表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
閑話「脇役たちのオン会」
107/246

しょっぴんぐ! その4

 遅くなりました……。 

 2014/08/23にひとつ前を2500字ほど増量しています。主にリーア成分とまおちゃん成分がちょっぴり増えています。お話の筋は同じなので読み返すほどではないですが、お暇な方はどうぞ。

「甘かった……休日の昼過ぎなんて、どこもこんなもんだよなぁ」

 昔と比べてだいぶ食事処も増えた秋葉原ではあったが、休日の昼時はやはりどこも込む。しかもこちらはちみっこ多めとはいえ九人プラス妖精さんという大人数だ。何日か余裕があれば席を予約しておくことも出来たが流石に当日の朝では店の予約などできはしなかった。

「タロウ様。いっそのこと向こうに戻って”笑う狼の涙”亭に行きませんか?」

 四件目の店が満席だったあと、りあちゃんが俺の服の袖を引いて言った。

「笑う狼の涙、亭……? ああ、あそこか」

 どこだろう、と思ってからすぐにルラレラ世界で一度りあちゃんに案内されていった狼の耳をした獣族のマスターがいる酒場のことだろうと思い当たった。結構うまかったのを覚えている。

 そういやあそこ、昼飯時だというのにほとんどお客いなかったよな? 確かにこの人数で行っても平気そうだと思う。あの値段と味なのに客の入りが少ないのは少し気になるけれど。

 夜に訪れた時は結構人がいたようだからメインは酒を出す夕方以降なのかもしれないし、まぁ経営状態なんて客が気にしてもしょうがない。

「???」

 酒場を訪れたことの無いまおちゃんが首をかしげている。そのまおちゃんにすらちゃんが何か耳打ちすると、きらきらした顔を上げてぶんぶんと小さな腕を上下に振った。

「魔王ちゃん様も、行ってみたいそうです。特にウサギ耳とネコミミのウェイトレスに興味がおありのようで」

「んじゃ、そうするかー」

「おいしーものをしょもうしますっ!」

 またいつのまにか俺の頭の上に乗っていたディエが、くいくいと髪の毛を引っ張りながら声を上げた。

「ああ、約束だったしな」

 あの酒場の値段なら、ディエが十人前くらい平らげたとしてもなんとかなるだろうしな。




 流石に街中でルラレラによる謎電車に乗るわけにもいかない。普通に駅の改札を通って適当に電車に乗り込む。

「……そういやいつも気がついたら不思議電車に変わってるんだが、どうなってるんだろうな」

 普通の電車に乗ったのに、気がつくと見た目はそのままで宇宙空間とか走ってたりするんだよな。乗客も普通に乗り降りしてるのに。

「きにしたら負けなのー。ふぃーりんぐでおっけーなの」

「よけいなツッコミはふようなのー」

 ちみっこたちがにやりと笑う。

 まぁ、電車の癖に俺の部屋が停車駅とかになってる時点で余計なこと考えるのはやめてるけどなー。

 ちょっと注意深く周りを見ていたら、大きな駅で人がごそっと降りた瞬間に違和感があった。

 ……あ、今切り替わった、って感じが。

 ふと窓の外を見ると、駅のホームを抜けたとたんに宇宙空間に変わっていた。車内を見回すと大きな駅だったにも関わらず乗ってきた人がほとんどいない。それでも駅に止まるたびにどんどん人が降りて行き、ついに俺達だけになってしまった。

 なるほど、いつもは話をしてるかスマホ眺めてるから気がつかなかったがこんな風になんてたのか。感じ的に、実在する電車と謎電車が半分重なって存在していて、人が降りるたびに謎電車の割合が増えていくっぽい。

「ん、そろそろ駅に着くの」

「おりるじゅんびするの」

「ん、了解。みんな忘れ物とかないなー?」

 声をかけてみんないるのを確認する。掲示板みてるとまおちゃんってときどき迷子になるっぽいからな。

 闇神神殿まえ~、闇神神殿まえ~という車内アナウンスを聞きながら電車を降りる。

「お、いいタイミング」

 電車を降りると、俺達を待っていたのだろうか、ロアさんとみぃちゃんが神殿の前に立っていた。

「ああ、どもロアさん。どしたんですか、こんなとこで?」

 ええっと、確かロアさんたちは神殿の資料を調べてたんだよな? 

「……うん、ちょっと手がかりが見つかってね。西のリグレットの街に行くことにしたんだけど、伝言だけしてタロー達に何も言わずに出かけるのもちょっとアレだったから、来るのを待ってたのよ」

「へぇー、そうなんですか。よかったですね」

 そっか、何を調べてたか知らないけれど、手がかりが見つかったのは良い事だ。みぃちゃんが相変わらずどこか浮かない顔をしているのは気にならないではないけれど。

「……」

 みぃちゃんはただ黙って俯いている。

「そういうわけで、たぶん今後、少なくともしばらくの間はあんまりタロー達にからむことが無くなりそうなのよね。で、いろいろ考えたんだけど、いくつか決着付けとかなきゃいけないことあるじゃない? その辺含めてこれからちょっといいかな」

 ロアさんは腕組みしてふぅ、と息を吐いた。

「ああ、こちらもちょっとお伝えしたいこととか……」

 言いかけた瞬間、布でぐるぐる巻きにしていた破魔の剣ソディアが光を放って人の姿になった。

”グランドマスター。我は太郎と共にゆく決心をした”

 ソディアはそういってロアさんに一礼した。

「……ん、そっか。んじゃ、ソディアは正式にタローに譲るわね」

 ちょっとだけ寂しそうにロアさんは微笑み、それから俺達の方を見て眉をひそめた。

「しかし、またなんかちみっこいの増えてない? タロー、あんたやっぱりなんか呪われてんじゃない?」

「え、あれ、まおちゃんとかすらちゃん達とは会ったことありますよね?」

 まおちゃんが最初にルラレラ世界に迷い込んだ時、神殿で歓迎会の時にお互いに簡単に挨拶してたし、帰りの電車は一緒だったはず。

「んー、竜族の神殿騎士の子の立ち位置が、たんなる従者じゃないしー、あと人魚ちゃんが妖精みたいなのかかえてるしー。あんたどっか行く度に幼女仲間にしてくるよね?」

「……」

 意図したものじゃないけれど、ちみっこが周りに着実に増えているのは確かだった。

 傍らのちみっこどもを見つめる。と、にやりと笑いやがった。

 たぶん、きっと、こいつらの仕込みに違いない。




 立ち話もなんなので、元々出かける予定だった、おおかみみさんの酒場で昼飯を食いながらということになった。ロアさんたちは早く出かけたい様子だったが、酒場で依頼を受けられるようなことを話したら、「西の街まで護衛の仕事とかあったら受けられないかな」と興味がある様子だった。

 小洒落た酒場のドアを開けて中に入ると、昼時のはずの店内は相変わらず空いていた。何人か定食らしきものを食べていたが、大部分の席は空いたままだった。

「……いらっしゃいませ、にゃー?」

 黒い猫の姿の獣族の少女、くろねこさんが、どやどやと大人数で入ってきた俺達を見てちょっと目を丸くした。

「今日はまた大人数にゃ。ちびどらちゃん」

「ああ、クローネ。世話になった分、たまには売り上げに協力してやろうかと思ってな」

 りあちゃんが、苦笑しながら応じる。流石にここがいつも空いてるからオススメしたとは言えなかったらしい。

「……ちびどらちゃん、どうしたにゃー」

 くろねこさんがりあちゃんを見て首を傾げる。黒いおみみがぴこぴこと動いて、かわいい。

「ん、どうしたクローネ。私がどうかしたか?」

「髪を下ろしてるし、鎧も剣ももってないにゃ」

 そういやりあちゃんは風呂あがった時に着せたワンピースのままだな。いつもはポニーテールにしている髪も、そのままさらりと背に流している。

「……なんでい、どうしたクローネ。さわがしいな」

 そこへ奥から狼の耳をした片目に傷のある男、おおかみみさんがやって来た。そうしてりあちゃんを見て目をまるくした。それからなぜか俺を見つめてきた。

「……おい勇者のぼーず。おめぇ、まさか、ほんとにやっちまったんか?」

 左手でわっかをつくって、右手の人差し指をすぽすぽと通してみせる。

「いや、何もしてませんよ」

 つか卑猥しぐさしてんじゃねー。

「……って、おい、幼女領主もいっしょかよ!」

 そこでおおかみみさんはシルヴィがいるのに気がついたらしい。

「ふん、いぬっころ。貴様が寄こす者はほとんど役立たずだったがな、このタロウを寄こしたことだけは感謝してやる」

 シルヴィは、ふん、と鼻を鳴らして金貨を一枚、指で弾いて飛ばした。弾かれた金貨は狙い過たずおかみみさんの鼻にぶちあたり、「いてぇ」と声を上げたその頭の耳の間にちょこんと乗った。

「(っは。おい、小僧、ずいぶん気に入られたみてーじゃねーか、ああん? おめえ、見た目はアレだがアッチの方もなかなかやるようだな、くひひ)」

 おおかみみさんが俺にからかうように耳打ちして、言うだけ言ってすぐに離れる。

「いや、俺は……」

「いや、みなまで言うな。そんだけまわりにちみっこいのはべらしといて、言い訳なんかきこえねーぞ? 俺は最初からそういうやつだと思っていたぜ。俺の目に狂いはなかったってことだなっ!」

 おおかみみさんは、ハッハッハといやな笑い声を上げ、「全員日替わりでいいな?」と言って厨房の奥に引っ込んでしまった。

 いや俺ろりこんちゃうし。

 誰も聞かない言い訳が、ころんと床に零れ落ちた。



「……まぁ、細かいことは置いときましょうか。まず、タローはあたしらから見て一週間先のタローなんだよね?」

 大きな丸テーブルに全員で席についたあと、ロアさんはそう言った。

「あ、それなんですが……」

 結局、迷宮探検が一日で終わってしまったため、予定と違ってほぼ時間ズレなしであることを説明する。

「あ、そうなんだ? あーじゃ、バイトさぼったことにならなくてよかったかな」

「……バイト?」

「いや、住む所とかはララちゃんに用意してもらったけどさ、流石にゲーム買うお金をせびるわけにもいかないでしょ? あたし向こうのコンビニでバイトしてたのよ」

 おおう、あのロアさんが、コンビニであたためますかーとか言ってたのか。想像するとちょっと笑える。

「片付けとかなきゃいけないことのひとつね。あたしらが西の方に行っちゃうとタロー達と別行動になっちゃうでしょ? 一度向こうにも戻らなきゃいけないかなと思ってたんだけど」

 そこでふと、寧子さんが言ってたメンテの話を思い出した。

「あ、そういえば明日なんですけれど、なんかメンテするらしいのでルラレラ世界に居ないでくれって話です。今日はいったん一緒に戻りませんか?」

 そう言った瞬間、俺のスマホが震えだした。寧子さんからの電話だった。

『やほほー! たろーくん。あたしから説明するからちょーっとロラちゃんに代わって貰えるかなっ?』

「あ、はい」

 ロアさんに、寧子さんからです、とスマホを渡す。ニ、三言、話してロアさんは「んー」と天井を見上げてため息を吐いた。

「了解したわ。あたしらも今日は一緒に帰るわね」

 ぷつんと電話を切ってスマホを返して寄こす。

「タロー達と連絡取るために一日待ったから、今日は出かけたかったんだけどなー」

 ロアさんはしょうがないかー、とまたため息を吐いた。

 もし残ってたらどうなるんだろ? それにこっちに残る予定のすらちゃんとか大丈夫なんだろうか。

 そんなことを考えていたら、またスマホが震えだした。また寧子さんからだった。

『ちなみに、メンテするとその世界の存在はいったん止まっちゃうから、影響受けるのは異世界から来た人だけだよっ? 元の異世界に属してるから、セカイが止まっても異世界の人は停止しないんだよね。つまり、真っ暗な何も無い空間で、ただ意識だけがある状態になっちゃうし、下手すると強制的に切断された影響で文字通り魂だけになりかねないから、ちゃんとたろーくん、まおちゃん、ディエちゃん、ロラちゃん、みぃちゃんはログアウトしてねっ!』

 言いたいことだけまくし立てて、電話はガチャンと切れてしまった。メンテの準備に忙しいのだろうか。まぁ、こっちに残る予定の子は問題ないっぽい。

『あと追加だよっ!』

 おおう、電話とってすらいないのにまた寧子さんの声が。

『たろーくんが連れてってるにんぎょちゃんとか、うちの子のセカイに属する子はメンテはじまっちゃうと昏睡状態になるけど気にしなくていいからねっ! そのまま寝かせとけばいいからっ!』

 了解しましたーと頭の中で答えて置く。電話鳴らす暇も惜しむって、結構忙しそうだな。




「さあ、食え」

 おおかみみさんとくろねこさんと、うさみみさんが大量の料理の皿を運んできた。

「……今日も野菜炒めか」

 おいしかったけれど、あんまりごちそうという感じではないよな。

「わーい」

 ディエは大喜びでさっそく皿を空にしている。

「う、お、人形じゃなかったんか」

 おおかみみさんがディエの姿に驚いていた。その喰いっぷりにも。

「(そうそう、今回はちょっとスパイスの配合かえといたからよ、スライムの嬢ちゃんの様子に気をつけてろよ)」

 おおかみみさんが、俺に耳打ち。そういやすらちゃん大暴走したんだっけ、こないだ。

 まおちゃんは、もそもそと食べながら、おいしかったようで顔がほころんでいる。その隣に座っているすらちゃんも、静かに食べているが。どうも、頬が赤いような……?

「太郎さん」

 にへら、と笑って、すらちゃんがじりじりと俺に近付いてくる。まおちゃんが首を傾げている。

「私の大事なところ、なめてくれませんか」

 しなだれかかる様に、俺の背中から手を回してくる。

「って、すらちゃんまたかっ!」

「――~!!!」

 まおちゃんが慌ててすらちゃんの腕を引っ張る。

「タロウはモテるのぅ」

 シルヴィが、小さく鼻を鳴らした。

「てゆーか、やっぱ呪われてるよね」

 ロアさんがため息を吐いた。

「……」

 みいちゃんが、黙って俺の膝の上に乗って来た。

「ちょっとみぃちゃんまでどうしたの」

「……あーんと口をあけるです」

「あ、いけねぇ。猫系ミーア獣族ディストにゃ、ちょっとまじいのが入ってたかもなー」

 追加の皿を運んできたおおかみみさんが、みぃちゃんの様子を見て棒読みで小さく笑った。

 マタタビとかそういうのか?

 確信犯だな、こいつ!

「んー……」

 ロアさんが、俺の一部分を見つめて剣を抜こうと。

 やめてくださいっ!

「ひゃっはー! うーまーいーぞー! もっとおかわりよっこせー!」

 ディエがすぐにまた皿を空にしておかわりを要求する。

「――♪」

 リーアが楽しげな声を上げる。

「あるこーるなしなのにー」

「みんなよっぱらってるみたいなのー」

「がはは、お前らいつもなんか騒ぎおこすからおもしれーな!」

 おおかみみさんが無責任に豪快に笑った。



 そんな感じで、メンテ前の冒険はなし崩しに宴会のようになってしまい、大した話もできないままで終わってしまった。


 ……まあ、たまにはだらだらするのもいいよね?

 わりとどうでもいいことをだらだら語りつつ、四話への橋渡しということでネタをちらほら仕込んでみました。次は「脇役たちのオン会」の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ