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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
閑話「脇役たちのオン会」
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しょっぴんぐ! その2

「……しまった。パンが足りないし、米も切れてたな」

 目玉焼きを焼き終え、適当サラダも完成し、そろそろみんなを起こそうかという頃になって気がついた。連休はずっと異世界で過ごすつもりだったので、パンの買い置きが無かったのだ。

その上、ごはんを炊こうにも、米も人数分には少々心もとない量しか残っていない。

 最低ひとり厚切りパン一枚として、袋二つ分くらいあれば足りるだろうか。今日も昼から出かけるから、余りが出ても硬くなっちゃうんだよな……。

 米は炊くのに少し時間かかるし、近くのコンビニでパン買ってくるか。

「りあちゃん、俺ちょっと買い物いってくるから、サラダ盛り終わったらみんなを起こしといてもらえるかな?」

「……買い物ですか。私もひとりで食事の支度が出来るようになりたいので、出来れば店の場所など知っておきたいです」

 俺が声をかけると、りあちゃんはそう言って、だめですか、とねだるように上目遣いで見上げてきた。

「ん、そっか。じゃ、近いしすぐ戻って来られるから一緒に行くか」

 頷いてから、りあちゃんのツノとしっぽのことを思い出した。流石にちょっと、目立ってしまいそうだ。ちょっと考えて、毛糸の帽子をりあちゃんに被せ、コートを羽織らせることにした。まだ秋口なので少しばかり真冬の装いには早いのだが、そこまでおかしい格好でもあるまい。

「……ん」

 ツノを隠されたりあちゃんは、なんだか違和感があるようで、しきりに帽子の位置を直している。

「悪いな、こっちの世界には普通の人間しかいないから」

「いえ、隠すこと自体はかまわないのですけれど。竜族のツノというのは他種族の方が思うよりも敏感なのです。こう、何かで覆われるというのはどうにもくすぐったいというか……」

「すまない。買い物の間だけ、少しだけ我慢してくれよな。ってそういえば、りあちゃんはそのツノとかしっぽはひっこめられないの?」

 迷宮のドラゴンさんは完全な人間の姿にも変身していたようなと思い出した。コウモリのようなはねは何度も出し入れしているところを見たけれど、ツノやしっぽは引っ込められないのだろうか、と思って尋ねると。

「……完全な人の姿になれるのは、成竜となった者だけなのです。わたしはまだ、その、竜としては幼いので」

 りあちゃんはちょっと恥ずかしそうな顔で、もじもじと身体の前で両手をすり合わせるようにしてうつむいた。

 ああ、そういや人魚なリーアも足が生えたら大人だとか言ってたな。あちらの世界の特殊な種族って、大人になると人間の姿をとれるようになるのかもしれない。

 そう考えてから、ん?と疑問に思う。

 大人になる、つまり子供を産めるようになる、と考えると。

 ……りあちゃんは、年齢は二十歳でも、やっぱり見た目どおりまだ子供と言うことなのだろう。ますますもって、手を出すわけには行かなくなったようだ。




 玄関のドアを開けて外に出ると、りあちゃんはちょっとだけぐるりと周りを見回した。それから少しだけ不安そうに、俺の服の裾を掴んできた。

「あ、服じゃなくて、ちゃんと手をつないだ方がいいな。階段あるし」

 俺の部屋はアパートの二階なのだ。ボロッちい階段なのでうっかり足を踏み外すと怪我をする。俺が手を伸ばすと、りあちゃんは黙って俺の手を握り、一歩遅れるようにして階段を下りる。向こうの街って大概一階建ての平屋で、こういう階段とかってあまりなじみが無いのだろう。段差が大きいこともあり、ややおっかなびっくり、といった様子だ。

 道路に出ると、りあちゃんは車が通るのをぼんやり右から左へ眺めて、ちょっとだけ口を開けていた。

「これからこっちで過ごすこともあるだろうし、覚えておいて」

 横断歩道と信号の仕組みなど、街を歩く上での注意事項を簡単に教える。

 りあちゃんは、だた黙ってうなずき、俺の手をそっと握ったままぼう、っとしていた。最初は驚きの余り声もでないのかと思っていたが、しかし、むしろ周囲の様子を確認して何かに納得したようにうなずいているように見えた。

「……なんか、あんまり驚いたって感じじゃないね?」

 異世界モノのお約束として、車を見て大騒ぎするとか、そういった様子がまるでない。リーアの時には、普段からおっとりしているというか、割と何事にも動じないところがあるのでそんなものかと思っていたけれど。というかリーアは異常にこっちの生活に慣れるの早かったけど。

 りあちゃんは、へぇ、と多少は物珍しそうに辺りを見回すものの、特にそれほど驚いた様子がないのに、逆にこちらが驚いた。

「……ああ、タロウ様。例えとして間違っているかもしれませんが、私にとってこの風景はむしろ懐かしいというか。いえ、実際にこのような場所で生活したことがあるわけではないのですが、知識としてこういうものが、かつて私達の世界にも在ったということは知っているのです」

「え、そうなんだ?」

 ……ああ、そういやロアさんもゲーム機とか見て、なんか懐かしいみたいなこと言ってたけど。つまり、セラ世界やルラレラ世界には、かつて現代みたいなレベルまで文明が発達していたってことなのかな?

「私の住む世界の地図を見たことは?」

「いや、無いけど」

「大陸の中央にある、巨大な草原はご存知ですか?」

「ああ、俺最初にルラレラと一緒にあの世界に降りった立ったのがその草原のど真ん中でさ。街に着くまでだいぶ歩いたんだよ」

 いや実際見渡す限りの大平原だったよな。

 初めて降り立ったときのことを思い出しながら、そうれがどうしたのだろうかと首をかしげると、りあちゃんはちょっと悪戯っぽく微笑んで、人差し指を下唇に当てた。

「あの草原が、かつては全てこの風景のような、機械と科学で発達した都市だったと言ったら驚きますか? 私の住んでいたサークリングスの街は、その昔、西の光神ミラ様の神殿のあるリグレットの街と一続きだった、と言えばその規模がわかってもらえるでしょうか。もっとも、今の草原を見てお分かりの通り、五百年ほど前に自らの愚かさにより滅びてしまったらしいですが」

「……え?」

 確か、草原のど真ん中から東西の町まで、歩いて四日って言ってたから、東の街から西の町まだだと、八日かかるってことだろ? 時速四キロで一日八時間歩いたとして、八日なら二百五十六キロ。東京から名古屋くらいまでの広さの街って。

「あの巨大な草原は、爆発の跡なのだそうです。闇神メラ様と光神ミラ様の神殿のあった、わずかな端と端しか残らなかったのだとか。そして、五百年経った今でもあの草原には草は生えても大きな木々は育たず、まともな作物も育たないので人の手による開墾も行われず、あのような荒れ果てた地のまま、わずかに東と西で人の行き来があるだけというありさまなのです」

「……」

「実物を見たことはありませんが、かつてあったその街の様子が多少は伝わっていて、ですから見たことがないけれども、この街の風景に、どこか懐かしさを覚えるのです」

「そうなんだ」

 俺の感覚でいうならば、時代劇とか、あるいは西部劇の舞台を見るようなものだろうか。過去の方が文明が進んでいたらしいので微妙に違う気もするが。

 ……てゆーか、そんな規模の災害というか事故?をルラレラは容認したのか? ロアさんがちょっと地形変えたくらいでバックアップデータから復元したくせに。

 これはちょっと、あとで聞いといた方がいいかもしれない。



 なんて話をしつつコンビニに到着したとたん、入り口の透明な自動ドアでりあちゃんがびびってなかなか店内に入れなかったのは笑い話。

 どうやら勝手に開いたり閉まったりするのが何かトラップの類に見えてしまったらしい。

「……わ、私が通ろうとしたら、ばちんと挟まれてしまうのでは?」

 と妙に怖がっていたのが面白かった。挟まれた所で大したことにはならないだろうに。

 どたばたの後、店内に入るとキレイに並んだ商品にりあちゃんがほう、と簡単の声を上げた。

 向こうで買い物をしたことは無いのだが、どうやらあちらのお店はカウンターの向こうに商品があり、店員に何々が欲しいと告げて取って貰う方式のようで、こちらのように客が自由に商品を手にとっることが出来るのが珍しかったらしい。

 店内の様子には流石にりあちゃんも、向こうのお店とのあまりの違いに驚きを感じ得ないようでなんども感嘆したように声を上げたり、どういった用途のものか尋ねられて答える、ということが何度も繰り返された。

 ……流石にとあるゴム製品の用途はなんとも説明しがたくごまかすのに苦労したが。何となく察したらしく、買い物籠に入れてこようとしたので全力で阻止するのにまた苦労した。

 見た目幼女なりあちゃんと買い物に来てそんなものレジに出したら、警察に通報されかねないから勘弁してください。



「パンだけ買うつもりが、意外に大荷物になっちまったなぁ……」

 ついでの買い置き用のカップラーメンだとか、そういえば牛乳もなかったな、とかお店に来ると意外と足りなかったものを思い出してカゴいっぱいになってしまったのだ。ペットボトルのお茶とかジュースもかなり重い荷物になっているし、荷物もちをさせるつもりは無かったのだが、りあちゃんにも両手に買い物袋を下げさせる羽目になっていた。

「ふふ」

 りあちゃんは楽しそうに小さく笑って、軽々と荷物を振り回している。見た目はともかく、やっぱり力持ちのようだ。

「あの”今度産む”とやらは、ぜひ次の機会に」

「……いや、いらないから」

 馬鹿なやりとりをしながらドアを開けたら。

「ん、たろー君おかえりっ!」

 素っ裸の寧子さんがタオルで頭をわしゃわしゃと拭きながら、バスルームから出てくるところだった。小ぶりではあるが形のよい胸と、お腹から腰へと続くすらりとしたラインにどきりとして慌てて目をそらす。

「いや、隠しなさいって」

「えーっ、別に見てもかまわないよっ? おさわりは禁止だけどねっ」

 ぷりん、とお尻を突き出してにへへと笑う寧子さん。

「――親しき仲にも礼儀ありっていうでしょうがっ!」

 なんかイラっとしたので、ていっ、でこぴんで黙らせて寧子さんにバスタオルを投げつける。

「あひゃ!」

 風呂を使うのはかまわないが、裸で他人の家の中をうろつくのは羞恥心云々以前に常識が足りない。ってゆーか目のやり場に困るからとっとと服着なさい。

「……えーっと、あの方、神さまじゃなかったんですか?」

 りあちゃんがちょっと引きつった笑みで指差すが気にしない。

「あんなのはアレで十分だ」

 さて買ってきたパンを焼かねば。




「たろーくん、シャツ借りたからねっ!」

 えへへーと、俺のシャツ(だけ)を着た寧子さんが、うへへ裸ワイシャツってどうよ?ばかりに微妙なポーズでしなを作って、ばちんとウィンク。

 俺もそれほど体格がいいほうではないので、寧子さんが着ても袖がだぼたぼだったりしないのはちょっと残念ではある。

 ……じゃなかった。相手にしてもしょうがないので、寧子さんは無視することにしてトースターにパンをセットする。

「ん、みんなもう起こしてくれたんですね」

 床に敷いた布団はたたまれて脇にどけてあり、いつものようにテーブルが置いてあった。焼き上げた目玉焼きや作ったサラダなども並べられていて、あとはパンを待つだけという状態だった。ルラレラや、リーア、それにジルヴィもすでに席についている。

「おはよーなの、おにいちゃん!」

「おはようなのー!」

「――♪」

「おはよう、タロウ」

 みんなそれぞれ朝の挨拶をしてくれたので、こちらも「おはよう」と返して席に着く。流石に小さなテーブルに七人プラス妖精一匹は狭すぎる。

 ……ってディエはどこだ?

 みまわすとリーアの頭の上で寝転んでまだ鼾をかいていた。




 パンが焼きあがるごとに順番にごはんにすることにして、とりあえず今日の予定などを話すことにした。

「えっと、今日は午前中まおちゃんの用事に付き合って、午後からそのままルラレラ世界に行くぞ。りあちゃんとシルヴィは、面倒かもしれないが付き合ってくれな? それとも後から合流するか?」

「いや、わたしもこちらの世界に興味がある。ついでとはいえ街を見て回れるのならそれに越したことは無い」

 シルヴィはいつの間にか俺のスマホを片手に色々調べ物をしていたようで、行ける様ならこことここに行って見たいと言い出した。

「私もこちらの世界をもっと知りたいです」

 りあちゃんも一緒に出かけるので問題ないようだった。

「あー、そうだ。忘れてたっ!」

 不意に寧子さんが何かを思い出したように声を上げた。

「どうしたんですか寧子さん?」

「えとね、まおちゃんが一緒だから今日は日帰りするよね? でもって明日なんだけど、悪いけど向こうに行かないでもらえるかなっ?」

「何かあるんですか?」

 これまで週末の異世界冒険でそんなことを言われたことがない。明日まで連休だから、ルラレラ世界でもう少しまともな冒険したいところだったんだけどな。

「ん、詳しい内容はヒミツだけどねっ? ちょっと大掛かりなパッチあてようかなって思ってるんだっ! 要するに明日はメンテするから、今日はちゃんとこっちに帰ってきて明日はログインしないでね、ってこと」

 寧子さんは、んふふーと何か含みのある様子、というか悪いことを考えている顔でそう言った。

「……わかりました。じゃ、明日はこっちにいますね」

 しかし、そういう言い方をされるとほんとにネットゲームみたいだな。

「細かいパッチの内容は後でメールするねっ!」

 寧子さんはそう言って立ち上がると、タイミングよく焼きあがったパンをひょいとかっさらって、ジャムも塗らずにアチチと言いながら口にくわえた。そのまま何も無い空間をひょい、と捻ると、まるでドアのように空間が開いた。

「ってわけで準備とかあるのであたしは帰りますっ! また面白そうなことあったら、ちゃんとあたしも呼んでねっ! じゃあ、ばっはは~い」

 ひらひらと手を振って、ワイシャツの裾をなびかせて白いお尻をちらちらさせながら寧子さんが謎のドアの向こうへ消えた。パタン、と閉じられたとたんに、影もかたちもなくなってしまった。

 ……どこでもドアみたいだな。

 ってゆーかあんなにあっさり帰れるなら、わざわざ昨日うちに泊まることなかったんじゃねーか?

 しかし、メンテ、ねぇ? りあちゃんたちは向こうに残してきていいんだよな?

 寧子さんの消えたあとをぼんやり見つめたまま考えていると、いそいそとちみっこたちが俺の膝の上に乗ってきた。

「ごあんたべるのー」

「おなかへったのー」

「こらこら膝の上で飛び跳ねるな」

 一緒に焼きあがったもう一枚のパンを半分に切ってちみっこどもに渡し、新しいパンをトースターにセットする。

「……おにーさん、わたしはおなかがとてもすいているのです」

 パンの匂いで目が覚めたのか、リーアの頭の上のディエが目をこすりながら起き上がった。

「ん、今パン焼いてるから、もう少しまっててくれ」

「おなかすいたから、焼かなくていいの」

 ひよひよと浮かび上がったディエはパンの袋に頭を突っ込み。

「あ」

「もぐもぐ」

 ぺろり、と一袋を空にしてしまった。


 ……だから、おまえは食ったものをどこに消してるんだっ!

 シェイラさんが無駄飯喰らいっていってた理由が、なんとなく身に沁みて来た気がする……。

 俺はため息を吐いて、ぽっこりおなかを膨らませたディエの頬をつついた。

 棚ボタのお盆休みでぐーたらしてるのですが、ちゃんとお仕事してる平日の方が筆の進みが速いという……。

 よく考えたら第四話に行く前に語っておかなきゃいけないことが割とあることに気がついて、どうもその5あたりまで行きそうな気配。どうして一回分で終わると思ってたんだろう……謎デス。

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