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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
閑話「脇役たちのオン会」
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脇役たちのオン会 その3

「……はぁ、異世界からの、迷い人、ですか」

 私が簡単に説明をすると、にゃるきりーが捕獲したねこみみ少女、いやねこみみ幼女はため息を吐くように深く息を吐き出した。

 私自身が同学年の友人より小柄なため実年齢よりも幼く見られがちではあるが、それ以上に目の前のねこみみの生えた女の子は幼かった。にゃるきりーに抱き上げられていると、ネコの耳やお尻から伸びたしっぽもあり、まるで大き目の人形のように見えなくも無い。

 ねこみみの種族がどのような成長をするのか不明だが、見た目は六歳前後だろうか。髪の色は黒いが、その頭にちょこんと突き出した三角のおみみは濃いオレンジ色で、しっぽの色も同様だ。瞳の色は水色。虹彩は猫のように縦長にはなっておらず、普通の人間と同じようだ。

 幼稚園に通う幼児が着るような、青いスモックブラウスを着ている。おなかの辺りを抱えられているため裾がずり上がって、かわいいカボチャぱんつが見えていた。

「うん、驚かせてしまってすまない」

「……最近、多いですね、そういうの」

 また疲れたように、はぁ、と息を吐いてねこみみ幼女はしっぽをぶらぶらとさせた。

 見た目は幼いが、言動はしっかりしている。意外にあの見た目でそれなりの年齢なのかもしれない。勇者候補生のところのねこみみたんも、週末勇者のところのねこみみさんも、見た目はどちらもせいぜい小学生くらいにしか見えなかったから、種族的に若く見えるのかもしれない。

 しかし、最近多い、とはどういうことだろうか。このねこみみ幼女、もしかしたら週末勇者や魔王ちゃんの関係者なのだろうか。あるいは、異世界から人間が迷い込むと言う現象はこの世界の住人にとって割とよくあることなのかもしれない。

 ねこみみ幼女を見つめつつぼんやりと考えていると、彼女はもぞもぞと身体をゆすってにゃるきりーの手から逃れようとした。しかしがっちりとホールドされたにゃるきりーの手は、ねこみみ幼女の身体をしっかり捕まえたまま離そうとしない。

「……あの、そろそろ下ろしてくださいませんか?」

 ちょっと恥ずかしそうに、ねこみみ幼女が背後のにゃるきりーに声をかける。しかしにゃるきりーはそれに気がついた様子も無く「生ねこみみちゃん、ハァハァ」と荒い息を吐いていた。

「にゃるきりー殿、その子を離してもらえないだろうか」

「ねこみみ、はむはむ~」

「~~っ!!!」

 にゃるきりーがねこみみ幼女のおみみを唇ではさんで、もごもごと口を動かすと、ねこみみ幼女が声にならない悲鳴をあげた。

 ……だめだ。この女、駄目すぎる。

 私はため息を吐いてリュックから秘密兵器を取り出した。

「……にゃるきりー殿、こっちを見てもらえないだろうか」

 ねこみみヘアバンドを装着し、「にゃん」とポーズを取ってみせる。年齢的にギリギリな気がしないでもないが、やむをえまい。

「ね、ねこみみちゃんがもうひとりふえたにゃー!」

「んむ」

 しまった、私もにゃるきりーにつかまってしまった。こちらに気を取られた隙にねこみみ幼女に離れてもらおうという考えだったのだが、しくじってしまったようだ。

 両脇に女児を抱えたにゃるきりーは、ご満悦で「にゃにゃにゃ~」と鼻歌なぞを歌っている。

 サボリーマンとマジゲロは呆れたようにこちらを眺めるばかりであった。




「……落ち着いただろうか?」

「ねこみみをたんのーしたにゃー」

 小一時間も頬ずりされたりぺろぺろされたりいろんなところをなでられたりしたあと、ようやく私とねこみみ幼女は解放された。よだれがベトベトして気持ち悪い。掲示板でprprなどと言うが、ほんとにぺろぺろと舐めて来る様なやつが実在するとは。

「……」

 ねこみみ幼女は草の上にぺたりと座り込んでぐったりとしている。にゃるきりーのやつは、きっとペットをかまいすぎて嫌われるタイプに違いない。

「さて、ティア、だったか。突然こんなことに巻き込んですまないのだが、私達は西の街の神殿を目指さなければならないらしい。大変申し訳ないのだが、手伝ってもらえないだろうか?」

「……」

 ねこみみ幼女ティアは、いわゆるレイプ目というか焦点の合わない目でぼんやりとこちらをみつめて。

「……非常に、不本意ではありますが。わたしも西の街に、向かう所だったのです」

 ぼそりとつぶやいた。

「同道するのは、かまわないのですよ」

「ありがたい。感謝するティア殿」

「いえ、こちらこそご迷惑を……」

 ふらふらとティアは立ち上がり、服についた草の切れ端を手で払って、それから「はぁぁあ」

と深くため息を吐いた。

 ……貧乏くじ引いた、とか思っているのだろうな。

 私はそっと、手を伸ばしてティアの頭の上に乗せた。背が低い私より、さらに頭ひとつ分くらいは低い。本当に小さな女の子だ。私に妹は居ないが、居たとしたらこんな感じなのだろうか。

「……あ」

 頭の上に乗せられた手を、どうしようかと迷ったのだろうか。一瞬とまどう素振りを見せたものの、ティアは大人しく私の手を受け入れてくれた。そっとその頭をなでるようにする。

「すまないな、キミのような小さな女の子に負担を押し付けるようなことをして。念のために聞いておきたいのだが、いくつなのだろうか」

「……ん」

 ちょっと困ったようにティアは首を傾げて。

「……見た目よりは、歳をとってるですよ?」

 と小さく微笑んだ。かわいい。

 なるほど、やはりねこみみの種族は種族的に実年齢より若く見えるようだ。ならば……。

「そういうあなたこそ、見た目の割にはしっかりしてるですね。というか、その格好、女神のように見えますけど……」

 ティアが首を傾げる。

「ん、ああ。これはコスプレのようなものだ」

 ごまかすように笑う。

「んで、ダロウカ。お前さんははなんでネコミミヘアバンドとかリュックにいれてたんだ? サバイバルグッズにゃ不要じゃね?」

 不意にマジゲロが口を挟んできた。ねこみみ幼女との語らいを邪魔するとは不届きなヤツ。

 しかし。

「他人の趣味に口をはさまないでもらおうか」

 内心の動揺を押し隠して強い口調で言い放つ。週末勇者がねこみみさんに殺されたというようなことを言っていたから、警戒を薄めようと念のために用意しておいたものだなどとは言えまい……。

「まあ、いいけどなー」

 どこか見透かしたようにマジゲロは小さく笑って、腕組みしたままニヤニヤと生暖かい目でこちらを見つめてきた。

 気に食わないが、これ以上何か言うとやぶ蛇になってしまいそうだ。しかし。

「ふん、黙って見る分には文句はない。ねこみみ幼女がふたり戯れているのを見て勝手にニヤニヤしているがいいよ」

 ふん、と鼻を鳴らすと、「俺ろりこんちゃうから! ケモナーでもねーし!」とマジゲロが挙動不審になってわめいた。ばかめ。

「……しっかし、ほんまにネコミミなんやなー」

 サボリーマンは近くに寄ってきてしゃがむと、ティアのおみみとしっぽをじろじろとねめつけた。流石にいきなり触ろうとしないだけ、にゃるきりーよりはまともな常識を持っているようだが、あまりに不躾で遠慮が無さ過ぎる。やや怯えたようにティアが身をすくませ、私はティアとサボリーマンの間に割って入った。

「興味があるのはわかるが、あまり無遠慮にねめつけるのは止めたまえ。怯えているだろう」

「ん、おお、すまんね。掲示板でいろいろ話聞いたり写真みたりしとったけど、正直話半分にしか信じとらんかったんよ。まさかほんまにねこみみをこの目で拝むことができるとは、なかなかわいの人生も捨てたもんとちゃうなー」

「ふむ」

 確かに興奮するのもわからないではない。異世界と言われて放り出されたのはただの草原だったから、何を持って異世界かという判断がつかなかった。そこに現れたいかにも異世界というねこみみの登場だ。その心情は推し測るまでも無く、激しく同意できる。

「……あの、そろそろ行きませんか? わたしにも予定があるので、あまり寄り道している時間がないのです」

 ティアが、おずおずと口をはさんできた。

 空を見上げると、陽もやや傾いて来つつあるようだった。可能なら陽が落ちるまでに歩みを進めときたいところだし、この世界についてティアにいろいろ聞いてもおきたい。

「うん。行こうか」


 ねこみみ幼女と手をつないで。


 私は、冒険の第一歩を踏み出した。




「おちびちゃんみたいなちみっこがひとりで歩いとるとか、この辺って割と安全な方なんかな?」

 先に立って、草を木の棒でなぎ倒し、足で踏み固めながらサボリーマンが言った。

「あなたちは、どの程度戦うことができます?」

 ねこみみ少女は、ちょっと考えるようにして聞き返してきた。

「私達はティア殿と違って見た目どおり、ただの人間だ。村人Aといったところだろうか」

「そうですか。なら、まずは街道を目指した方がよさそうですね。危険か安全かでいうなら、危険です。わたしだって、ひとりで逃げるならともかくこの人数でとなると少し厳しいです」

 ティアは先頭を歩くサボリーマンにもう少し左手側に向かうように指示をした。

「どのような危険があるのか、教えてもらえないだろうか?」

 問いかけると、ねこみみがぴこんとはねた。

「……えーっとです。正直な話、わたしも知識でしか知らないのですが。この辺りにはスライムと、イモムシと、ウサギなどがいるです。スライムは倒そうとすれば非常に厄介な相手ですが、動作が鈍いので逃げるのは容易です。イモムシとウサギはこちらから近付かない限り、いきなり襲ってくることはないですが、もし戦闘になったら逃げることは難しいです」

「イモムシとウサギを倒すのは無理なのだろうか?」

「ウサギは小さいですが、非常に強力な後ろ足で蹴ってくるです。骨くらい簡単に折れます。運が悪いと死ねます。肉食ではないので、防御に徹していれば助かるかもしれません。イモムシは火を吹くです。楽に死ねます。火葬の手間いらずで経済的ですね」

「おいおい、俺らもってるの木の棒とおなべのフタだけだぜ。そんなんでなんとかなるのか?」

 マジゲロが声を上げるが、ティアは無情に首を横に振った。

「なんともなりませんです。逃げるが勝ちです」

「……なあ、ちょっと聞いてもええ?」

 先頭を歩くサボリーマンが不意に足を止めてこちらを振り向いた。

「ねこみみちゃんはどの程度戦えるん? 魔法とか使えないのん?」

「わたしは、体格的に見ての通りです。物理戦闘はたかが知れています。魔法はまだまだ修行中です。牽制くらいならできるですが、」

「――あかん、みんなにげえっ!!」

 サボリーマンが、前方の何かに木の棒を持ったまま突進して行った。

「……え?」

 何があったのだろうか。

 茫然と見つめる私の目の前で。

 サボリーマンの身体が真っ赤な炎に包まれた。

「……ちょ、まじ?」

 マジゲロも呆けている。

 呆けている私達の前に、にゃるきりーが飛び出した。

「ねこみみちゃん! サボリさんに水にゃ!」

 そう叫んで、にゃるきりーはおなべのフタを構えて、木の棒で何か前方の岩のようなものに殴りかかった。

「は、はいっ!」

 ティアはその声に弾かれたように前に出て、手に持った水筒のようなものの中身をサボリーマンにぶちまけた。しゅうしゅうと湯気が立ち上る。

 何が。

「ちぃ、覚悟きめたぜ」

 マジゲロも前に出て、サボリーマンの身体を引きずってくる。全身焼け焦げている。

 何が、起こっている……?

「おい、ダロウカ! いつまでも呆けてんじゃねえ! さがってろ、最悪お前だけでも逃げられれば復活できんだろ?」

「私は……」

「ガキが無理すんな! サボリーマンを頼んだぞ」

 マジゲロが私を突き飛ばすようにして、前に飛び出していった。

 こひゅ、と何かがもれるような音がして。それがサボリーマンの呼吸音だと気がついた。

 まだ、生きている。

 しかし、私には、何もできない。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

「ダロウカちゃん、退いてくださいです」

 ティアがサボリーマンの胸に手を当てた。じわり、と暖かな光がサボリーマンの全身を包んだ。

「……今はこのくらいしか」

 言うやいなや、ティアは前方でイモムシの気を引こうと木の棒で牽制している二人の下へ走り出した。

 幸い、あの炎の息は連発できるようなものではないらしく、にゃるきりーやマジゲロが燃やされた様子は無い。イモムシは意外と動きが早いが、炎を吐く以外には体当たり程度しか攻撃手段が無いらしく、二人で交互に気を引きながらおなべのフタで受け流すようにしてなんとか持ちこたえている。

 おそらく何らかの攻撃魔法の類なのだろう、時折ティアが両手をイモムシに向けて何かを放っているようだったが、ほとんど効果はないようだった。

 このままではいずれまたイモムシが火を吐くのは目に見えていて、そうなればまた誰かが倒れることになるのは明白だった。

 ……私は、どうしようもなく無力だ。

 あれだけ夢をみておいて、あれだけ偉そうに皆に言い放っておきながら。いざとなればただ見ていることしかできない。

「……きに、せんで、ええんよ、ダロウカちゃん」

 ごふ、と血の塊を吐いてからサボリーマンが起き上がった。

「だ、大丈夫か、サボリーマン殿」

「あんまり、大丈夫じゃないで? だけどまあ、ちっとすっきりしたな。にゃるちゃんとマジゲロが引き離してくれたから、HP1で復活したいうとこかいな」

 言いながらふらふらと立ち上がる。服はボロボロだし、手も顔も、黒く焼け焦げている。

「ねこみみちゃんの回復魔法?ももろたし、もうちっとたてばわいも行けるで」

「もういい、そこで座っていてくれ……」

「ばかやなー。わいにもちっとくらいカッコくらいつけさせてくれてもいいやん?」

 ぽんぽん、と私の頭に軽く手を乗せて、「よし」とひとつ頷いて。

 サボリーマンはふらふらと前方に歩いていった。


 ――力が欲しい。望めば叶うんだろう? 三毛猫殿はそう言ったはずだ。

 見ているなら、力を貸して欲しい。

 私は強く祈った。神頼みだなんて愚かしい。しかし、実際問題として非力な子供に出来ることは何も無い。

『えー、あたしチートって嫌いなんだよっ! 安易に力を求めるのはちょっとねー。やっぱ知恵と工夫と汗と努力と根性と! で頑張るのがいいかなっ?』

 不意に脳裏に声が響いた。やはり、見ていたようだ。趣味が悪い。

 週末勇者は、魔法のようなものを使っていただろう。あれはチートではないのか? 勇者候補生は魔法を使えないようだったが。

『……んー。あれは週末勇者くんが自分で作ったものだから、別にチートじゃないんだよね。でもいいよっ。いきなり全滅もつまらないし、巻き込まれたねこみみちゃんがかわいそうだしねー』

 言われてはじめて気がついた。私達異世界組は、痛みはともかくとして最低限命の保障はされている。最悪でも現実世界で目を覚ますだけだ。しかし、あのねこみみ幼女は。ティアは。

 ――どうなるの、だろうか?

『そりゃしんじゃうでしょー? ちなみに蘇生の呪文とか蘇生アイテムとか存在しないので気をつけてねっ?』

 何か力を貸してくれるなら早くしてくれっ!!

『……じゃあ、教えてあげるけど、それをキミが使えるかどうかはまた別の話だよっ?』

 そういって簡単に三毛猫殿が教えてくれたのは。




「えたーなるふぉーすぶりざーど」

 イモムシは死んだ。

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