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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第四話「勇者と書いてょぅι゛ょと読む」
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17、「壊れゆくセカイ?」

「ごちそうさまなのです」

 ダロウカちゃんとにゃるきりーさんの作った、お魚のスープはとってもおいしかったのです。

 味噌とか醤油までリュックに用意していたダロウカちゃんは、なんていうかあまりに用意がよすぎなのです。ガスコンロと水のペットボトルだけでいっぱいになりそうなものですが、ダロウカちゃんのリュックにはいったい何がどれだけ入っているというのでしょう……かなり謎です。

 結局、急に足が生えてしまった人魚さんたちは泳げなくなってしまったので、サボリーマンさんが肩車して橋を渡り、彼女達の家の菜園からお野菜をもらってきました。

 やはり人魚さんたちのご両親は時期的に海の方に帰ってしまっていたらしく、姉妹三人で暮らしていたようです。どうやら人魚さんたちはあまりお料理が得意でないらしく、このところは生のお魚とかお野菜まるかじりで過ごしていたとのことで、お魚のスープを何杯もおかわりしていました。

「うまかったー」

 ちいさな人魚さんも、サボリーマンさんのお膝の上で、ちいさなおなかを撫で回しながら満足げです。すっぽんぽんな人魚さんに目のやり場に困ったのか、サボリーマンさんは上着の残骸をちみっこ人魚さんの腰に巻きつけていました。

 中くらいのお姉さん人魚は、にゃるきりーさんのお膝のうえです。にゃるきりーさんの着ぐるみパジャマを着せられていて、にゃるきりーさん本人はぱんつとタンクトップ一枚というかなりな薄着状態ですが、本人を含めて誰も気にしていないようです。やはりすっぽんぽんの方がインパクトが大きいせいでしょうか。いまさらぱんつごときで誰も気にしないということのようです。

 一番上のお姉さん人魚は、マジゲロのお膝の上で、ちょっと恥ずかしげにモジモジしています。マジゲロが着ているのは革のツナギで、上だけとか渡せなかったので、わたしが貸してあげたタオルを腰に巻いています。マジゲロは目のやり場に困りつつ、やっぱりオトコノコなようでちらちらと興味ありげにお膝の人魚さんに目を向けます。その視線に気がついているので人魚さんはモジモジしているようでした。

 ちなみに、一番大きいとか小さいとか言っていましたが、実は彼女達は三つ子で同い年なのだそうです。身体が一番小さい、目つきの鋭い子がフレスリュエラちゃん、中くらいの子がフレスレイリアちゃん、一番からだの大きな子がフレストリシアちゃんというそうです。

「お粗末様だ」

 ダロウカちゃんが、むふーと満足げに息を吐きながら言いました。お魚のスープは彼女にしても会心の出来だったようです。

 ついでにわたしは。

 みんながそれぞれ人魚さんをお膝に乗せているので、お膝が寂しそうだったダロウカちゃんのところに居るのです。もっともわたしも小さいとはいえ、ダロウカちゃんだって幼女といえなくもないほどの小柄です。お膝にのるというよりは、単に後ろからぎゅーってだきしめられているだけのような感じなのです。

 ……体験版だと、一人につきひとり仲間になる、という話でしたから、わたしを含めてこれで丁度四人仲間になった、というところでしょうか。

 ごはんが終わったあとは、みんなで水浴びです。ダロウカちゃんたちもやはり汗を流したかったようで、下半身がお魚に戻った人魚さんたちと一緒にばしゃばしゃ楽しそうにしていました。

 サボリーマンさんとマジゲロは、流石にわたしたちと一緒に水浴びするのは遠慮したらしく、下流の方に行ってしまいました。




「もう、いっちまうのかー……」

「おう、リュエラちゃんも元気でなー」

 サボリーマンさんが、ちみっこ人魚さんの頭をなでなでしながらにっこり笑いました。

 ちみっこ人魚さんが、仲間になりたようにちらっ、ちらっ、とサボリーマンさんを見つめる視線には気がついていないようです……。

「ほんじゃなー」

「いろいろ世話になった。ありがとう!」

「にゃははー」

 みんな元気に手を振ってお別れです。

 ちみっこ人魚さんはちょっとだけ寂しそうにサボリーマンさんを見つめていましたが、こちらに背を向けて姉妹の方に行ってしまいました。

「じゃあな!」

 こちらに背を向けたまま、ぽちゃん、と水の中に潜ってしまいました。

 ……仲間イベントじゃなかったのでしょうか。

 どう考えても人魚さんたちが仲間になる流れだった気がするのですが、普通に別れてしまいました。

「あー、きっと、わたしがパーティメンバー扱いになってるせいなのー」

「わたしもパーティメンバー扱いになってるせいなのー」

 ルラ姉とレラ姉が、謎のポーズでしゃきーんとわたしの両隣に現れました。どうやらバグ修正は終わったようです。

「どういうことなのです?」

 首を捻ります。

「たいけんばんで仲間にできるのは一人につきひとりまでなのー」

「にんぎょさんたちはこていの三人パーティなので、定員おーばーなのー」

「……つまり仲間になる枠があとひとり分しかないので、三人だと仲間にならなかったってことです?」

「そゆことなの」

「なのー」

 つまりルラ姉とレラ姉がいなかったら、人魚さんたちが仲間になっていたってことです。

 ……ルラ姉とレラ姉は、実はとんだ疫病神なのではないでしょうか。




 洗った洗濯物を木の棒にくくりつけて、再び街道を歩き始めました。

 かぼちゃぱんつを振り回しながら、にゃんにゃんと歩きます。

 しばらく歩いていると、後ろの方からがたごとと荷馬車の音が聞こえてきました。

「……おや、馬車が来るで?」

「ちゃんすにゃー!」

「乗せてもらえねーかな?」

 おーいおーい、とみんなして手を振ると。

「……こんなところをなんつーかっこで歩いてんだよ、おめぇらぁは、あん?」

 どこかで見たような、おおかみの耳をしたおじさんが御者台に座っていました。



「……異世界から来た、ねぇ。最近多なァ、そういうのよぉ」

 おおかみのみみをしたおじさんは、東の街の酒場のマスターさんでした。わたしが街を出る前には姿が見えなかった、うさぎみみのお姉さんと一緒のようです。

「つか、おまえさんはなんでこんなとこにいるんだ?」

 おおかみさんに睨まれました。

「……ティア殿、この方はお知り合いなのだろうか?」

 ダロウカちゃんがわたしとおおかみさんを交互に見て首を傾げました。

「ええと、こちらは東の街の酒場のマスターさんなのです。何度かお昼ご飯を食べたことがあるのです」

 野菜炒め定食しか食べたことが無い気もしますが。

「ふむ?」

 ダロウカちゃんはなにやら思案気に腕組みをしました。

「んで、半裸とかぱんつを棒にくくりつけて歩くような妙な格好のヤツラが増えてるのは、まぁいいとしてだな、ちびねこ勇者、おめえひとりか? 残りのメンツはどうした? あん?」

 おおかみさんが、きょろきょろと辺りを見回しながら忙しなげに肩を揺らします。なんだかイライラしているというか、何かに急かされてるかのようです。

「ええと、ちょっとした事故で、わたしひとりだけはぐれちゃったのです」

 自分でもなんで飛ばされちゃったのかよくわかっていないので説明できません。

 それより、ふと気になりました。

「……そういうマスターさんこそ、夜には出かけるっていってたのに、まだこんなところなのですか?」

 ランダのおじちゃんの影の馬車とちがって、おおかみさんの馬車はちゃんとしたお馬さんの二頭立てです。スピードも大分でるようです。適当計算で、西から東まではだいたい三百キロくらいです。山もなければ坂もなく、ただ真っ直ぐに草原を走るだけですから、原付と同じ時速三十キロとした場合でも十時間ほどで到着しているはずです。

「はぁ? おまえさんが何言ってるかよくわかんねーな。俺ァ、予定通りに昨日の夜に出発したぜぇ? おまえさんたちが徒歩ならを途中で拾おうかともってたんだが、道中見当たらなかったしな。急いでたみてぇだし、てっきり早馬でも使ったのかと思ってたんだが」

「……昨日の夜、です??」

 不思議な話です。ランダのおじちゃんたちと西に向かっていた時も、後ろから誰かに抜かれたりはしませんでした。ランダのおじちゃんたちと三日ほど歩いた上に、ダロウカちゃんたちとも今日で二日目なのですから、おおかみさんが出発したのは四日か五日前になるはずなのですが。

 ……今日は何日だったです?

 前ポケットからスマホを取り出して、日付を確認すると。

「にゃ……?」

 わたしの認識より、一日前、でした。ダロウカちゃん達と出会った日のままです。いや、おかしいです。最後にスマホを触ったのは、ダロウカちゃん達と出会った日の夜、眠れなくて掲示板を見たり書き込んだりしていたわけですから。日付が同じだと……今はお昼過ぎですから時間が巻き戻っている、ということになります。

 ……なんでしょう、この時間のズレは。

 これまで、現実世界を経由して基準となる時間が異なるまおちゃんとズレが発生したことはありましたが、ルラレラ世界において、ルラレラ世界にいる人たち同士で時間がずれたことなど一度もありません。わたしも一度も現実世界に戻っていないわけですし、ずれる理由が。

「なに首かしげてんだかしらねぇが、おまえらしっかりつかまってろよっ! 俺ァこの場所あんまり好きじゃねーんでな、飛ばすぜっ!」

「にゃーっ!?」

 がったんごっとん。

 おおかみさんが、馬車を急発進したせいで、わたしは荷台をごろごろ転がって、おもいっきり頭をぶつけてしまいました。




「うう……」

 目を回しながら起き上がると、手に持ったままだったスマホがぶるぶると振るえていた。

 画面をみると、どうやらりあちゃんから電話のようだった。

 ああ、そういえば事故で離れ離れになってから全然連絡してなかったっけ。こっちはこっちでなんかバタバタしてたからうっかりしていた。ルラレラが行き来してたみたいだから、こっちが無事なことは伝わってると思ってたんだが、いったいなんだろう。

『――タロウ様っ! ご無事ですかっ!?』

「わ、そんな大きな声出さなくても聞こえてるよ、りあちゃん」

 周りに聞こえないようにちょっと声をひそめて話すと、電話の向こうから安堵のため息が聞こえてきた。

『よかった。今、どちらなのですか。ケガなどはされていないでしょうか』

「……ん? ルラレラから何も聞いてないのかな。俺は、どうやら草原の真ん中あたりまで飛ばされたっぽくて。今は、酒場のおおかみみさんの馬車に拾ってもらってさ、西の街に向かってるとこだよ」

『ルラ様とレラ様なら、こちらにいらっしゃいますが?』

 なんだろう、微妙に会話がすれ違っているような気がする。

 というか、あれ、そう言えば。おおかみみさんの馬車に出くわしたあたりから、ルラレラの姿が見えないような?

 きょろきょろと見回してみるが、荷台に乗っているのはダロウカちゃんたち四人と俺の五人だけだ。先ほどの急発進で、みんな目を回してしまったようで、ごろりと転がってしまっている。御者台のほうにはおおかみみさんとうさみみさんの二人が座っているだけで、ルラレラの姿はどこにも見えない。

 ……いや、待てよ?

 先ほどスマホ見たときに時間が戻っていたってことは。ダロウカちゃんたちとであった日の、お昼過ぎになっているってことは。

 もしかして電話の向こうのりあちゃんにとっては、俺が魔法の失敗で飛ばされた直後ってことか?

「……」

『タロウ様?』

「……ああ、心配しないで大丈夫だよ。こっちも、遅くても明日には西の街に着くと思うから、ロアさんたちにはそう伝えてそのまま西の街に向かっちゃって」

『わかりました。あ、ミィ殿が。代わります』

「え、うん。みぃちゃん?」

『……タロウは馬鹿です。あとで魔法の師匠として叱るので、覚悟しておくです』

「うん……ごめん、みぃちゃん」

『わかったらさっさとこっちに追いつくです。光神神殿で、待ち合わせするです』

「了解。それじゃ、また後で」

 ダロウカちゃんたちもたしか、西の街の神殿を目指しているという話だったから丁度いい。

 電話を切って、前ポケットに仕舞う。



 ふと顔を上げたら、いつの間にか俺の両側にルラとレラが居て、俺の肩に寄り添うようにして寝息を立てていた。

 出たり消えたり、時間がおかしくなったりイベント進行の時系列がぐちゃぐちゃになったり。


 ――まさか、俺、進行不能になるバグとかに巻き込まれてないだろうな……?

 少しだけ、不安になった。

 閑話のとき人魚さんイベントをだいぶ簡略化したので、今回全部やるつもりでいたのですが。


・みんなで水浴びきゃっきゃうふふ。

・みんなでなかよくお歌の時間。

・ルラがうっかりダロウカちゃんの洋風ドレスを着てしまって服が入れ替わる。

・ゲロイム襲来、ちみっこ人魚さんの歌魔法で迎撃!

・人魚さんたちにリーアのことを尋ねてみる。


 ……などなど。

 やってるといつまでもだらだら続いちゃいそうなので、行間にそんなことがあったのかも、ということにしておきます。巻きに入ります。

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