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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第四話「勇者と書いてょぅι゛ょと読む」
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10、「魔法つかいたい」

「よし、ほら、修行よ修行! 久しぶりに見てあげる」

 ご飯が終わると、ロアさんが立ち上がってわたしを促しました。

 言われてみるとロアさん達とは別行動が多かったので、剣の稽古をつけてもらったのはだいぶ前のことでした。

 もっとも、実際に教えを受けたのもほんの何日かにしかすぎないのですが。

「おねがいするのです」

 前ポケットから、ソディアちゃんを引っ張り出そうとしました。しかし、長くてつっかえてうまく取り出せません。

「……にゃ?」

 しかも、なんだか凄く重いのです。竹刀とまではいいませんが、ちょっと重めの硬い木刀くらいだと記憶していたのですが、半分ひっぱりだした時点でもう、立っていられそうに無いほど重いのです。あっちへふらふら、こっちへふらふらして、耐え切れずにこてん、と仰向けに転がってしまいました。

 むぎゅう。ソディアちゃんにつぶされそうなのです。

 ……というか、いつの間にソディアちゃんはこんなに重くなってしまったのでしょう。

「(もしかして、ふとったです? 少しダイエットした方がいいです?)」

 小声で囁いたら、ソディアちゃんが抗議するかのようにぶるるんと震えました。

 何か言いたげな気配は感じられるのですが、なぜかいつものような声が聞こえません。

「変です。声が聞こえないのです」

 ソディアちゃん、こわれちゃったです?

 つついてみますが、反応がありません。ななめよんじゅうごどでチョップしてみるべきでしょうか。

「あっちゃー。やっぱそうなるか」

 ロアさんが頭を押さえて、言いました。

「アーティファクトって、基本的に人間種族しか使えないからさ、今のティア・ローにとってソディアはただの鉄の塊みたいなものかもね。そもそも体格的にも剣を持つのはちょっと無理かな?」

 ぶつぶつとロアさんがつぶやきます。言われてみると、寧子さんからのメールにそんなことが書いてあった気がします。獣族の身体だと、ソディアちゃん使えなくなると。

「……それなら、魔法の修行をしてほしいのです」

 よいしょ、よいしょとソディアちゃんを前ポケットになんとか押し込んでわたしは起き上がりました。

 確か、そのかわりに普通の魔法が使えるようになるという話だったのです。それに、ナビちゃんと一緒にスマホで神代魔法も使えるようになって、ロアさんにいろいろ手ほどきを受けたいと前にお願いしたこともあったのです。

「あー、そういえば、そんな約束もしたわね……。よし、んじゃこの旅の間は魔法の基礎を叩き込みましょうか!」

 にやあ、とロアさんは笑ってわたしに手招きしました。

 近付くと、ロアさんはにやにやとした笑みを浮かべたまま、ぱんぱんと胡坐をかいた膝をたたきました。どうやら、膝の上に座れということのようです。

「……うにゃ」

 ちょっとためらいがちにロアさんのお膝に腰を下ろすと、ぎゅう後ろから抱きしめられました。後頭部に、ふにゃんとしたものが当たります。ふにゃにゃんです。

「えへへー」

 背中から手を伸ばして、ロアさんがわたしの両手首を握りました。そのままなにやら楽しげに節をつけて揺り動かします。

「うー! わたしはあやつりにんぎょうじゃないのですー!」

 抗議しようにも両手をがっちりつかまれていて逃げ出せません。

 しょうがないのでお耳をぱたぱたと動かしますが、みぃちゃんのときと違って背の高さが違いすぎるせいでしょう。わたしのお耳は空を切りました。

「いや、これも魔法の修行の一環だからー」

「なんだかウソっぽいのです……」

「いやいやほんとだってばー」

 背中なので見えませんが、ロアさんは絶対、にやにやと笑ったままに決まっています。

「いいから、黙って。魔法が動くところを見せてあげる」

「魔法がうごく、です?」

 どういう意味なのでしょう。

 意味が分からず、首を傾げようとした、その瞬間。

 ロアさんに握られた両手首から何かが伝わってきました。くっついている背中からも、何かよくわからない何かがじんわりと伝わってきます。

「……にゃ?」

「おし、いくよ。目をつぶっちゃ駄目だからね!」

 ロアさんがそう言った瞬間。

 わたしの額から何かが抜け出ました。何も見えません。でも、見えない何か。

 身じろぎしようとして、がっちり押さえられていてぴくりとも動けず。

 代わりにわたしから抜け出した何かがぴこん、と動いた気がしました。

「……今の感覚、わかった?」

「わたしから抜け出した何かが、ぴこん、ってうごいたのです」

「おーけい。じゃ、もう一度、こんどはきちんと自分の意思で動かしてみなさい」

 ロアさんがわたしをつかむ手を緩めました。背中からは、まだ暖かいものが伝わってきています。

「……ん」

 これまでの自分になかった、新たな身体の一部を動かすような。

 ……そういえば、耳とかしっぽもつい最近生えたのでした。

 ふと思い出して、これまで動かしたことのないその未知の部分を、お耳やしっぽを動かした時のようにそっと動かそうとしてみます。

「……にゃ!」

 ぴこん、とねこみみをはねさせた時の様な、そんな感覚がして。見えない何かが、ちょっと上空へ浮かび上がったように感じました。

「おー、うまいじゃない、ティア・ロー。その感覚を忘れないようにね。それが、魔法を動かすっていうこと。発動体がないとほとんど何もできないけど、魔法の基本中の基本だから」

「……なんか、魔法っていうより、超能力っぽい感じがするのです」

 あれなのです、中二病的妄想で思い浮かぶような。見えない手、あるいは理力の腕とでもいいますか。もしくはスタンド能力?

 机の上のビー玉に、動け動けと念を送って、ちょっとだけ転がったような。

 これが魔法と言われても正直、「え、これが?」といった感じなのです。

「今のは白魔法って言われるタイプの魔法。自分の精神力を元にするものだから、超能力って言い方も出来なくはないかもね。動かした魔法を、発動体を通すことによって目的とした力に変換するのが基本的な使い方になるわね。ってそういやティア・ローは発動体とかもってないんだっけ?」

「持ってないのです」

 発動体って、シルヴィちゃんが前手に入れた、指輪とかそういうものなのです。わたしはそういうの持ってないのです。

「いや、待って。たしか神代魔法もあんたのスマホでいけるんだよね? ってことは」

 いいながらロアさんがわたしの前ポケットに手をつっこんできました。

「にゃぁ! やめてほしいのです、くすぐったいのです!」

 暴れるわたしの前ポケットから、ロアさんがスマホを引っ張り出しました。

 ぴょこん、とそこからナビちゃんが顔を出します。

「うん? えっ? あれ、タロウ様はいずこに?」

 ナビちゃんはきょろきょろと辺りを見回して、それからロアさんに見つめられているのに気がついて「きゃあ!」と悲鳴をあげました。

「えーっと、ナビっていったっけ? あんたコレできる?」

 言いながらロアさんが指輪をナビちゃんにに突きつけました。

「え、ええ。この世界のデータは全て以前とりこんでありますので」

 ナビちゃんが混乱した顔で、目をぱちくりさせました。

「おし、いけそうだね! じゃ、あとはみぃちゃんにおまかせでいいかな?」

「まかせるのです」

 みぃちゃんが頷いて、わたしに手招きしました。

「ロアさんは、教えてくれないのです?」

 背中のロアさんの顔を見ようと、んー、と見上げてみましたが見えませんでした。

「悪いけどあたしは大規模破壊魔法しかつかえないからっ! 普通の魔法はみぃちゃんに教えてもらってね? ってゆーか、ほら、あたしお仕事もしなきゃだしね」

「……了解なのです」

 さすがは、はかいしんロアさんなのです。




「よく見るです」

 わたしの隣に座ったみぃちゃんが、近くの背の高い草に向かって手を伸ばしました。

 ぷつん、と真ん中から草が切れて倒れました。

「前にもちょっと説明したです。基本的に白魔法というのは大体が念動系というか、何かに対して力を加えることになるです。自由運動をしている空気の分子の動きの向きをそろえてやると、今のようにカマイタチのような現象を起こせるです。強風サイの魔法なのです」

 みぃちゃんの説明にふんふん、とうなずきながら、ちょっと疑問に思いました。

「初級の魔法というか、初心者が最初に覚えるのって炎の魔法だったりしないのです?」

 ファイアーボールみたいなのって、定番だと思うのです。確か、真白ちゃんたちのところのニャアちゃんが使っていた写真を見たことがあるのです。

 確か、めるふぁど、とかいう魔法だったです?

「……何も無いところに火炎球を作り出すのは、比較的と高度な技術なのです」

 みぃちゃんが、ちょっと呆れ顔です。

 言われてみると確かにそうでした。何も燃えるものがない場所に炎の固まりを作り出して、さらにそれを敵にぶつけるというのは単純に考えても、「可燃物の作成あるいは召喚」「着火」「炎の固まりを敵に向かって動かす」という三つの手順が必要なのです。

 それに比べると、先ほどみぃちゃんが見せてくれた強風の魔法は「既に動いている物の動きの向きをそろえる」だけなので、なるほど初心者向きであるようです。

「わかったのです」

 とりあえず、強風の魔法をやってみるのです。スマホを握り締めて、ナビちゃんにお願いします。

「風よ切り裂け! 強風の魔法サイなのです!」

 ポーズを決めて、スマホを近くの草に向けると。

 そよそよ、とわずかに揺れるのが見えました。

「……無駄なポーズとセリフを考えるより、魔法を動かすことに集中するのです」

 みぃちゃんに、こつんとちいさな拳骨を落とされてしまいました。




 特別な呪文を唱えて奇跡を起こすような、魔法ってそういうものだというイメージを持っていましたが、どうやらいわゆる超能力っぽい、「念じただけで奇跡を起こす」というのがこの世界の魔法のようでした。

 何度か練習して、イメージを固めると、ゆびぱっちんするだけで草を一束程度なぎ払えるようになりました。

 ひゃっはー! 夢にまで見た、素晴らしきヒィッツカラルドなのですっ!

「何度も反復練習して、集中を乱さずにできるようになることが大切なのです。剣の素振りと一緒なのです」

 みぃちゃんが、よくできました、とわたしの頭をなでなでしてくれました。

「このカマイタチを複数同時に操れるようになると、烈風の魔法サイラ、複数のカマイタチを別個に複雑に動かして球形の真空の渦を作れるようになれば、真空波の魔法メルサイラとなるです」

「おー」

 バギ、バギマ、バギクロスって感じなのです。

 残念ながら、まだわたしにはひとつのカマイタチを真っ直ぐ飛ばすことしかできません。

 頑張って、もっとひゃっはー!できるようになりたいと思います。




「タロウ様、せっかくですし神聖魔法も学んでみませんか?」

 りあお姉ちゃんが、膝をぱんぱんと叩いて「へいかもーん」とばかりに手招きしてきました。

「神聖魔法って、いわゆる回復魔法です?」

 首をかしげると、となりのみぃちゃんが小さく首を横に振りました。

「正確にいうならば、神さまにお願いする魔法なのです。ぶっちゃけると魔法ですらないのです。聖印を握ってお祈りするだけなのです。学ぶ価値などないのです。回復魔法が必要なら、白魔法のを教えてあげるです」

「神さまにお願い……です?」

 というか、わたしのそばにはいつもこの世界の創世神であるルラ姉とレラ姉がいるのです。

 何かあれば、いつでも言えばいいのです。

 ちらりと、火の側でまるくなって寄り添っているルラ姉とレラ姉に目を向けると、ぐ、っと親指を立てて返してくれました。

「わたしに神聖魔法は、必要なさそうなのです……」

 りあお姉ちゃんに向かって首を横にふると、「がーん」といった表情でふてくされたように横になってしまいました。




 そんな感じで魔法の修行をしながら、のんびりと街道を進んで行き、何日かたったある日のこと。

「明日の夕方くらいには、西のリグレットの街に着きそうだな」

 ランダのおじちゃんが言いました。

 おじちゃん一人で馬車を飛ばせばもっとずっと早く西の街についていたのでしょうけれど、人数オーバーでロアさんとみぃちゃんが歩きで護衛をしていたので、けっこうかかってしまったようです。

 それでも前に聞いた東から西まで八日、とまではいかなかったところをみると、ロアさんやみぃちゃんはかなり頑張って歩いたようでした。わたしはずっと馬車に揺られていただけなので、ちょっと申し訳ないです。

 お昼ごはんを食べた後、ちょっと思いついたわたしは、新しい魔法を試してみることにしました。

 強風の魔法はだいぶうまく扱えるようになってきたので、空気だけでなくて別のものを動かしてみようと思ったのです。

 それは、重力なのです! きっと、重力の向きを変えたりしたら、ふわふわって、自由に空を飛べるようになるに違いないのです。これも常に働いている力だから、ちょっと向きを変えたりするのはそんなに難しいことじゃないと思うのです。

 むっふーと息を吐いて、魔法を動かします。

 たいぶ魔法を動かすのにもなれてきたので、ちょちょいのちょいって感じなのです。

「ここを、こうやって……こうなのです!」

 かちん、と何かがはまった感じがしました。

 あれ? なんか変な感じです。

「え、ちょっとなにやってるのティア・ロー!?」

 ロアさんが驚いたような声を上げました。

「……!」

 みぃちゃんが、わたしに向かって駆け寄ってきます。

「……にゃ?」

 あれ、わたしはいったい、何をしてしまったのでしょう。

 ふわり、と身体が軽くなるような。

 まるで下りのエレベーターに乗っているような。どこまでも落ちて行く感覚。

 あ、こんな感じどこかで。


 わたしに向かって、みぃちゃんが泣きそうな顔で手を伸ばしていました。

 でも次の瞬間。

「消えちゃった、です?」

 もしくは。

 消えたのはわたしの方だったのかもしれない。

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