさんにはしっかりとロックオンされていたようだった。

「あっはー★ ちびねこちゃん、そんな遠慮しなくってもいいよっ! ちゃんと後ですりすりしてあげるからね!」

 まわりこまれてしまった!



 ……女神像は、意外と柔らかかったです。




 風呂から上がってホールに戻ると、いつの間にか正面モニタの前に大きなテーブルと椅子が設置されていて、その上には湯気のたつ料理がいくつも並べられていた。先ほど脱衣所で会ったメイドさんがちいさく首を左右に揺らしながら、さらに料理を並べてゆく。

 マジゲロとサボリーマンも先に上がっていたらしく、突っ立ったまま、配膳をしているメイドさんをぼんやりとながめていたが、こちらに気がつくと小さく手をあげた。

「なかなかええお湯やったわー。お肌つるつるになったんと違う?」

「にゃはは、タマのお肌にゃー」

「おまえがいうと玉のお肌じゃなくて、猫のタマの肌みてぇだな」

「ねこはだにゃー」

「猫肌とはなんだろうか?」

「知ラネ」

 皆お風呂に入ってさっぱりしたせいか、口調も軽いようだ。

 しかし、確かに猫肌ってなんだろな?

 袖をまくって二の腕あたりでなでてみる。おはだつやつやだった。石鹸のいい匂いがする。

「ねこ肌なの」

「にゃんこ肌なの」

 ルラとレラが、きゃっきゃと笑いながら、両側から俺のほっぺに湯上りのぽかぽかの頬を摺り寄せてきた。




「さってー、お風呂の次は、ごはんだよね★」

 正面モニタの女神ミラさんが、無駄に星を撒き散らしながら笑みを浮かべて言った。

「ごっはんだよねー★」

 ……なぜか風呂場で会った女神像もきちんと巫女服に着替えてついて来ていた。

 ステレオで★を振りまかれてはウザさが二倍、いや二乗だ。

「適当にすわっちゃってねー」

 女神像のミラさんが正面モニタの真下、上座にあたる席に座る。

 言われるがままにみんな適当に席に着く。

「食べながらでいいから聞いてね」

 女神像のミラさんが片手で頬杖をついて、きゅっぴるん、と星を飛ばした。もう片方の手には小さなお酒の杯だろうか、小さな金属製のものを親指と人差し指でつまむようにしている。流石に女神像には物を食べる機能がついていないのか、ミラさんの前には食事の用意はされていないようだ。

「改めてー、お疲れ様でした~。予定だと明日の昼過ぎくらいになるって聞いてたんだけど、意外に早かったね★ あたしびっくり~」

 女神像ミラは、くい、と小さく杯を傾けて中身を口に含むと、ひゃふぃー、と息を吐いた。

 やっぱりお酒のようだ。女神像が酔えるのかどうか知らないけれど、なんだか飲み方とか飲んだ時の様子が寧子さんに似ている気がする。

 ……そういや、目の前のミラさんほどじゃないにしろ寧子さんもときどきウザイことするよなぁ。

 ふと正面モニタを見上げると、アニメ調の女神ミラは一定パターンの動作の動作を繰り返していた。どうやら本体?は完全に女神像に方に移しているっぽい。

「さてさて~、というところでこの後の説明をしちゃうぞ~!」

 杯の中身が空になったのか、ミラさんが持ち上げて小さく杯を振る。すると、テーブルを回って配膳をしていたメイドさんが、とことことミラさんの下にやってきて、陶器の酒壺からその杯に中身を注いだ。

 そのメイドさんの腕をがっしりとつかんでミラさんがにやぁ、とした笑みを浮かべる。

「あなたたちにはぁ~、この子と戦ってもらいまーっす★」

「聞いてないんですが、そんなこと」

 腕をつかまれたメイドさんが、無表情に瞬きする。

「え、ほらー、ラストバトルのひとつもやらないで帰すなんて、ぜんぜん冒険っぽくナイナイじゃなーい? だから、ほら、きぃちゃんお願い★」

「ただの家事用自動人形(オートマタ)に何をやらせる気ですか、あなたは」

 女神像とメイドさんのよくわからないやりとりが続いている。

「……いや、わいら別にバトルジャンキーでもないんで、無理にラストバトルとかせんでもええで?」

 サボリ-マンが口を挟むが、女神ミラは「い~えっ!」と首を横に振った。

「ただ帰すだけなんて、そんな芸の無いことあたしがするわけにはいかないもーん★ ってわけでバトルしないとクリア扱いにしたげないもーんっだ」

 駄々っ子かい、このウザ女神。

 ため息を吐いたところに、ダロウカちゃんも口を挟んできた。

「……ラストバトルとは、どのようなものだろうか?」

 リュックから突き出ている、新聞紙ソードのキレルン・デスをこっそりなでているところを見ると、せっかく手に入れた武器を振るう機会を期待していたのだろうか。

 イモムシに即死魔法を躊躇無く使ったことといい、意外にダロウカちゃん、好戦的なのかもしれない……。

「んふふー。ちょっとやる気になってくれたようでうれしいかな★」

「いえ、まだ私が了承していませんが」

 メイドさんのつぶやきを無視して、女神ミラが立ち上がって正面モニタを指差した。

「じゃー、こっちをみてね」

 言われて正面モニタに目を向けると、いつの間にかパターンを繰り返していたアニメ調のミラさんが画面隅に小さくなっていて、代わりに何かのゲームのタイトル画面のようなものが表示されていた。

「Another Dimension Fighter2……?」

 アナザー・ディメンション・ファイター2って、なんか格闘ゲームぽい名前だな。

 しかも2ってことは1もどっかにあんのか、ってゆーかこのルラレラ世界にこういうコンピュータゲーム的なものが存在していたことにちょっとビックリだ。

「はーい、あなたたちにはこのゲームで戦ってもらいまーす。ルールは単純。一本勝負で先にえいちぴーがゼロになった方が負けっ★」

「……見るからに、格闘ゲームの類のようだが」

 ダロウカちゃんがちょっと寂しそうに、キレルン・デスの柄をなでている。

 まぁ、ゲームで勝負するなら武器を振るう機会はないよな……。

「うふふー、がっかりしなくてだいじょーぶ! そうだねー、そこのちびねこちゃん、こっち来なさい」

 え、俺のこと?

 きょろきょろと見回すが、にゃるきりーさんはちびでもないしそもそも人間だし、俺のほかにちびねこと呼ばれるような人物はこの場にいなかった。

「……にゃ」

 まだご飯食べ終わってなかったのだが、仕方なく椅子から飛び降りてミラさんのところに行く。お膝の上をぱんぱん、と叩くので、ため息を吐いてその膝の上に座ると、後ろから抱きしめられた上でお耳をなでなでされた。

「細かいるーるは今から一気にいうからよーくきいててね! ラストバトルはメイドのきぃちゃん対、異世界からのお客様四人のみなさんとなるよ。つまりこのちびねこちゃんは参加不可です。でもって、この正面モニタでバトるわけですがー、実際にあたしとこのちびねこちゃんで戦って見せながら説明するので、ちゅーとりあると思ってね! 質問は随時受付まっす!」

「……いきなりバトルとかに巻き込まないでください」

 お耳でぴしぱしと抗議をするが、女神ミラさんは「きゃは★」と笑うばかりで強引グマイウェイという感じだ。

 まぁ、格闘ゲームなら俺も下手ではあるが経験がないわけでもない。勝っても負けても害があるわけじゃなし、無理強いされたこと以外に不満は無い。

「じゃ、やるよー」

 ひょいと後ろから俺を抱きかかえたまま女神ミラが立ち上がり、きゅっぴるん、と謎の効果音と共に浮かび上がった。

「……え?」

 コントローラーは? ゲームやるんじゃないの?

 混乱する俺をよそに、女神ミラは正面のモニタに向かって空中をすべる様に移動して行き。

「ぶつかる……!」

 そのまま。

 巨大正面モニタの中に。

 俺ごと突入した。

 ……やっぱり予定通りに行かなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ