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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第四話「勇者と書いてょぅι゛ょと読む」
139/246

14、「なめんにゃよ」

 ちょいエロ注意報。

「……眠れねーのか、ちびねこちゃん」

 不意にかけられた声にスマホから顔を上げると、マジゲロが所在無げにぶらぶらと近くを歩きながらこちらを見つめていた。陽が落ちて辺りは大分暗くなっていたが、音楽でも聴いていたのか、その手に持ったスマホの灯りに照らされてちょっと寂しそうな顔が見える。

「暇なんだ。悪いけど、ちっとばかりおしゃべりに付き合ってくんねーかな?」

「マジゲロさんはおやすみしないのです?」

 尋ねてから気がついた。ダロウカちゃんのビニールシートは五人も横になれるほど広くはない。既に俺、ダロウカちゃん、にゃるきりーさん、サボリーマンの四人が横になっているのでマジゲロは横になることが出来ないのだろう。

「……あ」

「ちびねこちゃん、護衛の仕事してたって言ったろ? 街道は安全って話だったが、何があるかわかんねーしな。一人くらいは起きてた方がいいだろってサボリと話してな。寝てる間にゲロイムに埋まってましたとか、流石にちょっと遠慮したいだろ? 心配しなくても、後でサボリのやつと代わる予定だぜ」

 マジゲロは「ゲロイムちょーげろいむ」と謎の言葉を呪文のようにつぶやきながら肩をすくめた。

 言われてみれば、もしかしてロアさんたちも寝ずの番をしていたのだろうか。時々、朝ひどく眠そうな顔をしていたのを思い出した。俺は昼は馬車の中で、夜は寝袋でぐーすか寝ていたっていうのに。

「じゃ、わたしが起きてるです。場所空けるのでマジゲロさんが横になるといいです」

 起き上がろうとしたら、ダロウカちゃんの腕がしっかりと俺を捕まえていて抜け出すことができなかった。

「いや、ちびねこちゃんみたいなちっちゃい子を一人だけ起こしとくわけにもいかねーだろ? 入れ替わろうにも俺じゃそんなスペースにゃ横になれんし、それ以前に俺がダロウカに添い寝するわけにもいかんだろうが」

 にゃるきりーさんの隣ならいいのか、とか思わないでもなかったが、あの人はそういうのあんまり気にしそうにない。ダロウカちゃんもこういう状況でそういうことはあまり気にしそうにはなかったが、マジゲロの側の問題だろうか。

 最近はなんというか、妙齢の女性の横に寝るより年端もいかない少女の隣に寝る方が憚られる、というような風潮がある気がする。公園とかで小さな子供に話しかけただけで警察呼ばれるような世の中だからな……。マジゲロもそういうのを気にしているのだろう。

 実際痛ましい事件が多く発生していることも事実ではあるけれど、世の中の男全員が性犯罪者みたいな扱いされるのもどうかとは思う。

 ふと、中身二十四の男の癖に、十歳前後の少女にぬいぐるみのように抱きしめられて横になっている現状を思い出した。それどころか、普段はルラレラと一緒に寝てるんだよな。今日もすぐ側で寝てるけど。

 ……深く考えたらヤバイ気がしてきたので考えないことにする。

「……おい、黙らないでくれよ。それとも、何か警戒してんのか。まさかずっと起きてるのも俺らがなんかすると考えてるからなのか?」

 マジゲロがおろおろし始めたので、「そんなことないです」とにっこり笑ってみせる。

 するとマジゲロはなぜか、落ち着きをなくしてそわそわとなんだか挙動不審な動きを始めた。

「……お、おう。ならいいんだけどよ」

「おトイレなら、懐中電灯借りて行ってきたほうがいいです?」

 首を捻ると、マジゲロはぶるぶると首を左右に振った。

 なんだろう、俺、なんかやらかしたかな?

 前、誰かに何かを注意されたような覚えがあるんだが、なんだったっけな。

「……なあ、ちびねこちゃん。ちょっと聞きたい事あるんだけどいいか?」

「なんです?」

「今もその手に持ってるそれといい、懐中電灯とか知ってたり、俺らの姿見ても全然動じてなかったり、意外とこの世界って文明とか発達してるのか?」

「……言ってる事がよくわからないのです」

 あれ、スマホとか認識できないんじゃなかったのか? ルラレラとか完全に認識されてないっぽかったから、俺が多少変な事しても「体験版補正」とやらで認識の変換が行われると思ってたんだけど。

 ――あれ、もしかして、俺がスマホいじってるのって普通に認識されてた?

 いや確かに、異世界のねこみみがスマホとかいじってたら、そりゃすっげー不審だよな。

 とそう思ってから、さーっと血の気が引いた。

 異世界からの迷い人四人は、あの掲示板の住人だという話だったから、このルラレラ世界を訪れているのは俺、週末勇者と、まおちゃんの二人だということを知っているんじゃないだろうか。

 つまり、スマホのせいで、俺が、週末勇者だと、ばれる可能性がっ!?

 ……やべえ、どうしよう。週末勇者が自分をねこみみ幼女化してる変態だとか、掲示板に書き込まれたらイヤだ。

 内心あわあわしていると、マジゲロが手にしていた自分のスマホを指差して言った。

「あー。そうか。文明がどうとか言ってもそりゃわかるわけねーか。えーっとだな、例えば俺が持ってる、これ。スマホ、スマートフォンっていう機械なんだけどよ。ちびねこちゃんの持ってるそれと同じようなもんなのか、ってことなんだが?」

「……わたしが持っているのは、たぶれっと、っていうです」

 行商人のランダさんが持っていた謎の石版を思い出して、咄嗟にごまかした。

 完全なウソ、ではないはずだ。ややこしいけれど、実際この世界には石版、タブレットと呼ばれるスマホのような情報端末があることは確かだ。もっとも、俺のは普通に現実世界から持ち込んだスマホなのだけれど。

「スマホみたいな大きさなのに、タブレットとかマジうける」

 マジゲロは腹を抱えて笑った。

「しっかし、異世界スマホってすげえな。イモムシとバトってたとき、画面からなんかちっちぇえ妖精みたいなの出てきてたろ? あんときちびねこちゃん、なんかやろうとしてたよな。やっぱそのタブレットってやつ魔法の道具なのか? それ持つと魔法とか使えるのか? 魔法の杖とかみたいな感じでスマホ使ってんのかな。うひょーなんかすっげーな! 魔法少女もののアニメみたいだぜ!」

 マジゲロが興奮した口調で一気にまくしたてた。

 どうやらナビの姿まで見られていたらしい。しかし逆にそれが幸いして、ナビが画面からひょこひょこ顔を出していたせいで、異世界のマジックアイテムだと思ってくれたようだ。

 俺が週末勇者だとばれる心配はなさそうだと、少しだけ胸をなでおろす。

「……あんま大きな声出すと、ダロウカちゃんたち起きるで?」

 声と共に、サボリーマンが起き上がる気配。

「あ、わりい、起こしちまったか」

「ああ、ええわ。十分休ませてもろたし、そろそろかわろか?」

 起きて来たサボリーマンは、大きく伸びをしながらマジゲロからスマホと懐中電灯を受け取った。

「スマホの方はそろそろバッテリ切れるぜ?」

「ダロウカちゃんが携帯用充電器持ってたから借りといたわ。ほんと何でももっとるな、あの子は」

「あん? ダロウカもスマホもってきてんのか?」

「いや、もともと災害時に備えたサバイバルグッズを詰め込んだリュックらしいから、手回し式の充電器とかラジオとかもろもろ入ってるらしいで?」

「あんな子供が背負えるちっちゃなリュックに何がどんだけ入ってんだか、謎だな……」

「……案外、女神ちゃんの格好は伊達じゃないってことなんかもしらんね?」

「ま、趣味合うかわからねーが暇つぶしに俺のスマホで音楽でも聞いとけばいいぜ。あと、掲示板の話じゃこっちからでもネットとかつながるって話しだったが、掲示板はつながらなかった」

「おや、そうなん? 魔王ちゃんとかリアルタイムで書き込みしてたのに変な話やね?」

「いや正確に言うとつながるんだけどな、何度表示を更新してもこの時間なのに全然カキコ増えねーし、こっちが書き込もうとするとエラーになるんだよな。表示は出来てるからネットにつながってはいると思うんだけどなー。”異世界やって来たぜ実況スレ”とか立てようと思ったんだけど無理だったぜ! でもま、見るだけならなんも問題ない」

「なんやROM専しかあかんの? まぁ人様のスマホで書き込みする気はないしな、あんがと借りとくで」

 サボリーマンはマジゲロに礼を言うと、入れ替わりに先ほどまでマジゲロがうろうろしていた辺りに突っ立った。マジゲロはふわぁ、と大きくあくびをして先ほどまでサボリーマンが横になっていた、にゃるきりーさんの隣にごろりと横になったようだ。

「無駄話につき合わせて悪かったな、ちびねこちゃん。おやすみー」

「おやすみなのです」

 俺にとっては、無駄と言うわけでもなかったと思う。今後の行動に関しては、いろいろ気をつけないといけないかもしれない。




 ……それからどのくらい時間がたっただろうか。

 俺は相変わらず眠りにつくことができず、まだスマホをいじっていた。

 先ほどマジゲロが、掲示板つながるけれど更新しても書き込み増えないし、こちらから書き込み出来ないといっていたが、俺のスマホからは普通に読みか書きはできた。

 マジゲロが書き込めなかったのは、もしかしたらルラレラのいうところの体験版による制限、というやつなのかもしれない。

 まぁ、考えてもしょうがない。明日ルラレラが起きたら聞いてみることにしよう。

 明日も歩かなくちゃいけないわけだし。俺も早く寝た方がいいのだが。

「……なぁ、ちびねこちゃん、まだ起きとるか? スマホの灯りついとるからまだ起きとると思うけど」

 不意に、サボリーマンが話しかけてきた。

 マジゲロと同じようにただぼんやり起きているのが暇なのかもしれない。

「ん、まだ起きてるのです」

 小さく答えると、サボリーマンはなぜかしばらく黙っていた。

「……どうしたのです?」

「えーっとな、たぶん今からわい、すっごく答えにくいことを聞くと思うんやけど。イヤならなんも答えんでええからな?」

「答えにくいこと……です?」

 一体なんだろう?

 俺が首を捻っていると、サボリーマンは突然、寝ているルラレラを指差した。

「……え?」

 まさか、ルラレラを認識してるのか、この人っ?

「……」

 サボリーマンは黙ったまま、少し移動してからまた寝ているルラレラを指差した。

「……んー」

 さらにサボリーマンは北に南に、何度か移動してはルラレラを指差すのを繰りかえす。

「やっぱり、そこ、やなあ……。最初はダロウカちゃんかともおもてたけど」

 ぶつぶつつぶやいては、ルラレラが寝ている場所を指差し続ける。

「さっきも言ったけど、答えにくいことなら答えんでええけど、もしかして、そこに女神ちゃんおるんと違うのん?」

 サボリーマンは、自信なさげにそう言った。

 ……どうやら、ルラレラが見えているわけではないらしい。

「……えっと、女神さま、です?」

 なんと答えたものか、一瞬迷った。あの掲示板の住人が言う女神ちゃんといえば、勇者候補生達の所の洋風女神フィラちゃん、和服女神ティラちゃん、そして俺のところの洋風幼女ルラ、和風幼女レラのいずれかに違いない。

「……」

 サボリーマンは、何かをうかがうように黙ってこちらをじっと見つめていたが、不意に口元を緩ませた。

「あ、やっぱいきなり神さまがそこにおるゆーても、わけわからん?」

 サボリーマンはちょっと腕組みして、突っ立ったままで俺を見下ろすのがよくないと思ったのか、その場に腰を下ろした。

「わいらをこの世界につれてきたのは、三毛猫いう自称神さまなんやけど、しっとる?」

「……三毛猫という名前の神さまは知らないのです」

「この世界でなんて呼ばれてんのかはわいらも知らんけど、まぁ、その神さまがな、ダロウカちゃんに言ったららしいんよ。特別な力はくれんけど、強く願ったことはなるだけ叶うようにしたげるってな。ダロウカちゃんが魔法とか使えるようになったのも、その関係と違うかな」

 サボリーマンは、時折ルラレラが眠る寝袋の方にちらちらと目をやりながら言った。見えてはいないようだが、これはもうほぼ確実にルラレラの存在を感じているっぽい。

 しかし、何の話だろう。

 ああ……そういや、俺が初めてこの草原に降り立ったとき、ルラレラに言われたっけ。なんでも希望にそえるとはかぎらないけれど、少しだけならなんとかしてあげるって。

 俺が、ねこみみに会いたいって言ったら、すぐにみぃちゃんと出会うことになったんだよな。

 寧子さんもこの人たちに同じようなことを言ったぽいけど、それが一体どうしたって言うんだろう……?

「……でな、この草原に放り出されて、道も無いし、さあどっちいこかーって時にダロウカちゃんが全員に行きたい方向を指差せって言ったんよ。つまり、それが願いの叶う方向だってことらしいんやね」

「願いはかなったのです?」

「にゃるきりーちゃんの指差した方向に、ちびねこちゃんがいたんよ」

 う……。あのネコミミスキーが指差した方向なんて、もちろんねこみみが居る方向に決まっている。つまり、願いは叶ったということか。

「……でな、わいがこの世界でやりたいことって、ちみっこ女神ちゃん達か、もしくは魔王ちゃんと一緒に冒険することなんよ。で、さっきから指差している通りなわけやね。にゃるちゃんの願いが叶ったから、わいの願いも叶うんやとしたら、それはこの指の先に女神ちゃんか魔王ちゃんが居るっちゅうことやろ?」

 ……やばい。この人、結構理論立てて考えてる。

 さっき移動しながら指差していたのも、複数の場所から方向を示せば、その先が交わる場所にあるという考えからだろう。

 ルラレラがこの場所にいる、ということがばれると、イコールで俺の存在が!

「……もいちど聞くで? 答えんでええけど。てことは、つまりや、もしかしてちびねこちゃん、魔王ちゃんと違うのん? 女神ちゃん達と一緒に、わいらの案内係やってくれとるんと違う?」

 おおう、俺のことをまおちゃんかもしれないと疑ってたのか、このひと!

 これは、どうするべきだろう。まおちゃんのふりするのもあれだし、いや俺は週末勇者の方ですだなんてカミングアウトするわけにもいかない。

 ……ここはっ!

「……サボリーマンさんの言っていることがよくわからないのです。この世界には女神はいっぱいいるのです。女神ちゃんというのはどの女神様のことなのです? それに魔王ちゃんというのもよくわからないです。この世界に魔王なんていないのです。わたしは、ティア・ローなのです」

 なんにも知らない顔で、現地住民のフリをするしかないっ!

 きょとんとした顔を作って、おみみをぴこぴこ。

「……」

 サボリーマンはしばらく黙って俺の顔を見つめていたが、少し残念そうな息を吐いて星空を見上げた。

「……そっかー。へんなこと聞いてすまんかったな、ちびねこちゃん。まぁ、魔王ちゃんとはイメージ大分ちがうかったしなー。もしかしたら、程度やったんやけど」

 すまんね、ともう一度謝ってサボリーマンはまた立ち上がり、見回りでもするかのように辺りをぶらつき始めた。

 まぁ、確かにまおちゃんとはイメージ違うよな、俺は。というかティア・ローのキャラは。

 なんとか窮地を脱したと思ったら、急に眠くなってきた。

 ふわぁ、とひとつあくびをして、スマホを前ポケットにしまう。

 明日また頑張ろう。おやすみにゃさい。






 ――夢を見ていました。


 うん、夢なんだと思います。だって、みぃちゃんが三人も居るはずがないのです。

 わたしの前に、三人並んで座って、けづくろいするのです、ってぴこぴこお耳をゆらしているのです。これはわたしに対する挑戦に違いありません。

 この間は結局わたしが、はにゃーんとされただけでみぃちゃんを、にゃーんと鳴かせる事はできなかったのです。これは、リベンジのいい機会なのです!

 さっそく、目の前のみぃちゃんのお耳をはむはむしました。


 なめるです、なめるです。ぺろぺろってなめるです。

 なめるです、なめるです。ぺろぺろぺろってなめるのです。


「うう、ん。にゃー……」

 やったのです! 一人目をにゃーと鳴かせたのです!

 つづけて二人目のみぃちゃんなのです!


 なめるです、なめるです。ぺろぺろってなめるです。

 なめるです、なめるです。ぺろぺろぺろってなめるのです。


「……あふ」

 むむむ。わたしのはむはむが効いていないようです。

 もっとがんばるのです。お耳だけでなく、首もぺろぺろしちゃうのです。

「いやん、くすぐったい……にゃー」

 やったのです! 二人目もにゃーって鳴かせたのです!

 残るは最後のひとりなのです!


 なめるです、なめるです。ぺろぺろってなめるです。

 なめるです、なめるです。ぺろぺろぺろってなめるのです。

 ちゅっちゅするです。なでなでするです。

 ぎゅーって、ぎゅーって、だきしめるです。


「……ああ、おはよう、ティア殿」

 にゃーと鳴かないおくちもぺろぺろしちゃうのです。

「あはは、こら、寝ぼけているのだろうか、くすぐったいじゃないか」

 なめるです、なめるです。にゃーって鳴くのです!

 ……なめる、です?


 ふと気がついたら、胸元をはだけたダロウカちゃんが、ちょっと赤い顔でわたしの目の前に横になっていました。


「……にゃー」

 しょうがないので、ごまかすためにわたしが鳴くことにしました。

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