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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第四話「勇者と書いてょぅι゛ょと読む」
138/246

13、「もうやめて、わたしのえいちぴーはぜろよっ!」

 ――今のは、なんだ。


 エターナルフォースブリザードとか。ちょっと、まておい。

 思わず振り向くと、ダロウカちゃんが腰に手を当ててなんだかとてもいい笑顔で突っ立っていた。むっふー、と鼻から息を吐いて、えらく得意げな様子だ。ドヤ顔とまではいかないが。

 なぜかその両隣にルラとレラが謎のポーズを決めて立っている。こちらは見事なドヤ顔だ。

 ……今のが、ただの中二病的ポーズでないとしたら。

 思わず、イモムシとダロウカちゃんを交互に見つめてしまう。

 彼女が、あのイモムシを。あの一言で、死に至らしめたというのか?

 エターナルフォースブリザードといえば、いろいろネタとして扱われることが多い呪文ではあるが、概ね問答無用で相手を即死させるという、中二病的ご都合主義なものであることが多い。今のはまさにその即死呪文の効果であったように思える。

 だがそんなふざけた力を、ダロウカちゃんが持っているとはとても信じられなかった。

 いろいろ優遇してもらってはいるけれど、寧子さんは俺になんら特殊なチート能力などくれはしなかったし、それに俺と同じなのだとすれば現実世界の人間はこのルラレラ世界では基本的に魔法なんか使えないはずなのだから。

 いや、でも、あの氷の結晶のアニメーションじみたエフェクトはどこかで見たような気がするんだよな……?

 思い出そうと俺が頭を捻っていると、サボリーマンとにゃるきりーさんも、ダロウカちゃんを見て驚いたような声を上げた。

「……ちょ、ダロウカちゃん、いまのなんやのん?」

「えたーなるふぉーすぶりざーどってきこえたにゃー?」

「……私が今使ったのは、魔法だ」

 ダロウカちゃんは小さく胸を張り、得意げに言った。

「確かに魔法ですねー」

 ぴょこん、と俺のスマホから顔を出したナビが小さく首を傾げた。

「……というか、太郎さまが一番最初にお試しで作った魔法じゃないでしょうかね。それも、女神様たちに駄目出しを受けて致死率が最大二十五パーセントに修正された版のようでございますね」

「え? 俺、修正版なんて作ってないぞ? いや、仮に俺が作った魔法だとしても、なんでダロウカちゃんがエターナルフォースブリザードなんて使えるんだ?」

 エターナルフォースブリザードを実行するための実行ファイルなんか作ってないし、魔法を作った俺にだって今すぐ使うことなんか出来はしないのに。そんなものをなんでダロウカちゃんが??

 俺の疑問の声が聞こえていたのだろうか。

 ダロウカちゃんは、ふたたびむっふーと鼻から息を吐いて得意げに小さな胸を張って言った。

「今の魔法は、私達をここへ送り込んだ三毛猫殿に先ほど教えてもらったものだ。直接私達にチート能力を与える気は無いが、既にある私達が使うことの出来る力に関して教えることは問題がないのだそうだ。例えば他にも……しゅーてぃんぐすたー!」

 ダロウカちゃんが指差した方向に、突然轟音と共にクレーターが出来た。

 って、それは、俺がレイルの迷宮でドラゴンさん相手に使った魔法!

 宇宙を漂う小さなつぶてに干渉して、敵の頭上に叩き落す魔法じゃないかっ!

「……ちなみに、”星ふる夜に願いを”と書いてしゅーてぃんぐすたーと読ませるらしい。なんだかとても、かっこよくないだろうか」

 むっふー、と得意げにダロウカちゃんが鼻息荒く言い放った。

 うっぎゃー! やめ、やめてください!

 俺が考えた魔法の名前を、得意げに詠唱しないでください! オネガイシマス!

 これは、あれだ、こっそり隠していた自作の詩集なんかをものすごくきれいな声で朗々と読み上げられた時の、なんとも身の置き所がない感覚と言うか。

 こつこつ書き上げた黒歴史ノートをかーちゃんに見つかって、「あらぁ、あんたなかなか面白いもの書くわねぇ」なんて褒められたときのあの、生まれたことを後悔したくなるほどの羞恥心というか。

 自作の文字で魔法の呪文書を作って得意げに詠唱の練習をしていたら、たまたま遊びにやって来たりる姉に「これなんて読むの?」と言われて、得意げにアルファベットの対応表を差し出したら「へー、すごいのね……。まぁ、うん……」と微妙な顔で言われた時の、あのりる姉の生暖かい眼差しを思い出して、俺は思わずその場でのたうち回った。

 ――畜生、おれ中二病卒業したはずだったのに!

 異世界で勇者やれなんていわれて舞い上がって、病気が復活しちまってたのかっ!?

 冷静に考えたらバッチファイル実行するだけなんだし、そもそも魔法に名前なんか付ける必要なんかないわけだし、それどころがわざわざルビまで振って悦にいってたとか、今更他人に冷静にその事実を突きつけられると……。

 ……うぎゃー! 耐え切れねぇ!

「教えてもらったのは全て週末勇者殿が創りだした魔法らしい。理屈はよくわからないのだが、三毛猫殿の話では、週末勇者殿がいつでも使えるような形にしてこの世界に持ち込んでしまったため、週末勇者殿に作られた魔法は条件を満たせば私達でも使えてしまうらしい。魔法を自ら作り出してしまうとは、すごいな、週末勇者殿は!」

 ダロウカちゃんの、キラキラとした純粋な賞賛の眼差しが俺に突き刺さった。

「へー、ほかにどんなのがあるのん?」

「あの巨大ゲロイムやったときの、なんかすっげー魔法はなんたやつだ?」

「たしか、”無限の錯乱光”って書いてカレイド・スコープとかいうやつにゃー!」

「それは収束光と書いてれーざーという魔法と、反射板と書いてりふれくたーという魔法の組み合わせではないだろうか」

「やってみるにゃー! 目からびーむ!」

「あぶね、ってかビームじゃなくてレーザーだろうがよ、くそにゃるきりー!」

「おおう、リフレクターとかいうのは盾にもなりそうだにゃー?」

「ほー、もしかしてそれイモムシブレスとかも反射できるんとちがうのん?」

「ふははー! ならば、えたーにゃるふぉーすぶりざーどにゃー! あれ? にゃはは、失敗したにゃ」

「こらばか、即死魔法を適当にそこらでとなえんじゃねーよっ! つかエターにゃるってなんだよおい」

「おつぎはかれいどすこーぷにゃー! にゃはは、あれ角度適当だとうまくいかにゃい……」

「しゅーてんぐすたー三連発! よし、これは”恋人を祝福する流星群”と書いて”めてお・すとりーむ”と読ませるべきだろうか」

「いやたったの三発で流星群はちょっとしょぼくね? つかダロウカ、その魔法名長すぎんじゃね? それ以前に恋人を祝福ってどこからでてきたんだよ」

「むろん、ノリとその場の思いつきとフィーリングにきまっているだろうっ!」



 ……もうやめて! もう俺のヒットポイントはゼロよっ!

 楽しげに魔法の実験を繰り返すダロウカたち四人をよそに、俺はその場で羞恥にのたうちまわるしかなかった……。






 その後……なんとか少しだけ持ち直した俺は、ルラレラの案内にしたがってなんとか皆を街道まで案内することが出来た。

「だいぶ日も落ちてきたなー。丁度そこに待避所みたいなとこあるし、今日はこの辺で野宿せん?」

 サボリーマンが街道脇の開けた場所を指差して、皆に声をかけた。まだ明るいが夕食の支度などを考えると、確かにそろそろどこかに落ち着いた方がいいだろう。

「わかったです。このへんでお休みするです」

 答えてから気がついた。飯とかどうしよう。多少の非常食や水は前ポケットに詰め込んで来たが、流石にルラレラ含めて七人分となると少し微妙な所だった。

「うむ。私がビニールシートを持ってきている。広げるから少し待って欲しい」

 ダロウカちゃんが、背中に背負っていた羽のついたかわいいリュックから、折りたたまれた青いビニールシートをひっぱり出した。さらには新聞紙の束まで取り出し、まずは新聞紙を地面に敷いたあと、にゃるきりーと二人でビニールシートをその上に広げた。

 なんでも新聞紙一枚敷くだけで保温性がずいぶんと変わるらしい。

 ずいぶんと用意が良い様だ。俺の前ポケットにも一応、寝袋やら毛布といったキャンプ用品は詰め込んできているが。提供すべきだろうか。ダロウカちゃんのシートでは流石に全員は横になれないだろうし。

 ちょっと悩んでいると、ダロウカちゃんは自分の作業の出来に満足したのかひとつ大きく頷いて、サボリーマンの方を向いた。

「サボリーマン殿、今日は大変だったろう。先に横になるといい」

「すまんなぁ、悪いけどそうさせてもらうわ」

 シートを地面に敷いたダロウカちゃんが言うと、サボリーマンはちょっとだけすまなさそうな顔をしたが、実際、ひとり先頭に立って草を踏みしめて道を作ったり、イモムシに燃やされたりと今日はかなりくたびれていたのだろう。遠慮はしないことにしたらしく、すぐにごろりと横になった。

「おつかれさまなのです」

 俺は、前ポケットからタオルを取り出し、水筒の水で少し湿らせてサボリーマンの顔を拭った。まだあちこち黒いコゲが残っていたが、拭っていくとぽろぽろとコゲが剥げ落ちてゆき、その下から真新しい、赤ちゃんのようなきれいな肌が現れた。

 どうやらルラレラの回復魔法は完璧だった様だ。サボリーマンの着ていたトレーナーの上着は前面が完全に焼き焦げて無くなってしまっているようだったけれど。今は袖のあたりを首に巻きつけてマントの様に上着の残骸をまとっている。

 ……俺の替えのシャツとか、出してあげるべきだろうか。いや、彼の体格的にサイズ合わないかな。

 そんなことヲぼんやり考えながら、そのまま上半身を丁寧にタオルで拭っていくと、すぐにタオルが真っ黒になって役に立たなくなってしまった。あまり水に余裕はないし、悪いけどこのあたりで勘弁してもらおう。

「あんがとなー、ちびねこちゃん」

「ひゃ」

 俺の頭をなでようとしたのだろうか、不意にサボリーマンがひょいと手を伸ばしてきたので思わずちぢみこむ。

「……あー、すまんなぁ」

「いえ、こちらこそごめんなさいなのです……」

 初対面の時の印象がかなり悪かったとはいえ、サボリーマンが悪い人でないことはわかっているし、今の行動に邪な意図がないこともわかっていたけれど、やはり自分が小さいちびねこであると、単純にその体格差が怖い。身長なんか、今の俺の倍ちかいし。

「こら、ティア殿をいじめてはいけない」

 いつの間にかダロウカちゃんが紙コップを片手にすぐ側に立っていた。

 味噌汁の匂い。どうやら即席味噌汁でも用意してきていたようで、用意がいいことに小さなガスコンロでお湯を沸かして作ったようだった。

「あんがとなー、ダロウカちゃん」

 サボリーマンが起き上がって、紙カップと某バランス栄養食をダロウカちゃんから受け取った。

「流石にこの人数だと何日分もないが、切り詰めれば今日明日分くらいはなんとかなると思う」

「そっかー。ダロウカちゃんはえらいなー。しっかりもんやなー」

「む。そう子供をあやすような言い方はよしてもらえないだろうか!」

「ばっか、そうやって突っかかるからガキなんだろうがよ。褒められたら素直に喜んどきな」

 マジゲロがダロウカちゃんの頭をわしづかみするかのように撫で回し、小用だろうか、ひとりで草原の奥の方へ行ってしまった。

「むー」

 ダロウカちゃんはぐしゃぐしゃにされた髪を整えるように、しばらく手櫛でいじっていたが、草原の奥に消えたマジゲロの方を見つめてその背中に「べーっだ」と舌を出した。

 しっかりしているようで、こういう子供っぽい所もあるんだなとちょっとだけ微笑ましく思った。




 ダロウカちゃんが懐中電灯を持っていたが、流石に夜通し点けっぱなしにするほど電池に余裕があるはずも無く、俺たちは夕食が終わると早々と寝ることにした。

 流石に全員横になれるほどビニールシートは広く無いので、縦長のシートを横にして上半身だけでも横になることにした。

 幸い気候的にそれほど冷え込まないようだが、掛け布団のかわりに新聞紙と大きなゴミ袋をかぶる。新聞紙まじ万能。意外に暖かい。

 枕がないのだけがちょっと寂しいが……。

「……」

 背中から、ダロウカちゃんが俺のことをぎゅうと抱きしめている。そのダロウカちゃんをにゃるきりーさんがさらに抱きしめているようだ。くっつかないと横になるのもきびしいとはいえ、流石にちょっと恥ずかしい。

 やはり疲れていたのだろう、ダロウカちゃんやにゃるきりーさんも横になるとすぐに寝息を立てていた。

 しかし、俺はこのところ昼間は馬車の中で寝ていたので余り眠気も無い。というか普段からわりと夜更かしする方だから、こんな時間にはそうそう眠れやしなかった。

 ん、あれ? そういや、ルラレラはどこ行ったんだ……?

 ふと気がつくと、ちみっこたちの姿が見えなかった。いや、思い出してみると夕食前後から姿を見ていないような気がする。

「ん、向こうにご飯食べに行ってたのー!」

「ロラさんたちにもちゃんとれんらくしてきたのー!」

 ウワサをすればというか、寝袋持参でルラレラがぼふん、と俺の前に寝転がった。どうやらこんな状況であっても俺の隣で眠るという日課は欠かさないつもりのようだった。




 眠くならないので、スマホをいじっていた。普段は掲示板とかはPCで見るのだが、暇つぶしがてらにいつもの掲示板を見ていると、なんだか妙にこころひかれるスレッドがたっていた。

 【マジで】朝起きたらおにゃのこになってた!【ついてない】って。まんま俺のことみたいじゃないか。

 1から順にスレッドを追って行くと、どうやらスレ主は俺と同様にいきなり女の子になってしまったようだ。

 ……どこかで聞いた様な。ってゆーか、前にもこんな、俺自身に起こったこと先にスレ立てられてたことがあったよな? 俺がルラレラ世界を訪れるようになった時。いろいろ聞いてみようかとスレ立てようとしたら、まんまなスレが既にたってたんだよな。

 あの時のスレは勇者候補生が立てたんだったよな。ってまさか、このスレ立てたのは勇者候補生の真人くんか?

 さらにスレを追って行くと、なんとシルヴィまでが書き込みをしていて、さらにネコミミ幼女化した俺の写真を貼り付けていたので思わず天を仰いだ。

 何やってるんだよ、シルヴィ。

 ……いや俺も今までシルヴィやらリーアやら、みぃちゃんの写真やら何度も貼り付けて来たから文句を言う筋合いはないのだろうか。

 これはたぶん、神殿前でねこみみ少女化した真人くんと会ったときの写真だ。思わずお互いに耳とかしっぽとかさわさわして確認しちゃったんだよな。

 端からみると、やばいくらい愛らしい……。シルヴィが写真に残しておきたくなる気持ちもよくわかる。ちくしょう、自分で自分の写真見てかわいいとか思っちまうなんて、俺も末期だな。

 幸い、ねこみみ幼女の正体については言及していないようだ。そもそも真人くんも俺も、元の容姿と全然違っているし、自分から言わない限りはわかりはしないだろう。

 ならば……うん、問題ない。

 そのままスレッドを追っていくと、不思議なことに「にゃるきりー」なる人物や「ダロウカ」なる人物まで書き込みをしていた。それも、今日の日付で、だ。

 しかも、「にゃるきりー」はねこみみ幼女化した俺の写真を貼っている。

 ちょっとまて、いつこんな写真を撮ったんだ?

 思わず後ろのダロウカちゃんや、にゃるきりーさんの方を振り向いて見つめてしまった。

 ……寝てる、よな。


 ――ってことは、前、まおちゃんとの間で発生したような、時間ズレが起こってるって事?

 時間ズレ起こらない様に修正したんじゃなかったのかよ、寧子さんっ!

……黒歴史のいくつかは作者の実話。

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