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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第四話「勇者と書いてょぅι゛ょと読む」
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15、「世界を切り裂くつるぎ」

前半シモネタ注意報発令。

「……ごめんなさいです」

 やってしまったのです。寝ぼけてダロウカちゃんにとんでもないことをしてしまったのです。

 お顔とか、お耳とか、これでもかってくらいにぺろぺろしまくっちゃったのです……。

「ああ、うん、別に気にすることはない、ティア殿」

 わたしのよだれでベタベタになった顔でちょっと苦笑して、ダロウカちゃんは許してくれました。

「うちでは、大きな犬を飼っている。こんな風に顔中舐められるのは……いや顔だけでもないが、まぁ、よくあることだ。それどころか、うちの犬はスカートの中に顔をつっこんできて、私のぱんつを脱がそうとするから、それに比べればこの程度のことは気にするほどのこともないのではないだろうか?」

「本当に、ごめんなさいです」

 もういちどぺこりと頭を下げました。

 ……実を言うと、被害者はダロウカちゃんだけではないのです。

「せっきょくてきなのも良いけれど、どうせなら寝ぼけていない時にしてほしかったのー」

「ざらざらした舌が、ちょっとくせになりそうなのー」

 ルラ姉とレラ姉も、タオルでわたしのよだれをぬぐいながら言いました。




「しかし顔を洗うにも、手を洗うにも、水が心もとないな」

 ダロウカちゃんが、草をかき分けて街道脇に出ました。

「手をぺろぺろってなめて、顔をこすればいいと思うにゃー」

 にゃるきりーさんもダロウカちゃんに続きます。

「猫ではないのだから、それは微妙ではないだろうか。それ以前にティア殿のよだれでべたべたなわけではあるが」

「ごめんなさいです……」

 謝りながら、わたしもにゃるきりーさんの後に続きます。

「このまま街道をあるけば、おっきな川にでるのー!」

「今日中には着けるとおもうのー」

 ルラ姉とレラ姉もわたしの後に続きます。

 危険な草原にみんなして分け入って何をするのかというと。

「この辺でいいだろうか」

「あんまり街道から離れすぎてもあぶないにゃー」

 くるりと後ろを振り向くと、サボリーマンさんとマジゲロさんの姿が確認できます。

 一応気を使ってくれているのか、こちらには背を向けてくれているようです。

「うむ、ではすまないが先に済まさせてもらう」

 言いながらダロウカちゃんが、わずかばかりのぞいた地面を木の棒で掘り返しました。街道は湿った黒い土なのに、このあたりは乾いた白い砂ばかりのようでさくさくと穴は大きくなります。

 それからダロウカちゃんは、スカートを巻くりあげながら、おもむろにしゃがみこみました。

「……他人に見られながらというのは、落ち着かないものだが」

「モンスターでるところで、流石に完全に一人きりになるのはあぶないにゃー。おっきいほうでない限りは恥ずかしくても我慢にゃ」

「ああ、うん。流石に大はな……」

 用を足し終わったダロウカちゃんが立ち上がって、入れ替わりににゃるきりーさんがしゃがみこみました。しかし、すぐに立ち上がります。

「……しまったにゃー。あたしの場合、全部ぬがなきゃおしっこ出来にゃい」

 にゃるきりーさんが着ているのは、いわゆる着ぐるみパジャマというやつなのです。ねこみみフードとしっぽがついています。上下一体型で前の方にチャックがついているので、脱がないと用を足せないのです。

「にゃはは! くろすっあうっ! にゃー」

 にゃるきりーさんはチャックを一気に下ろして、すぽーんと着ぐるみパジャマを脱ぎ捨てました。中身はタンクトップとぱんつ一枚です。意外と大きなお胸がぷるんとゆれました。

「じゃばばー、しゃばだばー、にゃははんはん♪」

「……にゃるきりー殿はもうすこし自分の年齢というものを考えた方がいいのではないだろうか」

 謎の歌を歌いながら小用を足すにゃるきりーさんにロールペーパーを差し出しながら、ダロウカちゃんがため息を吐きました。

「んー? ちみっこでもおばーちゃんでも、年齢に関係なくでるものはでるにゃ?」

 にゃふん、と笑ってにゃるきりーさんが立ち上がりました。たぶんダロウカちゃんが言いたいのはそういうことじゃないと思うのです。

 わたしもかぼちゃぱんつを膝までずりおろし、スモックブラウスのスカート部分を捲り上げながらしゃがみこみました。ふう、と息を吐いて、下半身の緊張を緩めます。

 おうちでは洋式トイレだったので、しゃがんで用を足すのはあまり慣れていません。しゃがんですると、思ったより前の方に飛ぶのです。ダロウカちゃんの掘った穴をめがけたのですが、たいぶはずれてしまいました。男の子なら指で先っちょの向きをひょいと変えてやればいいのですけれど、角度の調整がなかなかうまく行かないものです。

 みぃちゃんを真似てハンカチで拭っていると、ロールペーパーを差し出していたダロウカちゃんが「こちらでは布を使うのが一般的なのだろうか?」とちょっと興味深げな顔で尋ねてきたので、「消耗品を持ち歩かないための、旅人の知恵なのです」と返しました。

 ……ほんとはただ単に、みぃちゃんの真似をしてみたかっただけなのでした。

 おトイレ後の跡に後ろ足で砂を被せながら、ぴこぴことお耳としっぽを揺らしました。




 簡単な朝食を済ませた後、皆で街道をてくてくと歩きました。

 草原の中を、草を踏みしめながら歩くのとは違って、固められた土で出来た街道はとても歩きやすいです。

 でも、サボリーマンさんとマジゲロは不満たらたらのようでした。

「歩いても歩いても草ばっかやなー」

「街道とかいうくせに、全然人も車も通らねーな」

 行商人のランダのおじちゃんと一緒に街道を進んでいたときにも、全然誰ともすれ違いませんでした。街道とは名ばかりの、田舎道なのかもしれません。

「なんかイベントでもおきねーのか? またイモムシバトルみたいなのは遠慮したいけどよ、ただ安全な街道を歩くだけじゃつまんねーぜっ!」

 マジゲロが「まじつまんね」とぶつぶつ言いながら小石を蹴飛ばしました。

 すると、わたしの隣を歩いていたルラ姉とレラ姉が、にやあ、という感じで笑って前の方に駆け出していきました。相変わらずルラ姉とレラ姉の姿は他の皆には認識されていないようです。

 少し先の方の待避所で、何かしているようですが……。

「あれ、なんか立て札みたいなのあるにゃー?」

 にゃるきりーさんが、先の方を見通して首を傾げました。

「立て札? なんかの案内やのん? 分かれ道でもあるんかな」

「草ながめてるよりはいいぜ! 早く行こうぜ、なあ」

 周囲の風景に飽き飽きしていたらしい、サボリーマンさんとマジゲロが駆け出していきました。

「……まったく、子供じゃないだろうに」

 ちょっと肩をすくめながら、ダロウカちゃんもわたしの手を引いて駆け出しました。

 言葉はともかく、ダロウカちゃんも期待に胸をときめかせている様子が見て取れます。




「伝説の聖剣! これが抜けたらあんたも勇者! やて」

「エクスカリバーかよ」

「お約束にゃー」

「……いやしかし、これは」

 立て札の前にたどり着いたみんなは、ソレを見て一様にむむむと腕組みして唸り始めました。

「……どう見ても、丸めた新聞紙の束、ではないだろうか?」

 立て札の後ろに、ちょっと土が盛ってあって、そこに丸めた新聞紙のようなものが突き刺さっていました。

 その両側で、ルラ姉とレラ姉が謎のポーズでドヤ顔をして突っ立っています。

「ふはははー! ぬけるもんならぬいてみろなのー!」

「ぬけたら勇者とみとめてやってもよいのー!」

 どうやら退屈していたみんなのために、ルラ姉とレラ姉が突貫でイベントをつくり上げた、ということのようでした。

 この新聞紙の剣は、この間レイルの迷宮で手に入れたものでしょうか。

 ちょっとつついてみると、ふにゃふにゃと左右に揺れました。見た目どおりの新聞紙のような紙の束のようです。

 しかし。

 そこに書かれている文字をみて、わたしは背筋がぞくりとするのを感じました。

 ……こ、これ、全部、魔法が書き込まれているのです。

 わたしが創ったいくつかの魔法。ちょっと凝ったシューティングスターの魔法でさえ、たかだか百行程度、初めて創ったので安全のためにやや冗長な記述になっているとはいえ、五百文字もないソースコードです。

 ロアさんが使った、あの大きなクレーターを生み出した魔法も、基本的な記述はたったの二十行程度でかけてしまうのです。

 通常の新聞紙の文字数は、朝刊で大体十万文字から十五万文字くらいとか聞いたことがあります。

 とするならば。

 この剣一本に、どれだけの大魔法が組み込まれているのか。想像するだに恐ろしくなります。

 これ一本で、戦略級兵器。

 ルラ姉と、レラ姉は、なんて、とんでもないものを!

「ん? ティア殿、どうかしたのだろうか」

 心配するかのような、ダロウカちゃんの声に我にかえりました。

 どうやらわたしは、我知らずのうちに耳をしゅんとさせて、しっぽを足の間に入れてがたがた震えていたようでした。

「ああ、う、にゃ」

 声になりません。

「よっし、まずわいがやってみるでー。うりゃー! ……意外にがっしりうまっとるんやね」

「ばっか、腰がはいってねーな。俺に任せろ、バリバリ」

「そういうマジゲロもへっぴり腰にゃー」

「うるせー」

「にゃはは真打登場! ……新聞紙には勝てなかったにゃー」

 何も知らないみんなが新聞紙の剣を抜こうとして、楽しそうです。

「しかし、ちょっと地面に埋まってる程度の新聞紙が野郎二人がかりでも抜けないとか、これやっぱなんかイベントやよね? なんか抜くための条件でもあるんやろか?」

「いやまさかと思うけど、地下何百メートルとかまで続いてたりしてなー」

「いや、触った感じまんま新聞紙やろ? ワイヤーとか丈夫な縄とかならともかく、紙なんやしこんだけ力いれたらどっかで破れるんと違う?」

「にゃはは野郎どもどくにゃー! 勇者は遅れてやってくる! のこるはダロウカちゃんだけにゃー」

「……私に、ぬけるだろうか」

 むっふーと息を吐いて、ダロウカちゃんが新聞紙の端をつかみました。

 止めたいのだけれど、声が出ません。

「んー! んー! あれ、抜けない……。はう、私は、勇者では、なかったの、だろう、か」

 がーん、とショックを受けた顔で、ダロウカちゃんが頭を抱えてしゃがみこみました。

 どうやら最後の一人だっただけに、自分なら抜けるかもしれないと言う期待が大きかったようで、それを裏切られてすっかり落ち込んでしまったようでした。

「ねえ、我こそは勇者!って顔ででてきておいてー、いまどんな気持ちなのー?」

「ねぇねぇ、いまどんな気持ちなのー? ぷぷー、ダロウカちゃんカワイソスーなのー」

 ルラ姉とレラ姉がそんなダロウカちゃんの周りをドヤ顔でスキップしながら走り回ります。

「……」

 わたしは。

 ぽかり、とルラ姉とレラ姉の頭に拳骨を落としました。

「いたいの……」

「てぃあろーちゃん、ひどいのー」

「いじわるしちゃ、めーなのです!」

 だいたい、ひどすぎるのです。

 そもそも、あの新聞紙の剣は抜けるようになっていません。ルラ姉とレラ姉も、一応この世界の女神さまなので、流石にあんなチートというのもおこがましい超兵器をほいほい渡す気がなかったようなのは多少安心する所ではありますが。

 わたしも気がつくが遅れたのですが、あの剣は、世界に埋め込まれていました。というより世界の一部を目に見える形で地面からちょっとだけ引っ張り出したようなシロモノなのです。

 仮にアレを引き抜くことができたら、それはすなわち。一部とはいえこの世界そのものを切り離し自由にできると言うことになるのです。

 そんなことができたら、勇者どころではありません。それは創世の女神であるルラ姉やレラ姉に匹敵する力があることになります。

「ルラ姉、レラ姉、こないだの新聞紙ソードまだもってるです?」

「あれは記念品なの。てぃあろーちゃんにもあげないの!」

「でもコピペ修正ひんなら創ってあげるのー」

 ぽん、と地面に突き刺さってるのと似たような新聞紙の剣を渡されました。

 こちらも魔法が書き込まれているのは確かですが、割とまともです。

 ざっと表面に書かれた部分を解析してみましたが、どうやら先ほどの世界の一部と違って、単純にふつうの武器のようです。丸めた新聞紙が普通の武器と言うのもアレですが。

 なんでも切れる、というのは割とチートな感じですが、元が新聞紙なだけに回数制限アリ。使い捨ての聖剣、といった感じのようです。体験版で得られる報酬としてはまぁ、妥当なところでしょう。

「ちなみに名前は使い捨て聖剣”斬れるんです”ってゆーのー」

「カタカナでキレルン・デスって書くと邪悪な剣みたいでかっこいーのー」

「あるいはキレルンっていう魔物に特殊こうかがありそうな武器みたいなのー」

「きっとそのうち殺戮の剣キル・デスとかいう名前で後世につたわるにちがいないのー」

「いや、ネタに走る必要はないと思うのです……」

 とりあえずつっこんでおきます。

 ちみっこお姉ちゃんふたりは、やはり寧子さんの娘らしく、どうも後先考えないでネタに走るところがあって疲れます……。

「……じゃ、こっちのと入れ替えにして」

 わたしは地面にささっていた新聞紙ソードを引っこ抜いて、代わりに今もらったキレルン・デスを差しました。

「え……」

「あら……?」

 抜いた剣をルラ姉とレラ姉に渡すと不思議な顔をされましたが、今はそれどころではありません。手早く状況を整え直さないと、ダロウカちゃん達に変に思われてしまいます。

「抜けなかった剣が抜けるようになった、という理屈も必要なのです」

 スマホを立ち上げて、ナビにお願いして魔法のエディタを立ち上げます。

 ちょいちょいとソースコードを組み上げ、それからキレルン・デスが突き刺さった地面に、今書いた垂直方向の移動を禁止する術式を書き込みます。

「縦方向には動かないから、横から掘ってこうすれば抜ける、って感じで納得してもらいましょう」

 うん、とひとつ頷いて、実際に盛られた土を削って、キレルン・デスがころん、と転がって抜けるのを確認しました。

「……とまぁ、こんな感じなのです」

 転がったキレルン・デスを拾い上げ、ダロウカちゃんに差し出しました。

 まぁ、自作自演なのですが。ルラ姉レラ姉が関わっている部分は都合よく認識の改変が行われるはずなのです。

「ありが、とう」

 ひどく疲れた顔で、ダロウカちゃんがわたしの差し出した剣を受け取りました。

 きっと、ダロウカちゃん達の認識では、すっごくくだらない冗談みたいな屁理屈で、わたしが新聞紙ソードを抜いたことになったのだと思います。



「……」

「……」

 なぜかルラ姉と、レラ姉が、ぽかんと口を開けたまま、もうひとつの新聞紙ソードを抱えてわたしの方を見つめていました。

「……にゃ?」

 よくわからなくて、わたしは首を捻って、ねこみみをぴこんと動かしました。

 第四話は短めなはずだったのに……なんかどんどん長くなってマス。

 第三話の閑話の焼き直しが続いていますが、まったく同じ話にはならないように意図的に改変を加えていますので、もうしばらく焼き直しにお付き合いくださいませ。

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