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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
閑話「脇役たちのオン会」
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脇役たちのオン会 その5

 陽が沈んで間もないうちに眠りについたせいだろう。翌朝、目を覚ましたのはまだ陽も昇っていない時刻だった。正確に何時かはわからないが、三時か四時か。そろそろ東の空が明るくなってくる頃だろうと思われた。

 まだ眠っているにゃるきりーやティアを起こさないように、そっとその腕の中から離れて身を起こすと、薄闇の中、ぼんやりと突っ立っているサボリーマンの姿に気がついた。

「お、早起きやな、ダロウカちゃん。おはよう」

「おはよう、サボリーマン殿。あなたこそ早いのだな……いや」

 言いかけて気がついた。

「……もしかして、夜の間、見張りに立っていてくれたのだろうか?」

「ん、まあなー。先に休ませてもろたから、マジゲロと夜中に交代したんよ」

 見ると昨夜サボリーマンが横になった辺りには、マジゲロが転がって鼾をかいていた。

「ねこみみの嬢ちゃんが、商人の護衛やっちゅーとったやん? 魔物の類は街道に寄ってこんのかもしらんけど、人間の盗賊とか居るかもしれんしね。まぁ、見張りいうてもただぼーっと突っ立ってただけの話や」

「すまない。私はそこまで考えていなかった」

 そんなことにも気がつかず、ぐーすか惰眠をむさぼっていたとは。恥ずかしさに慌てて謝罪すると、サボリーマンはひらひらと手を振って、気にせんでいいんよ、と笑った。

「ぶっちゃけ五人も横になれんしなー、そのビニールシート。あぶれた野郎が地面に寝転がるより有意義なことしとっただけのことやから気にせんでええで」

 私の持ってきたビニールシートは、普通に横になるとせいぜい大人二人くらいしか寝転べない。だから横にして、せめて上半身だけでも皆で横になろうとしたのだが、それでもやはり五人は多かったようだ。

「すまない……いや、ここはありがとうと感謝するべきだな」

「気にせんでえーってば。むしろ食い物とか色々用意してくれてたことにこっちこそ感謝やな。あの通りすがりの三毛猫はんは、木の棒とおなべのフタ以外なんも持たせんとわいらを放りだしたからなー。どんだけかかるかもわからんのに、ひどいやっちゃで、まったく」

「それは確かに」

 答えて苦笑し、しかしもしかしたらあの人は私が色々と用意をしていたことまで踏まえた上で私達をこんなところに放りだしたのかもしれない、とも思う。

「まぁ、いずれにせよ、私達はギブアップではなく進むことを決めたのだから。こんな状況ではあるが、その不利さえも楽しもうと私は思うのだが、どうだろうか?」

「まぁ、わいらが魔法使えるいうことがわかった以上、無理ゲー言うほどやないしなー」

 どんだけ楽しめるかはわからんけどなー、とサボリーマンも苦笑しながら言った。




 皆が起きたのは体感で七時過ぎというところだった。

 ちょっとだけ驚いたのは、小用を足すのにティアがハンカチのようなもの使ったことだった。

 ひとりで離れるのは危険なので私とティアと、にゃるきりーの三人連れ立って、草を掻き分けわずかばかり地面に穴を掘りそこで用を足した。トイレットペーパーも私のリュックの中には入っており、私とにゃるきりーはもちろんそれを使ったのだが、ティアはポケットから取り出したハンカチのようなもので股間を拭っていたのだ。

「こちらでは、布を使うのが一般的なのだろうか?」

 後ろ足で用を足したあとに砂をかけているティアに尋ねると「大量の消耗品を持ち歩くより、洗って再利用できる方がかさばらないのです」とのことだった。なるほど、確かに長旅をするようなら、そういった物の方が便利であるに違いない。

 次からは私もそういう用のハンカチを用意をしておこう、と思った。



「……そういや、西の街ってどんくらい歩けば着くんだ?」

 軽い朝食を取りながら今日の予定を話し合っていると、そんなことをマジゲロがティアに尋ねた。

「この辺りは、ほぼ草原のど真ん中です。徒歩で四日くらいはかかりますです」

「うわー、そんなにかかるんか」

 ティアが答えると、マジ最悪、とマジゲロがため息を吐いた。

「流石に、水も食料もそんなには用意していないな」

 食料は切り詰めれば今日明日分くらいはなんとかなる。最悪一日二日くらい食べなくても死にはすまい。しかし水は早急になんとかしなければまずい。

「……たぶん、今日中には川を通れると思うです」

 何かを思い出すように視線を斜め上に向けながらティアが腕組みして言った。

「それに、運がよければ、荷馬車が通るかもしれないのです」

「まぁ、甘い期待はあんまりせんほうがええなー」

 サボリーマンが、とりあえず今日はその川めざそかーと言い、私達は頷いた。




「……しっかし、なんもないな」

「草ばっかりにゃー」

 代わり映えのしない草原を見つめるのに飽きたのだろう。マジゲロとにゃるきりーがつまらなそうに息を吐いた。

「そういやど真ん中から四日ってことは、街から街まで八日かかる計算やん? 途中に村とかないのん?」

「……無いのです」

「そうなん? 山ん中とか大森林とかでもなく、こんな真っ平らな草原なんやし、穀倉地帯になりそうなもんやけどなー」

「……無いのです」

 サボリーマンの問いに、ふるふるとねこみみを揺らしてティアが首を横に振る。

「何か事情があるのだろうか?」

 気になって尋ねてみたが、ティアはあいまいな笑みを浮かべたまま、答えにくそうにただ黙って首を横に振った。へにゃりと垂れたねこみみがかわいい。

「まぁ、無理は言わない。しかし、街道と言う割りにあまり人通りもないようだが、あまり人の行き来がないのだろうか。ティア殿は、東の方から来たのだろう?」

 話題を変えると、ティアは小さくうなずいた。

「東の街は、大きな川があるのです。船を使って上流の村や下流の町との行き来は盛んですが、あまり陸路を通って東と西のやりとりはないです」

「ふむ。色々話を聞く限りでは、この辺りの草原というのは禁忌の土地というか、あまり人が立ち入らない場所のようだな」

「モンスターとかおるし、普通の人はこんなとこあんま来たくないんと違う?」

「確かにそうかもしれないが、これだけの広さの土地があれば、少々の不便や危険は押し通してでも農地を開拓する価値はあると思う。そうして開拓村が出来れば人の往来が発生するだろう? 事実、この街道は舗装すらされていないが、結界石とやらが埋め込まれて比較的安全に通れるようになっているそうじゃないか」

 なのになぜ村がなく、人の往来があまりないのか。

 それは立ち入ることさえ忌避されている証拠だと思うのだが。その理由をねこみみ少女は黙して語らない。

 何か大きな災害、あるいは事故? もしくは戦争、など大量に人が死んだ場所。それは忌避される理由として大きなものだろうが、それだけでは少々人の欲を抑えるには薄い。

 あるいは、通り過ぎる程度なら問題ないが、長期に人が住むには適さない何らかの事情。例えば土壌が汚染されているなどであれば、農地として開拓されないのも理解できる。

 ……そういえは、背の高い、細い草以外の植物はほとんど見かけない。

 森とは言わないまでも、多少の木々があってもおかしくはないと思うのだが……。

「もー、草ばっかりであきたにゃー。イベントまだかにゃー?」

 にゃるきりーが、ぷんすかぷー、と木の棒を振り回して騒いだ。

「ん、なんだあれ」

 先の方を見て、マジゲロがなにやら声を上げた。背の低い私では草が邪魔になって先は見通せない。

「何か見えるのだろうか?」

 尋ねると、サボリーマンがひょいと私のわきの下に手を入れて持ち上げてくれた。

「なんか看板みたいのと、へんなもんが見えるで」

「む」

 小さな子供のように抱き上げられるのはあまり愉快ではなかったが、おかげで私にもその奇妙なものを見つけることが出来た。少し先、ニ、三百メートルくらいだろうか。昨晩野宿したような、街道の脇に設けられた待避所があり、そこに立て看板のようなものと地面に突き立っている何かが見えた。




「伝説の剣! 抜けたらあんた勇者! やて」

「エクスカリバーかよ」

 立て看板に書かれていたのは、御伽噺でありがちなよくある伝説の類。そして、その立て看板のすぐ側の地面に突き立てられていたのは。

 ……どうみても。

「丸めたしんぶんしにゃー?」

 にゃるきりーが、つんつんと指先で地面に突き立てられた”伝説の剣”をつつきながら首を傾げる。見た目通り丸めた新聞紙らしく、ゆらゆらとゆれている。

 思わずティアを見る。ねこみみ幼女はちょっと頭をかかえて地面にうずくまっていた。

「ティア殿、これは何かこの辺りで有名なモノだったりするのだろうか」

「……しらないです。ってゆーか、こんなの人を馬鹿にしすぎなのです」

 深くため息を吐いて、ぴこぴことねこみみを揺らしている。

「そのうち伝説の盾とか、伝説の兜とか、新聞紙でできたのが道端にころがってたりしてなー」

「ちゅーか、これってやっぱり三毛猫はんの仕込みなんかな?」

「む、いや、そういえば、週末勇者のところのちみっこ女神が、先日の迷宮攻略の際に新聞紙の剣と盾をもっていはしなかっただろうか。もしや、これはそのときの剣ではないだろうか?」

 あのちみっこ女神が振り回していた剣。個人的にちょっと欲しいと思う。

「まぁ、なんでもええわ。抜けるかどうか試してみたらええんと違う?」

 言いつつサボリーマンが地面からひょろりと伸びる丸めた新聞紙の束に手を伸ばした。

 しかし。

「……あら、以外にしっかりしてるんやね」

 どうやら軽く引っ張った程度では抜けなかったらしく、サボリーマンが大きなカブでも引き抜くように両足で踏ん張り、両手で根元をつかんで引っ張る。

「あかんわ。ぬけへんやん」

 しばらく、うんうんと頑張った末にサボリーマンはあきらめた。

「次俺なー」

 マジゲロも同様に、今度は最初から引き抜く気で思いっきり腰を落として、よいしょーと綱引きでもするように引っ張る。しかし新聞紙はびくともしない。

 流石に大の大人があれだけ力を混めて引っ張れば、どれだけ深く埋めてあったとしても所詮は土の地面だし、土ごと引っこ抜けてしまいそうなものだったが、まったくそんな様子は無い。

「にゃははー、真打登場! にゃー!」

 にゃるきりーも肩をぐるぐると回しながら頑張ったが、新聞紙の束は微動だにしなかった。

「しんぶんしには勝てなかったにゃー……」

 うなだれた表情で戻ってくるにゃるきりー。

 そうなると残るは。私と、ティアだけだが。

 視線が集まる。

「……勇者、というのが何を意味するのか不明だが。この世界において現在のところ勇者を名乗れるのは、週末勇者殿と勇者まおちゃん殿だけではないだろうか?」

「まぁ、物は試しってゆーやん? ダロウカちゃんも試してみ」

「……うん」

 サボリーマンに促されて、新聞紙の束にそっと触れる。

 勇者ダロウカ。いや流石にそれは「勇者だろうか?」と疑問形で自己否定しているようであんまりだ。本名で勇者りなの方がよいだろうか。

 そんな益体の無いことを考えながら、そっと力を入れる。

「……んー」

 顔を真っ赤にして、踏ん張る。

「……あら」

「おや」

「にゃー?」

 三人の期待の視線に応えることなく。

「……んー」

 私は、結局。

 何度踏ん張っても。

 力を入れても。

 その剣を抜くことが出来なかった……。




「……うちらのイベントとちゃうのん? こういうの、三毛猫はん好きそうやったけどなー」

「なにせ最初がドラ○エIIIだったしなー。こういうベッタベタなネタ仕込んでそうだったけどなー」

「たかがしんぶんしのくせに生意気だにゃー」

 三人がぶつぶつとつぶやいている。

 私は。

 自分が勇者と呼ばれたときの名前まで考えていたのに。

 抜けなかったことがひどくショックだった。

 確かに私は、私達は勇者ではないのだろう。あくまでたまたま選ばれて連れてこられただけのただの脇役だ。しかし、このクエストというか、街にたどり着くまでの一連の冒険の間だけは、主役だと思っていたのに。

「……そんなにアレ、欲しかったです?」

 膝を抱えて座り込んだ私の肩に、暖かな手が乗せられた。顔を上げると、小さなねこみみが心配げにゆれていた。

「……いや。自分が勇者でないことにショックを受けていただけだ」

 口にすると、なおのこと気が重くなった。

「伝説の剣、が欲しかったことも否定はしないが」

 はあ、とため息を吐く。

「……じゃ、とってあげるです」

 言いながらティアはとことこと新聞紙の束に歩み寄り。

 おもむろに地面をその小さな手で掘り始めた。

「は?」

「え?」

「にゃー?」

「……」

 異世界組四人が見つめる中、ねこみみ幼女はしっぽをふりつつ、鼻歌を歌いながら地面をその小さな手で掘ってゆく。

 十センチほども掘ったろうか。支えを失った丸めた新聞紙の束は、不意に、ころんと地面に倒れて転がった。

「上下方向に座標固定のふざけた魔法がかかってたですから、たぶん、本当の勇者でもこの剣を”引っこ抜く”ことは不可能だったと思うです。でも岩に刺さった伝説の剣じゃないですから、こうやって横を掘ってやれば簡単にずらすことができるです」

 転がった新聞紙ソードをひょいと拾い上げて、ティアが私に差し出してきた。


「ありが、とう」

 その伝説の剣しんぶんしを複雑な気分で受け取る。


 通りすがりの三毛猫が、腹を抱えて大笑いしている様子が目に見えるようだった。

 4話くらいで考えてたのに微妙にだらだら中。次くらいでまとめます……。

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