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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第三話「迷宮で遊ぼう」
101/246

29、「迷宮最深部 しょせん××など我ら四天王の中でも最弱ッ!」

「……リア充死ね! 爆発しろーっ! リアちゃんさんなだけに(笑)」

 真白さんが本気とも冗談ともつかない口調でそんなことを言いながら、裸のりあちゃんを胸に抱える俺に向かって何かを丸めて投げつけてきた。受け取って広げてみると、どうやら服のようだ。

 ……ああ、ニャアちゃんのワンピースかな?

 よく猫の姿に変身するニャアちゃんのために、真白さんが服を用意しているのだろう。ありがたく受け取って、まだ俺の胸に頬を摺り寄せているりあちゃんの頭から被せる。

「ほら、いつまでもそんな格好してないで、とりあえずこれ着て」

「ん」

 小さな子供のようにバンザイするりあちゃん。控えめではあるが、ふくらみかけの胸が目の前にさらされて、ちょっとだけ目のやり場に困る。

 見た目は幼いけれど、酒のんでたしな。実年齢は意外と上っぽいんだが。

 なるだけ見ないようにして袖を通して頭を出すと、りあちゃんはまたぽすんと俺に身を預けてくる。

「……で、どういうこと?」

「……?」

 尋ねると、りあちゃんは小さく首を傾げた。

「いや、なんでりあちゃんがこんな風に俺に抱きついてくるのかな、と」

「……まさか、知らずにあんなこと言ったのでしょうか?」

「あんなことって?」

「竜族にとってツノというのは力の源であり、自身を象徴するものでもあります。それを触らせる、自由にさせるというのは、ある意味自分の全てを相手に自由にさせる、ゆだねる、ということになります。つまり竜族にツノを触らせろという要求は、ありていに言って”俺のものになれ、俺に従え”という意味合いになります。同性の場合は”俺の下に付け、配下になれ”異性の場合は”嫁になれ”というような意味に」

 やや頬を染めて、りあちゃんが淡々と告げる。

「いや、俺、りあちゃんに嫁になれなんて言ったつもりはないんだけどっ?! それに引き分けなんだから、どっちの賭けも無効だろっ?」

「例えば、互いに有効な手を打つことが出来ずに時間切れになったような場合は両方とも負けと考えていいでしょうが、今回の場合は相打ちによる引き分けです。ならば両方とも勝ちとみなしてよいのではないですか? そして、お互いの要求に矛盾が発生しない限りは、どちらの要求も叶えられるべきと思います」

「……つまり、りあちゃんは先の賭けが無効になって俺の言うこと聞く義務がなくなり、俺はりあちゃんのツノとしっぽを触れる、と?」

「そういうことです」

「……じゃ、権利を放棄するから離れてくれないか。俺、そんなつもりで言ったわけじゃないんだよ」

「お断りします」

 きっぱりとりあちゃんが拒否の言葉を吐いた。初めてお願いを断られた気がする。

「竜族にとって、約束事は絶対に守られるべき物です。故に、私は貴方のものです。どうしてもというならば、同じく剣の勝負によって賭けの取り消しをしてください。もっとも現在の私には拒否権がありますから、その勝負を受けることはありませんが」

 小さく微笑んで、りあちゃんがそっと俺の背に手を回して離さない様に抱きついてくる。

「……竜族の慣習も知らずに安易な言葉を吐いた貴様の負けだな」

 ダンジョンマスター・レイルがくっくっくと面白そうに笑いながら、カップを傾けた。

「そのコウモリのようなはね、ねじくれたツノ、契約を重んじるという特徴から”悪魔”という概念の元にもなった種族だ。大人しく受け入れるがよいよ」

「だめー! りあちゃん、かえしてー!」

 いつのまにか側に来ていたまおちゃんが、真っ赤な顔でりあちゃんの手を引っ張っている。

「……すまない、勇者まお殿」

 りあちゃんはそれに応えるように小さく頭を下げたが、俺から離れようとはしなかった。

「本末転倒なんじゃ……? まおちゃんだけの従者になろうとして先の賭け取り消そうとしたくせに、結局まおちゃんから離れてるじゃないか」

 思わずつぶやくと、りあちゃんはにっこり微笑んだ。

「愛は忠誠に勝るのです」




「……さて、そろそろ中堅戦をはじめようか?」

 レイルが宣言すると、「ひゃっふー、いつでもごーごーだよっ!」と寧子さんが木製のハンマーを振り回しながら前に出た。まおちゃんの側からも、すらちゃんが静かに歩み寄ってきて、なぜか対戦相手の寧子さんでなく俺のことを道端に吐き捨てられたタンでも見るかのような目で見つめてきた。

 ……視線が痛い。それはまあ、未だに俺の背中にくっついているりあちゃんのせいであるのだろうけれど。

「……あ、すらちゃん、ちょっと聞いていいか?」

「なんでしょう、そこの不潔なゴミ勇者様? 大人しくリアさんと乳繰り合っていてはいかがですか?」

 ぐは。乳繰り合うとか。

「……いや、リアちゃんは俺と戦う理由があったっぽいけど、すらちゃんは戦う理由なんかあるの? そもそも戦えるの? 棄権しちゃったほうがいいんじゃないかなって」

「私は魔王ちゃん様の配下です。戦う理由はそれだけで十分でしょう。そして、戦う手段は……」

 にぃ、と小さく微笑んだすらちゃんの背中から、何かが分離するかのように空中に現れた。

 全身黒い、人影。ふわりと宙に浮いたその姿は。

「……死神?」

 全身を覆う、ぴったりとした黒のツナギ。フード付きの黒いローブをマントのように肩に羽織っている。片手にひどく柄の長い、大きな草刈鎌のようなものを持っている。なぜか片手で顔の半面を覆い、指の隙間から紅い眼で周囲を睨んでいる。銀の長い髪がさらさらと肩を伝って流れ、顔は見えないもののとても美しいと思った。

「……すらちゃんの奇妙な冒険、ってかんじ?」

 なんていうか、空中に浮かんだそのポーズが某漫画を思い起こされる。

「”冥府の門の使いゲート・キーパー”トートリリさんです。能力は鎌で切り取った魂を冥府の門に送ること、だそうです」

「まんま死神かいっ!」

 ひねりがねーなっ!

「すたんどキタコレ!」

 寧子さんも大興奮しているが、問題になるといけないので自重してください。

「……死神13デス・サーティーンとは呼ばないでくださいとお願いします」

 顔を半分隠したままの死神ちゃんが、ぼそぼそとした声でつぶやくように言った。

「いや、呼ばないけど。あれ、でもそれじゃ二対一ってこと?」

「拙も居るよ」

 不意に小さな声がして、どこかで聞いた声だと思う。

 良く見ると、すらちゃんの肩に小さな人形のようなものが腰掛けていた。

 ……あれは、巨大スライムの中の人、か? もしかして。

 先ほどはアニメ調のデフォルメされたフィギュアのようだったが、すらちゃんと会って感化されたのかずいぶんとディティールアップしている。ディエと同じように、妖精といわれても信じてしまいそうだった。

「三対一かよ」

 まあ、死神ちゃんがどの程度やれるのか不明だが、スライムさんはもう戦闘能力無いと言う話だったし、寧子さんが相手ならそれもありな気はするのだが。

「暫定の四天王ですね。リアさんがいなくなってしまいましたが……。もっとも、力は借りますが戦うのは私だけですよ?」

 すらちゃんが首を横に振った。

「それから……」

 すらちゃんが背後に浮かぶ死神ちゃんを促すと、顔を覆う手をどけてトートリリは俺を見つめて一礼した。

「先にお礼を言っておきたいと思います。囚われの四つの魂を開放してくださってありがとうございましたと感謝の言葉を伝えます」

「……ああ、あの隠し部屋の」

「彼女達の魂は無事輪廻の輪に戻りましたとご報告します」

「そっか。君が連れて行ってくれたのか。ありがとう」

 少しだけ、胸が晴れた気がした。




「……では、中堅戦はじめ!」

 ダンジョンマスター・レイルの声が響き渡った。

「さーて、いくよっ! すらいむちゃん?」

 寧子さんがハンマーを振り上げた瞬間。

「……おつかれさまでした」

 すらちゃんがその場から動きもせずに、そう言った。

 言葉と同時に、寧子さんの足元から金色に輝く蜂蜜のような液体が瞬時に染み出して、珠の様に寧子さんの全身を覆い尽くした。

「……ごぼっ??」

 おそらく水よりも重い物質なのだろう。珠の中に浮き上がった寧子さんは、もがくもののどこにも触れることができず、珠の中から抜け出すことが出来ない。しばらくもがいていたが、息が続かなくなったのか、力を失って珠の上部にぷかりと浮かび上がった。

「……え?」

 ナニコレ。あの寧子さんが、秒殺?

「――戦闘不能と認める。勝者スラリン」

 ダンジョンマスターが告げると、すらちゃんが小さく一礼した。

 とたんに金色の珠がぱちんとはじけて、寧子さんが開放された。

「だ、だ、大丈夫ですか寧子さんっ?!」

 あわてて駆け寄るものの、寧子さんの反応はない。肩をゆすって、それから息をしていないことに気がついた。粘ついた液体。甘い臭い。これ、もしかしてハチミツかなにかか?

 ……気道に詰まってたら命に関わる。

 鎧が邪魔だった。幸い脇腹のあたりでベルトで止めるようになっていただけだったので、迷わずベルトを切って脱がせる。仰向けに寝かせて、顎を上にして気道が通るようにする。

 ちくしょう、人工呼吸のやり方なんて、おぼえてやしねぇ。

 両手を重ねて、寧子さんの胸のまんなかに押し当てる。何度も体重をかけて押すと、十回目くらいに反応があった。

「……ごっ」

 吐き出しかけたハチミツ。しかし粘度の高いそれは簡単に吐き出すことが叶わないようだった。俺は迷わず寧子さんの口を塞いで、吸い上げて、脇に吐き捨てる。

 何度か繰り返すと、ようやくごほごほと咳き込みながら寧子さんがわずかに眼を開けた。

「……たろーくん、ありがとねー。いやぁー、油断しちったいっ!」

「黙ってなさい」

「はーい」

 大人しくうなずく寧子さんにようやく安堵の息を吐いて、それからすらちゃんの方を見つめる。一歩間違えば、死んでたぞ、これ。

「合法的に胸を触ってキスをする。役得ですね、太郎さん」

「いや、下手すりゃ死んでただろ、これ」

「死ななかったでしょう?」

「だからってっ!」

「お忘れですか、太郎さん。ここはそういう場所ですよ?」

「……」

 なあなあな雰囲気で忘れかけていたが、言われてみると確かにそうだった。

 俺もシェイラさんに耳食いちぎられたしな。

「たろーくん、あたしの負けだからさっ! ってゆーかハチミツ甘くて美味しかったっ!」

 どうやら寧子さん本人が気にしていないようなのに、俺がぐちぐち言うのも筋違いっぽかった。

「第一、太郎さんがあわてて人工呼吸とか始めなかったら、私が吐かせてましたよ、もちろん」

 すらちゃんが指先に小さな金色の珠を浮かばせて微笑む。どうやらかなり自由自在に操れるようだ。つまり俺があわてなくても、寧子さんは大丈夫だったということらしい。

「そっか、すまなかったな……」

「いえ」

 でも、あのハチミツ玉はいったいなんなんだろうな? スライムっていうかゲロイムはなんか肌色っぽいどろどろしたナメクジみたいな粘液で、ああいったハチミツみたいのじゃなかったはずだし、それをすらちゃんが自由自在に操っているのも謎だ。

「……ああ、これが何か、ですか」

 こちらの様子に気がついたのか、すらちゃんが小さな金色の珠を浮かばせて悪戯っぽく笑う。

「これは、こちらのエッグノッグ卿の身体の一部ですよ。私が少々お借りしている状態ですね」

「……うげー」

 それを聞いた寧子さんが、えろえろと胃の中のものをもどした。


 しかし万能だなっ! あの巨大スライムさんはっ!

 っていうか、ほんとにアレ、スライムなんだろうか……?

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