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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第四話「勇者と書いてょぅι゛ょと読む」
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 9、「仲良く毛づくろい」

「……起きて、ティア・ロー」

 誰かに肩をゆすられて、ぼんやりと目を開けました。どうやら、眠ってしまっていたようです。

「ん」

 瞬きをして小さく伸びをすると、馬車の窓からロアさんがこちらをのぞきこんでいました。

 馬車は止まっているようで、御車台に座っていたランダのおじちゃんの姿は見えません。

「暗くなる前に、野営の準備するわよ。手伝って」

「わかったのです」

 目をこすって、返事をしました。

 外に出ようとしたら、両肩がずしりと重くて動けませんでした。両隣のルラ姉とレラ姉も、わたしと同じように眠ってしまっていたようです。わたしの肩を枕にして、気持ちよさそうに寝息を立てています。

 もうしばらく寝かせておくことにしましょう。

 わたしは、そーっと二人の間から身体を引っこ抜き、ルラ姉とレラ姉が互いに寄りかかるようにしました。これで安心です。



 御車台の方から前の方に出ると、馬車はどうやら街道の脇にある少し開けた場所に止められていたようで、近くでみぃちゃんとりあお姉ちゃんが野営の準備をしていました。

 まだ辺りは明るいですが、お日様はだいぶ西の方に傾いています。

 その辺で木の枝でも拾ってきましょう。

 前ポケットからひのきの棒を取り出して、手に持ちました。この辺りにあまり危険はないようですが、一応の備えはしておく必要があるのです。

「あー、どこいくのティア・ロー?」

 ひのきの棒で草をかきわけながら奥へ進もうとしていると、ロアさんが声をかけてきました。

「その辺で木の枝でも拾ってくるのです」

 ……あと、ちょっと催して来たのでおトイレも済ませておきたいのです。

「お嬢ちゃん一人じゃあぶねーだろう。それにこの辺に木の枝なんか落ちてないぞ?」

 ひょいと後ろから、首根っこをつかまれました。

 ランダのおじちゃんのようです。

「……木の枝、落ちてないです?」

 見上げると、ランダのおじちゃんが深く頷きました。

 それは変です。この間ロアさんたちと草原を歩いていたときには、ソディアちゃんで草をなぎ払いながら、時折落ちている木の枝を拾って歩いたのです。火を起こすのに使ったのですがこの辺りには無いってどういうことなのでしょう。

「このただっぴろい草原のどこに木が生えてる? もう少し北の方、川の近くなら上流から流れてきた木の枝なんかが散らばってることもあるが、さすがにこの辺まで水であふれることはないからな」

 言いながら、ランダのおじちゃんは白い土の塊のようなものをカバンから出しました。

「だから、こういうのを使うんだ」

「固形燃料なのです?」

「よく知ってるな、牛や馬の糞を乾燥させたものや、干草の類を固めたもんだ。この辺りの草は燃えないからな。燃料もこうやって用意するもんだ」

「牛さんのウンチです……? そんなのをカバンに入れるのは汚いのです」

 ええと、確か。こないだまおちゃんと一緒にお買いものをしたときに、いろいろ買い足しておいたはずなのですが。

 前ポケットに手をつっこんで奥を探ります。

 あ、ありました。

「ぽぺぽぺん。カセットこんろー、なのです!」

 青いネコ型ロボット気取って、カセット式のガスコンロを引っ張り出しました。

 ……自分で言っておきながらなんですが、ねこみみ生えてたり青い服だったり、四次元ポケットだったりと我ながらパクリっぽいのです。

 いいえ、オマージュ、あるいはパロディなのですです!と誰に言い訳しているのかよくわかりませんが、とりあえずえへんと胸を張りました。

「なんだいそいつは?」

 ランダのおじちゃんは流石にカセットコンロは見たことがなかったようです。

「こうやって使うのです」

 ガスボンベをかしゃんと押し込んでスイッチを捻って見せると、炎を見つめて「ほおお」とおじちゃんが感嘆の声をあげました。

「すげえ魔道具だな!」

「魔法は使ってないのです」

 カチンとスイッチを切って、りあお姉ちゃんとみぃちゃんの所にもって行きました。

 あと2リットルの水の入ったペットボトルとお鍋、即席味噌汁や即席コーヒーなどを前ポケットから出して並べます。

「……いや、どんだけ入ってるんだよそのポケット。ってか、なんでも入ってるんだな、おい」

「なんでもは入ってないのです。入れたものだけ、なのです」

「……そりゃそうだ。って、いやいやそれ以前にそんな大荷物がポケットなんかに入るわけねーだろう?」

 影の中から馬車をひっぱりだすおじちゃんに言われたくないのです……。



 馬車で寝ていたルラ姉とレラ姉も起こして、ご飯にすることにしました。

 夕ご飯は、お昼におおかみさんのところでもらったパンでいいのです。あとは、即席味噌汁とかで大丈夫です。

 表面がごわごわした、ちょっと厚めの紙の包みを開くと、焼いたベーコンや卵をはさんだパンがでてきました。もうすっかり冷えていますが、それでもおいしそうです。日持ちさせるために何か香辛料をきつめに使っているのか、ちょっとスパイシーな香りがつんとします。

「うまうまなのー」

「まいうーなのー」

 ルラ姉とレラ姉も気に入ったようです。

 口調とか性格とかはちょっとアレですが、酒場のおおかみさん、料理の腕は確かなのです。

 ランダのおじちゃんは自前でパンと燻製肉のようなものを用意しているようでした。お味噌汁だけおすそわけです。

「むぅ……」

 気がついたら、りあお姉ちゃんの分のパンがないようでした。どうやらお昼ご飯として食べてしまったようで、味噌汁だけを寂しげにすすっています。

「りあお姉ちゃん、これたべるです」

 某バランス栄養食のブロックを渡してあげると、「大好きです!」と抱きしめられてしまいました。

 ……そんなに好きだったのですか、カ○リーメイト。おっと、伏字になってなかったのです。



「ティア・ロー、こっちくるです」

「なんです?」

 みぃちゃんに呼ばれて側に行くと、みぃちゃんはお膝の上を指差しました。

「……?」

 疑問に思いましたが、言われるままにお膝の上にちょこんと腰かけます。

 すると、ぎゅう、と後ろから抱きしめられました。

 なんだか背中がほかほかあったかで、ふわふわなのです

 頭の上に、みぃちゃんがあごを乗せたようです。完全に、がっちり、捕まってしまいました。

「……にゃ?」

 身動きできません。また首をしめられたら、大変です。抗議のためにお耳をぴこぴこ動かしました。

 ぴたぴたと、おみみがみぃちゃんの頬をうちますが、みぃちゃんはわたしを背中からぎゅっと抱きしめたまま放してくれません。

「……どうしたのです?」

 見上げようとしますが、頭の上にあごを乗せられいるので顔が見えません。

「はむ」

「にゃあ!?」

 右のお耳に、ちろちろとしたくすぐったい感覚。みぃちゃんが、わたしのお耳をはむはむして舌で舐めています。逃げだそうとしましたが、がっちり捕まえられていてぬけだせません。

 食べられてしまいます!

「ん、あ。や、やめて欲しいのです!」

 お耳はすごく敏感なのです。みぃちゃんがなぜあれほどお耳を触れられるのを嫌がったのか、今ならよくわかります。ものすごく恥ずかしいのです。


 ――そして、びっくりするくらい気持ちがいいのです。


「(獣族なら、毛づくろいくらいしっかりするです)」

 耳元で、囁くようにみぃちゃんが言いました。

「……ぁ」

 言葉を返すことすらできません。

 数分後、ようやく右のお耳が開放された時には、息も絶え絶えになっていました。

 でも、ようやく終わったのです。

 ほう、と一息ついたところに。

「今度は左です」

「にゃーっ!?」

 さらに追い討ちをかけられて、わたしのえいちぴーはぜろになってしまいました……。



「やり方は覚えたです? じゃ、わたしにもお願いするです」

 両方のお耳をぴかぴかに舐め上げたあと、みぃちゃんはそう言って座ったままわたしに背中を向けました。

 ぴきーん! これは復讐のちゃんすなのです。みぃちゃんも、顔を真っ赤にするくらいぺろぺろしちゃうのです!

 さっそくはむはむしようと、みぃちゃんの肩に手を乗せてあーんとお口を開けました。

「はむ」

 みぃちゃんがやったように、お口でお耳をはむはむして、舌でちろちろと舐め舐めします。

 みぃちゃんのお耳は、相変わらず絹のよう滑らかでした。

 一生懸命に小さな舌を動かして舐めていると、みぃちゃんは気持ちよさそうに目を閉じました。

 わたしにあれだけ恥ずかしい思いをさせておいて、みぃちゃんはひどいのです!

 にゃーん、って泣かせて見せるのです!

 頑張って、ぺろぺろ丁寧に舐めました。右のお耳も、左のお耳も、きれいになるまで何度も舐めました。

 それにしても。あれだけ触られるのを嫌がっていたのに。特に最近はやや避けられている感じがしていたのに。どうして今日は、自分からこんな風に。

 ……自分から身を寄せてくるのでしょう?

「わたしは、生まれた時からたった一人だったのです。ひとりきり、だったのです。……家族と、こんな風に毛づくろいするのが。わたしの夢のひとつだったのです」

 わたしの心の中の疑問を読みでもしたかのように、みぃちゃんがぽつりとつぶやきました。

 わたしのことを家族だと思ってくれているようで、なんだか嬉しくなりました。

 りあお姉ちゃんが、こっちにもカモーンとばかりにわたしを見つめてお膝をぱんぱんと叩いていましたが、無視することにしました。

 ……この上さらにりあお姉ちゃんにお耳をはむはむされたり、角をぺろぺろしたりするほど精神的な余裕はないのです。





「あ、ところでランダさん。お昼になんかやってた、あの黒い板みせてもらえない?」

 食後のお茶をすすりながら、ロアさんがランダのおじちゃんに話しかけました。

 護衛の最中だったのでお昼の時には話題に乗れなかったけれど、どうやらロアさんもスマホっぽい板に興味があったようです。

「ああ、いいぜ。ほら」

 コーヒーを飲みながら、おじちゃんがカバンからスマホっぽい黒い板を取り出しました。

 わたしの前ポケットのことに驚いておきながら、おじちゃんのカバンも結構非常識な気がします。スマホに牛さんのうんちに、パンに燻製肉。全部同じカバンにつめこんでるんですか。

「……あ、やっぱ知ってるやつと同じだ」

 ロアさんは手にとって何箇所か指で触ると、にやあ、と笑いました。

「遺跡にもぐりこんで、まさかこれ一個ってことはないよね? あたしとみぃちゃんにも一個づつくれるなら、直してあげてもいいわよ?」

「ほ、ほんとうか?」

 おじちゃんは驚いた顔で、それからカバンをひょいと持ちあげてひっくり返すと。

 まぁ、出るわ出てくるは。だばだばだばー、とニ、三十個ほど黒い板が転がり出てきました。

「……あー。売りものにするのはかんべんして。ランダさんが使う分と、あたしのみぃちゃんの分、みっつしか直さないわよ?」

「……むむむ。いや、それでいい。頼む」

 おそらくは交渉しようかどうか一瞬悩んだのでしょう。おじちゃんはちょっとだけ口ごもった後、即座に頷きました。

「おっけーい」

 ロアさんは頷き返し、地面に転がった黒い板を三つ拾い上げました。

「正確に言うとね、直すわけじゃなくて壊すんだけどね」

 にやりと笑って、ロアさんが指で手にした板を弾きました。

「ちょ、壊すってどういうことだよ」

 おじちゃんが慌てた瞬間。ぴこん、と音がしてロアさんの手の中の板にあかりが灯りました。

「三千年は動作保障するってシロモノなんだけどさ、これ。生体認証とかかかってるせいで登録した人以外、起動できないようになってるわけよ。でもって、あたしは誰にでも使えるように”壊した”ってわけ」

「ほええ」

 手渡された黒い板を見ておじちゃんが声をあげました。ちらりと覗き込むと、やっぱり見た目はスマホっぽい感じです。アイコンがいっぱい並んでいました。ちゃんと動いているようです。

「……さすがは破壊神ロアさんなのです」

 思わず拍手してしまいます。

「はかいしんゆーな」

 わたしの頭に、拳骨が落ちました。

 ……いたいのです。


 でも、これでいざという時にロアさんやみぃちゃんと連絡をとる手段が出来ました。

 どういう都合によるものかわかりませんが、普通に電話、つながっちゃうのです。

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