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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第一話「女神と書いてようじょと読む」
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 6、「ねこみみ作戦」

 ――連休二日目、日曜の朝。


 起きてすぐに昨晩見つけたスレッドを確認してみたが、勇者候補生は特に新しい書き込みをしていないようだった。いくつかスレッドの住人同士の他愛の無いやりとりしか書き込まれていない。念のため書き込みを試してみたが、まだ規制中のようで俺の書き込みはエラーになった。

 規制が解けなきゃどうしようもないな……。

 とりあえず、掲示板のことは置いておくことにした。


 さて、昨日は結局訳がわからないうちに異世界から死に戻り?してしまったようなので、今日はしっかりと準備を整えてから行かにゃならん。

 ちみっこどもをたたき起こして、買い置きのカップめんとちぎったレタスの不確定名サラダ?で簡単に朝食をすます。あまり買い置きもなく、食料品も買い込んでこなきゃいかんなと思う。

「よーし、今日はまず、買い物にいくぞっ!」

「わーい、おかいもの~!」

「うふふ、おかいもの~!」

 俺が右手を突き上げて叫ぶと、ちみっこどもも両手をあげて大はしゃぎした。はしゃぐちみっこどもの頭をなでまわして落ち着かせる。

 こいつらの服も買わにゃならんな。もう三日同じもの着てるし。

 ……そういやこいつら下着とかどうしてるんだ? ちゃんと二人で風呂には入ってたが、俺着替えには寝巻きがわりのシャツしかだしてやってないぞ? 自分達で手洗いとかしてるんだろうか。

「……お前ら、下着とかどうしてるんだ?」

 なんの気無しに、目の前のルラのスカートをひょいと持ち上げてみる。

「……あ」

 ルラがちょっとだけ頬を染めてすぐにスカートを押さえた。

「おにいちゃんの、えっち」

 穿いてなかった。

「めがみは、ぱんつはかないのよ?」

 レラがそう言って、見る?と和服の裾を捲り上げようとしたので全力で止めさせた。

 これは……ぱんつも買わなきゃいかん。



 午前中は、そんな感じでちみっこどもを連れて、近くのショッピングモールで生活用品や食料品、衣料品などを買い込んでまわった。

 布団も買おうとしたのだが、他の荷物でいっぱいな上、ちみっこどもが俺と一緒にベッドで寝ると主張したので今回はやめておくことにする。

 フードコートで昼飯を食べてからいったんうちに帰り、買い込んだ荷物を置いてから再度街に出かけた。某オタク御用達の電気街でデジカメやら、サバイバルグッズなど適当に冒険に役立ちそうなものを購入する。防災グッズの類がいろいろ役に立ちそうだったので手回し式の発電機やら細々した商品を適当に買う。

 途中で双子にゲームソフトをねだられ、まあついでとばかりに買ってやる事にする。俺の持っているソフトは基本的に一人用なので、双子で一緒に遊べるものがあるといいんじゃないかと思ったのだ。

「よし、サイフの中身もそれなりに減ったから、これで向うで死んでも平気だな!」

「……つまらないの」

「でもゲームソフト買ってもらったから、けっかおーらいね!」

 ちみっこどもが好き勝手なことを言う。

「……あ、そういや今日向こうに行った場合どうなるんだ? 向こうでも同じように時間経ってるんだよな?」

 ちみっこどもに尋ねると、意外な答えが返ってきた。

 まず、向こうとこちらの時間の流れは基本的に同じ。つまり、向こうで一時間過ごすと、こちらでも一時間が経過する。しかし、こちらで一時間過ごしても向こうで必ずしも一時間経っているというわけではないらしい。

 どういうことかというと、こちらから向こうに行く際にある程度「向こうの時間」を選択できるのだという。例えば前回向こうを立ち去った時間に合わせると、向こう側ではほとんど時間が経っていないことになるし、向こうの時間で三日後に行くなんていうこともできるらしい。

 ただし、時間を遡ることは原則的に不可。前回立ち去った時間より前の時間を指定することはできないのだという。

「ようするに、ちゅうだんせーぶは出来てもせーぶあんどろーどで安易なやりなおしは出来ない仕様なの!」

「りせっとわざは禁止なの~」

 なるほど。時間を選べるというところが少しだけ異なるが、ネットゲーム的なセーブ方法であると考えていいようだ。

「ただし、れいがいがあるの」

「むこうで死んでしまった場合、まきもどさないと詰んじゃう場合があるでしょう?」

「だから、むこうで死んだ場合はちょっとだけまえにもどれるの」

「ぺなるてぃをおそれずにゆうこう活用してね、おにいちゃん?」

 つまり、例えば溶岩の海に落ちて死んでしまったとする。

 その瞬間にこちらに戻ってくるが、次に向こうに行った場合そのままだと溶岩の海の中なので、行った瞬間にまた死んでしまう。だから少し巻き戻って、溶岩の海に落ちる直前まで戻ることが出来るということらしい。

 アクションゲームなんかで、失敗したときにちょっと前に戻るような感覚だろうか。

 ……? なんか少しおかしい気がする。寧子さんはいずれ大勢の人間を異世界で遊ばせるようなことを言っていたが、この仕様だと未来の出来事を知ることができるんじゃ……?

 いったいどういう技術なんだろう。機会があったら今度聞いてみることにしよう。

「えっと……、前回向こうで死んだってことは、ちょっと前に戻れるのか?」

「そういうことなの」

「といってもさいしょのさいしょより前にはもどれないわ」

「つまり俺が一番最初にあの草原に下り立った時点より前には戻れないが、やられる前には行けるということだな?」

「りかいがはやいね、おにいちゃん」

「あと追加で補足すると、向こうに移動するのにべっと固定でこちらの時間でかたみち一時間ほどかかるわ」

「むこうで死んだときには、こちらで再生するのにさらに時間がかかることもあるのー」

 ふむ、俺には現実世界の時間を遡ったりする能力なんてないから、向こうで過ごす時間と移動にかかる時間は常に考慮しとかんといかんな……。時計を二つ用意すべきか?

「じゃ、さっそく行っちゃう、おにいちゃん?」

「おう、今度こそあのねこみみをなでなきゃなっ!」

 思わず力むと、双子が呆れたような顔で俺を見上げて来た。

「……またやられないように気をつけてね」

「おにいちゃん、ぜんぜんこりてないの……」




 言ってることがよくわからなかったのだが、どこからでも異世界には行ける様なので、言われるままに適当に電車に乗り込み、しばらくがたがた揺られると、いつのまにか「ここではないいつかどこか」駅に着いていた。珍しく今日は俺の他にも何人か降りる人がいたが、ちょっと目を離した隙に姿が見えなくなっていた。無人のホームは相変わらずちょっと不気味だ。

「よそみしないのー!」

「こっちよ」

 双子にぐいぐいと引っ張られて、寧子さんの実験室を目指す。

 今日は寧子さんは居ないようだったが、双子がかまわずカプセルベッドに入るように促したので三人そろってカプセルに入った。

 リュックに詰めたいろいろな道具もカプセルの足元の方に押し込める。

「……なあ、こんな適当で大丈夫なのか?」

 カプセルに詰め込むだけで異世界に物を持ち込めるって、ほんとにもうどういう技術なんだ。

 なんかの装置でスキャンするとかもう少しそれっぽいことをしなくていいのか。

「これは、異世界に行くためのわかりやすい記号なのよ」

「だからほんとうは、こんなものなくてもいけるの」

 フタを閉める一瞬双子がそんなことを言ったが、よくわからなかった。

「なれたらしょーとかっとつくって、おにいちゃんのお部屋からいきましょう?」

 レラが俺に抱きついたまま、にぃとちいさく笑った。




 ……そうしてまた、気がついたら草原に立っていた。

 足元にはカプセルベッドに詰め込んだリュックが合った。無事持ち込めたようだ。

 特に説明は無かったし、周りを見回してよくわからないが、おそらくは前回下り立った場所なのだろうと思う。

 俺は大きく深呼吸をした。おそらくもう、近くにはこの間のねこみみ少女がお腹を押さえてうずくまっているはず。

 ……今度こそ、あの素敵なお耳をなでなでしなくちゃならんっ!

「――では、作戦を開始するッ!」

 俺は、小さく双子にそう告げてその場にしゃがみこんだ。

「なにをするの?」

「なにをする気?」

 困惑気な双子に、リュックから双眼鏡を取り出してそれぞれに渡す。

「作戦の概要を説明する」

 双子にもしゃがむように促し、小声で説明をする。

「この作戦の目的は、前回出会ったねこみみ少女と仲良くなることである。よって以降はこの作戦のことをねこみみ作戦(オペレーションNekomimi)と呼称する。いいな?」

「よくないけど、いいの……」

「へんじはらじゃーなの!」

「うむ、良い返事だ」

 元気良くうなずいたレラの頭をなでてやる。

「前回の敗因は、その、俺が無防備なところにいきなり近付いたのが原因と考えられる。だから、作戦の第一段階は、状況が終了するまでまずは待機することとする」

「……おトイレおわるまで、待つってこと?」

「そういうことだッ! しかし俺が覗き見るわけにはいかないからな、諸君にはこの双眼鏡で目標の探索および状況確認してもらいたい」

「……ふ~ん、ちょっとは考えたんだね、おにいちゃん」

 レラがさっそく双眼鏡を構えてあたりを見回す。ちょっと重そうだ。

「あ、三時のほうこう、さんかくのおみみをはっけんしたわ」

「ねこみみさんなのー。かくにんしたのー」

「うむ、ではそのまま状況を報告したまえ」

「おにいちゃん、なんかえらそうなの……」

「ねこみみが、へにゃーってなってるわ」

「きゅう、ってへにゃってるの」

 うう、俺も見たいが我慢だ我慢。

「……了解、状況に変化はないか?」

「あ、かばんから何かとりだしたわ」

「ぬのでおしりふいてるのー」

「……こらこら、そういうのは具体的に報告しなくていいから」

 しかし布ね。お尻を拭くのに紙を使い捨てるのがもったいないから、ぼろ布で拭いて洗って再利用という感じなのだろうか。文明レベルはどの程度なのだろう。紙は貴重なのだろうか。剣と魔法の世界と聞いてすぐに想像できるような、中世ヨーロッパ的な感じなのだろうか。

 ぼんやり考えていると、双子が俺の袖を引いた。

「もくひょうのぱんつ着用を確認! もう、おにいちゃんも見てだいじょうぶよ」

「む、そうか」

 俺も双眼鏡を取り出して三時の方向を確認する。草の陰で、ちらちら動く三角の耳が見えた。

「まだおなかおさえてくるしそうなのー」

「足で砂かけてるの」

「む、そろそろ状況終了か? 作戦の第二段階用意!」

 もう少し落ち着いてからの方がいいだろう。

「だいにだんかいは何をするの?」

「せっしょくを図るべきであると具申するわ」

「うむ、もうしばらく待機ののち、対象に接触を行う。各自警戒を怠るな」

 体感で二、三分まつと、ねこみみ少女がふらふらと立ち上がったのが見えた。

 こちらに背中を向けているので顔は見えない。ショートパンツと袖なしのシャツを着ている。ちょっと意外なことに、ショートパンツのお尻にはしっぽが確認できなかった。

 ……そろそろ、いいだろう。

「おい、そこの君!」

 立ち上がって、大声で呼びかける。

 その瞬間、少女のねこみみがぴくんと反応した。あたりを見回して、こちらに気がついたのか、やや腰を落としてじっとこちらをうかがっているようだ。

「どこか具合でも悪いのか?」

 声をかけると、こちらを見つめたまま警戒するように後ずさりはじめた。

 あ。

 ねこみみ少女は近くに置いてあったかばんをつかむと、草原に潜るようにして姿が消えた。

「む、追うぞ?」

 ここで見失ってはまずい。なんの目印もない草原では追いかけようがなくなる。

「ごーごーなの」

「すとーかーなの」

 しかし駆け出してすぐに、わざわざ追いかける必要もなかったことに気がついた。

 ねこみみ少女が消えた方へ向かうと、すぐにその小さな身体が草の上に横たわっていた。

 お腹を押さえて、ずいぶん苦しそうだ。はぁはぁと荒い息を吐いて、きつい眼差しでこちらを見上げてくる。

 思わず息を飲む。近くで見るねこみみ少女は、驚くほど可愛かった。ぴくぴくと警戒するように動くお耳、すらりと伸びた手足。無駄のない、少女らしい細くしなやかなその肢体にはトラや豹のような野生動物の美しさがあった。

 武器らしきものを持っているようには見えなかったが、前回俺はこの少女に一撃で殺されてしまったらしいのでいちおう警戒をする。

 あのスレッドの情報が活きたな。俺はリュックから腹痛によく効く薬の瓶を取り出した。

「なあ、君、お腹痛いんだろ、いい薬があるんだが?」

「……っ。何が、目的です?」

 へにゃりと垂れたねこみみ。かすれるような声で吐き出されたその言葉は確かに日本語として理解が出来た。ならばこちらの言葉も相手に理解されていると思っていいだろう。

「うん、その素敵なお耳を、ちょっともふらせてくれるだけで……」


 ……俺は二度目の死を迎えた。

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