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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
閑話「脇役たちのオン会」
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脇役たちのオン会 その1

 主人公の太郎くん視点ではありません。掲示板形式で何度か匿名で発言していた「誰か」の視点でのお話になります。

「……おきて。おきなさい」

 肩をゆすられた感触に、急速に意識が覚醒に向かう。しかし、ぼんやりした頭で今日が休日であることを思い出し、私は声を無視してふたたび眠りにつこうとした。

 再び肩をゆすられる。

「きょうははあなたのじゅうろくさいのたんじょうび。お城にいく日ですよ」

「……私は十六歳ではないし今日が誕生日でもない。某国民的RPGの三作目じゃあるまいし。というか、キミは誰だ」

 ツッコミどころ満載のセリフに思わず起き上がると。ベッドのすぐ側にふちなしの丸いメガネをかけた女性が佇んでいた。二十代半ばくらいだろうか、悪戯っぽく微笑むその顔に見覚えは無い。

 ……いや、ある、のか?

 会った事がないのは確かだと思うが、どこかで見たような。

 その女性の向こう側にふと目が向き、すぐにその異常さに気がついて愕然とする。

 天井が、無い。単に無いというだけでなく、その向こう側にも何も無い。ただの黒い闇が広がっている。

 ……ここは、どこだ?

 部屋の中を見回す。自分が横たわっていたのは、確かに昨晩眠りについた自分の部屋の自分のベッドに間違いなかった。しかし見慣れたはずのこの部屋にはなぜか天井が無くなっており、見回すと壁も足元の一面が存在しない。

 まるでコントや演劇などで使う、部屋の舞台装置のようだ、と思ってから。某国民的RPGのゲーム画面を思い出した。あのゲームは2Dの見下ろし型のマップで、床と一部の壁しか表示されていない。あれをそのまま立体化したら。そのままこのような感じになるのではないだろうか。

「……ゲームの世界に、入ってしまった? いや、まさか。そんな馬鹿らしい」

「あははー、うんうん、まあ、そうだよねっ!」

 思わずつぶやいたセリフに、傍らの女性がずいぶんとくだけた様子で相槌を打った。

「……再度聞く、キミは誰だ? そしてここはどこだ?」

「あたしは神さまでー、ここは便宜上のログイン画面ってとこかなーっ?」

 丸メガネの女性は、んふふーと微笑んで腕組みしながら胸を張った。

 その口調と、神を自称すること、ネットゲームのようなログイン画面という言葉。それら全てが不意に頭の中でひとつにつながった。

「キミは……。もしかして、”通りすがりの三毛猫”殿だろうか?」

 私がよく訪れるネットの掲示板。そこに時折現れて怪電波を発する特徴のある固定ハンドルネームの人。最近何かと話題になっている勇者候補生や週末勇者、魔王ちゃんとの係わりが強い人物だ。

 なるほど何となく見覚えがあるわけだ。つい最近、何度か彼女の写真は掲示板にアップされていたからな。

「正解だよっ! なかなか察しがいいねっ!」

 三毛猫殿は、うんうんと満足げに頷いてそれから腰に手を当てて、なんだか楽しげに体を左右にゆらしている。まるでほんの一瞬もじっとしていられない幼い子供のようだ。

「……説明を要求してもよいだろうか。これはいったいどういう状況なのだろうか?」

 気がつくと、不思議な場所にいて、目の前には自称神を名乗る人物。

 考えたくはないが、異世界転生モノや異世界トリップモノと呼ばれるジャンルの小説やマンガでよく見かける、典型的なパターンだ。

 うん……。まさか、とは思うが……。これは。

「うん、そうだねっ。あなたはあたしの手違いで死んでしまってー、でもって生き返らせることができないからお詫びにチート能力つけて異世界にいってらっしゃーいっ! ってお約束のパターンってやつだよっ!」

「……うん、それウソだろう」

「うはっ、速攻バレたよっ! たまには王道パターンとかやってみたかったのにっ! 付き合い悪いねっ! ノリが悪いゾっ?」

 いやんいやんと身体をくねらせて悶える丸メガネの三毛猫氏。

「全くの見ず知らずなら、もしかしたら騙されていたかもしれなかったが。キミの姿は掲示板にアップされた写真で見たことがあるし、何より勇者候補生や週末勇者とパターンが違う」

 冷静にひとつづつ根拠を挙げてゆく。掲示板で語られた彼らの言が正しいのであれば、女神に連れられて異世界に誘われるパターンであり、死後に異世界転生するパターンとは違う。

「んー、実は週末勇者くんは走ってる電車のドアが故障してさ、隣の線路に投げ出された所を轢かれて死んでたり。でもってまおちゃんは踏み切りの事故でー。勇者候補生ちゃんたちはあたしの管轄外なのでしーらないっ! ついでにいうと、あなたは睡眠中に押し込み強盗がやってきてね。眠ってたところをナイフで心臓一突きってやつ。眠ったままご臨終だよっ?」

 にやにや笑いながらろくでもないことを語る三毛猫氏。

「……っ」

 想像した瞬間、何かに刺されたかのようにズキリと胸が痛んだ。一瞬、もしかしたらと揺らぎかけた。ほんとうに心臓に悪い。

 だが、私はそんなウソに騙されたりはしない。じと目で睨みつけてやる。

「うん、もちろんウソだけどねっ?」

 そんなこちらの動揺を見透かしたように三毛猫氏が嫌な笑みを浮かべる。掲示板で電波を飛ばしていただけあって、人をからかって喜ぶトリックスター的なところがあるようだ。なんだか非常に腹立たしい。

「……それで、こんな手の込んだ状況を用意して、私にいったい、何をさせようというのだろうか?」

 イライラを押さえて、なんとか事態を進行させようと言葉を搾り出した。

 この女の目的が何か、そして私に何を求めているのか。まずはそれを知る必要がある。自称神というこの女、まさかその言葉を額面どおりに取る気はないが、少なくともこんな不可思議な空間に私をさらって来ることが出来る程度の力はもっているようだから。こちらとしても、対応は慎重にせねばなるまい。

「えーっとね。まず説明すると、これは夢です。少なくとも、そういうことになります」

「夢、だと?」

「うん、夜、寝てるときに見る夢のほうねっ! だから、どんな不思議なことが起きてもぜーんぜんおかしくナイナーイ!」

「……」

 正直、ノリについていきにくい。

「えとね、週末勇者くんってばちょっとイレギュラーでさ、本当は勇者二人選ぶ予定だったのに、うちのちみっこちゃんたちが二人とも週末勇者くんを選んじゃったせいでパーティプレイのテストがほとんど出来てないわけよ? ここまでおけーぃ?」

「確か、魔王ちゃんが勇者まおちゃんとして勇者になったのではなかっただろうか? 二人では足りなかったということか?」

「う~ん、そんなとこだよっ。まおちゃんはオマケ扱いだから、実質週末勇者くんはまおちゃんと一緒でもソロプレイなわけよ。それに時間ズレ発生してたからつい全然一緒に行動してなかったしね。なので掲示板見てた子から、テキトーにとっ捕まえてきて、パーティプレイをテストしてもらっちゃおうかなーって、そゆわけ!」

 無料異世界体験にごしょーたーい! とどこからともなく取り出したクラッカーをパンと鳴らしておめでとーと笑う三毛猫氏。

「……私に拒否権はあるのだろうか?」

「あるけど、もちろんあなたは拒否しないよねっ? 喜んで異世界探検してくれそうな子しか呼んでないし、ほら、今だって心臓の音が聞こえてきそうなほどワクワクドキドキっ! 大興奮中じゃなぁいっ?」

 腕組みをしてニヤニヤと笑う三毛猫氏。

「……」

 面白くないことに、どうやら、完全にこちらを見透かされているようだった。

 年甲斐も無く、私が常日頃からこういう状況に憧れていたのは確かだった。あの掲示板を追いかけていたのだって、あれが本当だったなら、いつか自分の身に同じようなことが起こるかもしれないとどこか考えていたからではないだろうか。

 ――そうでなければ私は、日頃からあんな。

「……詳しく説明してもらえるだろうか」

「はぁーい、一名様異世界にごあんなーいっ!!」

 見透かしたようににやにやと微笑む三毛猫氏を見つめて、私は深くため息を吐いた。

 正直、このノリについていくのはひどく疲れを伴うものだった。




 三毛猫氏の話をまとめると、だいたい次のようであった。

 私を含む四人でパーティを組んで、異世界に行ってもらう。この四人は掲示板を読み書きした人の中から、三毛猫氏が独断と偏見と好みで選んでおり、それなりに発言数が多かったり特徴のある人達だから、実際に会えばなんとなく誰だかわかるのではないかということだ。

 そして具体的にやることは、最初に降り立った地点から西の方にある街にたどり着くこと。この道中の冒険をテストプレイとする。それ以外に目的はなく基本的に行動は自由であり、四人で行動すること以外に必須の条件はない。

 このテストプレイのクリア・終了条件は大きく三つ。ひとつは西の街にある光神の神殿にたどり着き、光神に報告すること。もうひとつは四人全員が同時に戦闘不能になること。このいずれかの条件を満たすと、夢から覚めて現実世界で目を覚ますらしい。最後に、七日過ぎても先の条件を満たせなかった場合にもタイムオーバーとして終了し、現実世界で目を覚ますことになるらしい。

 異世界で何日が経過しても、現実世界では一晩の出来事となるので、日数がかかることを気にする必要は無い。

 途中でギブアップは基本的に不可能。ただし全員がギブアップを宣言することで時間を進めてタイムオーバーによるゲームオーバーをすることが可能。



「あとねー、注意事項ってゆーか気をつけて欲しいことがあるんだけど。死んだりケガをしても現実世界には一切影響はでないけど、死ぬほど痛いからきをつけてねっ!」

「……異世界で死ぬとどうなるのだろうか。週末勇者も勇者候補生も、異世界で死んだという話はしていたが、詳しい話はしらない」

「週末勇者くんはソロなので、死ぬとホームポイントである現実世界の自分の部屋にもどっちゃうんだよ。パーティを組んだ勇者複数の場合、全滅しない限りはその場で復活できまーっす。一定時間が経つか、戦闘終了時にHP1で生き返るから安心してね!  ちなみに、バッドエンド条件の全員戦闘不能ってゆーのは、全員同時に死んじゃった状態になることを示してるよっ! つまり、最悪ひとりでも逃げ切って復活時間を稼げば問題なっしんぐ!」

「……パーティプレイのテストをしろということはつまり、私たちに氏ねと? 死にまくれということなのだろうか?」

「んふふー、がんばれっ!」

 ……殴ってやろうかと思った。




「さて、この部屋のドアの向こうが、もう異世界だよ」

 三毛猫氏はドアを指差しながら、手を背後に回し、どこからともなく木の棒とおなべのふたを取り出した。

「はい! 餞別の、お約束アイテム」

「定番ではあるが、こんなものをもらってもな」

「あと、あたしから何かチート能力をあげたりはしないけどね、もしあなたが異世界でやってみたいこと、叶えてみたいことがあるなら、強く願うといいよっ? 条件がそろえば、叶うかもしれまっせーん」

「……」

 私が、異世界でやってみたいこと、か。

「ただ街まで歩くだけではつまらないだろうから、イベントもいくつか用意しといたからねっ! せひせひ楽しんでくださいっ!」

「せいぜい、楽しませてもらうとするよ。そんな私らの姿を見て、キミはわらうのだろうが」

「まあねー」

 ちいさく微笑んで、三毛猫氏は私の肩に手を置いた。

「がんばって、クリアしちゃってくださいっ。全滅エンドとタイムオーバー以外なら、むふふな報酬げっとできる、カモ?」

「……ふん」

 どうせこの女の言う報酬など、「この冒険の記憶が宝物」だとか、大したものではないと思われたが。

 まぁ、実際、本当に異世界を歩けるのなら。それだけで十分に満足できるというものだろう。


 私は木の棒を握り締め。もう後ろを振り返ることなく。

 ……そっと、異世界へと続くドアを開いた。

 残りの三人と合流するとこまで書けなかった……。

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