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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
閑話「脇役たちのオン会」
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脇役たちのオン会 その9

 微グロ注意報。

「……というような次第だ。ロア殿、出来れば私達に力を貸していただきけないだろうか?」

 事の起こりから、現在の状況に至るまでの私達の事情を女剣士ロアに説明した所、ねこみみ幼女ティアの師匠だという女剣士は、「んー」と腕組みして唸った。

「……正直言って、気が進まないなー」

「いや、危険であることは理解しているし、無理にお願いする気もない」

 私達と違って、この世界の住人である彼女達は実際に死の危険がある。断られるのも当然ではある。

「あたしの心配なんか不要。邪神でも魔王でも秒殺したげるわよ」

 くすり、とわずかばかり頬を緩ませてロアが笑った。

 なかなかの自信を持っているようだ。ティアが仲間チートは嫌いかと尋ねてきたが、ねこみみ幼女が問答無用で巻き込んでも安心できるほど強いのだろう。

「……では、自らの力不足を棚に上げ、分不相応に他者の力を当てにする私達が気に食わないということだろうか」

 いわゆるパワープレイ。強者にくっついて楽をすることを嫌う人間もいるだろう。

「ん、そうじゃなくてね、あたしが手を出しちゃうと、女神ララちゃんの思惑が台無しになっちゃうかなって」

 ロアは、むむむー、と腕組みしたまま唸り続けている。

 女神ララ、というのは先ほど光神ミラも口にしていたが、おそらく三毛猫氏のことだろう。

 神さまをちゃん付けで呼ぶとは、いったいこの人は何者なのだろうか。

 ――それに、思惑。三毛猫氏が何を目的として、どうしたいか。



 ……整理してみよう。私達がそうなっていた可能性と、三毛猫氏の目的という観点から。

 現状で私達に可能な選択肢は、ギブアップ、簡単バトル、激ムズバトルの三つだ。このうち最も私達が選ぶ可能性が高かったのは、一番最初のトラップ。光神ミラの「今すぐ帰る?」という言葉に引っかかってギブアップを選択することだった。

 ふと疑問に思って私が確認したから難を逃れたものの、私自身、光神ミラが私達を引っ掛けようとしてくるとは思っていなかった。光神ミラの行動が三毛猫氏の思惑に沿っているなら、つまり三毛猫氏は私達がギブアップすることを、いや「異世界での体験を夢のように忘れてしまう」ことを一番期待していたと考えられる。


 次に選ぶ可能性があったのは、先に激ムズバトルが今の状況では非常に困難であることを示した上で、簡単バトルを提示されると、提示された時点ではペナルティの情報がなかったため、一人しかクリア報酬を得られないとはいえ簡単バトルを選ぶ可能性は高かったと思う。

 さらに実際に私が選択しかかったが、記憶を失うというペナルティを知った上で、裏を読んでクリア報酬で全員の記憶保持を選べば簡単バトルが一番の選択のように思えた。

 おそらくこの選択肢を選ばせようとした三毛猫氏の目的は、私達同士で殺し合いをすることになればPVP、つまりプレイヤー同士の戦闘のテストが出来る、といったところだろう。

 さらに言えば、ここでも記憶を保持できるのは一人だけ。三人は記憶を失う。

 最初のギブアップもそうだったが、どうやら三毛猫氏はなるだけ私達にこの世界の記憶を残させたくないと考えているように思える。


 そして最後の選択肢。激ムズバトル。

 激ムズバトルは最初から困難であることが告げられている。想像になるが、仲間やアイテムがそろっていたらオススメというのは、逆説的に特定の仲間や装備が無ければ倒せない敵であるということも考えられる。ようするに、条件を満たさなければ、確実に負けるイベントである可能性だ。

 もしくは負け確定イベントとまでいかなくとも、いわゆる強くて周回プレイなど、序盤ではかなり勝つのが難しいが、後からなら勝てるようなやりこみ要素のようなものである可能性。

 いずれの場合でも、現在の私達の状況では、実質ギブアップと同様、全員を強制的にゲームオーバーにするための選択と考えて間違いないだろう。

 そして、ボスに対して勇者パーティでの戦いというのは既にこの間、週末勇者達が迷宮探索において実際にやったことであるし、私達がテストプレイをせずとも大丈夫なはずだ。

 そうすると、女剣士ロアがどの程度の強さであるのかは不明だが、彼女の力を借りられるとして、私達が全員記憶を持ったまま現実世界に帰るというのは、一番三毛猫氏が望まない結果であるに違いない。




「……なるほど。確かに私達プレイヤーの視点で考えると最上は全員がクリア報酬を得ることだが、この世界に私達を送り込んだ三毛猫氏の思惑、という観点からすると、それは確かに望まない結果なのかもしれない。しかし、ロア殿。今あなたがここにいること、そしてたまたま仲間になったティアの知り合いであることは偶然だろうか? 本来不可能であったかもしれないことが、可能になるかもしれないというこの奇跡のような状況は」

「まあね、たしかに出来すぎてるし、あたしが力を貸すことも織り込み済みなのかもしれないわね。いいわ、手を貸したげる」

 ふー、と息を吐いて、女剣士ロアは大きく頷いた。

「ありがとう」

 私が頭を下げると、またわしゃわしゃと頭をなでまわされた。




「……お話はまとまったかなー。正直ロラ様が参加されるのは子供のけんかに銀河皇帝が仲裁に入るようなものなんだけど、ララ様に提示されたルールには抵触しないので問題なしでーす」

 私達のやりとりを黙って聞いていた光神ミラが、それまでのにやにや笑いをやめ、少し困ったような顔で言った。

「ごめんねーミラちゃん。あたし偶然とか縁とか、そういうの大切にしたいわけよ。まあ、ララちゃんも、選択肢を用意している時点で最終的にはどれになってもかまわないという認識でしょ。じゃなきゃ強制してるだろうし」

 ロアが光神ミラ応えて苦笑する。

「まぁ、今度会った時にお酒でも奢っとけば、流してくれるでしょ」

「そうですねー」

 ずいぶんと気楽に女神様と話をしているようだ。

 それにロラというのは? 言い間違いだろうか。それにロアが女神をちゃん付けなのも気にかかるが、いったい何者なのだろう……。

「さて、最終確認だよー。選択は激ムズバトルでおーけい?」

 光神ミラが、ぐるりと私達を見回した。

 私も皆を見回して、異論が無いことを確認してからうなずいた。

「問題ない」

「再度ラストバトルの説明をするよ。あたしの用意したラスボスと、異世界からの来訪者ダロウカ、サボリーマン、マジゲロ、にゃるきりーの四人および仲間、最大八人で戦ってもらいます。途中参加は認めないのでご注意ください。また、戦闘が始まるとバトルフィールドへの出入りは戦闘終了まで不可能になります。ラスボスを戦闘不能にするか、異世界からの来訪者四人全員が戦闘不能になった時点でラストバトル終了です。ラスボスを戦闘不能にした際に生き残っている全ての異世界からの来訪者が勝利者となります。異世界からの来訪者が誰か一人でも勝利者となれば、四人全員がクリア報酬を得られます。ここでいうクリア報酬は今回の冒険の記憶の保存セーブおよび、創世神ララさまにお願いを叶えてもらう権利となります。勝利者があたしに勝ったよーと勝利報告をした時点で今回の冒険は終了となりますので、お仲間

とのお別れの挨拶は、戦闘終了後、速やかにお済ませくださいねー」

 長いセリフを一気にまくし立て、光神ミラがにっこりと微笑んで右手をあげた。

「――じゃあ、ラストバトル始めまちゃいましょーう!」



 次の瞬間、私達は見知らぬ場所に居た。

 赤茶けた岩と、崩れたビルがいくつか立ち並んでいる。

「皆、いるか?」

「にゃー」

「いるです」

 すぐ側に、にゃるきりーとティアがいた。少し離れたところにマジゲロとサボリーマンがいる。先ほどテーブルについていたときと位置情報をあまり変わっていないようだ。

「だいじょうぶやで! しかし、いきなり転移させるとか、ここどこなんやろね?」

「バトルフィールトとか言ってたし、あれだろ、ボス戦用の特殊エリアじゃね?」

 大規模戦闘を想定しているなら、このような隔離空間でなければ被害が大きいだろう。

 しかし、女剣士ロアの姿が見えないがどこだろう? それに、ラスボスとやらの姿も見えない。

「ロア殿が手を貸してくれるとが、彼女に任せきりにはしたくない。私たちも戦うべきだろう」

「おう、そうやね。しっかし、ラスボスってどんなんやろなー。聞いときゃよかったなー」

「定番だとドラゴンとかか?」

「……あははー、期待に沿えなくて申し訳ないですね」

 背後から突然かけられた声に、振り向く。と、そこにはメイド服を着た若い女性が立っていた。

「初めまして、そしてさようなら」

 言いながら、メイドは手にしたモップのようなものを。

 思い切り、地面に振り下ろした。

「――!」

「あ」

「にゃーっ!」

 轟音と共に硬い岩の地面が砕かれ、割れた岩の破片が周囲に飛び散る。

 咄嗟に盾を構える暇もなく、岩の破片が私達を襲った。


 ――それが戦闘開始の合図だった。




 わき腹がひどく痛む。

 数秒、あるいは数分意識を失っていたのかもしれない。

「――ぐっ」

 痛みをこらえて起き上がろうとすると、何かぬるりとした液体がだらりと垂れて左目の視界をふさいだ。

 頭に痛みは無いが、額でも傷つけてしまったのだろうか。

「……おや。確かに多少手加減はしましたが、まさか年端も行かぬ子供が起き上がれるとは。ちょっと手を抜きすぎましたか」

 じゃり、と地面を踏みつける音がすぐ側で聞こえ、片目で見上げると先ほど一瞬見たメイド服をきた若い女性が佇んでいた。

 無表情でありながら、それでいてどこか感情を隠しているような、能面のような顔。

 光神ミラを見たときにも思ったが、どこか作り物めいていて、非常に美しい。

「あ、あなたが、ラスボスとやらか……?」

「ええ、一瞬で終わるから名乗る必要もないとおもっていましたが。気が変わりました。私の名前はキィと言います。神を模して作られた、自動人形です」

 キィ、と名乗ったメイド服の女性は、手にしたモップをくるくると体の前で回転させ、柄を下にして地面に突き立てた。

「そして、まあ、いわゆるイベント用ボス、とうところですね」

「つまり、貴女を戦闘不能にすれば、よい、ということだろうか?」

「あははー、この期に及んでまだ戦闘続行の意思があるとは、なかなか面白いですね。お名前を聞いても?」

「ここでは、ダロウカで通っているから、そう、呼んでほしい」

 どんどんわき腹から、命が流れ出している気がした。かろうじて動かした手で触れると、まるで冗談のようにわき腹がえぐれていた。

 ……これは、ずいぶんとダイエットしてしまったようだな。

 あまりにもあまりな状況に、頬が苦笑するように引きつった。

 まだ意識があるのが不思議でならない重傷だった。この出血量ならもう、数分で死んでもおかしくは無い。

「うん、了解しました。で、ダロウカさん、介錯は必要ですか? そのままでもほぼ死亡確定ですが、痛そうでみていられないんですよね」

「悪い、が」

 無理矢理に身体を起こす。ずるり、とわき腹から何かが零れ落ちたような気がしたが、今はかまっていられない。

 周囲を見回すと、近くににゃるきりーがうつ伏せに倒れていた。その背中は大小の岩の破片が突き刺さっておりぴくりとも動かない。

 ……いや、今何か動いた。

 うつ伏せに倒れたにゃるきりーの下から、ぴこぴこと揺れ動くしっぽ。どうやらにゃるきりーはティアをかばって倒れたらしい。少なくとも、ティアは生きているようだ。

 サボリーマンとマジゲロは。

 木の棒を杖にして立ち上がろうとしたが、叶わず崩れ落ちた。

 倒れた先に、サボリーマンが居た。おなべのフタを構えたまま。あるいは私がかろうじて起き上がれたのは彼のおかげだったのだろうか。

 マジゲロの姿は見えない。が、この分だと彼が無事とは思えない。

「あははー、モップ汚したくないので、直接攻撃はしたくないんですよね」

「りふれく、たー」

 かろうじて、小さな反射板をひとつ、手元に生み出すことが出来た。

「おや、いいですよ。流石に一矢も報いることなく全滅はくやしいでしょう。あなたが命尽きる数分くらいは黙って立っていてあげましょう」

「れー、ざー」

 角度はいい加減だったが、手元の反射板を使ってレーザーを自動人形キィに向かってはなった。しかし、光条は虚空を走り、どこを穿つこともなく消えた。

「――ダロウカちゃん!」

 ティアの声が聞こえた。

 出血のせいだろう、全身がひどく重く、氷のように冷たく感じられていた。そこに、わずかな温もりを感じて目を開く。

 ぴこん、とねこみみがはねていた。ティアは私を抱きしめるようにして、必死に何かつぶやいている。

 ……ああ、サボリーマンのときにも回復魔法を使ってくれたんだったか。

 朦朧とした意識でそんなことを思い出す。この世界で回復魔法というものがどういう物だか知らないが、仮に多少傷が塞がったところで、この出血量では輸血無しに助かるまい。

「あははー、ちびねこさん。そんなことをしても、苦しみを長引かせるだけですよ」

「うるさい! だまれ! こんな、こんなはずじゃなかったんだ!」

 珍しく、ティアの怒声が聞こえた。どうやら語尾に「です」をつけるのを忘れるほど、取り乱しているようだった。

「……ティア、殿。はな、れて」

 私達と違って、ティアは実際に死の危険があるはずなのだ。私が死ねば、その時点で戦闘終了になる。そうなれば、目の前の自動人形が。ねこみみ少女ティアを傷つけることもないはず。

「ごめん、遅れちゃった」

 突然、空中からあらわれた人影が、目の前に降り立った。

「魔法耐性が高すぎるのも問題ね。あたし転移させるのにミラちゃんじゃ力不足でさ」

 女剣士ロア……? いや、装備は同じようだが微妙に若い。

「よいしょ」

 剣を振るった瞬間、自動人形の半身が消滅した。

「あははー、あらら」

 残った半分の口で笑いながら、自動人形がぐらりとその場に崩れ落ちた。

「悪いね、ラスボスさんにも見せ場あげたかったんだけどさ、時間がなくって」

「いや私の身体って世界神と同等なんですが、一撃とか。まあ、お相子というやつですか」

 すまなさそうに言う女剣士に向かって、半分になった自動人形は苦笑した。

「えーっと、ダロウカちゃん、だっけ。とどめ、させる?」

「かたじけ、ない」

 女剣士が私に肩を貸してくれ、起き上がらせてくれた。

「……これ使うです」

 ティアが、丸めた新聞紙のような伝説の聖剣を私の手に握らせてくれた。ほとんど握力がない。

「意思を持つ相手に、剣を振るうのは、だが」

「あははー、ご心配なく。私の本体は別にありますので遠慮なくぶっ壊してください」

「そうか」


 私は、使い捨ての聖剣を。

 ティアに添えてもらった手で、振り下ろした。

 こんどこそ次で終わるはず……。

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