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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第四話「勇者と書いてょぅι゛ょと読む」
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 4、「仮想体実装のお知らせ!」

 ひどい寝癖で、髪の毛がぴょこんとはねているような。ちょっと頭を揺らしただけで、ぴこぴこと頭の上でなにか揺れるような。


 ――そんな感じがして、ふと頭に手を伸ばしてみると。


「……っ」

 柔らかな、絹のようなすべすべとした手触り。敏感な場所に触れたときのような、えもいわれぬ感覚がして、背筋がびくんとはねる。

 この、三角の、モノは。もしかして……?

「いやタロー、幼女化した上にねこみみ生やすとか、あんた多芸だわね」

 ロアさんの呆れたような声が聞こえた。

「ちょ、ちょっと、俺どうなっちゃってるんですか!?」

 鏡、鏡はないか。

「――♪」

 慌てる俺の目の前に、リーアが小さな手鏡を差し出した。

「リーア、ありがとっ!」

 奪いとるようにして自分の顔を映し出すと。

 基本的な顔のつくりは、幼女化したときと変わっていない。ただ、髪の色は黒くなり、瞳の色は水色になってしまっている。そして、頭からにょっきりと生える、濃いオレンジ色の三角のお耳。

「ねこみみはえてるーっ!?」

 思わずうにゃーと声を上げて、ふとお尻の辺りにも違和感を感じた。何かがぴんと伸びて、スカートの裾を持ち上げているような。

「……ってあれ、服も変わってる? 俺スカートなんか穿いてなかったはず」

 下着はサイズ的に仕方なく買い置きの女児ぱんつを使用したが、流石にスカートを穿くほど恥を捨てる気はない。サイズの調整が容易なので、冒険用に腰の所を紐で縛るようになっている厚手のジャージを着てきたはずなのだが。いつのまにか俺は幼稚園児が着る様な、青いスモックブラウス姿になっていた。

「なんじゃこりゃー!」

 スカートの裾を持ち上げてみると、ジブリアニメの女の子が穿いているような、ドロワーズというやつだろうか、かぼちゃぱんつのような下着を穿いていた。

 そして。

 視界の端でひょこひょこ動いているのは。

「しっぽー!?」

 耳と同じ、濃いオレンジ色をしたしっぽが、俺のお尻から生えてゆらゆらと揺れていたのであった。

 思わず混乱して先っちょをぎゅうと握ってみたら、具体的にどこといえないのだけれど感覚があった。しかも、結構敏感だ。くすぐったくてぞくぞくとする。

 これは、あれだ、俺がみぃちゃんのような、いやみぃちゃんはしっぽがないけれど、ねこみみちゃんになってしまっているっていうことで。

 いったい、どうなって、るんだっ!?

「たろー?」

 みぃちゃんが、やや茫然としたように。呆けた顔で、ふらふらと近付いてきた。

 そして、なぜか。

「ぎゅう」

「……」

 みぃちゃんは無言で俺の背後から、俺のあごの下に首に腕をまわして、ぐいと引っ張りあげようとしてきたのだった。

 ――首が絞まる。

 首を絞められて気がついた。俺の身体、小柄なみぃちゃんがぐいと持ち上げられるほどに小さくなっている。五歳か、六歳か。体格的に、みぃちゃんの腕を振りほどくことも出来ない。

「ちょ、ちょっと。うぐ、みぃちゃん、首が、ひっこぬけちゃう」

「……抜けるです?」

「抜けない抜けない、外れないから!」

 別に俺を殺そうとして首を絞めたわけでもないのだろうが。みぃちゃんはしばらく俺の首を引っ張って外れないと分かると、少し残念そうにため息を吐いた。

「外れないです……」

「げほげほ」

 むせて、咳き込む。

「……いや、首が外れるわけないでしょ、みぃちゃん」

 なんとか息を整えて、言葉を吐き出す。流石にちょっと、苦しかった。

 何か理由があっての行動だとは思うけれど、それを聞いてよいものやら、ちょっと思いあぐねた。みぃちゃんやロアさんが探している「何か」に関わるものだろうと想像はついたが、話してくれないものをこちらから尋ねるのも気が引けた。

「……」

 みぃちゃんはただ黙って、ばつが悪そうにそっぽを向いた。

 俺はちょっとだけみぃちゃんを見つめて、息を吐いた。




「ん?」

 不意にぶるぶると何かが震えた。俺がいつの間にか着せられていたスモックブラウスのスカート部分の前面には、まるで某ネコ型ロボットの何でも入るポケットのような、半円型のポケットが縫い付けられていて、その中で何かが震えているようだ。

 ……位置的に、ちょっとくすぐったい。男だったら丁度大事な部分に当たる場所だ。

 ポケットに手をつっこんでみると、なんのことはない、俺のスマホだった。ジャージ姿の時には尻のポケットに入れていたのだが、着せ替えされたときにどうやらこの前ポッケに移動していたようだ。

「メールか」

 寧子さんからのメールだった。

 内容は、「仮想体アバター実装のお知らせ♪」。




★☆★


   件名:仮想体アバター実装のお知らせ♪

   To:たろー君

   From:ねいこちゃん


   はろはろーっ! たろーくん、あいしてるぜいっ! ねいこちゃんでぃーっす!

   ひゃっふー! 驚いてくれたかな、かな?

   前回の「ばーじょんあっぷのお知らせ!」で

   ■???って書いてた機能の説明でっす!


   いつもの自分で冒険するのもいいけれど、

   たまには違った気分で冒険するのもいいよねっ!?

   ってゆーわけで「アバター機能」を実装しました!

   つまりー、本来のたろーくんとは別の姿で冒険できちゃいまっす!

   今のところ、たろーくんが自由にエディットするのは許可しないから

   とりあえずあたしが作ったねこみみちゃんでテストお願いしまっす!



   注意事項がいくつかあるので気をつけてねっ?


   ひとーつ、中身はたろーくんですが、そのアバターはたろーくんじゃありまっせん!

   どゆことかっていうと、つまり物理的に別の身体です。

   たろーくんの身体をこねこねしして姿を変えたわけじゃなくって、

   今回新たに作成した身体なのでっす。

   ロラちゃんがくわしいかもねー。

   ほら、ロナちゃんとロアちゃんの切り替えみたいなー。


   ふたーっつ、アバターは勇者じゃありまっせん!

   その異世界に存在する、ふつーの人間になりまっす。

   つまり、死んだら終わりです。二度とそのアバターは使えません!

   だから、いつもよりもーっとずーっと注意深く行動することっ!

   もっとも現実世界のたろーくんに影響がないのはおんなじです。

   ついでに言うと、

   勇者じゃないので、たぶん破魔の剣ソディアちゃんは使えなくなるカモ。

   その代わり物理的に違う身体だから、きっと普通の魔法とか使えるようになるよっ!


   みっつ。これは念のための注意だよっ?

   慣れない内は、外見に精神が引っ張られることがあるから気をつけてね。

   元に戻ったときに、

   「にゃー」なんて言ってたら……ぷぷーって指差してわらっちゃうぞぉ?

   かわいいけどっ!


   いじょーでわでわ。アバター機能のお知らせでしたっ!



★☆★



「……なるほどやっぱり全部、寧子さんの仕業だったわけか」

 俺は深くため息を吐いた。

 ということは、おそらく俺が現実世界で銀髪・紅目の幼女になってしまっていたのも、おそらくはこのアバター機能の実装とやらが何らかの影響を及ぼしたに違いない。

「……ふーん、なるほどね」

 横から俺のスマホをのぞき見ていたロアさんが小さく頷いた。ちらりとみぃちゃんの方に目を向けて、また小さく頷く。

「向こうの世界だと、創世神がいなかったから。けど、ここならもしかしたら……」

 ロアさんが、じっと俺を見つめる。

「な、なんでしょう?」

「……今は止めとく」

 意味ありげな笑みを浮かべて、ロアさんはみぃちゃんの肩を抱いて、耳元でなにやらヒソヒソ話を始めた。

 みぃちゃんは、ちらりとこちらを見て、それから小さく首を横に振った。

 何を話しているのかよく分からない。

 しかし。

 どこか不安気なみぃちゃんの眼差しが、とても気になった。




「……んー」

 ふいにルラが、俺と背比べをするように自分の頭に手を当てた。

 明らかに俺のほうが背が低いのだが、納得がいかないのか、ぺたりと背中合わせになってきた。

「どうしたんだ、ルラ?」

「せいくらべなのー」

 すかさずレラが横から手を当てて、俺のねこみみをへにゃりと押しつぶした。

「にゃ! こら、結構敏感なんだから急に触るなよ!」

 思わず声を上げると、レラはにやあ、と笑ってルラに向かって小さくうなずいた。

「……?」

 意図がよくわからない。今度は入れ替わりにレラが俺と背中合わせになって、ルラが横から手を当てる。

 ……いや、お前ら見た目まったく一緒だから。比べ直さなくていいから。

 ルラも俺のねこみみを押しつぶして、やっぱり満足したように微笑んだ。

 どうやらねこみみ込みだと微妙に俺の方が背が高く見えていたようだ。

「わたしとわたしの方が、ちょっとだけ大きいのー」

「わたしとわたしの方が、おねえさんなのー」

 ルラとレラが両手を上げてにやぁ、と嫌な笑みを浮かべた。

「だからー、わたしのことはルラおねえちゃんって呼ぶのー」

「だからー、わたしのことはレラおねえちゃんって呼ぶのー」

「いや、中身変わってないんだが……」

 抗議をするが、すっかりおねえちゃんぶった二人は。

「たろうちゃん生意気なのー! ルラねぇでもおっけーなの」

「たろうちゃんわがままなのー! レラねぇでもおっけーよ?」

 笑みを浮かべたまま迫ってくる。

 どうやら、出かけしなのりる姉と俺のやりとりをみて、ちょっぴりお姉ちゃんぶりたいようだった。

 ひとつため息を吐く。ままごとみたいなもんだろう。

「ルラお姉ちゃん、レラお姉ちゃん。これでいいか?」

「ことば使いには気をつけるのっ!」

「妹は姉にぜったいふくじゅうなのっ! 口からうんちを吐く前と後ろにさーいぇっさーをつけるのー」

「意外と体育会系だな、お前ら……」

「――♪」

 リーアもなにやらパタパタとホワイトボードを振っている。

『りーあお姉ちゃん 呼ぶ 嬉しい』

「リーア、お前もか……」

 手鏡ありがとな、リーアお姉ちゃん、と耳元で囁いてやると、「――♪♪」と楽しげな声を上げた。




「そういや、いつもなら闇神メラさんとか出迎えに来てくれるのに、今日は誰も来ないんだな?」

 ふと疑問に思ってつぶやくと、ルラレラがにやーと笑った。

「きょうのたろうちゃんは、勇者じゃないのー」

「ただのむらびとAなのー」

「……それはまぁ、ちょっと寂しいかな」

 でもりあちゃんに挨拶もしときたいし、とりあえずは神殿に行こう。いつものリュックとかも預けっぱなしだしな。

「いえ、別にそういうわけじゃないんですよ? すみません、今日は来客がありまして」

 神殿に向かおうと歩き出したら、いつの間にか向うから闇神メラさんがこちらに向かって歩いてくるところだった。

 その後ろには、りあちゃんにすらちゃん、シルヴィがそろっていて。

 そしてなぜか。


「――え、シェイラさん??」


 先日セラ世界の迷宮でいろんな意味でお世話になった、案内人のシェイラさんが。

 なぜかのほほんと、気だるげな顔でこっちに向かってきたのだった。

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