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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第三話「迷宮で遊ぼう」
100/246

28、「迷宮最深部 竜のツノとかしっぽもよいものです」

短め。

「……勝ち負けにはこだわらないといったものの、当然、私は勝つ気で戦う」

 静かに佇んだまま、りあちゃんがわずかに一歩、足を踏み出す。

「すでに戦いは始まっているが、勇者タロウ殿、賭けをしないか?」

 驚くほどに、りあちゃんは隙がなかった。大剣の狂乱戦士と戦ったときと違って、視界に表示される光点の数は驚くほど少ない。その光点も、おぼろげに点滅していてなかなか打ち込むタイミングが取れない。

「……まだソディアのこと狙ってるのか?」

「いや、そういうわけではない。貴方が嫌であれば拒否してかまわないのだが、もし私が勝てば、以前の賭けの結果を取り消させて欲しい」

「賭けの結果……?」

 なんか賭けてたっけ? ああそうか、確かルラレラに謝罪を要求して、あと何でも言うことを聞くとか言ってたから街を案内してもらったんだったよな。

「うちのちみっこどもに謝罪はしてもらったし、俺のお願いも聞いてもらったわけだし、何を今更取り消せって言うんだ……?」

 少し考えたがわからない。あるいは言葉で惑わして、隙を作ろうしているのだろうか。いや、りあちゃんがそんなことをしそうには思えないが。

「……以前、その剣を賭けろと私が恥ずかしくも傲慢な賭けを持ちかけたとき、負けたら”なんでも言うことを聞く”と言っただろう。真に勝手ながら、その言葉を取り消させて欲しい」

「いや、だからその約束はもう果たしてもらっただろう?」

「こらー! 鈴里さんっ! ななな、なんでも言うことを聞く、だなんて、そんな幼女にいったいナニをさせたんですかっ?!」

 真白さんからヤジが飛んできたがとりあえず無視をする。今は試合中なのだ。

 しかし、隙がない。あるいは俺も何度か戦いを経験して、何も考えずに剣を振り下ろすということが出来なくなってしまったということだろうか。

 あまり考えすぎるのも問題だな。

「……勇者タロウ殿、御自覚が無かったのだろうか。私は、”なんでも言うことを聞く”と言った。そして、その言葉に回数制限などつけてはいない。その剣につりあう報酬なのだから当然ではあるが。つまり、今現在を持ってまだ賭けの結果は有効なのだ」

「え……っ?」

 なんか前戦って以来、妙にりあちゃんが協力的だと思ってたら、そういうことだったのか?

「こらー! 鈴里さんっ! 幼女隷属とか! この犯罪者っ!」

「いや真白さん、それ違うしっ!」

 しかし何でも言うこと聞くって、それほんと奴隷みたいなものだよな。だからそれを取り消して欲しいと望むのは当然であって、否は無い。別にわざわざ再度勝負ごとの賭けにしなくとも、取り消してしまってよいのだが。

「私は勇者まお殿の従者でありたい。勇者タロウ殿の従者が嫌と言うことではないが、それでも一番は勇者まお殿が良い。だから、この試合に勝って、先の賭けを取り消させて欲しい」

「……っ!」

 光点が動いた。不意に逆袈裟に切り上げられた剣をかわして距離を取る。

 会話に気を取られていたせいで危なかった。

「ふう、別に勝ち負けに関係なくそんなのは取り消しちゃっていいよ。俺は街を案内してもらった時点ですでに約束は果たされた認識だったんだから」

「そういうわけにも行くまい?」

 りあちゃんは兜の奥でふしゅーと息を吐いてまた斜め下に剣を構えた。

「こちらから言い出したものではあるが、剣の勝負で取り返すのが筋というものだろう」

 光点が二つ。左右同時ってどういうことだっ?

”マスター! 右はフェイントだ”

「――くっ!」

 向かって左からりあちゃんのしっぽが、右から剣が俺の腕めがけてせ迫ってくる。

 剣にこちらの気を向かせておいて、しっぽでこちらの武器を叩き落す気か!

 ひじでりあちゃんのしっぽをなんとか受けて、りあちゃんとつばぜり合い状態になる。小柄なりあちゃんではあるが、背が低い分重心が低い。上から押さえつける形になる俺はうまく力が入らず、そこに繰り出されたりあちゃんの蹴りをソディアの柄でガードしたがそのまま弾き飛ばされた。

「……いいよ、その賭け乗ってあげる。でも俺が勝ったら今度は何をしてくれるんだ?」

 起き上がりつつソディアを構え直すと、追撃の体勢に入っていたりあちゃんがぴたりと動きを止めた。

「……その時には、心も体も、忠誠すらも貴方に全てを捧げよう」

「……重いよっ!」

 ちくしょう、そんなこと言われて勝つわけにも行かないし、怪我しない程度やりあって負けるか?

 実際押されてるわけだし、正直、真面目にやっても勝てるかどうかは微妙な所だ。なら真白さんたちには悪いが、適当にやって寧子さんにあとを任せてしまえば、あの人なら、にゃははと笑いながら何とかしてくれるだろ。

 そう思って息を大きく吸ったときだった。

「……たろーくん、あたしはね、遊ぶ時にも真剣勝負だよっ?」

 寧子さんの声が聞こえた。

 ああ、見透かされてるなと思った。

 どこかで見ているはずのちみっこどもに無様な姿を見せるわけにもいかない。俺はあいつらの勇者だし、たまにゃかっこいーところみせてやんねーとな。

「りあちゃん、俺が勝ったら、そのツノとしっぽを触らせてくれっ! それで全部チャラにしてやる」

 前から狙ってたんだけど、なんか言い出す機会が無かったんだよなっ!

「……っ!」

 なぜか動揺したように、りあちゃんがぷるぷると震えた。

「――了承した。いや、了解しました」

 その背に、こうもりのようなはねが広がる。

「私の全力を、すべての力をもって、お相手させていただきます」

 ……なんか急に丁寧な口調になった?

 重そうな全身鎧を着ているはずなのに、あのはねで飛べるんだろうか。いや、あの地下一階のドラゴン、ミルトティアさんと戦ったあのスピードなら。

”来るぞ、マスター!”

 俺はとっさに、ソディアを構えた。その瞬間、りあちゃんの姿が消えた。

 見えない。

 しかし、光点が正面に。そこに剣を置くようにして。

 瞬間、がこん、と何か硬いものにぶつかった音がして何かが宙にとんだ。

 竜を模した、兜?

 正面に立つ鎧に、首がない。

 まさか、首を?

「……隙ありです」

 兜に気を取られた瞬間、首のない鎧が光となってはじけて消えた。

 その中から現れたのは、小さな、蒼い。

 ――ドラゴン!

 透き通るような肌をした、蒼い小さな竜の尾が俺の左手を強く叩いた。しびれるような衝撃に、手にしたソディアが弾き飛ばされる。

 蒼い小さな竜はその小さな口を大きく開けて、その鋭いキバを俺の喉に。

「私の勝ちですっ!」

「――いや、相打ちだろ?」

 俺は、右手の剣を蒼い小さな竜の胸元に突きつけたまま答えた。

 地下一階のドラゴン戦のあともらった、古の剣。咄嗟に十分刃を伸ばすことが出来なかったのでナイフ程度の長さだが、かえって見つからないように隠すことが出来て幸いだった。

「いつの間にっ?」

「何度も剣を持つ手を狙ってきてたからな。武器を飛ばされる前提で少し前から準備してた」

 実戦だと実際こううまく行くとも思えないが、なんとか面目を保てたんじゃないだろうか。

 ふぅ、と息を吐くと、ぱちぱちと拍手の音が部屋に響いた。

「――なかなか面白い戦いだった。引き分けとし、次は中堅同士の試合とする」

 ダンジョンマスターが小さく微笑み、試合の終了を告げた。




 ……って、次どうするんだろな?

 寧子さん、あんなでも地下一階のドラゴンさんを泣かせるほどの実力の持ち主だからな。すらちゃん、戦えるんだろうか。

「……ところで、りあちゃんそろそろ退いてくれないか?」

 俺の懐に飛び込んで喉元に噛み付こうとしていたりあちゃんは、そのまま俺の腕の中でぼーっと丸まって、俺の胸に身を預けていた。

 改めて見ると竜の姿だと中型犬くらいの大きさだろうか。ウロコでなく透き通る蒼い色の毛が生えていて、形は犬ではないもののなんとなく犬っぽい。重くはないのだが、こう擦り寄られるとなでなでしたくなってしまうので、できればそろそろ離れて欲しいんだが。

「……」

 りあちゃんは小さく顔をあげ「きゅう」とつぶやくと。

「……ん」

 その小さな口を、俺の唇に、そっと押し当てた。

「……って、何してるのりあちゃん?」

「あー、太郎さんにわたしのりあちゃん盗られたちゃったー;;」

 まおちゃんがえぐえぐ泣き出した。

「……ふつつかものですが、よろしくお願いします」

 俺の腕の中で光を放ち人の姿に戻ったりあちゃんが、全裸のままで俺の胸に頬を摺り寄せてそう囁いた。

 ……どらごんちゃん、げっとだぜーって感じ? おかしいな、こんな展開のはずじゃなかったんですけど。

 すらちゃんvs寧子さんまでやりたかったけど間に合わず。

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