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わいわいグマ

作者: 土方隼人

 昔、日本には『わいわいグマ』という種類の熊が生息していた。

 現在ではその生息は確認されていない。絶滅したからだ。

 もともと、わいわいグマは日本各地に広く分布していた。その性格はとても大人しく人を襲うようなことは決してなかったが、ただ、変わった習性があった。それは子供のように何んにでも興味を示し、気に入ったものを見つけると腕を頭上に大きく振り上げたり、下げたりを繰り返した。

 その動作が、人間が「わいわい」する格好に似ていたため、この名が付けられた。しかし、わいわいグマに偶然出くわした人間は襲われるのかと勘違をしてしまった。わいわいグマはだだ興味を示しているだけなのに。

 この一風変わった習性のため、わいわいグマは凶暴な熊と決めつけられた。


「わいわいグマを殺してはいけません」

 わいわいグマが決して凶暴でないことを知っている一人の子供がいた。

 その名は厩戸皇子うまやどのおうじ、後に『聖徳太子』と呼ばれた人物だ。

「いいですか、わいわいグマは何度も腕を振り上げますが、これは人間を襲おうとしているのではありません。ただ、何かに興味を示しているだけなのです」

 厩戸皇子はまだ八歳だったが、わいわいグマの習性を知っていた。そして、もっと重大なことに気が付いていた。


厩戸皇子うまやどのおうじ! なぜ、わいわいグマを殺してはいけないのでしょうか」

「わいわいグマを殺せば、我々の子孫も死ぬことになります」

 厩戸皇子の言うことを理解しようとする人間はいなかった。いくら皇族といえど、まだ八歳の子供の言うことだ、信じようとしなかったのであろう。

「厩戸皇子はわいわいグマを殺すなとおっしゃられたが、きっと凶暴に違いない」

「そうだ! 腕を振り上げ、襲おうとするじゃないか」

「わいわいグマは殺すべきだ」

「それに何よりも、わいわいグマの毛皮はとても暖かい。寒いときにはとても重宝するんだ」

 わいわいグマはトイプードルのような茶色くモコモコした毛を持ち、それは、とても保温性にすぐれていた。そのため、その毛皮を剥ぎ取り商売する連中もいた。実はそれが、わいわいグマが殺される本当の理由であった。わいわいグマの毛皮はとても高く売れたのだ。

 そして、とうとう、厩戸皇子の忠告は聞き入れられず、わいわいグマはこの世から姿を消した。


 人間というのは実に強欲な生き物だ。自分がよければ贅沢のために殺してでも他からほしいもの奪い取る。

 聖徳太子が十七条の憲法、冠位十二階を制定したことは有名であるが、いくつかの予言を残したことも知られている。聖徳太子が書いたと言われている予言書「未来記」の中には人類が滅亡の危機に瀕するといった内容の記述がある。その一説にこんな言葉があるらしい。


「わいわいグマ死に至たらしめれば、我が子孫滅亡の危機に陥る」


 人間は今まで自分のために様々なものを駆除してきた。山や森を破壊し、海や川を汚し、動物の住み家を奪い、何百という種の生物を絶滅に追いやった。そうして人間は人口を増やしてきた。しかし、今度は自分が駆除される順番が回ってきたのだ。なぜなら、この地球上の支配者は人間ではない、「地球」なのだから。

 今、地球という支配者に駆除されようとしていることを、まだ、我々は気づいていない。地球では異常気象と呼ばれる現象が頻繁に起こっている。平均気温の上昇、猛暑や寒波、大洪水や大干ばつ、台風の異常発生、竜巻等々上げればきりがない。そして、異常気象は増え続けている。

 人間はこれらを阻止することはできない。地球の強大なパワーに逆らうことは不可能なことなのだ。

 厩戸皇子の言うことを守ってわいわいグマを殺さなければ、地球ともっと仲良くやっていれば、地球を怒らせることは無かったのかもしれない。しかし、もう手遅れだ、地球は人間の駆除を開始したのだ。

 地球にとって人間は害虫となってしまったのだから。


 おわり




※この物語はフィクションであり「わいわいグマ」「未来記」が実在したかどうかは不明です。


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