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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第四話「勇者と書いてょぅι゛ょと読む」
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11、「ぽんぽんいたいねこみみちゃん」

 ぐるんぐるんと目が回るような不快感。まるで乗り物酔いのようだ。吐き気を覚え、立って居られなくてその場にしゃがみこむ。

「……いったい、なにがどうなった?」

 頭の中がすっきりしない。まだぐるぐると眩暈がとまらない。

 俺は誰で何をしていた?

 俺は鈴里太郎。今は東のサークリングスの街から、行商人のランダさんと一緒に西のリグレットに街に向かっていた最中、のはずだ。

 あと一日ほどでリグレットの街に着く、というところだった。

 お昼時、食後にちょっと魔法を試してみようとしたのを覚えている。

 そうしたらなぜか不思議な浮遊感があって、目の前の全てが消えてしまったのだ。

 ……うん、ここまでは記憶がちゃんとつながっているな?



 なんとか身体を起こして周りを見回す。背の高い草の中に、埋もれているようだった。ほとんど身動きが取れない状態だ。

 つい先ほどまでは土を固めた街道に居たわけだから、いきなり地面から草が生えたのでない限りここは先ほどまで俺が立っていた場所ではないということになる。

 あるいは眩暈のせいで街道脇の草原に倒れこんでしまったとでもいうのだろうか。

 いや、そうであるならこちらに向かって駆け寄ってきていたみぃちゃんが居るはずだ。

 つまり、俺はいきなりどこかへすっ飛ばされてしまったということだろうか。

「……ルラ、レラ、ロアさん、みぃちゃん、居ますか?」

 念のため周りにむかって声をかけてみるものの、ただ静かな風が草を揺らすばかりで何の返答もなかった。やはり、俺一人らしい。

 足元の草の根元を踏みしめるようにして、なんとかゆったりと立てるだけのスペースを確保して空を見上げる。

 ……はっきりとは覚えていないが、太陽の高さはそれほど変わっていない気がする。

 転移に時間がまったくかかっていない、つまり現在の時間が先ほどと同じであると仮定するならば。太陽の位置が変わっていない以上、仮に俺が魔法の暴走でどこかに飛ばされたのだとしても、何百キロも離れたような場所ではないらしい。

「草は、これまで散々見てきた街道脇のと同じ物っぽいし、どこか街道を外れて草原のどこかに転移しちまった、ってとこか……」

 現在位置が分からないのはつらい。

 遭難した時には動かずにその場でじっとしていたほうがいいというし、ルラやレラがいるのだからたぶんすぐに俺の居場所くらいは見つけてくれると思うのだが。

 ……いや事故みたいな物とはいえ、俺の冒険なんだからルラレラ頼りすぎもよくないよな。

「……どーしたもんかな。確かスライムとか出るんだよなこの草原」

 強風の魔法は使えるようになったが、これは「斬る」攻撃なのでソディアで歯が立たなかったのと同じように、スライム相手では詰む可能性が高い。みぃちゃんのように真空波の魔法レベルまでいけば瞬殺できるんだろうけど。

「せめて街道に出たほうが安全なんだろうけど。どっちだろう……?」

 まわりの草は背が高く、背伸びしても先は全然見通せない。

 確か、北の方には山脈があったから……最悪でも東と西くらいは見当がつきそうだけど。

 踏み折った草の上に胡坐をかいて座り込もうとして、違和感を感じた。

「……ん?」

 ああ、そういや俺ネコミミ幼女化してたんだっけ。

 尻の下に敷きかけたしっぽをひょいと、うごかして脇にずらす。今更だけど、自分でもどうやって動かしてるのかよくわからない。

 ぴこんぴこんとついでにお耳を動かしてから。


 ――不意にこれまでの自分の振る舞いを思い出した。


 うにゃー! じゃなくて、うぎゃー!

 思わずその場でのたうちまわりたくなるのを必死で耐える。

 みぃちゃんときゃっきゃうふふして毛づくろいしたのやら、ロアさんにお膝だっこされたりとかいろいろ思い出して、恥ずかしさに顔から火が出る。

 またかよ、おい。またなのかよっ!? だんだんネコミミに侵食されてないか俺?

 こないだより、自分がねこみみ幼女だと思い込んでる時間が長くなってるし!

 いったん現実世界に戻ったほうがいいんじゃねーかな、これ。そのうちもとの男の姿に戻ったときにもまじで「……にゃ?」とか口走りそうで怖い。

 状況に流されすぎだ。

 落ち着け、俺。大きく息を吸って深呼吸。

 深く息を吐き終わったとたん、なぜかごろごろきゅーとおなかが鳴った。

「……うにゅ?」

 なんだ、急におなかが。

 いやさっきご飯食べたばっかりだし、おなか減ったわけじゃないんだけど。なんかごろごろって。

「う……いててて」

 うう、何か悪いものでも喰ったか? おなかが、痛い。

「せ、正露丸あったよな」

 前ポケットをあさって薬瓶をとりだし、ペットボトルの水でごくりと飲み干す。

 割とすぐに効く薬だが、腹が痛いときにはまず出すものを出した方がいい。

 しかし。

 うう、こんな、何が出るともしれないところで悠長にお尻丸出しにしてしゃがみこむわけにもいかないし……。

 腹を押さえながらよろよろと立ち上がって、太陽の位置から西の方を目指そうとして。

 ふと、既視感を感じた。

 草原。ねこみみ。白いお尻。

 ……あれ、なんだっけ? なんか覚えのある言葉のカケラだな。

 思い出そうと、立ち止まったその時。不意に背後からがさがさと何か。

「……っ!?」

 振り返る間もなく、背後からわきの下に手を入れられて持ち上げられた。

「ねこみみちゃんっ! げっとだにゃー!」

 若い女の声? 真後ろなので姿は見えない。

「な、あ」

 ばたばたと足を振るものの、体格の違いか虚空を蹴るばかり。

 ならばしっぽをとぱたぱたしてみるものの、りあちゃんのようなしっぽと違い、ちびねこのしっぽではくすぐるほどのことも出来ないようだ。

 高い高いされるように持ち上げられて、運ばれる。

 誰だ、そして、いったい、何がどうなって。

 草を掻き分けるようにして、持ち上げられたまま運ばれた先は、草が刈り取られてちょっとした広場のようになっていて。

 そしてそこには、ルラが着ている洋風のドレスにそっくりな服をきた女の子と、トレーナーをきた小太りの中年男性、そして皮のツナギを来た若い男が、ぽかんとした顔でこちらを見つめていた。見た目と服装からして男二人は、あきらかに俺と同じ現実世界の人間っぽい。

 まさか、勇者候補生たちのところの和風女神ティラちゃんや洋風女神フィラちゃんのように、また別の異世界から女神が勇者を連れてこのルラレラ世界にやってきたとでもいうのだろうか。

「あの、あなたたちは、いったい……?」

 思わず問いかけた俺を見て、洋風ドレスのちみっこ女神が柔らかな笑みを浮かべた。

「……ああ、うん。落ち着いて聞いて欲しい。いきなりで申し訳ないし、君にとって信じがたい話だとは思うのだが、私たちはこことは違う、別の世界から来たんだ」

 すまなさそうにそう言って、洋風ドレスのちみっこ女神は俺のことを興味ありげな眼差しで見つめてきた。

「異世界、ですか……?」

 勇者候補生達のセラ世界とはまた別の異世界なのだろうか。

 目の前の洋風ドレスのちみっこ女神は、黒髪・黒眼でこれまで出会ったどの女神とも似ていない。

 ……いや、そういや寧子さんとか黒眼・黒髪のもろ日本人顔だったっけ。

 ほかにもそういう女神が居てもおかしくはない。

「この世界でなんと呼ばれているのか、私には分からないのだが。私たちは、通りすがりの三毛猫と名乗る女神に、やや強引な手段で誘われてこの世界にやって来た」

 ……通りすがりの三毛猫って、寧子さんかよっ!

 あの人はいったい、なにやってんだか。

 思わず深い息を吐いた。




 聞いた話をまとめると次のようだった。

 ちみっこ女神のように見えていた少女も、別に女神ではなかったらしく、彼女を含めた四人とも、夜、寝ていたところを突然拉致されてこのルラレラ世界に放り込まれたらしい。

 なんでも西の街の神殿まで行けば元の世界に帰れるらしいので、せっかくの異世界を楽しみながら西に向かう所だという。

 寧子さんも、何考えてんだろうなーと思うが。別にこのルラレラ世界をテストプレイをするのが俺だけの特権なんてこともないし。

 そういや寧子さん、一週間ほど音信不通って言ってたけど、もしかしてこっちの連中に関わってるせいなんだろうか?

「(ひそひそ)たいけんばんもーどなの」

「(ひそひそ)とらいあるもーどなの」

「うわ」

 いきなり両脇から聞こえてきたルラレラの声に驚かされた。

 謎のポーズをとったルラとレラが、俺を見てにっこりと微笑む。

 このポーズは、あれだ、りる姉が来た時にやってたステルスモード発動とかっていってたやつか?

 周りを見回しても、迷い人四人組がルラレラに気がついた様子はなかった。

「(ひそひそ)とりあえず無事でよかったのー。てぃあろーちゃん」

「(ひそひそ)でもなんかまたみょうなことにまきこまれてるのー」

「(とりあえず、見つけてくれてありがとな)」

 小声で礼を言う。

「(ところで体験版モードとかなんの話だ?)」

「たいけんばんもーどなので、普通にはなしてもだいじょうぶよ、てぃあろーちゃん」

「ネタバレしないように、会話ろぐにフィルタかかってるから、だいじょぶなのー」

「フィルタってなんだよおい」

「直接異世界におりたつだけじゃなくて、ふつうのネットゲームみたいに運用することも考慮されているから」

「シナリオに沿った会話以外の内容は認識されないのー」

「たとえば、普通にしゃべってても”ここはXXの村です”としか聞こえなくなるの」

「おおう、よくわからないが分かった。で、体験版ってどういうことなんだ?」

「かんたんにいうとー」

「たいけんばんなのー」

「いやそれ説明になってないから」

 いや待てよ、ゲームの体験版的な物ということか。機能制限をかけて、ある程度のことが出来るような。だいたい入手可能なアイテムが制限されてたり、受けられるクエストが限られていたり、かわりに体験版専用のシナリオだったりするかんじだよな。

「じょばんの、スタート地点から東の街、もしくは西の街まで向かうという内容なの」

「仲間イベントは発生するけど、体験版の制限で一人につき一人までしか仲間に出来ないの」

「……あれ、もしかして。俺って仲間イベントに巻き込まれた?」

 そういえば、俺がみぃちゃんと出会った時も、みぃちゃんおなか痛くてうずくまってたんだよな? 「おなかいたいねこみみちゃん」イベントってところか。

 つまり先ほどの妙なおなかの痛みは、イベントに巻き込まれたせいだってわけか。

「東の街へ向かうルートは、たろうおにいちゃんがやっちゃったから」

「西の街へ向かうルートをテストしてるっぽいの」

「寧子さんも、教えてくれりゃいいのに。なんでこっそりやってるんだろ……」

 思わずつぶやくと、ちみっこふたりがにやりと笑った。




「……というわけで、突然こんなことに巻き込んですまないのだが、私達は西の街の神殿を目指さなければならないらしい。大変申し訳ないのだが、手伝ってもらえないだろうか?」

 洋風ドレスを着たちみっこ女神っぽい少女はそういって俺をみつめた。

 俺がルラレラと会話していた間のことは、まったく認識されていないようだった。

「……非常に、不本意ではありますが。わたしも西の街に、向かう所だったのです。同道するのは、かまわないのですよ」

 ぶっちゃけたはなし、実際に一度、東の街まで歩いた俺は、彼女らに同情を禁じえない。

 ひのきのぼうとおなべのふただけで、何ができるんじゃーと叫びたくなる気持ちがよくわかる。俺だって、ロアさんやみぃちゃんと一緒じゃなければ、何にも出来なかったに違いないしな。

 幸い今の俺は簡単な魔法を使えるし、それにいざとなったらスマホに用意した魔法だって使える。見た目はちびねこだが、多少は冒険の役に立てるだろうと思う。

「ありがたい。感謝するティア殿」

「いえ、こちらこそご迷惑を……」


 寧子さんが迷惑かけて、ほんっとすみません……。

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