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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
閑話「脇役たちのオン会」
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脇役たちのオン会 その7

 開き直りました。まだまだ続きそうデス。

「神殿は向こうなのです」

 ティアが手元の何かを見ながら先頭に立って歩く。

「ティアは仲間と合流しなくていいのだろうか?」

 声をかけると、何かあった時には神殿で待ち合わせという約束になっているということだった。

 しばらく歩くと、ひと際大きなビルの前でねこみみ幼女が立ち止まった。

「ついたです」

「ここが神殿なん? 普通のオフィスビルっぽいとこやね」

 サボリーマンがビルを見上げてつぶやいた。

「ぜんぜん宗教くさくねーな」

「とにかく行ってみるにゃー」

 ティアに先導されて、ビルの中に入る。元はガラスの自動ドアであったと思われる場所には木製の扉がついていた。中に入るとすぐに広いホールになっていて、正面の壁に大きなモニターのようなものが据付けられていた。

 がらんとしたホールには、かつて受付であったと思われる小さなカウンターだけがぽつんと残されているばかりだ。神殿と言うからにはそれなりに人の集まるような場所かと思っていたのだが、誰もいない。

 神殿の光神に報告しろ、という話だったが誰に取り次いでもらえばいいのやら。かといって流石に勝手にこの神殿の中をうろつきまわるのも気が引ける。

 さてどうしたものか、と思いあぐねていると。

「――いらっしゃーい」

 不意に声をかけられた。周りを見回すが、やはり神殿などというくせに辺りに人の姿は無く、ただがらんとした空間に声だけが響いた。

「あ、正面のでっかいモニタや」

 サボリーマンが指差す先を見上げると、壁面のモニターに、銀髪・紅眼の少女の姿が映し出されていた。カメラか何かで遠隔地を映し出しているのかと思ったが、よく見ると微妙に違和感があった。CGだろうか。非常によく出来てはいるが、髪の表現や肌の質感などよく見ると作り物であることがわかる。

「……私達は、この神殿の光神という方に会いたいのだが」

 モニターに写る仮想の少女に話しかけて、こちらの言葉を理解してもらえるものかわからなかったが、他に受付のようなものが見えない以上、おそらくこのCGアニメのような少女が受付の役割を果たしているのだろう。モニターに向かって話しかけるより仕方が無かった。

「うん、聞いてるよー」

 モニターの中の少女は微笑み、くだけた様子で小さく頷いた。神社の巫女さん、と言われてすぐに思い浮かぶような赤い袴と白い着物。その上に濃い黄色の布のようなものに頭を通して身にまとっている。ややアニメ的なデフォルメがかかっているので正確にはわからないが、見た感じ、十代の中ほどだろうと思われた。にこにこと微笑むその様子は悪戯をたくらんでいる子供のようで、どこか三毛猫氏を思い起こされる。

「あたしが、お探しの光神ミラちゃんでーす」

 モニターの中の少女がひらひらと手を振って愛想を振りまく。

「おおう、モニタの中のアニメ少女と会話できるとかすごいなー。ここなら夢の二次元嫁が存在できるんと違う?」

「あとはモニタの中に入れたら完璧だなっ! もしくはモニタの中から嫁が出てきたら!」

 サボリーマンとマジゲロが騒いでいる。ああいう掲示板を訪れる人種なのだから多かれ少なかれそういったオタク要素を持っているのはわかるが、君達はもう少し空気読め。

「じゃー、ご期待にこたえちゃおー」

「……は?」

 モニターの中の少女は、縁に手をかけ、よいしょ、と言いながら身を乗り出してにゅるりとこちら側に飛び出してきた。

「じゃーん!」

 ふわりと宙に浮いて、そのままゆっくりと床に降り立つ。

「改めて、ようこそ! 歓迎しちゃうよー。がんばったねー! 色々あるだろうけど、まずは旅の汗とか流してきたらどうかなー」

 あっけにとられて見つめる私達の視線を軽く受け流し、光神ミラがぱちりと指を鳴らすと壁の一部が開いてぽっかりと道を開けた。

「男湯ははいって突き当たりを右、女湯は左だよー。着替えも用意してあるからねー」

 どうやらお風呂があるらしい。

「お気遣い、感謝する」


 ……風呂場ではまた興奮したにゃるきりーがねこみみ幼女ティアを追いかけてひと悶着あったのだが詳細は語らないことにする。




 風呂を出ると、ささやかな宴の席が用意されていた。

 異世界と言う割りに、食材や料理の類はあまり現実世界と相違ないようで、手を出し難いということもなかった。何より久しぶりに某バランス栄養食以外のまともなものを目にした私達にとっては、例えそれがコンビニ弁当だとしても三つ星レストランのごちそうと思われるに違いなかった。

 まあ、中華なカニ玉にデミグラスソースがかかっていたり、味噌汁のようなスープに卵焼きが浮かんでいたりと、和洋中混ざっていたり割と謎なメニューではあったのだが。おいしかったけれど。

「……さて、落ち着いたところでいいかなー? 期限までにはまだあるけど、今すぐ帰っちゃう?」

 光神ミラはひとり何も口にせず、ただグラスにつがれたワインようなものを嗜んでいたが、こちらがひとまず落ち着いたところを見計らって声をかけてきた。

「……色々あったけど、ちいとばかし冒険っちゅーには物足りなかった気もするなー」

 一度死んだ、あるいは死に掛けたくせに、終わりが近付いたらそんなことを言うサボリーマン。あるいは、彼がこの世界で望んだ「魔王ちゃんやちみっこ女神に会いたい」という願いがまだ叶っていないことによる発言だろうか。しかし魔王ちゃん達は東の街を拠点にしているようだから流石に会いに行くには時間がたりないだろう。今現在こちらの世界に来ているとも限らないし。

「俺はゲロイムこの目で見られたし、まぁ満足してるぜっ」

「ねこみみちゃんなでなで出来て、あたしも満足にゃー!」

 ゲロイムとにゃるきりーは帰ることに賛成のようだ。にゃるきりーなどは今もねこみみ幼女ティアを抱きかかえたままで、もしやと思うがこっそり連れ帰ろうとか考えているのかもしれない。

「ダロウカちゃんはどない? わいは皆がもう帰るちゅーんなら無理は言わんで?」

 サボリーマンが私を見つめて小さく笑った。無理を言う気は無いのだろう。それに応えて私は小さく頷いた。

「んじゃ、全員一致で帰るっちゅーことでええかな?」

「はいはーい。それでいいかなー?」

 光神ミラが、まだ悪戯っぽく微笑んだまま全員をぐるりと見回した。

 その微笑が、妙に気にかかった。

「……光神ミラ殿、確認してもよいだろうか。三毛猫氏の話では、”光神に報告すること”がクリアの条件だった。この報告とは、無事神殿にたどり着きました、という現状のことでよいのだろうか?」

 問いかけると、光神ミラはちょっと驚いた顔をした。

「おや、意外とやるねー。引っかからなかったかー」

 にやにや笑いながら、腕組みをする。

「ちなみに、今キミ達がやろうとした”全員一致で帰ることを選択する”っていうのは、ギブアップのことなんだよねー。つまり、クリアしたことにはならないのでーす」

「ちょ、なんやねんそれ! 騙そなんてひどいやん!」

 憤慨したサボリーマンが立ち上がって声を上げるが、光神ミラは涼しい顔だ。

「えー、あたし嘘ついてないし騙してもいないよー? 今すぐ帰る?って聞いただけだもーん」

 なかなか嫌らしい。新聞紙ソードのひっかけというか小馬鹿にした仕掛けの時にも思ったが、三毛猫氏は相当にひねくれた性格をしているようだ。

「いや、そんな言い訳きかんて!」

「まず落ち着いて欲しい、サボリーマン殿。仮に騙されてギブアップして現実世界に戻っていたとしても私達に特に不都合はなかっただろう? せいぜい三毛猫殿が嘯いていたちょっとしたクリア報酬がもらえないだけの話だ」

「……言われてみれば、そうやね」

 少し頭が冷めたのか、席に着いて息を吐くサボリーマン。

「では改めて尋ねよう、光神ミラ殿。私達はあなたに、何を報告すればよいのだろうか?」

 にやにや笑う光神を、じっと見つめて尋ねる。光神ミラは、ちょっとだけ片眉を上げて面白そうに口の端を吊り上げた。

「簡単だよー。ちょっとしたバトルをして、その勝利を報告してくれればいいよ。まぁ、ほら、異世界冒険の最後くらいは、ぱーっと盛り上げてやらないとねー」

 グラスを傾け中身を飲み干すと、光神ミラはぷはーと息を吐いた。

「まぁ、きちんとイベントこなしてきたなら色々装備とかもそろってるから、らくしょーでしょ? まぁ、期限内にこなせばいいし、今日は別にお休みして明日でもいいよー」

「装備……?」

 新聞紙ソードくらいしか手に入ったものはないが。

 もしかして、荷馬車に乗らず徒歩で歩いていたら。あるいは街道に出ずに草原を歩いていたら。他にもいくつか、最後の戦いで役に立ちそうな武器や防具が手に入っていたというのだろうか。

「ん? そういや、お仲間もそこのちびねこちゃん一人だったし、君達あんまりイベントこなしてこなかったのかな?」

「巻き込まれたわたしはいい迷惑なのです……」

 にゃるきりーにがっちりホールドされたままのねこみみ幼女ティアがぼやく。

「仲間……?」

「クリア前に色々語っちゃうのもあれだけど、仲間になるキャラはひとりにつき1キャラ、装備は武器が各1本、防具が兜、鎧、盾が各1つづつ、消費アイテムの類がいくつか手に入るだけのイベントが配置されていたみたいだけど……」

 指折り数えながら光神ミラが笑う。

「あれあれあれー。イベント達成率たったの5%だねー。そんな装備でだいじょーぶー?」

 ……まさか。川で出会った人魚たちも仲間イベントのひとつだったのだろうか。

 荷馬車に乗せてくれた獣人の二人も、もしかしたら。

 動揺する私達をぐるりと見回し、光神ミラはにたぁ、と嫌な笑みを浮かべた。

「うん、じゃあ、選ばせてあげよう。ラストバトルの選択だー。ひとつはとっても後味が悪いけれど、バトる相手はそんなに強くないぞー。もうひとつは、完全ガチバトル! 今の装備だと勝ち目はほとんどないけれどー、全員が幸せになれる可能性があるよ」

 後味が悪いが簡単なバトルと、かなり難しいが全員が幸せになれる可能性のあるバトル、か。

 ……いや、まて。

「詳細を聞いてもよいだろうか?」

「いいよ。まずー、簡単バトルは、異世界からの来訪者、君達四人だけしか戦闘に参加できないよ。そして、クリア報酬を得られるのはたったのひとりだけ! 頑張ってきたのにご褒美もらえるのがひとりだけなんて、ちょーっと後味悪いよねー」

 ……これは、まさかと思うのだが。

「激ムズバトルの方は、あたしが用意したラスボスと、パーティメンバー全員で戦ってもらいます。仲間になった子も参加可能。つまり、最大で八人でラスボスと戦うことになるよ。まぁそんだけ強いってことだけどね。でもってこっちは、誰か一人でも生き残ってクリア出来たら、全員にクリア報酬あげちゃいます。装備とか仲間がそろってればこっちがオススメ」

 にやにや笑いながら、光神ミラが再びぐるりと私達を見回した。

「……報酬ひとりなんは残念かもしらんけど、戦闘大したことないんなら簡単バトルの方がいいんとちがう? これ以上わいらの事情にねこみみちゃん巻き込むのもアレやし」

 サボリーマンもぐるりと見回した。

 マジゲロやにゃるきりーも、ここまで来て無駄に危険に身をさらしたくなかったのだろう、サボリーマンの意見に傾きつつあるようだった。

「まて、サボリーマン殿。おそらく簡単バトルとは、私達四人によるバトルロイヤルあるいはトーナメントによる勝ち抜き戦を差している。認められるのであれば、話し合いによって勝者を決定できる可能性もあるので簡単と言っているのだろう」

「……いやダロウカ、それならますます簡単バトルの方がいいんじゃね? なんで止めるんだ」

 マジゲロが首を傾げた。

「確認しておきたいことがある」

 マジゲロの問いに答えず、私は光神ミラをにらみつけた。

「クリア報酬の詳しい内容と、クリアに失敗した場合のペナルティはなんだろうか?」

「おー、そこに気がついたねぇ。やるじゃないのー」

 光神ミラは大げさに驚いたふりをして、それからグラスにワインを注いだ。

「……ペナルティとかあるのん? それ初耳やわ」

「想像はついている。三毛猫殿から聞いたときには、それがペナルティだとは思っていなかったが。おそらくクリア出来なかった場合には、ここでの出来事が全て夢になるのだと思う」

 一番最初の説明で、三毛猫氏が言った言葉。「これは夢です。少なくとも、そういうことになります」。あの時はこちらの世界でのアレコレが現実世界に反映されないと言う意味で、夢になるのだと思って深く考えていなかったが。

「……つまり、朝起きると夢の内容をほとんど多い出せないように。こちらで起こった出来事を、ほとんど忘れてしまうのだろうと思う」

「なんやそれ! せっかく色々たのしかったんを全部忘れるちゅーことなん?」

 サボリーマンにうなずき、光神ミラを見つめる。と、光神ミラは頷いた。

「その認識であってるよ。補足すると、クリア報酬のひとつがここでの記憶の保持、ということになるのですねー。もうひとつは、何でも、とは言わないけれど、神さまがお願いきいてくれるそうですよ」

「……あの自称神さまのねーちゃんが願いきくっつってもなー。期待できんな」

 マジゲロがぼやいた。

「さーてさて。以上を踏まえて選択してね。簡単バトルと激ムズバトル。どちらの場合も、勝利者があたしに勝ったよーと勝利報告すればクリア条件を満たしまーす」


 話し合いで決めれば危険は無いかもしれないが、たった一人しかここでの記憶を覚えていられない簡単バトルか。

 とても危険で、ティアまで巻き込んで、それでも全員でここでの記憶をもって帰ることの出来る可能性のある激ムズバトルか。


 ――ならば、選択はひとつだろう。

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