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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
閑話「脇役たちのオン会」
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しょっぴんぐ! その1

「……ん」

 頬に何か、柔らかいものが触れた感触があって、急速に意識が覚醒する。

 ぼんやりと目を開ける。起きようとしたが、何かに押さえつけられているかのように身体が動かなかった。

 ……ああ、いつもどおりか。

 セラ世界から帰って来たあと、昨夜はソファーで寝たはずだったのに、いつの間にか俺は自分のベッドで横になっていて、当然のように左右からルラとレラに抱きつかれていた。

 こいつらは、俺が二人から離れた場所で寝ると、寝るときには特に文句も何も言わないくせに、いつのまにか俺を寝床に引きずり込んで俺の肩を枕にして抱きつくようにして寝るのだ。

 まぁ最近は少し寒くなってきたし、暖かいからいいのだけれど。

 そっと、腕を引き抜こうとして、足元にも違和感があるのに気がついた。

「……」

 なんとか片方の腕をルラから引き剥がすのに成功して、そっと掛け布団をめくると。ルラレラだけでなく、俺の足の間にシルヴィが丸くなって寝ていた。

 どうやら元々このベッドにはルラレラ、シルヴィの三人が使っていたから、ルラレラが俺を引っ張り込んだ時にシルヴィが足元の方に押し込まれた、というところらしい。

 ……だよね? 寝ている間にシルヴィに変なことされたりとかしてないよね? かなり位置的に際どい気がするんだが。

 そっと身体を起こしてベッド脇に下り、ちみっこたちに布団をかけ直した。

 床に敷いた布団には、寧子さんが掛け布団を蹴り飛ばして、見事な大の字になって鼾をかいていた。一応、妙齢の女性ではあるものの、その子供のような無邪気な寝姿はなんとも色気にとぼしい。

 しょうがねーなー、と苦笑しながら、布団をかけなおしてやると、寧子さんは「……んにゅ」と小さくつぶやいて丸くなった。

 ちょっと悪戯心を起こして、寧子さんのほっぺをつつくと、小さく口を開けてぱくりと俺の指をくわえ込んだ。れろれろと指先をなめた上で、食べ物じゃないと判断したのか、ぷっ、と舌で押し出される。猫か。

 ……ってゆーか、一応、俺も男なんだがな?

 ちみっこたちに変な気をおこすことはないけれど、子供っぽくても一応オトナな寧子さんのような女性だったら。ついふらふらと、魔が差すこともないとは言えないのだが。

 ときどき、らびゅーんとか冗談めかして抱きついてくるこの人。実際の所、容姿だけなら割と俺の好みだったりするのだ。人間としては嫌いではないし、中身がアレな感じでなければ、惚れていたかもしれない。

 信用されているのか、それともそういうことになってもいいと思っているのか。

 あるいは、どうでもいいと思っているのか。

 女神さまのお考えは、哀れな子羊にはとんと想像もつかなかった。




 ……ん、あれ。寧子さんと一緒に寝かせたはずのりあちゃんの姿が見えないな?

 ふわふらと寝袋にくるまったまま部屋の中を漂っていたリーアを、ソファーに押さえつけるようにして寝かせたところで気がついた。

 ひとりでどこか行くとも思えないけど。

 ふわぁ、とひとつあくびをして時計を見ると、六時過ぎだった。昨日は疲れて早く寝てしまったのだが、目覚ましもかけずにいつもの時間に起きてしまったようだ。習慣になってしまっているのだろう。

 朝飯作って、七時くらいにみんな起こせばいいかな?

 顔でも洗おうと、バスルームのドアを開け。

「……あ、おはようございます。タロウ様」

 全裸で、タオルで髪を拭っていたりあちゃんが、身体半分こちらを向いて朝の挨拶をしてくれた。

 幸いこちらには背を向けていて危険なところは見えていないが、普段髪を頭の後ろでくくってポニーテールのようにしているりあちゃんが、髪を解いて全部背中に流しているその姿は、何か美術品のような美しさがあった。見た目は幼いながらも、鍛えられたその身体はすらりとしなやかで。さらにはそのお尻の上の方から垂れている長いしっぽが、リズムを取るようにふるふると左右に揺れている。そのしっぽの付け根には透き通る蒼い色の毛がわずかばかり生えていて、子犬のようなドラゴン形態を思わせた。

 ……へぇ、しっぽの付け根ってこんな風になってるのか。

「……ああ、おはよう。って、いやすまない」

 じっくり背中を眺めたあとで今更の話だったが、俺がドアを閉めようとすると。

「水場を勝手にお借りしてすみません。顔を洗うのでしょう? すぐに退きますから」

 りあちゃんは特に気にした様子も無く、くるりとこちらを向いてその裸身をさらすと、胸元を押さえるようにしてバスルームから出てきた。

 こうも堂々と裸身をさらされると、こちらが目をそらす方が返って失礼な気がしてきた。

「……あれ、お湯は使わなかったの?」

 昨日、シャワーも浴びずに寝てしまっていたから、今朝浴びていたのかと思ったら、バスルームは冷えていて、湿気もほとんどなかった。どうやら、タオルを濡らして身体を拭いただけのようだった。

「……お湯、ですか?」

 きょとんと首を傾げるりあちゃん。どうやら蛇口の使い方はわかったものの、手前の水が出る方だけしか使わなかったらしい。

「使い方教えるから、シャワーあびなよ」

 りあちゃんにお湯の出し方、温度調節のしかた、石鹸とシャンプーなどの使い方を教えて、俺は顔だけ洗ってすぐにバスルームを出た。

 ……朝飯、つくんねーとな。

 脳裏に白い裸身がちらつくのを首を左右に振ってごまかしながら、「俺はロリコンじゃねぇ」と呪文のようにつぶやく。「いや見た目が幼いだけで実年齢はもっと上っぽいし、えろいことしても問題ないんじゃねっ?」という悪魔の囁く声が時折聞こえてくるが、「あーきこえないー」と耳をふさいでごまかす。

 ……っていうか気がついたら寧子さんが耳元でぼそぼそ囁いていた。

「寧子さん……?」

「おっはよーっ! たろーくん! 昨晩はおたのしみでしたね?」

 けひゃひゃと腹を抱えて笑いながら、俺の背中をバンバンと叩いてくる。

「何もしてませんよ……」

「うん、まあ確かにあたしのほっぺをつついたくらいは何かしたうちには入らないよねっ!」

 ぬは、あんとき起きてたんかっ。意地悪だな!

「まぁ、それは置いといて、だねっ。ディエちゃんのことなんだけど」

「ああ、それ俺も聞こうとおもってたんですよ。うっかり失念してたんですけど、異世界から戻ってくる時って、本来属してる時間に戻ってくるんですよね? だとしたら、ディエは1994年から来たみたいなこと言ってましたけど、なんで一緒に連れてこられたんでしょう?」

 朝食の支度もしなければならない。冷蔵庫を開けて食材を確認しながら尋ねると、寧子さんは「んー」と小さく唸ってから口を開いた。

「可能性は三つかなっ。ひとつはディエちゃんが向うの世界で二十年近く過ごして、たまたまたろーくんの時間と一致した」

「……ほんの数日ずれたまおちゃんとだって一緒に帰ってこられなかったのに、それはあまりに偶然過ぎませんか?」

 卵は人数分あるか。ハムは人数分ないから、ハムエッグにするのは止めて刻んでサラダに乗せてしまおう。

「んじゃふたつめ、ディエちゃん自身が時間移動可能ななんらかの特殊能力を持っているっ!」

「……そんなこと、可能なんですか?」

 思わず顔を上げて寧子さんを見つめると、首を捻って「無理じゃないかなっ?」と自分であっさり否定した。

「タイムパラドックスは起きない仕様だけれど、色々使い難いしね、そゆ設定とかスキル。なので基本的にあたしの世界では個人でそういう能力持つのは許可してないよ」

「……やろうと思えばできるんですね?」

「あたし神さまですからーっ! なんでもできますからーっ!」

 無い胸を張って偉そうに踏ん反りかえる寧子さん。うざかったのでその口に冷蔵庫に入っていたバナナを一本、皮をむいてつっこんでやる。

「んも。おいひい」

 もごもごとバナナを頬張って寧子さんが子供のように微笑んだ。ついちみっこたちを相手にするように頭をなでたくなってしまったが、流石に大人の女性にそういうことをするのは憚られたので自重する。

「で、みっつめはなんですか?」

 ごまかすように尋ねると、寧子さんはごくんと口の中のものを飲み込んで「むー」と唸った。

「……一番可能性が高くて、でも信じがたいことなんだけど」

「それは?」

「ディエちゃんが、あたしの創った世界の、並行世界の存在って可能性。具体的に言うと、どこかの時点で枝分かれした分岐世界かな。ホムンクルスって言ってたし、中世ヨーロッパ辺りの錬金術とか盛んなころに、科学でなくて魔法に近い錬金術が発展した感じかな?」

「……並行世界?」

 パラレルワールドってやつか。すごくよく似ているけれど、ちょっとだけ違う別の世界。

「元は同じであっても、一定以上セカイの距離が離れると近似で異世界と見なせるから、ディエちゃんはたろーくんの時間に引きずられて一緒にやって来た、という感じかな。きっと本来のセカイにもどるときにはその世界の1994年になると思う」

「端的に言うと、ディエはこの世界の存在じゃなくて、良く似た別の世界の存在だったってことでいいのかな?」

「うん、それなら構成要素があたしの世界の存在でありながら、あたしの管理下にないことの説明もつくしね」

「別のよく似た世界の寧子さんの管理下にあるってことか」

「いや、ディエちゃんが元居た世界にあたしが居るかどうかは正直微妙な所だよ……? あたしだったらあんな滅茶苦茶なイキモノ創らせないし? 基本的に人間の営みにちょっかいかける気はないけれど、流石にセカイを滅ぼしかねないイキモノは歴史から抹消しちゃうかなっ」

「……?」

 世界を滅ぼす、イキモノ? ディエが?

「ま、ディエちゃんのことはたろーくんに任せるよ? 拾ってきた以上はちゃんと責任もってねっ?」

 ひらひらと手を振って、「もうひとねむりするから、朝ごはん出来たらおこしてねっ!」と言い残して寧子さんは部屋に戻ってしまった。




「……何か、問題でも?」

 寧子さんと入れ替わるように、シャワーを浴びていたりあちゃんがバスルームから出てきた。

 俺と寧子さんのやりとりが聞こえていたのだろうか、バスタオル一枚を身体に巻いただけの姿で、ちょっと心配そうにこちらを見上げてくる。

「いや。あ、着替えはルラレラ用のあるからちょっと待ってて」

 朝食の支度をいったんやめ、押入れから下着と普段着用のワンピースを引っ張り出して来てりあちゃんに渡した。りあちゃんの方がちみっこどもより少しばかり大きいけれど、ゆったりとしたワンピースだし少々体格に差があっても着られるだろう。

「下着は未使用だから」

 うちのちみっこどもは「女神はぱんつはかないのー」とか言って穿かないんだよな。そのくせ、かわいい下着を見かけると買って買ってとせがむのだ。男の俺が女児ぱんつをレジに持って行くのがどんだけ恥ずかしいか、わかっててからかってるんだろうな、あいつら。

「ありがとうございます、タロウ様」

 ぺこりと頭を下げたりあちゃんが、着替えるためにバスルームの向こうに消えた。

 しかし、りあちゃんの態度も変わり過ぎな気がする。言葉使いからして違うし、俺のことも勇者タロウ殿、でなくタロウ様になっているし。

 サラダ用のレタスを毟っていると、着替えたりあちゃんが出てきた。

「朝食の支度ですね。お手伝いします」

 すぐ横に立つものの、背の低さから流しにもちょっと手が届かない。うなだれるりあちゃんに、レタスの玉を渡して「適当にちぎってこのボウルにいれといて」とお願いし、俺は目玉焼きを焼くことにした。




「……昨晩は、申し訳ありませんでした」

「ん、何のこと?」

 じゅうじゅうと油がはねる。俺は目玉焼きは両面焼きできっちりと黄身まで固焼きにする方が好みなので、ひっくり返した後ふたをして弱火にする。

「……初夜にもかかわらず、主より先に眠ってしまうとは大変申しわけないことを。今宵はきちんとご奉仕させていただきますので」

「……いや、だからそういうことしないから」

 真面目な顔をして、見た目幼女なりあちゃんがそんなことをいうものだから、思わずちみっこどもにするように、てい、とチョップをしてしまった。

「……ひぐ。私では、タロウ様を満足させられないと? 確かに私には女性的な魅力が欠けているかもしれませんが」

 涙目で見上げてくるりあちゃん。流石に涙は反則だ。ため息を吐いて、そっとその頭に手を乗せる。

「そういうことじゃないよ」

 ごまかそうというつもりじゃなかったのだが、そっと頭をなでるとりあちゃんは強い瞳で俺を見つめ不満げに口を尖らせた。

「私は分別の無い子供ではありません。私は竜族としてはまだ幼子にも等しいですが、人として数えるならばよわい二十になります。ですから、そのように物の道理も男女の機微もわからぬ子供を諭すようなマネは、侮蔑というものでしょう」

「ん、いや、だからね……」

 りあちゃん、二十歳だったのか。思っていた以上に年齢が上だったらしい。合法ロリってやつか。

「タロウ様が私の貧相な体に興味がない、不要であるというのならばまだあきらめもつきますが、そうでないならばあなた様と添い遂げる意思があり、それを望んでいるのですから、理由無く拒むというのは……っ!」

 言いかけて、頭に血が上っているのに自分でも気がついたのだろう。りあちゃんは一度深呼吸をして、息を整えようとした。

 何度か深呼吸して落ち着いたところを見計らって声をかける。

「……ん、落ち着いたか? じゃ、ちょっと逆に考えてみてくれ」

「逆?」

「そう、逆だ。顔と名前くらいは知っている誰か男の人が、いきなりりあちゃんに、結婚してくれ! 生涯添い遂げるからヤらせろなんて迫ってきたら、りあちゃんは喜んでその身を差し出すのかな?」

 まあ、男女じゃ考え方もリスクも違うから一概に同じとはいえないのだけれど。それに昔は女性は望んで結婚するより望まれて結婚する方が幸せになる、なんて考えもあったようだし必ずしも俺と同じ考えだとは思わないけれど。

 それでも、俺の言いたいことはわかってくれるんじゃないだろうか。

「……タロウ様は、見知らぬ男ではないです」

「ええと、りあちゃんからしたら、出会ってまだ一週間も経っていないだろう? 顔を会わせたのもまだ三回くらいだ。そんな短い時間で、お互いに何を知っているっていうんだ?」

「時間など、関係ありません」

「りあちゃんが好意を寄せてくれるのは嬉しいけどね。俺は互いに何も知らずに、互いを傷付け合うことになるのは嫌だ」

 大学生のころの苦い思い出だ。あの頃の俺はお互いが好き合ってさえいれば、何でもできると思っていたし、どんなことでも許しあえると思っていた。

 ……実際には、どうしようもない形で破局を迎えることになってしまったけれど。

「だから、ゆっくりお互いを知っていこう。だから、そういうことはしない」

 口にしなかったけれど、もしかしたら口調に苦いものが混じっていたのが伝わったのだろうか。りあちゃんはしばらく俺の顔を黙って見上げていたが、やがて小さくうなづいた。

「ん、ありがとな」

 軽く頭をなでて、肩に手を置く。

「……あの時。迷宮の地下一階で」

「ん?」

「ミルトティア殿と対峙したときに。タロウ様がそっと肩を押さえて下さったときに」

 りあちゃんがそっと目を閉じて、俺のわき腹あたりに頬を寄せた。

「私は、この人が側にいてくれるなら何でも出来そうだ、と。そう思えたのです」

「……そっか。俺なんかで役に立つなら、応援くらいはいつでもしてやるけど?」

「……えと」

 不意にりあちゃんが顔をあげ、煙の上がり始めたフライパンを指差した。

「うわあ、目玉焼き焦げてる!!」


 ……しまらねぇなぁ。

 俺は苦笑しながら半分焦げた目玉焼きを皿に乗せた。

 なんかりあちゃん回。おかしい。しょっぴんぐ!ってタイトルなのに買い物行ってないってゆーか予定の三分の一も書けてない。その2かその3までいくかもデス。

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